ノリコ |
(イトイさんがミーちゃんと会ったのは)
正確に言うと物心ついてから10回くらいなのかな。
ただ、母のほうは、お誕生日とかに
---それこそ自分のためにかもしれないけど、
贈り物をしたりしてましたけどね。
それでお礼の電話が来たりっていうようなことは
何度かしてましたけどね。
手紙が来たりとか。
まあ、年にそういうことの行ったり来たりが
2、3回くらいはあったと思うんですよ。 |
永田 |
ほぼ日の連載が始まるまえに。 |
ノリコ |
そう。
それがメールが送れるようになってからは、
何かというとお互いにやり取りしてますよね。
だからそういう意味で言うと、
以前の何倍にもなってるでしょうね。 |
永田 |
ふーん。 |
これは僕とまるいさんの共通の認識なんだけれど、
ミーちゃんの家にある不思議な暖かさは、
ノリコさんの存在をなくしては語られないのだと思う。
なによりもノリコさんは状況に対して冷静で、
---もちろん醒めているというわけでもなくて、
だからこそミーちゃんもミーちゃんとして
振る舞えているような気がする。
たとえばノリコさんの話は
ノリコさんの運転のように安定していて頼もしく、
聞いている僕らを妙に安心させる。
ノリコさんはそのようにして周囲を安定させることに
長けているようであった。
イトイさんがミーちゃんについて語るときも、
ミーちゃんがイトイさんについて語るときも、
ふたりのあいだには
お互いがお互いのために立ち入らないようにしているような
繊細な領域があるように僕は感じていた。
もちろんそういった領域は多かれ少なかれ
多くの親子のあいだに存在するものなのだろうけど。
でもノリコさんが
ミーちゃんやイトイさんについて話すとき、
僕らはその領域をあまり意識することがなかった。
それは、ノリコさんがそういった領域を
持っていないのだということではもちろんなくて、
ノリコさんが僕らに
そのデリケートな領域についてのことを、
少しずつ翻訳してくれていたのではないかと思う。
いまにして気づくけれど、
ノリコさんもやはりサービス精神にあふれているのだ。 |
ノリコ |
何かがあるからちょっと話しとこうか、
という関係ではなかったんですよ。
でも最近は、日常的ではないけれども、
結局(連載によって)必要もあるし、
気分的にもずいぶん
交流が楽になったというのはあると思いますよ。
だから(ふたりの距離は)
だいぶ近くなってるんでしょうね。
母も口に出しては言わないけど、
もっと(家に)寄ったりしてくれればいいのに
っていうのは思ってたと思うんですよ。
それが電話したりメールしたりってするようになって、
寄れないんだっていうことを、
自分に対して納得させるのが
楽になったりしてると思いますよ。
寄れなくて当たり前というか。
たとえば、暮れに赤城の山を掘った帰りにでも
寄っていけばいいのに、って思ったりしても、
寄れない事情を考える余裕ができたというか。
寄れなくて当たり前ね、って考えることが
できたんじゃないかな。
たぶんメールがなかったときは、
そこまで来てるんだから寄ってくれればいいのに、
っていうほうがきっと強かっただろうと思うんですよ。
もちろん忙しいことは百も承知でね。
それでも寄ってもらいたいっていうのが
たぶんあったんじゃないかな。
ああ見えて母は意地っ張りの人だから言わないけど。
おまけに見栄っ張りですしね(笑)。 |
永田 |
(笑) |
ノリコ |
すごい見栄っ張りですよ。 |
永田 |
でもそれがサービス精神に作用してますよね。 |
ノリコ |
そうですね、そういうところもある。
だからよく言うのは、
母は人が見えるまえにお掃除をする人。
私は人がお帰りになったあとにお掃除をする人(笑)。 |
まるい |
ちょうどいいですね(笑)。 |
ミーちゃんとイトイさんとノリコさんに
共通するサービス精神は、
しばしばユーモアというわかりやすい形をとる。
それで僕とまるいさんは
しょっちゅう笑わされていたように思う。 |
ノリコ |
母がパソコンを始めて
謙虚になったというのはあると思いますよ。
自分自身に対しても、
大げさに言うと機械文明に対しても。
母はいつも
「私は小さいときから戦争とか震災の中にいた」
ってよく言うんだけど、
ぜんっぜんその苦労が身についてない人なんですよ! |
永田・まるい |
あははははは。 |
ノリコ |
家によく来る私の友だちがよく私に言うの。
「ノリコさんのお母さんってさ、
たぶん子どものころのまんまよね!」って(笑)。 |
永田・まるい |
(笑) |
ノリコ |
みんながそう思ってるけど、
たぶん本人だけが違うと思ってる。
人様から見るとかわいいところよね。
だからシゲサトのことにしても、
客観的に見れば
小説になってもおかしくないような出来事なのに、
垢にまみれているようなところを感じさせないでしょ? |
永田 |
そうですね。 |
ノリコ |
なんか、「私はこうだから」っていうので、
そのままお婆ちゃんになったようなところがあるのよね。 |
永田・まるい |
(笑)
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