YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
二膳目。

<第8回 なぜ俺はモテねえのか。>

吉本 イチローがお父さんと
毎日やる練習を、
もしも10年やったとしたら、
もうほとんど世界的な打者だっていうか。
つまりベーブ・ルースとおんなじくらいの
打者になるぞ、と思いますけれども、
それでも、4年間やれば、
もうそれもたくさんで・・・。
わかるような気がしますね。

10年やったら、文句がねえよと思います。
そんな風に10年間やったら、
文句もないし例外もなしに、
きちんとやっていけると・・・。
糸井 「文句もないし例外もなしに」かあ(笑)。
それ、いいな!
吉本 ぼくは、そう思って
いいんじゃないか、と考えています。
それ以上のことは言いようがないし、
それ以上の領域に関しては、
人に対して言葉では言えない工夫をしたよ、
というようなことになるのかもしれません。
糸井 「運」とかもありますからねえ。
吉本 ああそうですね。
運は、あるでしょうね。
それは、ぼくが理解できないところですね。
・・・いま「理解ができない」と言ったのは、
「こうすれば運がよくなるとか、
 そういう方法は、ない」という意味で、です。
糸井 みんな、
「これをやれば、運がよくなるかもしれない」
と思って、方法を探そうとしていますよね。
吉本 それは違いますよね。
方法を探せるかどうかこそ、運ですから。
糸井 (笑)そうそう。
吉本 運って、ありますよねえ・・・。
「見るからに不幸そうな店」だとか。

ぼくがお使いに行く時に、
ひいきにして買いに行く所があって、
そのお店は、不幸そうなんですよ・・・。
糸井 (笑)なんですか、それ。
吉本 みんな、うちのやつも、近所の人もそうだけど、
何となくそのお店を敬遠していて・・・。
糸井 へぇ。
吉本 丁寧に食べものを作っているんですけどね。
糸井 それ、つらいなあ。
吉本 おいしいんだけれども。
ぼくなんかは、
「かえって不幸そうだから、ここは良いや」
っていう風に、ひいきをしていましたが。
糸井 (笑)あははは。
吉本 みるからに不幸って言うか・・・。
糸井 それこそ、理由を言いようがないですね。
吉本 言いようのないことは、
あるんだなあって思います。
ご主人はいい人だし、作るものはうまいのに、
なんだか雰囲気が不幸そうだという・・・。
実際そうだということも、聞きました。
糸井 この間、祭についての
座談会をやった時に知ったのですが、
ある地方に、ひとり相撲という
祭事があるそうです。

神さまに対して
ひとりで相撲を取るものですが、
必ず「神さまの2勝1敗」になるように
とりおこなうらしいんですよ。
吉本 ほぉ。
糸井 やっぱり昔から、
人間は、そういう感じを、
つかんでいるんだなぁ・・・と思いました。
どうしても、
神さまは2勝してしまうというその加減。

それを聞いてから、もう、
神とか運とか、そこには、
触ってはいけないものだなぁ、と感じました。

触ろうとしてあがいても、何だか、
短い人生がムダになるというような・・・。
そういう、神さまに勝とうとするようなことは、
できないんだよ、と考えれば、
逆に、ラクになりますもん。

そもそも、
人は、不老長寿では、ないですからね。
そういうところを、
もうちょっと、計算に入れておかないと、
ツラいばっかりで人生が終わっちゃいますよね。

よく、
「修行、修行で終わっていく」
ことって、あるじゃないですか。
吉本 (笑)そうですよ。

やはり不幸や幸福というものは
「どこかにある」のでしょうけれども、
どうやれば幸福になれるのかは、
わからないなあ、というものでしょうね。
糸井 そういうことでは、もう
さんざんツラい目にあったから、
人は「神さま」を発明したんでしょうね。
吉本 そうなんでしょうね。
ぼくも糸井さんに似たような考えです。

女の子に関しても、
なぜ俺はモテないのかというのは、
ずいぶん自分でもいろいろ考えたりしたけど、
どうも、あんまり理由が見つからない。
糸井 (笑)うん。
吉本 自分では、あんまりみつからないと言うか。

・・・「要するに人相のせいかなあ」とか、
「何となく鬱陶しいからかな」っていう、
そういうことを思ったことがありますが、
ぜんぶ該当する人でも
女の人に人気があったりします。

そういうことでは、
ずいぶん考えましたけれども、
理由は依然としてわからない、つまり、
「モテねえなぁ」というのは、ありますね。
糸井 (笑)あははは。
吉本 その分野に関しては、
「気にしないでいいや」
みたいに思っているわけだから、
まあ別に、真剣に
こだわっているわけでもないけれども(笑)。

(つづく)

2001-08-23-THU

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