吉本 |
勉強のできないのが、奇妙に幸いしたのは、
大学でおなじだったやつで。なまけもんの奴です。
同じグループだったけど、
これが、どうしようもない。
さぼってばっかりいるし、
お互いに、
「これで、だいじょうぶなのか?」・・・。 |
糸井 |
(笑) |
吉本 |
そういう感じで、
単位をやっと満たすためには、
頼みこんでまけてもらったとか、
そういう奴でしたが、
あとで、一部上場企業で、割合、
大きな会社の社長になって、引退したんです。
「どうして、あいつみたいな奴が
社長になったんだろうか?」
と、どこがいいのかを、
ぼくも、よくよく考えましたね・・・。
どう見たって怠けものだし、
授業は出ないし、なぜ社長かは、
不思議でしょうがなかった。
よくよく考えてみて、
やっと理屈づけたのが、
要するに、そいつは、あんまり、
「逸らさない」んだなぁ、と思いました。 |
糸井 |
へぇ。「逸らさない」んですか。 |
吉本 |
つまり、バカ話であろうと、
そうじゃない話だろうと、
こいつは、逸らさない。
人を逸らしたり、
逸らした言い方をしたり、
そういうことはないということが、
唯一で、「あ、それだ」って思ったんです。
きっと、下の人にも上の人にも
いろいろな面で、あいつなら、
「逸らさない」だろうなあ、ということが。 |
糸井 |
つまり、はぐらかさないということですか。 |
吉本 |
はぐらかさないです。
逸らさないで真っ正面から・・・
えっと、「大真面目」という意味では、
ぜんぜん、ないのですけれども。 |
糸井 |
わかります。 |
吉本 |
「真面目」ということではないんだけど、
逸らさないという、最後に、
そいつのいいところとしては、
それが残ったんですよ。
「最後に残った」っていうのも、
おかしいんだけど、
「他に理由はないな」って、
ぼくは感じるところがありました。
その「逸らさない」ということで言うと、
たしかに、そいつは、すごかった。
同級生を見ていても、
ある話題では逸らさないところがあるけど、
他では逸らすとかいう場合が、そうとう多い。
その視点で見ると、こいつはどんな人でも
どんな話題でも、逸らさないな・・・と。
ああこれだよ、ここだったんだ、と思いました。 |
糸井 |
「人をナメない」
っていうことなんでしょうね。 |
吉本 |
そうなんです、そうなんです。
あの、どんな話題でも逸らさないのは、
どんなバカ話でも、逸らさないんです。
かと言って、真面目な話も、
嫌がりながらも、逸らさない。 |
糸井 |
ほんとに嫌なら、
怒るという意味で、
逸らさないんでしょうね。 |
吉本 |
(笑)そうそう。
しかも「単なる社交家」の感じもしない。
そう感じさせずに人の話を逸らさないのは、
そこだなあ、と思いました。
そこしか残らないな、こいつは、と。
珍しいんだろうなあと思いましたけどね。
まあ、今でも
そいつとは、時々、上野公園なんかで、
バッタリ会うということがありますけど。
でも、逸らさないというのは、
それはほんとうに、
たいしたもんだなあと思えるんです。 |
糸井 |
今の話に、
吉本さんの友達の人柄が
何気なく出ていて、
「人柄」と「逸らさない」とが、ふたつ、
セットになっているなあと思いました。
それ以外のところを見ていても、
人というのは、わからないでしょうね。 |
吉本 |
そうですね。そういうことがあるんですね。
いやあとにかく、その他には、
どこといって取り柄もないし怠けものだし。
どうしようもないというか、
どうしようもないグループの
どうしようもない奴でしたけれども、
よくよく考えると、
「逸らさないこと」が残りました。
それはやっぱり、
たいへんなことだなあってふうに考えて、
ぼくは自分のことを見ると、
「俺はそうはいかないからなあ」
という風に、思います。 |
糸井 |
え?
吉本さんは、
そういう風には、いかないですか? |
吉本 |
いかないですよ。 |
糸井 |
その人は、もっとすごいんですか?
僕は吉本さんのことを、
「いちばん、逸らさない人」
だと、思っていましたけど。 |
吉本 |
割合には、そうかもしれませんが、
やっぱり、逸らしたり、
いいかげんに応対したりすることが、あります。
意識的にそうだ、ということではなくて、
逸らさないようにしていても、
やっぱり、逸らしてしまいますよ。 |
糸井 |
そうですか? |
吉本 |
だけど、
その社長になった奴は、
そういうところに関してだけは、
「おおっ。ちょっと、すごいな」
と思うくらい、よく逸らさないでいます。
(つづく) |