吉本 |
こどもには、
「もし行けるとするならば、
学校に行ったほうがいいよ」と言いました。
「大学なら大学まで、学校制度としてあるなら、
行ってみると、ああこういうもんか、と
よくわかるから、ことさら
コンプレックスを持つことがなくなる。
それだけのことだけど、
行けるなら行っちゃったほうがいいよ」と。
ただ、非常に天才的な人には
学校なんかに行く必要はないので・・・。
学校は、天才的な人も
「優等生」とか「秀才」だというように
落としてしまうから、
天才なら、行かないほうがずっといいと
ぼくは思います。
ただ、どう考えても、
うちの子はそうじゃないから、
知っておくだけでも大学に行くのは、
いいんじゃないか、とぼくは言いました。 |
糸井 |
世の中の流れでいうと、
フリーで何かをしていた人なのに
最終的には学校の教授になったり、
偉い人の方向に行きたがる動きが、
多いじゃないですか。
それこそ、
「自分の自己評価を上げていきたい」
という、発想ですよね。
実は、ある程度のことをすると、
割と多くの人が、
そこで自分の足を取られて、
おもしろくも何ともないところに行っちゃって、
なんか、双六で言うと
「あがり」になっちゃう・・・。
そういう動きは、すごくあると思うんです。
吉本さんはそういうことを
ばかばかしいと思われるわけでしょうけど。
吉本さんには、
そういう誘惑は、ないんですか? |
吉本 |
それは、ないですね。
もちろん、仕事の中には、
「何でこんなものに俺は来たんだ」
と言うか、
「俺は検討違いをしていた、
こんなところには来るべきではなかった、
ということは、ありますが、
どこかの教授なり偉い人になりたい、
というのは、ぼくはもう卒業したと言うか。
1960年頃には、学生運動というものがあって
ぼくはいろいろな地方に
呼ばれて行ったりしましたが、
なぜかあんまり、
がっかりしたことがなかったんです。
なかなかキツい質問をするけれども、
ツボがちゃんと入っているし、
がっかりしないんだけれども。
がっかりしたのは、一度だけですよ。
東京大学に行った時です。 |
糸井 |
あぁ。 |
吉本 |
がっかりした原因はふたつあって、
とにかく、言っていることが、
とんちんかんだという・・・。
質問があるってったって、
お前ら、とんちんかんじゃねぇか、って。
これは、他の学校では感じたことのないくらい
とんちんかんな質問ばかりで、
「どうしてこの人たちは、
そういう人なんだろう?」
と思ったんですよ。それがまずひとつです。
それから、お礼としてくれたのは、
アルバムなんですね。
・・・これも、人を馬鹿にしてるなあって。 |
糸井 |
官僚そのままですね。 |
吉本 |
別に俺は、そんなに金を欲しい、
って言っているわけじゃないけどさ、
少なくとも、ほかの学校に行ったら、
きっと、学生さんたちが、
わざわざ集めたんだろうなあというお金を、
多くはないけど、くれるんですよ。
・・・そこを、アルバムとは、
何ごとだと思うわけです。
それなら、はじめから
「払えませんけど」
と言えばいいじゃねえか、って。 |
糸井 |
天皇陛下ですね。恩賜の煙草みたいに。 |
吉本 |
それで、ぼくに対する質問も、
「キツいことは言うが
勘どころを率直に聞く」
かと言えば、
そういうことも、全然なくて、
見当違いなんじゃないの、と言うか。
ぼくはいろいろな大学に行きましたが、
こんなひどいところはないなあ、って・・・。
そこで、はじめて感じたんです。
「頭のいいということと、
勘がいいというか、
感受性としてすごいというのは、
ちょっと、違うんだろうな」って。
そういうことは、はじめて体験しました。
日大や同志社や関西学院だとかにも
行きましたが、
そんなにとんちんかんなことを
言うやつぁ、いないぞと。
だから、二度と行かないぞ、と思いました。
あれは、すごいところですよ・・・。
いまはわかりませんが、その時は、すごかった。
話にならねえ、っていう感じだったんです。 |
糸井 |
吉本さんは、どうして
偉い人のほうにならないんですか。 |
吉本 |
ぼくは、それで懲りたっていうのが、
いちばんの原因かもしれません |
糸井 |
(笑) |
吉本 |
それから、もうひとつは、
こどものころから考えてみて、
俺が仲良くなった奴っていうのは、
あんまり・・・。 |
糸井 |
できがよくない? |
吉本 |
そうそうそう。
できないやつで、勉強なんてぜんぜんだけど、
野球では選手だとか。
それで、ひととしての幅があるというか、
いい奴で、心の大きなことができる奴で・・・。
勉強の段になると話にならないという
そういう奴ばかりと、ひとりでに
仲がよかったものですから。 |
糸井 |
それは、思想としてじゃなくて、
趣味として、そうだったんですね。 |
吉本 |
そうです(笑)。
もう、趣味、と言ったほうがいいくらい、
そういう奴ばかり、ひとりでに仲良くなる。
学生時代、一貫して変わらなかったですね。
(つづく) |