ほぼ日の糸井と早野と河野が、
東京大学の特別講義に講師としてよばれました。
講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること。」
名づけたのは糸井です。
若い学生たちの希望にあふれる視線を受けて、
3人は、人生の先輩として、
「知恵や知識、行動のいろんなやり方を
どうやって覚えてきたのか」
を話すことになりました。
20歳のほぼ日とほぼ同い年の大学生からすると、
私たちのことをくわしく知らない人も
多かったことでしょう。
それでも積極的に質問を投げかけてくれました。
今回はほぼ日をあまり知らないという方々に向けて、
〈参考〉もつけましたのであわせてどうぞ。
みじかめの文章で全10回、
どこからでもよんでいただます。
- 原島
-
時間になりましたので、はじめさせていただきます。
本講義の担当教授の原島です。
さっそく3人の先生方も前にどうぞ。
- 糸井・河野・早野
-
本日はよろしくおねがいします。
- 会場
-
(拍手)
- 原島
-
今日はおまかせしてしまって、
よろしいんですよね?
- 早野
-
はい。
僕はもともと20年以上
東京大学で教鞭をとっていまして、
いわばホームグラウンドです。
なので「早野先生が口火を切って」
と言われまして、
今日は僕が話を振っていこうと思います。
さっそく糸井さんに質問を振りますが、
今日の講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること」。
「盗む」という言葉がドキッとするんですよね。
こういうタイトルをつけられるのは、
みなさんのご想像どおり
元コピーライターの糸井さんです。
糸井さんはどうして
このタイトルをつけられたんですか?
- 糸井
-
僕ら3人だけなら
普段からしゃべっていますけど、
今日は学生さんの前で話すということで、
年上の人たちが「こういうことをしました」という
思い出話をただ聞いてもらうのではなくて、
多少でも、学生のみなさんが
自分と照らし合わせて考えられるような、
持って帰れる話をできたらいいなと。
僕らがどうやって知恵や知識、行動、
さまざまなやり方を身につけてきたのか、
そんな話をしたいと思っています。
そうすると、素直に考えれば
タイトルは「私たちの学び方」になるんです。
でも、知識や知恵の中には、
学んだつもりはなくても
自然と自分のものになっていることがあります。
それはなんだろうと考えたら、
「盗むこと」じゃないかと。
先輩なのか先生なのか、はたまた親か、
師匠に値する人の背中をみて
自然と盗んだ技があると思うんですよね。
- 早野
-
なるほど。
- 糸井
-
そして、知識や知恵で
自分のものにするにはハードルが高いから
盗むつもりはない、けれど「いいな」
というものがあると思います。
たとえば僕なら、
早野さんが専門とされている
原子物理学に興味はあるんですよ。
だけど早野さんの知識に追いつくには
相当時間がかかりますよね。
そういう分野はもう、
早野さんにおまかせして教えてもらおうと思ってます。
文系、特に本や文化に関する造詣は
河野さんの方が圧倒的に深いのでおまかせして、
一緒にプロジェクトをつくってもらっています。
つまり僕は早野さんと河野さんを
「仕入れ」ているんです。
- 早野
-
そうか。
僕らは仕入れられているんだ。
- 河野
-
なるほど(笑)。
- 早野
-
糸井さんは僕らからなにを仕入れようと
声をかけてくれたんですか?
- 糸井
-
そうですね‥‥。
今日は身内の人たちに話すと思って
手の内を明かしますけど、
僕らはよみものや商品といった
「コンテンツ」を中心に
人に集まってもらったり、
売り場を作ったりしています。
その「コンテンツ」というのは、
それぞれが持っているものを中心に
組み立てるんですね。
たとえば、コピーライターをしていた僕なら
「広告のつくり方」
なんていう講座をつくれるわけです。
自分の身を切り売りするんですね。
- 早野
-
はい。
- 糸井
-
ほぼ日は今年で20年目をむかえて、
外部の人でも僕らに深く関わってくれる人に
出会えるようになりました。
でも、自分の身を切り売りするところまでは関われない。
だからこの先、仲間内で同じようなコンテンツを
何度も生み出すことになりかねないと思いました。
じゃあ、今までと違う
コンテンツを生み出したいと考えたときに、
「仕入れ」をする必要があると思いました。
「仕入れ」といっても、
多くの人は「なにがいちばん新しいか」という
仕入れ競争はいくらでもやっているんです。
サイエンス系なら、
今だとAIやロボット、ビッグデータの
仕入先の奪い合いですね。
でも、それらは新しいふりをして
違う角度で話しているだけ、
つまり同じ話をしていることもあります。
それって、自分だからこそ生み出せる
コンテンツではないですよね。
- 早野
-
そういう傾向はあるかもしれませんね。
- 糸井
-
僕らはコンテンツをつくる者として
なにを仕入れようかと考えたときに、
あるていど普遍的なものを仕入れたいと思いました。
- 河野
-
ああ、なるほど。
普遍的ですか。
- 糸井
-
はい。
紀元前の人たちも、50年先の人たちも
知っておきたいと思うような、
普遍的なコンテンツを扱いたかったんです。
そこでキーになったのが「古典」#1です。
ボロボロになって朽ちるのではなくて、
何十年、何百年と生きてきて、
これからも生きていく古典を扱いたいと。
そう思ったときに、
自分ができない分野の仕入れができる
早野さんと河野さんに声をかけたんです。
サイエンス部門の早野さんと、
文芸も含むアート部門の河野さん。
2人の仕入れのプロならば、
僕らが手の届いていなかった領域に
どんどん踏み込んでもらって、
一緒に普遍的なコンテンツを
生み出していけるのではないかと思いました。
- 早野
-
そういうことでしたか。
- 河野
-
あらためてよくわかりましたね。
(つづきます。)
-
- #1 古典
- 去年より古典を学ぶ場所として
「ほぼ日の学校」をはじめました。
学校長は河野通和です。
さまざまな古典を、いろいろな角度から学ぶ場で
最初に取り上げたのは「シェイクスピア」、
現在は早野による「歌舞伎」講座が
はじまっています。