第10回
初めて鼠穴に糸井さんを訪ねたのは、
去年8月の夕方のことでした。
同行のミヤケ課長は落ち着いた様子でしたが、
私はといえば、まるでロボットのように
緊張とコーフンで膝をカクカクさせながら、
鼠穴ビルに辿り着きました。
7月に「ほぼ日」を見つけて以来約1ヶ月、
なんだか鼻息を荒くして
糸井さんの言う「幸せな本」の意味合いを
あれこれ思索していたのですが、
考えてみたら、これから会おうとしている人は、
あの有名な「イトイ・シゲサト」なわけで、
私のような名も無き一編集者からすれば
雲の上の存在なのです。
「どうもどうも、あなたが
慌てん坊のマルイさんですね!」
私の膝は相変わらずカクカクしていましたが、
ジーパンにTシャツという実にカジュアルな
出で立ちで現れた糸井さんの、
そんな気さくな挨拶のおかげで、
さっきまでの緊張はとりあえず約50%軽減されました。
早速「実用書ではなく、読み物としてはどうか」
という提案を盛り込んだ企画書をお渡しして
一通りこちらからの説明が済むと、
糸井さんは「80代〜」について、
やっぱり気さくな感じで話し始めました。
「実はこの連載って、
『自分探しの旅』ができるかもしれない、
なんて思って始めたところもあるんですよ。
今まで10回位しか会ったことがないとはいえ
やっぱり血の繋がった親子だから
遺伝してるところが見つかったりすると、
面白いじゃないですかぁ」
「何か共通点は見つかりましたか?」
「ありましたねぇ。
例えば気が弱いくせに大胆だったり、
好奇心が強いっていうのも、たぶん遺伝なんですよ。
それに、花が好き、とかね。
ぼくは花が大好きなんですけど、
それが何でだかわかんなかったんですよ。
で、この連載読んだら、
母は花が大好きだって初めてわかって、
あ、そっかあ、とかね」
「それからやっぱりインターネットの面白さですよね。
この連載にも読者から
たくさんのメールが来るんですが、
特に『教える』っていうことの面白さに
反応がありますね。
つまり、年代が親子ほど離れた人たちでも、
インターネットを通じて、
いっくらでも助け合うことができるんですよ。
そういう関係性が面白いし、
そこに共感している読者も多いみたいです。
ぼくはそれを『パソコン十字軍』って
呼んでるんですけど。
だから本にするときも、ベースになるのは、
あくまでも『コミュニケーションの物語』ですよ。
だからまあ、この本は教科書じゃなくて、
受験参考読み物、みたいな感じでしょうかね。
実用的な部分は、別に解説ページを入れれば
親切だと思いますけど・・・」
糸井さんの話に耳を傾けているうちに、
いつしか私の緊張もどんどん解けていきました。
そして話の中で随所に差し込まれる「自分探しの旅」
「パソコン十字軍」「コミュニケーションの物語」
といったキーワードによって、
糸井さんの考えと私たちの提案は、
細かい部分はどうあれ、ほぼ同じ方を向いていると
考えていいと確信したのです。
糸井さんによると、
「ほぼ日」上でのこの連載は
9月頃に終わる予定とのことなので、
とりあえず連載終了まで待って、
それから詳細を詰めていきましょう、ということで
この日はまとまりました。
しかし糸井さんの予想を超えて
連載は9月以降も続き、
結局、今年の1月に終了するまで、
この本の企画はしばしペンディング、
ということになったのでした。
お知らせ。
darlingが『豆炭とパソコン』を引っ提げて登場します!
・11/9(木)TBSテレビ「はなまるマーケット」の
「はなまるカフェ」9:00〜9:30
・11/10(金)J-WAVE「e Station」14:20〜14:50
『豆炭とパソコン』
糸井重里著
1400円
世界文化社
ISBN: 4-418-00520-X
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