いま、マシ・オカさんは
俳優以外の仕事では
どんなことをされているんですか?
いろいろな企業のアドバイザーをしたり
ベンチャーに投資したりしています。
あとコンテンツを作るのが好きなので、
自分のゲーム会社を立ち上げたりもしています。
役者は辞めないんですよね?
はい、そこは辞めないです。
ぼくの場合、役者があってはじめて
自分のブランドだと認識しているので。
個人的にも、左脳と右脳の両方を使いたいです。
この間、
厚切りジェイソン
さんに
会ったんですけど、
発想のしかたがとても近いですよね。
彼もすごくクレバーで
「日本では”おもしろい人”にすごく価値がある」
と理解して、その階段をスポーツマンのように
入り口からガーッとのぼっていってる感じでした。
もう会ってますか?
実はまだないんです。
会えそうだったときはあったのですが。
たぶんおもしろいと思いますよ。
2人が会うと、秘密会議になるんじゃない?
日本人にもアメリカ人にも言えないことを
「わかる、わかる」と話せるから(笑)。
そうですね、きっと楽しいと思います。
我々はともに日米のはざまにいるので。
マシ・オカさんがいま、
いちばん興味あることはなんですか?
いろいろありますけど、やっぱり
日本のいいところをもっと
海外に出していけたらと思っています。
そのためには日本の人たちに
アメリカの「Yes, and‥‥」という
肯定からはじまるコミュニケーションを、
日本の人たちに合うかたちで
紹介できたらと思っているんですけど。
まず相手の言ったことを「Yes」と受け止めて、
そこから話を広げていくというか。
アメリカの考え方のほうが良いとかでは別になくて、
みんながもっと自信を持ちやすくなれば
と思っています。
ああ、いいですね。
あとは、コンカツですよね。
あ、ええ‥‥コンカツ?
トンカツじゃないですよ、『婚活』(笑)。
あ、ご自分の婚活の話ですか(笑)。
自分の婚活です。
この年になると、やはりちょっと
落ち着きたいというのもあるし‥‥。
それは、興味があったほうがいいですね。
だけど、周りがみんな
よく結婚や離婚の愚痴を言うもので、
「そんなにいいものかな」と不安もあります。
結婚ってなんだかもう、いま、
「文化財のお皿」みたいになってますよね。
守ろうと思えば守れるけど、
万が一割れちゃってもおかしくない。
普通に家でご飯を盛ってもいいし、
「要らない」と言ってもいい。
ただ、すごく大事にしてる人にとっては、
見てるだけでとてもうれしいかもしれないもの。
どうして興味があるかというと、
ぼくはいま、日本人の心のままで
ハリウッドで戦ってることがけっこうあって、
それがすごく孤独な戦いなんです。
アメリカ人の仲間はそれなりにいるけど、
最前線でいっしょに戦える日本人が、ほんとにいない。
だから、奥さん。
サポートしてくれつつ、ともに戦える人が
ほしいと思ってます。
いたら、きっとうれしいですよね。
そうなんです。
ただ‥‥それは別の人でいいかも?
あらら(笑)。そうですか?
いっしょに戦うだけなら、ともだちで済むんです。
おそらく、そういう話を
しなくて済むのが家族だと思うんです。
帰ってきただけで
「戦いの話は忘れよう」と思えるのが、
家で。
ともに戦う人を求めると、離婚すると思うんです。
なるほど、そっか(笑)。
深いですね。
あと、ぼくが好きなたとえ話に
「電線にいる鳥は、なぜ落ちないんでしょう?」
っていうのがあるんですね。
ちいさいとき読んで感心したんだけど、
あそこで鳥が落ちない理由は‥‥。
なんでしょう?
「落ちても飛べるからだ」っていうんですよ。
おぉ。
人間ならそのまま落下するけど、
鳥は落ちるとか落ちないとか
考えないから落ちないんだって。
この話、ちょっといいでしょ(笑)?
いいですね。結婚も‥‥ああ、
ダメになるとかダメにならないとか
考えないほうが。
うん。だから、その考え方は
マシ・オカさんがさきほど言った
「日本人の考え方を変えたい」
とも、通じているかもしれないですね。
みんな、ほんとは飛べるのに
「落ちたら大変なことになる!」とか
力が入りすぎて、逆にバランスを崩してる。
マシ・オカさんはそういう人たちに
「心配しなくても大丈夫」とか
そういうことを伝えるのかもしれないですね。
そうですね。
ぼくは、49歳から「ほぼ日」という
チームプレーをしはじめたんですけど、
そこでわかったことがひとつあって。
うかがいたいです。
チームプレーとしての会社をやっていくにあたり
ぼくがすごく大事だなと思ったのが、
「いちばん失敗するとどうなるの?」を
考えることだったんです。
いちばん失敗したらお金がいくらなくなって、
心のダメージがどのくらいで、
どれだけ失う友達がいて、信用なくして‥‥とか。
そういういちばん最悪の事態を考えておくと
「まぁこんなもんだろうな」が見えて
のびのびできる。
つまりそれも、さっきの鳥の話と同じで、
落ちたときにどこまでかがわかると、
落ちる、落ちないとかから
自由になれるということですよね。
日本の会社は石橋を叩きすぎるけど、
逆に安全ネットを張って、思い切り渡ろうという。
すごくいいと思います。
そう、落ちたとしても大丈夫だから、って。
なにかあっても予想の範疇であれば、
「そこまで失敗できるなら、ここで走っちゃおう」とか
「もうちょっと損しよう」とか、
いろいろなことができる。
どこまで損できるかがわかってたら、
たとえば震災とかのいろいろなことを、
利益にならなくても手伝いやすくなる。
ぼくもゲーム会社を経営しているんですが、
やっぱり経営者は
みんなの人生や生活への責任があるから、
つい萎縮しかねないところがあるんですよね。
そして、いまのお話はそういう責任を守りながら、
なおかつみんなに新しいことを
「やろう、やろう」と提案できる考え方ですね。
今日、こうやって話していて思いましたけど、
マシ・オカさんは役者でありながら、
プロデューサーの視点が強くありますね。
ありがとうございます。
いろんなことを1から考えていくのが好きなんです。
役者としても、ゼロの段階から
キャラクターを作りはじめるときが、
いちばん楽しくて。
そうなんだ。
はい。そしてプロデューサーの話でいえば、
ぼくは、プロデューサーにいちばん大切なのは、
「考えの柔軟性」だと思っています。
行動するときのいちばんの邪魔になるのは
固定観念だと思ってて。
そこにみんなが凝り固まらないように、
外からの視線を保ったまま
ものごとを進めていくべきなのが、
プロデューサーだと思うんです。
ああ、まったくそうですね。
ただ、とはいえ固定観念から
あまりに自由すぎると、逆に悪くて。
箱があることで、逆に自由ができる部分も
やはりあるではないですか。
そう、範囲が決まっていることで、
のびのびできたりもしますよね。
それを作るのがやはり
素晴らしいプロデューサーなんですよ。
「ここに箱を作らなきゃいけない」とか、
その場に何が必要かを見きわめて、
判断できるのが大事。
そういうことだと思います。
マシ・オカさん、プロデューサーの話が
いちばん乗ってますね(笑)。
向いてるんだね、うれしそうだもん。
はい(笑)、好きですね。
マシ・オカさんのそういう
プロデュース論の本があったら、
読んでみたいです。
きっと、たくさん苦労もされてきてるでしょうし、
人がどうダメかも、きっといっぱい見てますよね。
たぶん
「こっちから見ると明らかに間違ってるのに
みんなそこに気づいてないよね」
とかもあるでしょうし。
そうですね。まあ、考えていたとしても、
まだまだそんな偉い立場じゃないので、
言えませんけど(笑)。
「自伝とか書かないんですか?」は
よく言われるんですけど。
自伝はよしたほうがいい、よしたほうがいい。
そうです、ぼく自身、まだ自伝を書けるところまで
ぜんぜんたどりついていないと思うんです。
ぼくはいまの自分の人生について
「毎日がスタートだ」と考えてて。
まだまだこれから、いろんな発見をしながら
新しいチャレンジをしていかなきゃいけないので。
そうですよ。むしろ、その感じで
プロデューサー論を書いたほうがいいですよ。
そうですね‥‥じゃあ、そのときは、
糸井さんに帯の言葉を
おねがいしてもよろしいでしょうか?(笑)
(笑)はい、もちろんです。
今日はたのしかったです。
こちらこそ、いろいろと勉強になりました。
ありがとうございました。
(マシ・オカさんと糸井重里の対談は、
こちらでおしまいです。
お読みいただき、ありがとうございました)
2016-7-15-FRI