「のがわでみちくさ」編 今回の先生/梅田彰さん
名前その33 タケニグサ
先ほどの雨に洗われたのでしょうか、
川辺の空気は最初にここに着いたときよりも、
いくらか澄んでいるような気がします。

すこし歩くと、にぎやかな声が聞こえてきました。

吉本 ちいさい子たちが。
梅田 ああ‥‥
こういう川遊びができるっていうのは、
しあわせなことですよねえ。
吉本 夢中でつかまえようとしてます。
ザリガニかな?
梅田 ええ、課外授業でしょうかね。
指導者のような人もついていますし。
吉本 たのしそう(笑)。

(ちいさい男の子が走ってくる)
梅田 こんにちは。
男の子 (立ち止まり)こんにちは。
梅田 何かとれた?
男の子 えー、なんにもとれない。
吉本 とれなかったの?
男の子 アメンボウをとろうとしてた。
吉本 アメンボウ?
梅田 ほかに何がいるの?
男の子 ザリガニとか。
梅田 ザリガニね。
男の子 さっき、とったんだけど、
いなくなっちゃったんだ。
梅田 逃げられちゃった?(笑)
男の子 だから、あっちにとりにいくんだ。
(走り去る)
吉本 夢中ですね(笑)。
梅田 夢中です(笑)。
‥‥あ、吉本さん、
次はこれ、いきましょうか。
吉本 それ、ですか。
梅田 これはタケニグサといいます。
吉本 タケニグサ。
梅田 はい。
大きくなるんですよ、これ。
2メートルくらいになるかな。
吉本 すごい大きなみちくさ(笑)。
梅田 日本ではまあ、雑草と言われてますが、
これがイングリッシュガーデンでは
非常に大事な植物とされているんです。
吉本 ガーデニングの世界では、
雑草じゃないんですか。
梅田 はい、イングリッシュガーデンでは。
吉本 なぜ、イングリッシュガーデンでは
これが大事なんですか?
梅田 この形とか、大きさとか、白っぽい色なんかが、
シルバーリーフプラント(銀葉植物)が好きな
彼らの好みに合っているからでしょうね。
吉本 そうなんだあ。
梅田 タケニグサは、ケシの仲間なんですよ。
吉本 ケシ。
梅田 こうやって茎を折るとですね‥‥(折る)。
吉本 はい。
梅田 黄色い汁が出てくるんですよ‥‥。
ほら。
吉本 あ、ほんとだ。
梅田 これ、毒なんです。
吉本 毒?!
梅田 私が小学生のころに、
「この汁を足に塗ると早く走れる」
っていうウワサがありましてね。
吉本 塗ったんですか?
梅田 ええ、運動会のときに、
自分のスネにこれを塗ったんですよ。
吉本 あらら。
梅田 子どものころ、私は足が非常に速くて、
学年で1〜2位の成績だったものですから、
6年生の運動会の紅白リレーで
アンカーに選ばれたんです。
吉本 それは頑張らないと。
梅田 はい。
それで昼休みの食事時間にひとっ走りして、
友だちから教えられたタケニグサを刈り集めて、
この黄色い汁を、
スネにたっぷりと塗ったんです。
吉本 ‥‥大丈夫だったんですか?
梅田 だめでした(笑)。
いざ走ってみると足が重くて、
自分の足じゃないような感覚で、
かかとをつけてぺたぺたと
走らなければならない状態になって‥‥。
けっきょく負けてしまいました。
吉本 タケニグサのせいで。
梅田 当時、私も「タケニグサのせいだ」って
言ったんですが、
誰も信じてくれなかったです。
吉本 うーん、危なかったですね。
梅田 そうですね、危険です。
ケシの仲間といったら、
だいたい毒を持ってますから。
吉本 足に塗ったりしちゃだめです。
梅田 はい(笑)。
ぜったいに真似をしないでください。
吉本 そうかあ、これ、ケシの仲間なんだ‥‥。
梅田 子どもって、いろんなことをしますよね。
吉本 ほんとにね。
梅田 ん?
あ、ほら吉本さん、そこに。
吉本 ああ‥‥(拾う)。
梅田 かんむりをつくる途中だったのかな(笑)。
吉本 シロツメクサ。
なつかしいなあ‥‥。

最後に、申し上げておきましょう。
タケニグサの汁を足に塗ってはいけません。
毒なので、触らないほうがいいです。

タケニグサ、覚えました?

次の「みちくさ」は、火曜日に。
「のがわでみちくさ」編は、
火曜日と金曜日の更新でお届けしています。


ご紹介したみちくさについての 感想やご指摘など、お待ちしています!

 

吉本由美さんの「タケニグサ」
 
梅田さんが「大雑草」と指差したところは
ちょっと不思議。
しっとり湿った野辺の中でそこだけに、
地の果ての、ざらっと乾いた荒野の気配が漂っているのだ。
茎に葉に密生している白い細毛が
粉を吹いたように
地色を色褪せて見せていて、
それが気怠い雰囲気や
白塗りの男優みたいな
退廃ムードを醸しだしているのかも知れない。
なんて、私の勝手な思い入れだけれど、
青ざめて佇む人のようなこの感じ、嫌いではない。
深い切れ込みの葉を触ってみるとふかふかしていた。
セージの手触りによく似ている。
これ、気持ち良いです、と喜んで触っていると、
汁は毒だと言われてびっくりし、
梅田さんの子供の頃の体験談を聞いて、
もいちど念入りにびっくりした。
茎や葉から黄色い汁が出るというのも不気味だけれど、
それをスネに塗って走る子供というのも、ねえ。
なかなか野生の少年、だったんですねえ。
和名は、竹似草、
竹煮草(竹と一緒に煮ると竹が柔らかくなるから)、
別名、アカチンキ(!)、ウラジロ、など。

「イングリッシュ・ガーデンには大事な植物」と聞いて、
英国を代表するプランツ・ウーマン、
ベス・チャトーの、
美しく荒々しく哲学的な庭の影像で探してみた。
ちらっとだけれど「これか」と思わせる
白っぽい緑色の集団が
魅力たっぷりに顔を見せていた。
アジアの植物でありながら
イングリッシュ・ガーデンの方に似合う。
大事な選手をイングランドに持って行かれた
日本サッカー協会の気持ちを考えた。
2009-09-04-FRI
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN