YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
二膳目。

<第12回 逸らさないってのは、すげえもんです。>

吉本 勉強のできないのが、奇妙に幸いしたのは、
大学でおなじだったやつで。なまけもんの奴です。

同じグループだったけど、
これが、どうしようもない。
さぼってばっかりいるし、
お互いに、
「これで、だいじょうぶなのか?」・・・。
糸井 (笑)
吉本 そういう感じで、
単位をやっと満たすためには、
頼みこんでまけてもらったとか、
そういう奴でしたが、
あとで、一部上場企業で、割合、
大きな会社の社長になって、引退したんです。

「どうして、あいつみたいな奴が
 社長になったんだろうか?」
と、どこがいいのかを、
ぼくも、よくよく考えましたね・・・。
どう見たって怠けものだし、
授業は出ないし、なぜ社長かは、
不思議でしょうがなかった。

よくよく考えてみて、
やっと理屈づけたのが、
要するに、そいつは、あんまり、
「逸らさない」んだなぁ、と思いました。
糸井 へぇ。「逸らさない」んですか。
吉本 つまり、バカ話であろうと、
そうじゃない話だろうと、
こいつは、逸らさない。

人を逸らしたり、
逸らした言い方をしたり、
そういうことはないということが、
唯一で、「あ、それだ」って思ったんです。

きっと、下の人にも上の人にも
いろいろな面で、あいつなら、
「逸らさない」だろうなあ、ということが。
糸井 つまり、はぐらかさないということですか。
吉本 はぐらかさないです。
逸らさないで真っ正面から・・・
えっと、「大真面目」という意味では、
ぜんぜん、ないのですけれども。
糸井 わかります。
吉本 「真面目」ということではないんだけど、
逸らさないという、最後に、
そいつのいいところとしては、
それが残ったんですよ。

「最後に残った」っていうのも、
おかしいんだけど、
「他に理由はないな」って、
ぼくは感じるところがありました。

その「逸らさない」ということで言うと、
たしかに、そいつは、すごかった。
同級生を見ていても、
ある話題では逸らさないところがあるけど、
他では逸らすとかいう場合が、そうとう多い。

その視点で見ると、こいつはどんな人でも
どんな話題でも、逸らさないな・・・と。
ああこれだよ、ここだったんだ、と思いました。
糸井 「人をナメない」
っていうことなんでしょうね。
吉本 そうなんです、そうなんです。

あの、どんな話題でも逸らさないのは、
どんなバカ話でも、逸らさないんです。
かと言って、真面目な話も、
嫌がりながらも、逸らさない。
糸井 ほんとに嫌なら、
怒るという意味で、
逸らさないんでしょうね。
吉本 (笑)そうそう。
しかも「単なる社交家」の感じもしない。
そう感じさせずに人の話を逸らさないのは、
そこだなあ、と思いました。
そこしか残らないな、こいつは、と。
珍しいんだろうなあと思いましたけどね。

まあ、今でも
そいつとは、時々、上野公園なんかで、
バッタリ会うということがありますけど。
でも、逸らさないというのは、
それはほんとうに、
たいしたもんだなあと思えるんです。
糸井 今の話に、
吉本さんの友達の人柄が
何気なく出ていて、
「人柄」と「逸らさない」とが、ふたつ、
セットになっているなあと思いました。

それ以外のところを見ていても、
人というのは、わからないでしょうね。
吉本 そうですね。そういうことがあるんですね。
いやあとにかく、その他には、
どこといって取り柄もないし怠けものだし。
どうしようもないというか、
どうしようもないグループの
どうしようもない奴でしたけれども、
よくよく考えると、
「逸らさないこと」が残りました。

それはやっぱり、
たいへんなことだなあってふうに考えて、
ぼくは自分のことを見ると、
「俺はそうはいかないからなあ」
という風に、思います。
糸井 え?
吉本さんは、
そういう風には、いかないですか?
吉本 いかないですよ。
糸井 その人は、もっとすごいんですか?
僕は吉本さんのことを、
「いちばん、逸らさない人」
だと、思っていましたけど。
吉本 割合には、そうかもしれませんが、
やっぱり、逸らしたり、
いいかげんに応対したりすることが、あります。
意識的にそうだ、ということではなくて、
逸らさないようにしていても、
やっぱり、逸らしてしまいますよ。
糸井 そうですか?
吉本 だけど、
その社長になった奴は、
そういうところに関してだけは、
「おおっ。ちょっと、すごいな」
と思うくらい、よく逸らさないでいます。

(つづく)

2001-09-05-WED

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