糸井 |
この展覧会のために、 けっこう長く三重に行かれてますよね。 |
大橋 |
制作しなくちゃいけなかったりするので、 今、アパートを借りてるんです。 |
糸井 |
そうそう、アパートを。 |
大橋 |
そのアパートが海のそばなんですね。 すぐ近くがそのまま海なんです。 すごくいいな、 与論島よりここのほうが いいんじゃないかなって ちょっと思うんですけど。 |
糸井 |
山あり海ありみたいな、 食べ物のおいしい場所でしょう? |
大橋 |
そうですね。 |
糸井 |
慣れてる土地ですし、 大橋さんはいずれ三重に住むんじゃないかって ぼくは勝手に想像したんですよ。 |
大橋 |
一瞬、私も三重でもいいかと思ったんですね。 でも、なんか‥‥ |
糸井 |
夫が何と言うか(笑)。 |
大橋 |
ええ(笑)。 |
糸井 |
優しくされますよ、地元だからきっと。 |
大橋 |
そうかもしれないですね。 |
糸井 |
三重県が嫌になって 喧嘩して別れたわけじゃないでしょう? |
大橋 |
え? はい、もちろん。 |
糸井 |
ぼくは地元で何かをやるって なかなか考えられないから、 大橋さんの三重のそれは いいなあと思って。 |
大橋 |
でも私も今まで、 三重県で何かやるとは思ってなかったんです。 |
糸井 |
あ、そうですか。 |
大橋 |
三重県からのお仕事は、 何となくお受けできなかったんです。 |
糸井 |
それはぼくもそうですね。 でも今回の、この展覧会の話は、 なんか静かにおさまった感じがして、 すごくうらやましいんです。 |
大橋 |
それは多分、年が来て‥‥。 |
糸井 |
鮭が川を戻るじゃないですか。 |
大橋 |
はい(笑)、そういうことですかね。 |
糸井 |
鮭、ボロボロになってでも戻りますからね。 |
大橋 |
そうですねえ。 |
糸井 |
自分にもそういう時期が 来るのかなあとかってね。 |
大橋 |
すごいことです、今回のことは。 |
糸井 |
すごいことですね。 |
大橋 |
私はイラストレーターですから、 まさか美術館がやってくださるとは 思ってもいなかったし。 だから、最初お話をいただいたときに、 「え?」って思ったんです。 「私じゃないでしょう」って。 でも、学芸員の方が銀座の展示を見てくださって、 三重県でこういう形もいいと 思ってくださったらしくて。 今の学芸員の方たちは若いから、 大丈夫だと思われたんでしょうね。 私としては、 「えー、これはちょっと箱が大きすぎるかな」 って気はあったんです。 でも、 「いや、させてもらえるってことはこれ、 やっぱり三重県だからだわと」思って。 出身地だからお声がかかったんだなと思うと、 ありがたくなって。 それって年齢ですよね。 |
糸井 |
年齢と、それから、 何ていうか‥‥。 素直な気持ちで 頼まれている感じがしますよね。 |
大橋 |
ああ、はい、そうです。 |
糸井 |
たとえばの話、 政治家だったり市役所だったりする人が、 「大橋歩っていうのが 三重県出身の有名人だから頼みにいこう」 というケースもありますよね。 でも、今回のこれはそうじゃない。 三重県の美術館があって、 そこから大橋さんに いまのタイミングでかかる声には、 「うちでやってくれないかなあ」 という素直な気持ちが見えるんですよ。 それがすごくきれいにおさまってる気がして、 ああ、いいなあ、と。 |
大橋 |
そうやって言ってくださるとうれしいです。 |
糸井 |
ぼくもだから、 それに便乗して行こうと思って、 声をかけてもらったときに 「おれもうらやましいから行こう」と。 (※11月28日に三重県立美術館で、 大橋さんと糸井のトークイベントがあります。 現在、事前のお申し込みは締め切りました) |
大橋 |
ありがとうございます(笑)。 |
糸井 |
大橋さんのホームページとかを見てると、 三重県の電車の風景があったりして、 なんかこう、少女の日記みたいです。 |
大橋 |
わあ(笑)。 |
糸井 |
制作に通っているって話が 書いてあるんですけど、 なんか女子学生みたいですよ、大橋さん。 |
大橋 |
そうですか?(笑) |
糸井 |
大橋さんがふるさとに戻ってくる という流れを感じたのは、 それを見たからかもしれないですね。 |
大橋 |
制作に通いながら、 すごい不思議というか、ありがたいというか。 そういう気持ちはあるんですけど、 まだなんとなく実感がもててないんです。 |
糸井 |
うん、実際にものが並ぶまでは、 実感はもちにくいでしょうね。 |
大橋 |
そう。 ですからそれに向かって必死で今、 間に合うように頑張っています。 |
糸井 |
いやあ、いいですよねえ。 なんだろう‥‥ 根本的に天涯孤独だと思うんですよ、人って。 セットのご夫婦ってこともあるんだけど、 でもセットで天涯孤独かもしれないし。 広ーいところにポツンといる感じっていうか、 落ち着く場所っていうのを 年を重ねるとやっぱり考えますよね。 「根はどこに生えてるんだっけ?」みたいな。 今のぼくには添え木がいっぱいあって、 一緒にはたらいてる添え木が若木だから、 「一緒に生えようじゃないか!」 ってことでごまかしてるけど、 でも、しょせんはやっぱり天涯孤独ですから。 その時になって自分はどこにいるんだろう って考えると、 今までの詩人やら小説家やら 歴史の人物がみんな、 ふらふらと故郷に戻っていくのを思い出すんです。 |
大橋 |
なるほど。 |
糸井 |
それは人との関係じゃなくて、 場所じゃないかと思うんですよ。 ぼくもひょっとしたら、 さっきの鮭の話みたいなね、 そんな気分になるかもしれないですねえ。 でも‥‥もしかしたら、 故郷じゃなくてもいいのかもしれない。 とにかく、もう動きたくないっていう場所に 風に吹かれてポンとおさまるんじゃないかな? っていうのはありますねえ。 |
大橋 |
そうですか。 |
糸井 |
その時に、 「海が見えるんだよね」 というようなことを言うんでしょうね。 なんでそんなに海が見たいんですかって 他人には聞こえるかもしれない。 でも「海が見えるんだよね」って言葉は すぐ出てきちゃうじゃないですか。 |
大橋 |
そうなの。 どうしたんでしょう、本当に(笑)。 |
糸井 |
鮭現象なんでしょうね(笑)。 とにかくそこに行ってみれば、 見えてくるものがまたあるかもしれないとか。 そういう気持ちがあるんですよ。 |
大橋 |
そうですね、それはわかんないですから。 |
糸井 |
うん。 で、「またアルネを出すことになったの」 とかね(笑)。 |
大橋 |
(笑) |
糸井 |
いやあ、何に目覚めるかわかんないですよ。 |
大橋 |
わかんないですね。 |
(つづきます) |
|
2009-11-15-SUN |