マクゴニガル姉妹がやってきた。

(今日はジェイン・マクゴニガルさんが
「ほぼ日」でおこなった、講義の内容をご紹介します)

こんにちは、ジェイン・マクゴニガルです。
今日はみなさんにお会いできてうれしいです。
こちらは人々をハッピーにするコンテンツを
作っている会社だとうかがっています。
これから、わたしをハッピーにすることについて、
みなさんにお話ししたいと思います。
Amazing news! 
ちょっと驚くニュースかもしれません。

まず、世界にはいま、
1日1時間以上ゲームをしている人が、
なんと17億8千万人もいます。
すごい数です。
実はわたしは、この数字だけでも
ちょっとハッピーな気持ちになります。


(会場笑)

また、日本にはなんと、
1億100万人ものゲームをする人がいて、
さらに3人に1人のかたは
毎日かかさずゲームをしているそうです。
このこともまた、
わたしをハッピーにするニュースです。

すてきなニュースは続きます。
日本の『モンスターストライク』というゲームは、
毎日3000万分プレイされています。
これは『モンスターストライク』だけをやる
フルタイムの従業員が、87500人いるのと同じこと。
グーグルの社員数の2倍の人たちが
毎日『モンスト』に取り組んでいる‥‥
と想像してもらうと、わかりやすいでしょうか。
そして、これまでの総計では
46232年も遊ばれてきています。

次もインパクトのある数字です。
日本のゲーマーのみなさんは、
1年間に平均350時間ゲームをしているそうです。
これをフルタイムの仕事に換算すると、
2ヶ月ぶんの時間です。
つまり、2ヶ月フルタイムで働くのと
同じだけの時間を、
彼らはゲームにあてているんです。

‥‥さて。
いまお伝えしてきた事実を、
みなさんはどう考えるでしょうか。
意外ですか? 予想通り?
わたしのように、これをいいニュースだと感じる人は、
まだそんなにいないかもしれません。

だけどわたしは、こういった事実を、
ハッピーなニュースだと考えています。
なぜならわたしは人々がゲームをすることを、
非常にポジティブなことだと捉えているからです。
わたしがそう考える理由を説明する前に、
ゲームをする人たちの、
新しい呼び方を提案させてください。
「ゲーマー」ではありません。
わたしは「ゲーマー」という呼び名が
あまり好きではないんですね。
なぜなら「ゲーマー」ということばには
ネガティブなイメージがあるからです。

わたしの気に入っている呼び方が、
こちらになります。
「スーパー-エンパワード・ホープフル・
 インディビジュアルズ」
(Super-Empowoered Hopeful Individuals)。
つまり、大きな力を持ち、希望にあふれている人。


(会場笑)

しっくり来ないでしょうか。
ゲーマーたちは、怠け者?
感情の起伏が無いネガティブな人?

いえ、そんなことはありません。
実際のところ、ゲームをたのしむ人たちの
精神状態というのは、
ポジティブで、希望にあふれています。
彼らは目標達成にとても真剣に取り組んで、
困難に直面しても、まったく諦めません。
ゲームというものは、実は人々を
「スーパーエンパワード」な状態にしてくれる
ものでもあるんです。

信じられないようでしたら、
こちらの画像を見ていただくのが
いいかもしれません。
これらはまさに、ゲームをしている最中の
「スーパーエンパワード」な人々の写真です。
みんな一所懸命‥‥ゲーム中だと知らなければ、
ちょっと心配になる表情でもありますけど。


(会場笑)

こういった写真からも、
ゲームをしている人たちが
怠け者でも、ネガティブな人たちでもないことが
わかっていただけるのではないかと思います。
ゲーム中の人々というのは、ポジティブで、
目標達成への努力をいとわない人たちです。
また、自分のできた目標達成に
新鮮な気持ちを感じることのできる人たちでもあります。

そのことは、人々の脳内の
血流データからも見てとることができます。
次の写真はスタンフォード大学の研究による
「ゲームをする人の脳内画像」です。
色がついているのが、
血流の活性化している部分です。

詳しく調べると、ゲームをしている人々の脳内は、
特に2つの部分が活性化していました。

1つめは、
「モチベーションを感じる部分」です。
人は、この部分が活性化すると、
より熱心に目標達成を目指すようになります。
努力が辛くなくなり、諦めなくなります。
「もっと、もっと!」とゴールを目指します。
だからゲームをしている人たちは、
「まだやめたくない」という感情になるわけです。

活性化する2つめは
「学習能力を高める部分」です。
この部分が活性化すると、注意力が高まり、
一度により多くの情報を処理できるようになります。
失敗しても、たくさんのことを学べます。
進むにつれてだんだん難易度が高くなるようなゲームは、
特にこの部分を活性化させてくれます。

さて、ゲームをすることによってなる
「スーパーエンパワード」な脳内は、
わたしたちがなにか目標を達成したいときに、
非常に助けになる精神状態です。

そこで、わたしが興味を持っていることが
ひとつあります。
「実際にゲームをしていないときにも、
脳内を『スーパーエンパワード』な状態にできないか?」
というもので、
わたしはこれまで5年間、その研究をしてきました。

そうしてわたしが辿りついたのが
『スーパーベター』というゲームです。

『スーパーベター』は携帯ゲームや
ゲーム機を使ったゲームではありません。
「日常を、ゲームのように考えていく方法」です。
『スーパーベター』に取り組むと、実際に脳内も、
ゲームをしているときのように活性化します。

たとえば『スーパーベター』では、
日常の課題を、ゲーム内のクエストのように考えます。
たとえば、あなたのいまの目の前にある課題を
次のような考え方で取り組むと、どうでしょうか。

  1. どのクエストに挑戦するかを選びます。

  2. 自分をより賢く、より速く、より良くしてくれる
    パワーアップアイテムを集めます。

  3. 自分の障害となる敵と毎日戦って
    経験値を貯めて、レベルアップします。

  4. 助けてくれる相手を見つけ、仲間を作ります。

  5. どんどんレベルの高い敵にチャレンジして、
     驚くほどの大成功を目指します。

  6. ゲームのプレイヤーであるあなたは、
    自分の行動でいろんなことを変えることができます。

‥‥こんなふうに日常の課題をとらえると、
さまざまな目標達成がゲームのように感じられ、
どんどんたのしくなってきませんか? 
また、この考え方で取り組むと、
脳内も『スーパーエンパワード』な状態に
なるということがわかっています。

実際にわたしは以前
自分の病気のリハビリテーションを
こんなふうにゲーム化することで乗り切りました。
毎日、どんなチャレンジをするか選び、
自分を元気づけるアイテムを手に入れ、
ケリーや、家族たちに仲間になってもらい、
毎日少しずつ、レベルアップしていって‥‥。

そしてわたしは、この『スーパーベター』という
「日常をゲームのように考える」技法を、
現在、アプリとウェブサイトを通じて、
50万人以上のプレイヤーたちと試しています。
そして、どのようなテクニックがいちばんゲームを
おもしろく、そして有用にするかのデータを集めています。
その研究成果をもとに書いたのが、
わたしの『スーパーベターになろう!』という本なんですね。

たくさんの人々のデータからわかった、
目標達成を特におもしろくする方法が、
この7つです。

  1. 1.チャレンジを自分で選ぶ。

  2. 2.パワーアップアイテムを集める。

  3. 3.悪いやつらと戦う。

  4. 4.クエスト(冒険)を成し遂げる。

  5. 5.味方を作る。

  6. 6.自分の秘密の正体を持つ。

  7. 7.大勝利を目指す。

日常の課題に対してこういった
『スーパーベター』の考え方で取り組むと、
より高い目標達成がしやすくなります。
また、不安や落胆が減り、
ストレスとよりうまく付き合えるようになり、
周りの人間関係が良くなります。
また、人生の目的や意味を
しっかり感じられるようになります。

さて、最後に日本の話です。

実はわたしは世界でいちばん
『スーパーベター』の考え方が役立つ場所は、
日本ではないかと考えています。
というのも、日本には7630億円という
世界一大きなゲーム市場があります。
こんなにゲーム的な考え方の土壌ができている国は、
ほかにはないと思います。

それでは、いままで紹介してきたような
ゲーム的な考え方は、
日本においてどんなふうに役立つのでしょう?

わたしは「はたらく」という部分ではないかと
考えています。

2015年にギャラップ社がおこなった調査では、
「日本では、93パーセントもの人が、
仕事にエンゲージメントを感じられていない」
という結果が出ています。
つまり、93パーセントの人たちが
自分の仕事について、
思い切り熱中できているわけではない、という結果です。

ですが、もし仕事に
ゲーマーの思考を持ち込むことができれば
この状況を改善できるかもしれません。
というのも、ゲームのように考えていくと、
人々は、より楽観的になり、
より自分の課題や成長を楽しむようになるからです。

また別の調査では、
日本の51パーセントの人々が、
「人生の成功はたいてい、
自分のコントロールできない力で決まってしまう」
という意見に賛同していました。

ですがこれは、ゲームの考え方の真反対です。
ゲームのように考える人は
「成功できるかどうかは、
自分のスキルや能力で決まる」と考えますから。
この部分でも、ゲームの考え方が
人々に希望をつくる力になるかもしれません。

また、次のような結果もありました。
日本ではたらく人の84パーセントが、
こう感じているそうです。
「不安や鬱などといった精神的な問題により、
自分の仕事のパフォーマンスが落ちている」

これもまた、ゲームが役立ちそうな部分です。
さきほどご紹介をした
ゲームをすることで活性化する脳の2つの部分は、
まさに鬱状態のときに活動が落ちてしまう部分です。
ゲームで精神的な問題を軽減できたら、
人々のパフォーマンスはどれだけ上がるでしょう?

以上、急ぎ足の説明ではありましたが、
わたしはこんなテーマで研究をおこなっています。

毎日17億人の人がゲームをしているということ。
この事実は、困ったことでも問題でもありません。
これは実にハッピーなニュースです。
ゲーム人口のとりわけ多い日本で
ゲームがわたしたちを助けたり、
成長させたりしてくれるものということが、
多くの人々に理解してもらえたら、うれしいです。

お聞きくださって、ありがとうございました。


(拍手)

<つづきます>
2016-03-30 WED
協力: 株式会社タトル・モリエイジェンシー