サムライ闘牛士登場?!
スペインに闘牛士になりに行った男。

第2回 ワタシ、ヤリタイネ!

初めてのスペイン。
なぜか某アジア系の航空会社を利用したぼくは、
途中の乗り継ぎ便7時間待ちなどを経て、
成田空港から出発後、実に28時間以上かかって
スペインの首都マドリッドの
バラハス国際空港に到着しました。
入国審査は問題無く通過しました。

よし、とりあえず目先の目的「その1」は達成!

で、早速空港を出て市内へと向かいたいものでしたが・・
市内行きバスの乗り場が分からず、
2時間以上は
ウロウロしましたでしょうか、空港から出るのに(笑)。
もちろんガードマンみたいな人に
尋ねたりもしてみましたが・・全然ダメでしたね、これが。
スペイン語どころか英語すら怪しいぼくですから、
もう「おととい来やがれ!」みたいな。

会話集とか辞書でスペイン語の言葉を作ったりして、
それが相手に通じたとしても、
肝心の相手の言ってることが分からないんじゃ、
会話にならないし、
質問する意味もないもんなんですね!(笑)。
こうしてスペイン到着後から
「言葉の洗礼」を受けてしまったぼくでした。
なんか・・シャアシャアと書いてはおりますが、
その時のぼくにしてみりゃかなり面食らっておったものです。
「なんだこれは?
 これじゃ闘牛士どころか観光旅行すら
 出来ないんじゃないのか、この俺は!?」
みたいな。

ようやく市内行きのバスを見つけたぼくは、
マドリッド市内へと向かったのですが・・・
さてこれからどうしよう?

目先の目的「その2」はなんだっけ?
あ、
「どこかで宿を見つけ、ぐっすり眠ること。
 疲れをとること」だった。
では、どこに宿が?
28時間の長旅で疲れてるし、
一刻も早く眠りたいものだ!
ぼくはバレンシアへ行くことにしました。
バレンシアっていっても地下鉄で数分という距離じゃなく、
長距離バス乗って4時間のところにあるんですが(笑)。

やっぱ、首都は物価高そうだし、治安も悪そう。
それにさっきから眺めていると
ビルとかいっぱいで東京みたい。
なんかぼくのイメージしてた
「闘牛王国(!)」とはちょっと違うし。
やはり物価が安くて、なんかこう
「闘牛の匂い(?)」がしそうな所へ行きたいもんだ、
って漠然と考えていたぼくなんですが、
それならどうして闘牛発祥の地であり、
スペイン内でも比較的物価が安くて有名な
あのアンダルシア地方へと最初から向かわなかったのだ??
といわれそうなものですが、すいません・・。

その頃はまだスペインの事、何も知らなくて。
大体、闘牛に興味持つまでスペインという国について
何かを考えたこともなかった有り様で・・
それにマドリッドからはバレンシアの方が
アンダルシア地方より近かった、というのが
一番の理由だったのかも知れません!(笑)。

で、もちろん・・バレンシア行きの
バス・ターミナルにたどり着くまでに
何度も地下鉄を乗り間違えたり、
どのくらい時間がかかったのかは、
ご想像にお任せ致します!

ぼくはバスが出発するやいなや、
ほとんど気を失ったかのように熟睡しだしましたので、
道中のことはほとんど記憶にありません。
ただ、運転手さんか誰かに揺り起こされると、
初めて自分がバレンシアのバス・ターミナルに
到着しているのに気がつきました。

辺りはもう真っ暗で、街中は大勢の人々で溢れております。
なんか「池袋」みたいな感じだな・・・
ここもけっこうビルだらけじゃないか・・・
当然のことながらスペイン人ばっかでしたが。

「・・・俺、いったいどこにいるんだ?」

地図は持ってないし、自分がどこにいるのかも分からない。
途方に暮れたぼくは、とりあえずそばにあった
ごく普通の花壇に腰を下ろして考え始めました。

目先の目的「その2」はどこかで宿を見つけること・・
宿を見つけるにはどうすれば良い?
ここらはどうも商店街のようで・・
小奇麗なブテイックみたいのでいっぱい・・
どうも宿なんてなさそうだ。
宿というものは一般的に言って、
どこかに集中してあるもんだ(本当?)。

こうなったらタクシーでもつかまえて、
宿まで連れていってもらう他ない。
で、つかまえたタクシーの運ちゃんに
「ペンシオン・バラート!バラート!」
と連呼するのでした・・・
恥ずかしかったけど他に手だてはないし・・・
運ちゃんにしたって、でっかいバッグ持った外人が
「宿!安い!宿!安い!」ってわめいていりゃ、
「ああ、安い宿へ行きたいのね・・」って、
きっと分かってくれるはず!
分かってくれないとぼくは困る・・・。

で、幸い親切な運ちゃんに当たったぼくは、
どこかの安宿まで連れていってもらうことが出来ました。
その日最後の難関である、宿のチェックインを済ませると、
後は何も考えずに眠るだけ・・今はただ眠ろう!
明日はきっと頭もすっきりして良い考えも浮かぶはず・・

バレンシアではとくに何する訳でもなく、
旅の疲れをとった位。わずか二日間の滞在でした。
散歩の途中で発見、購入した週刊闘牛雑誌を広げると、
そこにはぼくの夢見た、
ぼくをここまで連れてきた「闘牛ワールド」が。

スペイン語なんてチンプンカンプンだけど、
数多くのファンタステイックな写真は
ぼくの胸を大いに高鳴らせてくれました。

同時に、精悍な顔つきをした
男前の若い闘牛士たちの写真をみると、
「こうしてスペイン語も分からなければ、
 宿でシャワーの
 お湯すら出せないでいるこの俺が、
 はたして彼らに敵うもんなんだろうか・・」

とぼんやり考えてもおりました。

闘牛雑誌には
闘牛開催予定表という素晴らしいものがあり、
日、場所、出場闘牛士名、出場牧場などのデータが。
スペインでは11月から3月上旬までは
闘牛のオフ・シーズンであり、
その雑誌に出ているのはほとんどが
ラテン・アメリカの闘牛予定表ばかりでした。
それでも、ほんの数日のうちに
ムルシアという県の町で闘牛があることを確認。

その後には・・アンダルシア地方の
ウエルバ県というところの町でも闘牛がある。
それではまずムルシア、その次はウエルバだ。

スペインへ入国してから10日目だったと思います。
途中ムルシア県内の町で
闘牛初見物(目先の目的その3達成!)を済ませたぼくは、
1月23日にウエルバ県ウエルバ市にやって来ました。
セビリアから乗り継いだバスで
ウエルバまで約1時間15分位。
ウエルバ市にバスが入り出すと、
なんか工事が途中で中断したみたいな建物とか、
言葉は悪いけど廃墟みたいな所を通ります。

郊外を通ってるせいもあって、
どうにも活気のない地区をバスは行きます。
「なんだ、これは?
 なんかセビリアとまるで違うぞ!
 なんか大変なところへ来てしまったなー!」
でも、途中に立派な闘牛場があるのを
見逃すぼくではありませんでした。

バス・ターミナルに着いてバスを降りた瞬間、
なんとも懐かしいような不思議な感覚が!
ムルシアのとも、セビリアの空気とも違う・・・
懐かしいも何もないんですけどね、
初めて来たんだから(笑)。

とりあえず宿を探す前に
バス・ターミナル内のカフェテリアで
ビールを一杯頼んだんですが、
お勘定がいくらか分からないぼくは、
「さあ!ビール1杯分、どうぞ受け取っておくれ!」
と言うかのように、ポケットから
ありったけの小銭を取り出すと、
ウエイトレスさんの前に広げました。

するとそのウエイトレスさんは、なんか苦笑しながらも
「なんでこんなに小銭ばっか持ってるの?笑」
みたいな事言いながら、一番小額のコインだけを
拾い集めてくれたのです、ビール一杯分。
きっとぼくがスペイン語もスペインのお金
(当時はペセタでした)の数えかたも分からなくて、
勘定の度に不足がないよう大目のお金を出していたのに
気づかれたのでしょう。

ぼくはウエルバに着いて、あっという間に
ウエルバが好きになりました。
もしかしたらこの町で「きっかけ」を
つかめるかも知れない、そんな予感がしました。

そう、目先の目的「その4」は
「闘牛関係者と知り合い、実際に練習を開始すること」。

ぼくは町中で安宿を見つけ、その夜のベッドを確保しますと、
すぐにウエルバの闘牛場へ向かいました。
もし闘牛学校があるなら、
やはり闘牛場の近くにあるものだろう・・・。

闘牛場へ着いて、闘牛場の周りを歩き出したぼくですが、
ちょうど大きな道路に面している部分の反対側あたりに
「ペーニャ・タウリーナ」なる闘牛士の絵が
看板になっているBARに出くわしました。
辞書を出して調べると、
なんと「闘牛愛好家クラブ」!

これは?
ひょっとして!?

さらにぼくの前方数メートルの所には上下スエット姿の
怪しい親父が二人、何やら立ち話をしています。
時折、いかにも外国人丸出しのぼくが気になるのか、
こちらにチラチラと視線を向けます。

きっと闘牛関係者に違いない。
どうしよう?なんて話しかけたらいいんだろう・・
思いっきり緊張しだすぼく。
ぼくはかなり人見知りする方なんです!実は!

ぼくは落ち着くため、
そして彼らと会話するために必要な
スペイン語の言葉を作るために
近くにある石造りの階段に腰掛けました。
なんか10段位で先が行き止まりになってる
変な、なんの為にあるのか良く分からない階段。

「闘牛」「学校」「日本人」「私」
「学びたい」「どこに?」「ある?」・・・

ぼくは彼らに話しかけるための言葉を
カタカナで紙に書き付けると、
覚悟を決めて彼らのそばに近づきました。

相手にしてくれないかも知れない・・・
笑われるだけかも・・・下手すりゃ殴られるかも・・・
でも話しかけないと何も始まらない・・・
「ナンパ」と同じだな、これは。

俺、苦手なんだよな、こういうこと!

人生にはここぞという時が
何度か必ずあるものといいますが、
ぼくはそれを決して大袈裟ではなく
感じまくっておりました。

ええい、ままよ!

「セニョール・・
 ココニ、ガッコウ、トウギュウ、アルネ?」


親父たち 「?」

「ヤリタイネ・・ワタシ、トウギュウ、ココ、ガッコウ!」

親父ども 「??」

ぼくは必死になって意志を伝えますが、
親父たちは黙ったままぼくを冷たく見つめるだけ・・・
これは厳しいぞ!?

負けるか!!

「ヤリタイ!ヤリタイ!
 ガッコウ、ワタシ!
 アナタ、ダレ??」


二人のうち、長身痩躯の男が笑みをみせると、
「あるよ。ここにも。彼はマエストロだ」
というようなことを言ってくれました。

もう一人の男、マエストロ(先生)と呼ばれた男は
中背でがっしりとした体付きをした50代位の男。
パンチ・パーマが
そのまま伸びちゃったみたいなヘアースタイル。
前頭部はおもいっきり禿げてるけど。
目付きはすさまじい程きつい。
彼はさっきから一言も発しない。
ただぼくを胡散臭そうに見つめるだけ。

まるで
「なんだ、この変なものは?
 なんでここにいて俺たちにからむんだ?」
とでも言うかのよう。

「ワタシ、ニホンジン、コンニチワ!」
すると長身痩躯の男は「ついてきな!」とでも
言うかのように、肩でぼくを誘うと、
マエストロと共に闘牛場の中へ入ります。

ぼくは遅れないようにしっかりと彼らの後を追う!
だってここで追い払われたら、なんか
もう二度とチャンスは
来ないような気がして・・・。


ぼくは生まれて初めて闘牛場の中に入りました。

そして、砂場の上に足を踏み入れる。
やった、スペイン到着
わずか10日目にここまで来ちゃったぞ!
きっとこの闘牛場では大勢の若者たちが闘牛士を目指して、
毎日厳しい練習を繰り広げているに違いない。

ぼくも・・・仲間入りだ。

興奮しながらもそんな風なこと考えて、砂場に入りますと、
中では本当に大勢の若者たちが!

が、なんと彼らは闘牛の練習じゃなくて
サッカーやってるじゃあないですかー、サッカー!
え? サッカーじゃなくて闘牛やってよ!

15人位の若者たちは大汗を流しながら、
ボールを追ってます・・ぼくは二人の親父たちと共に
サッカーを観ておりましたが、
壁のところには確かに闘牛道具・・
赤い布とか剣、そしてピンク色した大きなマント等が
無造作に置かれています。
どうも本日は闘牛の練習は終わったようでした。

サッカーが終わって、
若者たちは闘牛場から出ていきましたが、
そのうちの二人の若者がぼくに話しかけてきました。
確か「やあ、こんにちわ。君、誰だい?」みたいな。

「ニホンジンネ。セニョール、コンニチワ!」

「なんでここに来たんだい?君は?」

「ヤリタイネ、トウギュウ、ワタシ」

「ええ?君が??スペインにはなんで来たの?」

「トウギュウ、ヤリタイ、ワタシ、ガッコウ、ココ!」

「まさか・・闘牛やるために
 日本から来たなんて言うんじゃ・・・」


「ハイ、トウギュウ。コンニチワ!」

気が付くと、あの二人の親父たちの姿が見えません。
ああ、逃げられたあー!?

ホセとイスラエル、その二人の若者たちは
ぼくに闘牛道具を触らせてくれたり、
布の扱い方を教えてくれました。
二人は親切にもぼくを車で宿まで送ってくれると、

「今日の夕方5時にまた闘牛場へ来いよ。
 よく分かんないけど、日本人があの闘牛場で
 光の衣装(闘牛士の正装)着て
 試合出たらカッコイイぞ!」

「アリガトウ、アリガトウ、
 サヨウナラ! ユウガタ5ジネ!」


確実になにかがスタートしました・・・。


(つづく)

2003-04-25-FRI


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