2018年春の「やさしいタオル」で
いっしょに「ほぼ日」に登場した、
イラストレーターの大橋歩さんと陶芸作家の鹿児島睦さん。
「いちどもお会いしたことがない」
というふたりを引き合わせたくて、こんな機会をつくりました。
大先輩を前に最初は緊張していた鹿児島さんでしたが、
「おんなじだ!」「ぜんぜんちがう‥‥」という発見が、
どんどん距離をちぢめてゆきました。
雑談めいたぶぶんも含めて、そのようすを
全6回でおとどけします。
- 鹿児島
- 最後にひとつお聞きしてもいいでしょうか。
大橋さんが絵を描いたり、
イラストのお仕事をされるときって、
無心でお仕事をされますか。
それとも何か考えながらですか。
- 大橋
- うーん? あんまり考えたことがない。
どうやってるんだろう。たとえば、
「塗る」っていうことはたぶん好きなんですね。
それで以前、撮影に使うホリゾントの大きな巻き紙を、
カメラマンのかたが買ってくださった。
それを、筒のまま立て掛けて広げて、
横に引きだして、
ずーーーっと描いたことがあるんです。
鉛筆で、延々とそれを毎日毎日毎日毎日、
そんな描き方をしたことがあって。
- 鹿児島
- 巨大絵巻!
すっごい。
- 大橋
- それは「人」で、黒い人の頭から始まって、
いちばん最後が足なんです。
それを描いていたときは、
あれを「無心」というのかな。
でも、どこかにすっごく
サービス精神があるんですよ。
それはやっぱりわたしが
イラストレーターだからだと思うんですけれど、
描ければいい、自分さえよければいいとは
思わないんですね。
それだけではつまらない。
なのでギャラリーで、
真ん中の大きな柱に真っ赤な
お布団みたいな布を巻いて、
壁にはそのモノクロの人で埋めて、
みんなが赤いお布団を触りながら
それを見てもらうというすごく変なものを作って。
それだって、みんながどんな気持ちになるだろう?
と考えることは、サービス精神だし、
面白がってもらいたいという気持ちがあるんです。
- 鹿児島
- 体験して欲しい感じですよね。
- 大橋
- 基本的にはイラストもアートもすべて、
どうやって楽しんでもらおうかなというのが
たぶんわたしの中の軸としてある。
一度、イラストレーターズソサイアティという、
わたしはいちばんそういうのが嫌いなくせに、
そこに入っちゃったんですね。
そこで何回目かの合同の展覧会というのがあって、
何を出そうかと思ったとき、
イラストレーターだけど大きなものを描いても
いいんじゃない? というので、
日本画のフレームに鳥の子紙を貼って、
そこに群青色の顔料をニカワで溶いて、
大きな青い象を描いて、
金箔が貼れないので、それは学生に
アルバイトで貼ってもらった。
それを出したとき、みんな
「え? 何、これ?」って。
他の人たちはちゃんと
ご自身のイラストの
延長となるものを展示している。
自分らしい作品、その人とわかる作品なんです。
わたしだけ「そんな種類の仕事をしていない」
タイプの絵を出してしまったわけです。
あ、失敗したかな? と思いましたけれど、
でもやっぱりそれは、
見に来た人に楽しんでもらいたいって
思ったからなんですよ。
- 鹿児島
- すごくわかります。じゃあ、更になんですけど、
ぼくは、作るものが「商品」と
呼ばれてしまうことに対して、
覚悟も、納得もしています。
それはどうなんでしょうか。
商品という部分と、作品という部分で、
そこのバランスっていうのは
どういうふうに考えてお作りになることが
多いですか。
もちろん作られるものにもよりますよね。
タオルだったり、イラストだったり。
それはそのときのバランスみたいなものですか。
- 大橋
- 私はイラストレーターだから、
もともと雑誌の中の仕事でした。
それは言ってみれば商品ですよね。
絵本など、どなたかの文章に
絵をつけさせてもらう本を作るときも、
やっぱり商品じゃないですか。
だから売れて欲しいという気持ちは、
──もちろんその作家の方がすごい方だと、
当然そんなの関係なく売れるんですけれど──
やっぱりわたしも頑張って
売れて欲しいという気持ちが
すごく強いかもしれないですね。
でもその気持ちが強過ぎるかもしれない。
- 鹿児島
- なるほど。わかります。
- 大橋
- 気持ちが強いからって、
必ずしも成功しないけれど。
でもやっぱりね、
たくさんの人に届いてほしいですよね。
- 鹿児島
- なるほど。
ぼくも同じように考えています。
ぼくも売れないといけないと思っていて、
経済が回って、売れることで、
関わった方たちにちゃんと分配されて、
その仕事がまた次に続くということが大事です。
そのためにはきちんと数字を取っていかないと
続かないって思っています。
- 大橋
- なるほど。そうですよね。たしかに。
- 鹿児島
- だから自分の器を扱ってくださるギャラリーも、
開催しただけで満足、ではなくて、
やっぱりきちんと数字が取れていくことによって、
来年はもっと経費をかけて
面白い仕掛けを考えましょうとか、
もっと面白い見せ方をしましょうと、
そんなふうに育っていくのが、
健康なやり方だと思うんです。
有難いことに買ってくださる方が
いらっしゃるので、
「鹿児島君のはどうせ売れるよね」
みたいなこともよく言われます。
「まあそうですね、有難いことですね」
とは言いつつ、ちょっと色々
引っかかるところもありましたが、
大橋さんのお話を聞き、ちょっと安心しました。
- 大橋
- ふふふ(笑)。
- 鹿児島
- 売れることで結果的に、
使ってくださる方とか、
触れてくださる方たちが、
みんなハッピーな状態になるというのが
理想ですよね。
- 大橋
- そうなんですよね。
- ──
- こないだ糸井がベストセラーを出した出版社に
聞いたんですって。
「あのベストセラーが出てから、
会社って変わったの?」と。
そしたら「変わりました!」と。
担当者やそのチーム以外の人も
よく立ち話をするようになったし、
みんな元気で楽しそうにしていると。
1冊のベストセラーが出版社を変えるんですね。
- 大橋
- そう。大事ですよ。
- ──
- 頑張ります、われわれも。
- 鹿児島
- はい。頑張ります!
(おわります。ご愛読、ありがとうございました!)
大橋歩さんと鹿児島睦さんと
いっしょにつくった「やさしいタオル」は、
こちらでごらんいただけます。
©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN