「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その13 たぶんシュウカイドウ
代々木公園での道草は、これで最後になります。
実はこのひとつ前の
「カキドオシ」のお話をうかがって
取材は終了のムードになっていました。
「日もかたむいてきたんで、ぼちぼち‥‥」
と言いかけた柳生さんが、
足もとにこんな植物をみつけて‥‥みちくさの延長です。
 
柳生 ‥‥あれ? これはもしかして。
吉本 なんでしょう?
柳生 さっき「ほぼ日」さんで見せていただいた
糸井さんの文章に書いてあった、
まさしく、その植物かもしれませんよ。
吉本 というと‥‥。
柳生 まだちっちゃいんですけど、
たぶんシュウカイドウだと思います。
 
たぶんシュウカイドウ
分類/シュウカイドウ科 
   シュウカイドウ属
学名/Begonia evansiana,grandis
  開花期/晩秋
草丈/40〜80センチ
吉本 ああ、シュウカイドウ。
へえ〜、最後にその子に出会うなんて。
柳生 それか、ベゴニアですねえ。
シュウカイドウもベゴニアも、
同じ仲間なんですよ。
日本に古くからあるのがシュウカイドウ。
吉本 そうなんですか。
柳生 ああ、つぼみがついてますね。
吉本 ほんとだ。
 
柳生 これがシュウカイドウなら、
ここからすーっと伸びて、
こう、ふわふわっ、ふわふわって
花がつくんです。
いいですよー、シュウカイドウは。
吉本 ‥‥この場所、誰かが植えたみたいですね。
柳生 そうですね、
ちょっと柵でかこってあって。
いっぱい植えてます、いろいろ。
ゼラニウムとかセージとか。
吉本 ほんとだ。
柳生 ‥‥うん、そうだ、
春になったらまたここに見にきてくださいよ。
元気よく冬を越していたら、
これはシュウカイドウです。
寒さに強いから。
吉本 わかりました(笑)。
柳生 誰かが手入れをしている場所ですから、
これ、ちゃんと残ってると思いますよ。
 
吉本 ‥‥だいぶ、日がかたむきましたね。
柳生 ‥‥ねえ。
あっという間に感じるけど、ずいぶん長く。
吉本 ずいぶん長く、
みちくさしてたんですね、わたしたち(笑)。
柳生 ほんとに(笑)。
吉本 代々木公園にも、
これだけ見るものがあったなんて、
なんだか、すごく新しい感じがしました。
柳生 けっこうあるものですよね、都会にも。
吉本 教えてくれるかたがいると、
散歩のたのしさがぜんぜんちがいますね。
たくさんの名前もおぼえたし。
柳生さんがいなかったら
「いいねー、この草なんだろうねー」って、
それで終わっていました。
柳生 いえいえ、
ぼくも「たぶん」で話したりしてますし(笑)。
吉本 いつか八ケ岳のお宅にもうかがいたいです。
柳生 それはもう、ぜひ!
八ケ岳の「みちくさ」だったら、
「たぶん」をつけずに
なんでもお教えできると思います‥‥たぶん。
吉本 (笑)いつか、ぜひ。
きょうはほんとうにありがとうございました。
柳生 こちらこそ、たのしかったです。
いいですね、みちくさ。
 
こうして、代々木公園でのみちくさは
夕暮れとともに終了いたしました。
最初は雨でどうなることかと思いましたが、
しっとりとした公園でゆっくりと、
いくつかの名前をおぼえることができて、よかったです。
柳生さん、ほんとうにありがとうございました。

「たぶん」をつけつつも
 植物の名前を答えられるようになる。

それが「みちくさの名前。」の、
すこしおおげさに言えば「目的」だったりいたします。
ここまでご紹介した13のみちくさのことを、
よろしかったら読み返したりしながら、
どうぞ記憶にとどめてくださいね。

さて、季節は緑のすくない冬ですが、
この冬の間にも、
吉本由美さんとみちくさをしたいと考えています。
ですので、また近々お会いしましょう。
「代々木公園でみちくさ」編は、これにて終了です。
 
吉本由美さんの「シュウカイドウ」
 

聞いただけでは不思議な名前と思う。
覚えにくい。
漢字で書くと秋海棠。
こっちもなかなか覚えにくい。
この音と書体から、どういう形態の植物で、
どういう花が咲くのかを言い当てられる人は希だろう。
代々木公園で見たのは
畑に植えられたばかりの小さいものだった。
この畑である程度まで育てて森に植え替えるのだろうか。
あるいはこれは花壇で鑑賞するための植物なのか。
チビでしおれた感じがするが、
赤みがかった葉軸と葉脈が可愛らしい。
柳生さんが何やら一生懸命このチビの応援演説をする。
好みのタイプみたいである。
「ベゴニア(の一種)なんだけど‥‥
 でもこれはいいです!」
と言い放ったときの‥‥が意味深だ。

ま、とにかくシュウカイドウ。
甲州街道と言い間違えそうで怖い。
知ったかぶりしてそう口走ったらどうしよう。
それを避けるには正体を知るのが意の一番と、
家に帰って持っている植物図鑑をぜんぶ開いた。

あ、やっぱり赤い花が付くのだ。
うんうん、柳生さんの演説通り
ベゴニアよりずっといい感じ。
赤いといってもベゴニアの中年女のくどさみたいな
深紅じゃなくて薄桃色だもの。
雄は精一杯花弁を開いて黄色いポンポンみたいの付けて、
雌はその横で花弁を閉じて貝のようになっている。
いじらしい。
同株に雄雌一緒の暮らしなのである。
それがたくさん枝垂れ気味に
咲いているのはとてもきれいだ。
どんどん本物を見たくなってきた。
秋にカイドウに似た花が咲くことからこの名が付いた、
と書かれているから、花見は一年待ちなのだ。
では、まずは、今度の春、
代々木公園のあのチビが冬を越えられたか確かめに行こう。

2008-12-31-TUE
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