80's
『豆炭とパソコン』のひとり旅。

第21回

糸井さんへのインタビュー取材は、
「メールから文章力や人となりがわかること」
「インターネットと他のメディアとの違い」
「禁煙セラピーの話」「快録テレコマンの秘密」
と時に脱線しながらも、順調に進んでいきました。
そして、連載当初、南波先生をはじめとする
先生役に名乗りをあげてくれた人達との
メールのやりとりが面白かった、という話を端緒に、
連載当初の経緯について話が及びました。

「予想していたよりも、南波先生のレポートは、
ノウハウの部分がすっとんでたんですよ」
と糸井さん。
「たとえば『誰でもミーちゃんになれるよう、
マニュアルっぽく書いてください』
っていう頼み方もできたわけですよね。
でも『あぁ、これはこの選手のバッティングだ』
って思ったんですよ。
南波先生はこうすることが楽しいんだから、
そっちで行こうと。
おかげでマニュアルじゃなくて読み物になりましたね。
たまたまミーちゃんていうのも、
いろんなことを自由に考える人だったわけです。
そう、この本のテーマのひとつは“自由”ですよ。
南波先生だって自由に楽しくやってくれればいい。
たとえ最初の目論見とは違う方向に向いたって、
紙代とか、元手がかかってないわけだし。
実際に動いている人が面白ければ、それでいいんです。
そこが、インターネットのすごさですよ」

なるほど。そう考えると、南波先生次第で
全然違う構成になっていたかもしれない・・・。

そして、糸井さんはさらに
ミーちゃんの生活に思いを馳せます。
「あの、なーんで毎日“気温”書くんだろうってのが
不思議でしたね。
で、考えてみたら、基準点が必要なんでしょうね。
僕らは基準点のある暮らしって、意外としてないんですよ。
でも、ミーちゃんたちは、何時に起きるとか、
何時に寝るとか、毎日の基準点を確かめながら
生きてるから、その意味では、お天気と気温書くのは、
なるほどねって思って。
でも同じ5をキーボードで押すときでも、
英数字と、和数字が混ざってるってことは、
その都度考えてどちらかを選んでるってことでしょ。
だから、日記つけるのなんて、大変だと思いますよ」

ところで、この連載の正式タイトル
「80代からのインターネット入門〜前橋の母Aが、
Eメールで原稿を送ってくるまでの物語」
の中の“母A”という呼び方の由来について、
ちょっと気になっていたので訊いてみました。
「昔“錠剤 命の母A”っていう薬のコマーシャルが
あったじゃないですか。それからとったんですけどね。
この“A”って何だろうって、ちょっと気になって(笑)」
「“母A”って言い方、なかなかないですよね」
と永田さん。糸井さんも大笑いしながら頷きます。
「ないですよね。BがいるからAがいるわけで(笑)」

まさか“錠剤 命の母A”からとったものだったとは、
訊いてみなければわからないものです。

時に真剣に、そして時に大笑いしながら
インタビューが進む中、私は、この、面白いけれども
あっちこっちに寄り道しまくっている取材をもとに、
一体どうやって糸井さんに書き進めてもらえばいいのか、
ふと不安になりました。
そんな私の顔色を察してか、糸井さんは、
いま思えば目から鱗が落ちるようなことを言ったのです。
もっとも、言われたその時は、
糸井さんの言ってることはわかるけど、
そんな簡単には行かないよなぁ、と思い、
私の不安は消えないままだったのですが・・・。
そのときの糸井さんとの会話を再現してみましょう。

「マルイさんの構想としては、どうですか?」
「いや、もう頭の中、真っ白です(笑)」
「本になるのはもう目に見えてますよ。
僕はなんかわかったような気がする」
「どんなふうに組み立てれば一番わかりやすいのかなぁと」
不安を隠せない私に、
糸井さんはきっぱりとこう言いました。
「構造の中に答えはないんですよ。
骨組みだけ見て『わー、きれいだね』なんて誰も言わない。
ところが肉がついてくると急にわかるんです。
だから、肉の部分をどう見せていくかってことを
考えればいいんですよ。
ゲーム作るときなんて、もっとひどいからね。
『これなに?』って。(笑)
で、ある瞬間、モニターに
ゲームのようなものが見えてきてからは
『こういうことだったのか』ってみんなが思う。
本は論理で作っていくから、
意外とそういうこと忘れちゃうんですよね」

こうして第1回目のインタビュー取材は終了しました。
構造の中に答えはない? 肉を集めて形を作る?・・・
きっと私が不安そうな顔をしていたのでしょう。
取材後、永田さんがフォローの言葉をかけてくれました。
「マルイさん、そんなに悩むこと、ないですよ。
さっき糸井さんが『わかったような気がする』って
言ったときに、僕も頷いていたけれど、僕だって、
正直言ってまだよくわからないんだから(笑)」
永田さんの言葉に大いに励まされた私は、
連休明けの2回目のインタビュー取材までに
とにかく頭の中を整理しなくちゃ、と思いながら
鼠穴を後にしたのでした。



【お知らせ】

darlingが「決死の覚悟で(本人・談)」
『豆炭とパソコン』の取材を受けまくっている。
だから、普段登場しないような番組とか、雑誌とかでも
「決死の中年男」を目にすることが多いと思います。

どんな番組や雑誌に出たか、出るかについて、
ここしばらくの予定をここに書いておきます。
(編集部調べ)

<書評>
 ・12月発売「いきいき」

 他にも共同通信発の各地方紙に記事がありました。

<インタビュー・対談>

 ・12/1(金)発売「日経アドレ」1月号
 ・12/10(日)報知新聞 新刊紹介著者インタビュー
 ・12/21(木)ダイム 著者インタビュー
 ・12/28(木)発売「メイプル」2月号の
           「BOOKインタビュー」

<テレビ・ラジオ出演>
 ・12/8(金) 「CDTV−Neo」
        SOPHIAボーカル松岡充さんと対談続き
 ・12/16(土)「おはよう日本」インタビュー



『豆炭とパソコン』
糸井重里著
1400円
世界文化社
ISBN: 4-418-00520-X

【お知らせ】
店頭で、「豆炭とパソコン」が見つからないときは、
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