「のがわでみちくさ」編 今回の先生/梅田彰さん
番外編 どうぶつの名前。 〜吉本由美さんの新刊をご紹介〜
ほぼにちわ。
「みちくさの名前。」を担当しています、山下です。
今回は番外編というかたちで、
吉本由美さんの最新刊のご案内をいたします。

そのおしらせが届いたのは、夏の終わりのことでした。
新潮社の『旅』という雑誌で連載された、
吉本さんのエッセイが本になるというおしらせです。
タイトルは、
『キミに会いたい 動物園と水族館をめぐる旅 』。
新潮社のご担当者から送られてきた、表紙の画像がこちら。



まだ中身を読んでいないのに、
これはもう、ぜったいにすてきな一冊に違いない。
そう確信し、吉本さんにお電話をしたのでした。

「もしもし吉本さん、出版おめでとうございます」
「え? あ、そういえばお話ししてなかったですね。
 そうなんです、本になったんですよ」
「はい、ぜひご紹介をさせていただき‥‥」
「そうだ、それよりも!
 ちょうどいいところにお電話いただいたわ。
 あしたね、上野動物園に行くんです」
「‥‥あした? 上野動物園ですか」
「とくべつに開園前に入園させてもらえるんです。
 せっかくだから、いっしょにいかがです?」

急きょ、吉本由美さんといっしょに
朝の上野動物園に出かけることになりました。
そのときの様子をお伝えさせていただきます。
果たしてこれが新刊のご紹介になるのか、
ちょっと心配ではありますが、
「みちくさの名前。」ではなくて
「どうぶつの名前。」、お楽しみいただけると幸いです。

午前7時45分、上野動物園の正門前で
吉本さんと待ち合わせました。



約束の時間よりも早く来ていた吉本由美さん。
── おはようございまーす。
吉本 おはようございます。
天気がよくて、よかったですね。
── はい。今日はよろしくお願いします。
上野動物園って、
ふつうは9時半に開園なんですよね。
吉本 そうですね、9時半。
── どうして今日は、
こんなに早く入れるんですか?
吉本 私、動物園サポーターなんです。
── 動物園サポーター。
吉本 動物園を運営していくのって大変でしょ?
だから一般の人たちがサポーターになって、
寄付をするんですよ。
それで設備を良くしたり動物のごはんを買ったり。
── なるほど、その特典として‥‥。
吉本 そう、「サポーターズデイ」という日があって、
開園前に入園できたりするんです。
── それがたまたま今日だったと。
サポーターになるのには、何か資格が?
吉本 誰でもなれるはずですよ。
ひとくち、大人は年間1万円から。
── へえー、そういうシステムがあったんですね。
吉本 サポーターになる動物を
指定することもできるんです。
私はコビトカバのサポーター。
── コビトカバ。
吉本 だから今日はまず、カバのところに行きます。
── はい。
吉本 そのあと「アイアイの森」に行って、
ホッキョクグマを見て、
トラとゴリラを見て‥‥
今日はそれくらいかな。
── え、それだけですか?
吉本 ポイントを絞った方がいいんです。
ぜんぶ見ようと思っても疲れちゃうの。
── どの子に会いに行くかを
ちゃんと決めておくんですね。
吉本 そう、欲張らないで。
── わかりました。
で、吉本さん、
今日は吉本さんの新刊のお話も
うかがいたいのですが‥‥
吉本 あ、受付がはじまりました、行きましょう。
と、受付に駆け寄る吉本さん。
新刊のお話は
歩きながらぼちぼちうかがっていくことにしましょう。

吉本さんのプラン通り、
まずは上野動物園の西園の、カバコーナーを目指します。



不忍池を眺めながら、足取りも軽くカバコーナーへ。

吉本さんいわく、朝の動物はとても元気がいいのだとか。
とくにカバは、プールの水もきれいだし、
きらきらと瑞々しく、たいへん美しいのだそうです。

「カバが瑞々しい」とはどういうことだろう?
と思いながらカバコーナーへたどりついてみたら‥‥。
今まさにフェンスが開けられ、
カバが寝床からゆったりと出てくる場面。
‥‥たしかに、瑞々しい!



のっしのっしと、2頭のカバが朝の光を浴びながら登場。
── すごい迫力です。
吉本 ねえ、すごいよねえ。
2トンから2トン半くらいあるんですって。
── 朝ごはんを食べはじめました。

わっしわっしと朝ごはんを食べる2頭。
── ‥‥こんなにはっきりと、
カバを見たのは生まれて初めてです。
吉本 朝のカバはきれいでしょう?
── はい。
‥‥ですが、これはカバで、
コビトカバではないですよね?
吉本さんがサポートしているコビトカバは?
吉本 こっちです、すぐとなり。
ええと‥‥あ、いたいた!

── ‥‥奥の方でごはんを食べています。
吉本 小梅ー。
── 小梅っていう名前なんですか?
吉本 そう、たぶんあの子が小梅。
あー、見て、ほら、
木漏れ日がおしりにあたって、
ボーリングの玉みたい(笑)。

── ほんとだー(笑)。
吉本 すみません(係の人に声をかける)、
あの子は小梅ですよね?
係の人 そうです、小梅です。
吉本 やっぱり。
大きくなりましたよね。
係の人 3才になります。
‥‥小梅のサポーターの方ですか?
吉本 はい。
生まれたばっかりのころに見て、
こーんなに、もう、うさぎくらいの大きさで、
呼ぶとちょこちょこやって来て、
すごくかわいかったんです。
ぜったいに親戚のおばさんになろうと思って、
サポーターになりました。
係の人 そうでしたか(笑)、ありがとうございます。

係の人に質問を続ける吉本さん。


小梅ちゃんは一心不乱に食事中。

吉本さんにズバリ、聞いてみました。
コビトカバのかわいいところは?

吉本 うーん‥‥
水ようかんみたいなところ。


水ようかん?!
‥‥ああ、でもたしかに、
朝の瑞々しいカバは、
小倉あんの水ようかんのようです。

しばし無言で小梅ちゃんの食事風景を眺めていましたら、
となりの方から「じゃば」という水の音が。



食事を終えたカバが2トンの巨体をプールに沈めていきます。


じゃば、じゃば、じゃば‥‥。


「ぷっしゅはああああーーー!」
吉本 気持ちよさそうだねえ。
── お父さんがおふろにつかったみたいです。
吉本 ほんと(笑)。
── いちばん風呂です。
吉本 そうだね、きれいな水だから、
いちばん風呂(笑)。
どれくらいの時間、カバを眺めていたでしょう。
ときどき「いくら見ても飽きませんね」
などと言いながら‥‥。
しばらくして、吉本さんが言いました。
「じゃあ、次に行きましょうか」

プラン通り、「アイアイの森」へ向かいました。
「アイアイの森」というのは、
夜行性のサル・アイアイを
昼間に観察できるように作られた施設です。
中は薄暗く、フラッシュ撮影は禁止。
肉眼ではちゃんと見えたかわいいアイアイでしたが、
当日のカメラではこれが精一杯でした‥‥。



アイアイの、しかも後ろ姿‥‥。

気を取り直して次のプラン、
ホッキョクグマを見に行きましょう!
‥‥しかし、それにしても吉本さん、
動物園っていうのは、これ、けっこう足腰にきますね。

吉本 山の上にある大きな動物園だと、
もっとクタクタになるんですよ。
上野動物園はまだラクなほう。
── そうですかあ‥‥。
新刊におさめられている
動物園や水族館はぜんぶでいくつなんですか?
吉本 たしか、24施設くらい。
── そんなに。
吉本 でも連載は続いていて、
本に載っている施設のあとにも
7カ所行ってるから。
── そうですか‥‥。
じゃああの本には、
そういう場所での思い出が
吉本さんのエッセイになってぎっしりと。
吉本 そうですね。
あ、すみません(立ち止まる)、
ちょっといいですか?
── なんでしょう?
吉本 この子の名前は「ハス」です。

不忍池にて。
── え? ‥‥ああ、はいはい(笑)、
「みちくさ」ですね。
吉本 そうそう、プチ・みちくさ(笑)。
ハス、覚えました?
── はい(笑)。
やがて、ホッキョクグマのいる場所に到着。
ホッキョクグマは、吉本さんがいちばんたくさん
写真を撮っている動物なのだそうです。



うっとり見つめる吉本さん。


見るほどに、美しい動物であることがわかってきました。

次のプランは、ええと、何でしたっけ‥‥。
と考えている間にも吉本さんはどんどん進み、
こんな状態でスタンバイしています。



ここにいるのは‥‥?


トラです! これも美しい!!


ガラス越し、こんなに近くまで!

トラの美しさもたっぷりと堪能して、
この日「最終プラン」のどうぶつに会いに行きます。



どんどん歩いて会いにゆくのは‥‥。


ゴリラです。近くに来るのを待つこと約10分。


ついに!!
吉本 来たよ、来た!!
── うわあああー。
吉本 かっこいいー!
あ、ゴロンと横になった!

圧倒的な風格! たたかっても勝てないと思いました。
吉本 すごーい、手がおっきい!
ものすごい胸板!!
すごいねえ‥‥ゴリラ、すごいよお‥‥。
ゴリラが近くに来てくれたところで、
ごめんなさい、吉本さん、
次の約束に向かう時間になってしまいました。

新刊の内容について、
あまりくわしくうかがえませんでしたけれど、
きっと今日の吉本さんのたのしそうな様子が
おさめられているような、そんな一冊なのでしょう。
ご一緒させていただいて、よくわかりました。


せっかくなので本と一緒に。

「もうすこし他の動物も見ていきます」
と言う吉本さんに別れを告げ、上野動物園を後にしました。

そうして歩きながら、新刊の帯の裏に、
こんな文章が載せられていることに気づきました。



つくづく、光栄な体験だったと思いました。
動物園での吉本さんは、
ほんとにすてきに面白かったです。
ぜひ、この本を読んでみてください。


『キミに会いたい 動物園と水族館をめぐる旅 』
新潮社/1260円(税込)
Amazonでの購入はこちらから。

〈動物園サポーター制度〉
詳細は上野動物園公式サイト内の、
「動物園サポーター」をご覧ください。

(番外編、終わります)

 
2009-10-08-THU
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN