ほぼ日 漫画誌などへの作品の応募は、
けっこうされてたんですか?

今日 新人賞とか、いわゆる漫画誌の賞には
何回か応募していました。
でも、私がウェブで好きに描いているものとは、
描き方が変わっちゃうので、
けっこう苦労していて、あまり結果が出ませんでしたね。



ほぼ日 ウェブと描き方が違うというのは、
具体的には、どういうことでしょう?

今日 話の作り方自体が違うんですけど、
私はそのへんが全然わかっていなくって。
わかりやすくいうと、
漫画誌のようなものだと起承転結の流れを考えてつくる、
というようなセオリーがあるんですが、
私は描きたいところから
描き始めていたので(笑)。

ほぼ日 なるほど(笑)。
今日さんは、描きたいお話があるわけではなくて、
描きたい場面があるというか。

今日 描きたい場面っていうよりも、
描きたい絵がある、だったかなぁ。
あと、そのマンガ全体のテーマみたいなものを
しっかり練ってから
描かなきゃいけないんですけど、
私の場合はこう、テーマらしきものが
頭の隅っこにあるくらいで描き始めていたから、
ページ数が多くなると、だいたい破綻する(笑)。
だから、「センネン画報」など、
ウェブで好きに描いているマンガは
1ページで終わるものがほとんどです。


「センネン画報」(C)今日マチ子/太田出版

ほぼ日 そういう形式だからこそ、
長く連載できているということもありますか。

今日 それはあると思います。

ほぼ日 いまも「センネン画報」はずっと続いていて、
ほんとうにすごいなと思うんです。

今日 でも、もともと描きたくてやってるので。

ほぼ日 いや、でも、すごいです。
はじめた当初は、1日1枚描いて、
1000作品を目標にしていたとうかがいました。
それがいまは1700作品を超えていて‥‥。

今日 「センネン画報」をはじめたときは、
あまり他にお仕事がなかったので、
とりあえず締め切りがある仕事を
自分で作っておこうと思って、
1日1枚アップと決めたんです。
むしろ、描きたくてやってるので、
描きすぎないというか、1日をそれだけに
費やしすぎないように気をつけてました。
バイトを削ってとか、夜更かししてまで
やるもんじゃないって、いつも思ってましたね。

ほぼ日 はーーー。
描きすぎないようにって、すごい‥‥。
バイトとか睡眠とか、なにかを犠牲にすると、
逆に維持できなくなっちゃうんでしょうか?

今日 そうだと思います。

ほぼ日 なるほどー。
いまは、きっと、当時と違って、
たくさんの締切をかかえてらっしゃいますよね。

今日 ほぼ毎日が締め切りですね(笑)。
他の作家さんとかは、
1誌につき40ページとか描くんですけど、
私は1誌につき8ページくらいの連載を
10本とかやってるので、
異常に締切が増えるんです。


▲連載のネームも、たくさん描いている。

ほぼ日 10本! それは‥‥たいへんですね。
現在、日々の生活のスケジュールって、
朝から、「よし、マンガ描くぞ!」
みたいな感じなんですか?

今日 そうですね、いわゆる朝型の生活をしています。
締め切りがあれば、4時、5時に起きるんですけど、
ふだんは7時くらいに起きて、
9時とか10時くらいに仕事を始めて、
夜までやってるっていう感じですね。
忙しいときは、1~2時間仮眠をとって、
起きてすぐ仕事してって‥‥。
いつ寝てるかわからない感じです(笑)。

ほぼ日 マンガ家さんだ(笑)!

今日 (笑)

ほぼ日 そういう、「マンガ家の生活」って、
イメージにはあったんですか?

今日 あー、中学校くらいから、
絵を描く人になりたいとは思っていたので、
ある意味、予想どおりではあるんですけど、
こんなにハードだとは思っていませんでした(笑)。

ほぼ日 そうですよね(笑)。
ほんとうにたくさんのお仕事を
かかえてらっしゃいますが、
最近出版されたのは、
『ぼくのおひめさまー人魚姫 灰かぶりー』。
こちらは、やくしまるえつこさんの朗読も。

今日 はい。文章と絵を私が担当し、
やくしまるさんには朗読してもらいました。
これは、私から提案した絵本だったんですけど、
この絵本を進める時間を見つけるのに、苦労しましたね。

ほぼ日 「お山の少女」という作品は、
東北が舞台ですね。これは、震災の影響で‥‥?

今日 この作品の舞台は青森なのですが、
もともと、青森に旅行するのが好きだったんですね。
で、いつか青森の話を描きたいな、と思っていたんです。
震災があってから、直接的な支援ではないのですが、
東北に目を向けていただく機会になるな、と。

ほぼ日 もともと、描きたい内容ではあったんですね。
作風でいうと、「cocoon」にはびっくりしました。
今までの、心の繊細な動きをとらえたものから、
沖縄の戦争という、重いものをテーマに。

今日 「cocoon」は、担当者からお話をいただいたんです。
担当者が沖縄出身の方で、このテーマについて、
ものすごく熱意がありました。
私も、そろそろ違うものが描きたいな、と
思っていた時期だったりして、
いろいろなことがマッチしましたね。


「cocoon」(C)今日マチ子/秋田書店

ほぼ日 今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

今日 テーマが重めの長編を描きたいな、と思っています。
あと、アニメーションに興味がありますね。

ほぼ日 長編と、アニメですかー。
表現の幅とともに、今日さんの世界が
どんどん広がっていきますね。

今日さん そうですね(笑)。

ほぼ日 先日、お引っ越しされたばかりのお仕事場に
お邪魔させていただきましたが、
すっごく素敵なお仕事場ですよね。


▲お仕事場にて、作業をする今日さん。


▲足下には猫のムームちゃんが。

今日 ありがとうございます。
ほとんど家から出ないので、そこだけは頑張ろうと。

ほぼ日 以前のおうちでは、
机の、スタンドの目立つところに、
「マンガ家最高!!」っていう
メッセージが貼ってありましたが、あれはご自分で?

今日 あ、これですね。
(手帳から「マンガ家最高!!」という紙を出す)

ほぼ日 あ、そうです、これです!



今日 大切なものなので、引っ越しをしてからは、
手帳に挟むことにしたんです。
これは、お察しのとおり、自分で(笑)。
デビューしてすぐのころに、
しりあがり寿さんにお会いして、
いろいろお話をうかがったんですね。
そのお話の終わりに、
「いろいろあるけど、マンガ家は最高の職業だよ」と
おっしゃられて、ものすごく感動したんです。
それで、早速書いて、机にずっと貼っていたんです。
大切なものなので、引っ越しをしてからは、
手帳に挟むことにしました。

ほぼ日 でも、応募する人には、すごく力強い言葉ですよね。

今日 ほんとうは「いろいろあるけど」
という前置きが付いてますけど(笑)。

ほぼ日 では、最後に、
「ほぼ日マンガ大賞 2012」を
受けようと思っている方に、
一言メッセージなどをいただけますでしょうか。

今日 そうですね‥‥。
他の漫画賞などとは違うので、
楽しい気持ちで応募するといいかなと思います。
「ほぼ日」さんのカラーは、
「思いついたらすぐやってみよう!」という
気軽さというか、フットワークの軽さ、楽しさなので、
マンガを描くのが楽しいなって
思ってる気持ちを大事にしてほしいな、と。
「完成度を上げるぞ」とか、「名作を作るぞ」みたいな
心持ちではなくて、マンガを描き始めたときの、
「おもしろそうだから描いてみようかな」くらいの気持ちで
描いたほうが合ってるんじゃないかなぁと思いますね。

ほぼ日 ありがとうございます!

今日 ちなみに今回の「ほぼ日マンガ大賞 2012」も、
前回とだいたい同じような感じですか?

ほぼ日 そうですね。
あいかわらず、ゆるいところはゆるく。
「マンガ大賞を決める!」という感じではなく、
「ほぼ日」で連載をしていただける方に
「みなさん手をあげてください」というふうな
感じになるんじゃないかなあ、と。

今日 それは、逆に競争率が高そうな(笑)。
プロの方も応募されそうですね。

ほぼ日 うわぁ、そうなるとうれしいです。
でも、あの、今回もですね、
連載の運びとなっても、前回と同様、
原稿料は出ないっていうところが
心苦しいんですが‥‥(笑)。

今日 あー(笑)。
でも、漫画誌より見る人が多いとか、
メリットはありますもんね。

ほぼ日 はい、「ほぼ日」を見ている人数は多いので、
そこをうまく利用していただけると、うれしいです。
本日は、本当にありがとうございました。

今日 ありがとうございました。

(今日さんのインタビューはこれでおわりです。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。)
2012-03-30-THU


   
 

画像協力:『センネン画報』太田出版
     『みかこさん』講談社
     『炭酸水の底 ~今日マチ子作品集2007-2011』洋泉社
     『かことみらい』祥伝社フィールコミックス
     『cocoon』秋田書店
     『ぼくのおひめさまー人魚姫 灰かぶりー』パイ インターナショナル






『cocoon』
秋田書店 998円

沖縄のひめゆり部隊から着想したそうで、
場所も時代もあやふやなのですが、
しっかりとしたリアリティのある戦争が、
描かれている作品。
ほかの作品とは、ちょっと異彩を放つ、
今日さんの長編マンガの代表作です。

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『ぼくのおひめさまー人魚姫 灰かぶりー』
パイ インターナショナル 1890円

今日マチ子さんというフィルターを通した
『人魚姫』と『灰かぶり』(シンデレラ)。
文房具や果物をモチーフにしたイラストと
今日さんが紡ぐ繊細な文章に、
相対性理論のボーカルである
やくしまるえつこさんの朗読が重なって、
胸がドキドキ、チクチクする絵本です。

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