学ぶこと、盗むこと、仕入れること。

hobo nikkan itoi shinbun

糸井重里×早野龍五×河野通和 東京大学特別講義

ほぼ日の糸井と早野と河野が、
東京大学の特別講義に講師としてよばれました。
講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること。」
名づけたのは糸井です。
若い学生たちの希望にあふれる視線を受けて、
3人は、人生の先輩として、
「知恵や知識、行動のいろんなやり方を
 どうやって覚えてきたのか」
を話すことになりました。
20歳のほぼ日とほぼ同い年の大学生からすると、
私たちのことをくわしく知らない人も
多かったことでしょう。
それでも積極的に質問を投げかけてくれました。
今回はほぼ日をあまり知らないという方々に向けて、
〈参考〉もつけましたのであわせてどうぞ。
みじかめの文章で全10回、
どこからでもよんでいただます。

9 よろこぶ人の数を増やしたい気持ちがいちばん。 2018.08.24

聴講生(男性)

社会人を経験しまして、
いまは情報理工学研究科の博士課程におります。
本日はありがとうございました。
あの、僕は「MOTHER」(#1)の大ファンでして。

原島

「MOTHER」の説明が必要ですかね?
どのくらい知っていますか?

聴講生

(半数以上手が挙がる)

原島

あ、かなりいますね。
そしたら大丈夫そうですね。

糸井

ありがたいですね。

聴講生(男性)

そのあとも徳川埋蔵金、
ダウンタウンさんとの釣りなど、
糸井さんの動向を夢中で追いかけていました。
僕にとって糸井さんは、
自分がおもしろいと思ったことを一生懸命されている
印象を持っていました。
ですが、今日糸井さんは
「誰かのために生きるよろこび」について話されていて。
自分のためではなくて、誰かのためという
考え方になった理由を教えていただけますか?

糸井

「誰かのため」というのが
別に立派なことではないんですが、
うーん‥‥なんでしょうね。
埋蔵金でもMOTHERでもほぼ日でも、
ものごとを考えるときには
自分を「肯定したい」という気持ちがあると思います。
「俺、ここにいてもいいんだ」って思いたいから、
調べたり考えたりして、
たどり着きたい理想に向かっていくんですよね。

ただ、綺麗ごとでもなんでもないんですが、
僕が経済行為にあまり興味がないんです。
よく公の場でも話すんですけど、
コピーライターをしていた28歳くらいから
会計士さんがずっと同じ方で。
でも、彼とは1年に15分しかしゃべらない。
本当はおまかせしちゃいたいくらいなんですけど、
いちおう現状を聞いて、はいと答えて終わります。
お金に対する欲がないわけではないですし、
むしろ、お金儲けをがんばりはじめたら、
僕はそればっかり考えてしまうと思うんです。

早野

自分の中にそういう欲が隠れているんですか。

糸井

欲というよりも、
なにをやるにも本気でやらないとおもしろくない、
と思う性格なんですよね。
博打だって、たぶんやると決めたら本気でやります。
バランスよく両立、
みたいなことが得意ではないんですね。

でも、おもしろいことを次々とやるためには、
ある程度お金がないとできない。
ものすごく贅沢な性分ではありませんが、
お金がかかることも選択できることが
「自由」だと思うんです。
忙しくてコンビニごはんの日もあれば、
高いけどおいしい料亭に行く日もある。
どちらも選べるお金があれば、
心に自由が持てる。
やっぱり、「自由」がほしいんですよね。
お金稼ぎは目的ではなくて
自由のために必要くらいのもので、
いまなにがいちばんやりたいか考えたら、
「よろこぶ人の数を増やしたい」
というのがいちばんです。
だから自然と「誰かのために」という
考え方に向いているのだと思います。

原島

でも、上場されましたよね。
それはどうしてですか?

糸井

大きな動機のひとつとしては、
僕らのことをもっと知ってもらいたかったんです。
みんなまだまだ知らないんです、僕らのことを。
たとえば生活のたのしみ展 #2
3回やっていますけど、
場所を貸してもらえないこともあります。
今度の9月に初めて大阪で実施するのですが、
本気でやっていることが伝わったから
先方からプロポーズに来てくれました。
もっと知ってもらって、
よろこぶ人の数を増やしたいじゃないですか。

答えとは関係ないけれど、
やっぱり人がいちばん大事なんです。
自分のいちばん好きなことを教えてくれるし、
いちばん好きな人を紹介してくれるし、
「こんなところはダメなんだけどさ」と
忠告までしてくれます。
それってすごいことです。
でも、教えてもらうためには
信頼されていないといけないから、
知ってもらいたい気持ちが高くなったのかもしれません。

早野

僕もいま、ジュネーブの国際チームリーダーを
次の方に引き継いでいるのですが、
誰に、どうやって引き継ぐべきか、
逆算してものすごく考えました。
それで人の大切さを実感しましたね。
糸井さんもいずれ引き継ぎの時期を迎えるでしょうし、
みなさんも人生のどこかで、
自分以外の人にバトンを渡す時がくると思います。
そういうときに人は大事だから、
信頼はつくっておかなければいけないと思いますね。

糸井

そうですね。
ただ、それこそ古典を学ぶと
そんな順序立てて物事は進まなくて、
平気で包丁を持った人に刺されて
終わってしまうこともあります。
不慮の事故があれば一瞬で消えてしまいますから、
できると思いすぎないほうがいいですよね。

(つづきます。)

参考にどうぞ! 参考にどうぞ!

  • #1 MOTHER
    1989年に任天堂から発売された
    糸井が手がけたロールプレイングゲーム
    「MOTHER」シリーズ。
    愛と勇気と冒険の物語を
    多くの方がたのしんでくださったおかげで、
    ほぼ日手帳のカバーやグッズでも再登場。
    現在はWii U、ゲームボーイアドバンスなどで
    遊んでいただけます。
  • #2 生活のたのしみ展
    さまざまなアーティスト、目利き、ブランド
    などとほぼ日がいっしょにつくる、
    お買い物を中心としたイベントです。
    これまで3回開催され、
    次回9月は初の大阪・阪急うめだ本店で実施します!