ほぼ日の糸井と早野と河野が、
東京大学の特別講義に講師としてよばれました。
講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること。」
名づけたのは糸井です。
若い学生たちの希望にあふれる視線を受けて、
3人は、人生の先輩として、
「知恵や知識、行動のいろんなやり方を
どうやって覚えてきたのか」
を話すことになりました。
20歳のほぼ日とほぼ同い年の大学生からすると、
私たちのことをくわしく知らない人も
多かったことでしょう。
それでも積極的に質問を投げかけてくれました。
今回はほぼ日をあまり知らないという方々に向けて、
〈参考〉もつけましたのであわせてどうぞ。
みじかめの文章で全10回、
どこからでもよんでいただます。
- 聴講生(男性)
-
学際情報学府の者です。
今日のお話にあったアートとサイエンスを
即物的に使うのではなく、
かといって趣味の領域でもなく、
なんというのか‥‥
アートとサイエンスの間にある
広大なライフというエリアの中で、
自分も力を発揮したいと思っています。
ただ、具体的にそういうことをやるには、
どうしたらいんだろうと思っています。
- 糸井
-
そのへんを僕もいろんな角度から考えていますね。
どう話したらいいかな‥‥。
たとえば気仙沼ニッティング #1を
考えたときは「ライフ」というエリアの中で
いけるぞと思いました。
震災以降に立ち上がったプロジェクトで、
もともと気仙沼に手編みのセーターを編める
お母さんたちがいたことがはじまりです。
彼女たちと一緒になにかやれば、
長い目で被災地の復興になると思ったし、
世界規模に広がる可能性さえ
潜んでいると思いました。
それに家でできる仕事なので、
工場とか大きな設備がいらない。
毛糸と人さえあればいいので、
スタートしやすかったんですよね。
近いことを考えた人はいると思います。
実際、被災地で手づくりグッズを販売しているのは
めずらしいことではありませんでした。
でも、僕はもうすこし考えて、
被災地ではなく
東京やファッション業界と戦って選ばれるものか、
という規模感で考えたんですね。
手編みのものは、デザインやストーリーなど、
ブランド力を構築できないと
ただの素朴な手編みのセーターになってしまうんです。
そうではなくて、
僕は商品としてきちんと戦って、
選ばれるものをつくりたかった。
どうしたかというと、いちばん最初に
ニットデザイナーの三國万里子さんに声をかけました。
彼女のデザインなら世界にも通用する、
すてきなセーターができると確信できたんですね。
彼女がOKしてくれてからは、もう心強い。
次はストーリーだと思ったときに
「アランセーター」という
漁師のお母さんたちが伝統的な柄のニットを編んだ、
世界的に人気のセーターを知りました。
それは1960年くらいのできごとなんですが、
イギリスのダブリンで編まれていて
主な輸出先がアメリカと日本だったんです。
似た物語ですし、
彼女たちと姉妹のようにやることでベースを固めようと、
僕はアラン島に直接話をしに行きました。
いろんなことを考えてつくった気仙沼ニッティングが、
今は軌道に乗りはじめていて、
MM01という15万円のセーターが
2年待ちになっています。
生産力が足りていないこともあるのですが、
現社長がすごくがんばって動いてくれている
結果でもあります。
- 早野
-
15万円で2年待ちって、すごいですよね。
- 糸井
-
すごいですよね。
「私が編めばタダなのに」と言う人が
出てくることも予想していたので、
毛糸もオリジナルにして、
ここで買ってもらう土壌は整えたつもりです。
ただ、それにしても、
人が簡単に買ってくれるような値段では
ないと思うんですよ。
なぜ買ってくれるんだろうと、ずっと考えていて。
一般流通されるセーターは基本分業制ですから、
誰かがデザインを考えて、編むのは機械です。
でも手編みのセーターには
機械に負けない理由があって、
それは「命が使われた時間」だと思うんですね。
命って聞くと重々しいけど、
機械にはない温かさを感じるんです。
それに被災地のものだから
「協力できる」よろこびもあります。
それから僕は、労働とは売り買いするものではなくて、
命のやりとりなんだと思うようになりました。
労働時間が対価となって
商品に値段がつけられるのではなくて、
命のやりとりにお金を払うんですね。
そういうものは増えてきていて、
たとえば作り手の顔がみえる一軒家レストランだったり、
信頼できる人に教えてもらう英会話教室だったり、
価値とされていることが変わってきたように思います。
もう、贅沢さよりも、
真心が込もっていることが価値になるんです。
だから誰かのためを思って、
「よろこんでくれる人の数を増やしたい」
という考えになるんだと思います。
ぼんやりしていますが、それが僕の回答ですかね。
- 早野
-
先日、糸井さんと一緒に数学研究者の新井紀子先生と
「AIが人間の仕事を助けるのか、奪うのか」という
鼎談をしました。
たとえば、将棋という分野で考えると、
どんどんプログラミングが進んでいますから、
人間はコンピューターに勝てないんですよ。
じゃあ、プロの棋士が失業するかというと、
そうではない。
みんな藤井さんの戦う姿に感動して、
将棋を見る人もきっと増えましたよね。
そこには人間の命のやりとりがあったのだと思います。
- 原島
-
ありがとうございました。
このまま、ずっと終わらなさそうですので(笑)
またお越しいただけましたら幸いです。
- 糸井・河野・早野
-
ありがとうございました。
- 聴講生
-
(拍手)
(終わります。)
-
- #1 気仙沼ニッティング
- 2011年の11月に始動した
編みものの会社を作るプロジェクト。
拠点はほぼ日の支社がある東北の気仙沼です。
どんな風にはじまったのか、
「気仙沼ニッティングの物語」は
こちらからどうぞ。 - おまけ 糸井重里、ほぼ日の20年を語る。
- もっとほぼ日に興味を持ってくださった方は、
ぜひ創刊20周年を記念した
こちらの企画もおよみください。
創刊してから20年のほぼ日の歴史をまとめた
コンテンツです。