YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
二膳目。

<第10回 自己評価より下のことは、何だってしてもいい。>

吉本 自分で、ある時点から
変化したというのは・・・。

「自分に対する自己評価、
 みたいなものがあるとすると、
 その自己評価よりも下に評価されることなら、
 何でも、やっていいんだ」
と、ぼくはある時から、決めちゃったんです。
「自己評価よりも高いもの」
に思われるのは、ごめんであると。

そういう仕事は敬遠して、
人が、ぼくの評価よりも
下だと思うに違いないと判断したところは、
「よし、そりゃ、やるよ」
っていうように、変えちゃったんです。
糸井 あぁ。わかります。
吉本 そこはやはり、昔からの熱心な読者は
「昔のとおりでいてほしい」と、
「昔の名前で出ています」
だと思っているから、しばしば、
「吉本さん、何でこんなところとつきあうんだ」
と、不満気に言われることもあります。

電波少年に出た時には、モロに言われました。
でも、ぼくからすると、向こうが何回も訪ねてきて、
やっとぼくがいる時に出会って、というので。
糸井 「悪いなあ」って。
吉本 だから、そちらの言う通りにします、と。

昔からの人は、
「何でそんなことをするんだ」と
言いますけれども、
違うんだよなあと思います。

ただ、どうしてもこれは
注文にならないなぁ、というものは、
ヒマがあったら少しでもやるさ、という程度に、
済ましているんですけどね。

でも、この範囲なら、自分の関心と交錯する、
というものなら、やりますよ、と思ってるんです。
注文にならないのは、
あくまで、ヒマがあればやるし、
できなかったらそれまで、と。

だけど、それは、たぶん、
自分のこどもには、
通じていないですね。
こどもは、
「少女マンガの人が、ある時期に非常に
 いい作品を描いちゃって、そのあとはそれほど
 いいものを描かなくなる」
というようなことを言いますが、
ぼくはそうじゃないと思っています。

「いや、マンガにも、
 『こうすれば流行る』とか、
 『時代の流行』だとかいうことも
 関係は、するだろうけど、
 マンガと言えども、
 『やっている』ことが重要だと思う。
 『注文があるからやる』
 というのでは、だめだよ」
とこどもには言っていて、
それはよく心得てはいるんだけども、
「なぜこういう人と付きあうんだ?」
と、ぼくが言われるあたりについては、
たぶん、わかっていないんじゃないか、
とぼくは思います。
そこは、通じていないと感じますね。
糸井 吉本さんは、
「自己評価から下のものをやる」
とおっしゃっているけれども、
自己評価よりも上のおもしろさをやる時の
誘惑も、とてもある、と、ぼくは思うんです。

「今まで考えてもいなかったものが、
 見つかるかもしれない」
と研究的な態度としておもしろかったり、
「上だと思われていたものが、
 実は非常に脆弱な基盤で成り立っている」
ということに対して、
「なあんだ」って
言いに行くみたいなおもしろさも、
誘惑として、もうひとつあると思うんですね。

そのへんについて、まずひとつ、
お話をしていただきたいんですけど。
吉本 糸井さんはご存知だと思うけど、
さきほどの「10年選手」の点で
まずひとつ前提があるとすれば、
「自己評価が正確である」ですよね。

「自己評価が正確でありさえすれば、
 ちゃんと仕事として成り立ちますよ」
と言ってもいいくらいで、
それはもう、誰でもそうだと思うから、
10年やりつづけた人が、おそらく
自己評価があまり狂わないことは、
前提にしたいと思います。
その場合は、
「思い込みをいくらしたって、
 自己評価は、あんまり狂わないよ」
と思うんです。

そのうえで、言っていますので、
だから、ぼくは、自己評価よりも
もう少し高度なことだとかは、
自分のヒマにまかせるだけであって、
それをやったところで、
どうなる、ならない、ということは、
ぜんぜん考えの外にあると、
そう、いつでも思っているところがあります。

いまおっしゃった、
「ちゃんとやってみたら
 実は、たいしたこたぁ、ないじゃないか」
ということは、ぼくは経験していまして。
学校を出てから2年間くらい工場勤めをやってから、
あとで2年くらい、
学校に帰ったことがあるんです。

そこで学者さんのやることに
つきあわされていたことがあるから、
「なんだ、このくらいか」というのは、
実感としてあるんです。

自分が学生時代に怠けていたことと重なって
「たいしたことがない」というのは、
そうとう早くから、わかっているというか。
糸井 はやくから経験してるんですか。
吉本 「この程度だ」
っていうことは、わかってるっていうか。
だから、あとから
「何だよ。たいしたことないよ」
と言うことは、別段、なかったですね。
糸井 たいした収穫も、なかったんですか。
吉本 なかったし、ないし、
たいしたこと、してないじゃないですか。
自分もそうですけど、研究室では
たいしたことをしていない。

(つづく)

2001-08-30-THU

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