懐かしくないですか?
この缶。
そう、
開けると、これなんです。
ヨックモックのシガールです。
シガールをあんまり好きじゃないって話、
52年のわたしの半生では
聞いたこと無いのですけど、どうでしょう?
ちなみに‥‥
じゃないな。
もちろんのこと、
の方が、この場合は最も正確な接続詞ですよね、
わたしは、大好きです。
シガール。
というより、
好きじゃないという要素が見つかりません。
あのですね、
まず、バターの入り方が半端ないんですよね。
包装紙を開けただけで、ふわ〜っとバターが香る、
この感じ。
公式HPを見ると、
「これ以上入れると、お菓子にならない」という
ギリギリの分量までバターを増やし、
より高いコクと風味の実現を図った結果、生まれたのが
シガールだそうです。
つまり、材料の配合比はバターが最も多く、
ついで砂糖、卵、小麦粉の順になるとか。
小麦粉を最も多く配合するのが、
その頃の焼き菓子の常識だったことから考えても
全く逆の発想です。
ゾクゾクしませんか?
それまでにないモノを作ることに挑む、この感じ。
シガールが誕生したのが、1969年。
そして、ヨックモックは今年、50周年を迎えるにあたって
復刻版として以前の缶を出しているのだとか。
時代とともに缶が変わったことに気づいてなかったけれど、
店頭であの缶をひと目見たら、
あ! と懐かしさがこみ上げてきました。
裁縫道具入れとか、
集めてるカード入れとか、
ちっちゃくなったけど捨てられない消しゴム入れとかに
してませんでしたか?
この缶たち。
クッキーの缶なのに、
子どもっぽくもなく、甘い雰囲気でもなく、
どこか陰りを帯びた繊細なエッチングふうなデザインは
子ども心にも、中身のおいしさとともに
強く刻まれた記憶が。
ヨックモックが創業した50年前、
1969年といえば、日本は高度経済成長期。
大量生産、大量消費の時代、
普及していた量産型の焼き菓子は、
安価で日持ちのするマーガリンや
ショートニングを使ったものが中心、
しかも物流段階で壊れないよう、
しっかり焼き上げたものが主流だった中で、
バターをたっぷり使った繊細な菓子を量産することは、
菓子業界の常識を覆す挑戦だったとか。
確かに、バターをたくさん入れると
ホロホロとまとまりにくく、壊れやすく、
イギリスのショートブレッドみたいに
どっしり、しっかりしたビスケットに仕上げれば
バターの風味を活かしやすいけれど、
サクサクの薄い生地では相当に難しそう、
いや、けっこう無理な感じが伝わってきます。
結果として
どうして、シガール=フランス語で“葉巻”
つまり巻き物状になったのか。
ここに、突破口があったようです。
薄く焼き上げるのも至難の業なら、
それを商品として、壊さずに流通させるなんて
不可能という八方塞がりな中で、
17世紀のフランス人画家の描いた1枚の絵画が
ヒントになったとか。
(ご興味のある方は、リュバン・ボージャン
『巻き菓子のある静物』
ルーブル美術館所蔵で調べてみていただければ。)
ギリギリ薄く焼いたバターたっぷりのクッキーを
くるくると巻いたら、強度が担保されるじゃないか!
ってことだったんですね。
かくして誕生したシガール。
50年愛されるって、すごいことですよね。
いつだったか、母に言われたことがありました。
「20人の人に愛されることはできるかもしれないけれど」
(→いや、普通、無理です。と心の中で返しました。)
「でもね、ひとりの人に20年愛されることは、
とても難しいのよ」と。
(→‥‥そんなこと10代のひとり娘に言われても、
としか思えませんでした。)
50周年の、小さなノベルティーも付いてました。
シガールのマグネットと、
シガールのタオルハンカチ。
マグネットはシガールのまま貼れますけど、
ハンカチを普通に開いてしまうと、
シガールなのか何なのか、よくわからない
丸い小さなベージュのタオルなわけで。
そこらへんも、何だか可愛い感じです。
これからも、きっと愛され続けるのでしょうね。
愛情をこめて焼き上げられるシガールなど、
ヨックモックの菓子の数々。
ちなにに、ヨックモックというのは
スウェーデンにある町の名前だそうです。
ストックホルムから北へ約800km、
北極圏の線上にある森と湖に囲まれた小さな町JOKK MOKK。
北欧の厳しい自然とは対照的に、
扉を開けた家庭の食卓にはホームメイドの菓子が並び、
手作りの温かさが溢れる土地柄とか。
豪華ではなくても、心のこもった手作りのおいしさこそ
洋菓子の真髄と、その町の綴りを日本にも馴染みやすいよう
YOKU MOKUと変えて命名したとHPにあります。
頼まれたわけでもないのに、
子どもの頃から親しんできた焼き菓子の50周年を
ささやかながら、お祝いしたいと思った今回でした。
雨の続く季節、
どうか体調には、お気をつけて。
わたなべ まり
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