その2 「あ、できた!」という瞬間。
糸井 「飽きないですか?」って、
はなからそういう言い方は変ですけれど、
‥‥飽きないですか?
皆川 飽きないですね。
多分、糸井さんが、
「『ほぼ日』(手帳)は、
 ちょっとずつ変わっていって」
とおっしゃっていたように、
意外ときりなく発見がありますよね。
だから、意外と自分の人生の持ち時間では
飽きずにやれるかなぁなんて思うんですよね。
糸井 頼まれ仕事じゃないことをやっていくおもしろさ?
皆川 そうですね。
それはありますね。
どんなふうに受け取ってもらえるかなぁとか。

頼まれてやると、
出来上がりが頼んだ方の思い通りに、
って感じですけど、
「喜んでくれるかな?」って作るのは、
すごく楽しいなと思います。
糸井 皆川さんのお作りになるもの、
例えば、今年のこの絵でも、
(sonataシリーズ)
元の絵っていうのは、
ササッと、指で描いてるような。
皆川 これは指で描いてるんです。
絵の具を指に付けて、
全部人差し指で描いてるんですけどね。
糸井 指で描いた、その1輪の花を
重ねていってるわけですよね。
皆川 はい。
糸井 もしこれが、なんだか偉そうな人から
「皆川君、お願いね」って頼まれて、
指で描いてるところを見られたら‥‥。
重ねていくつも描いてるのかと思ったら、
1つの絵を重ねていた、みたいなのを見てたら、
「なんかずいぶん君は僕の仕事を簡単にやってる」と。
僕なんかも、よく言われたことがあるんですけどね、
コピー1行の話ですから。
皆川 (笑)
糸井 夜中に眠れないでウンウン腕組みして、
それこそ血反吐を吐くようにしてやった仕事だけが
認められるみたいな、
そういうことが頼まれ仕事だとあるんですけど、
自分が「OK!」っていう仕事は
どんなふうにしてもいいわけですよね。
皆川 そうですね。なんかこれも
土いじりするみたいに、
やっぱり楽しく。
糸井 苦労の跡が見えない楽しさっていうのは、
やっぱり自分の仕事ならではですよね。
皆川 そうかもしれないですね。
糸井 去年もお花が中心だったですけど、
今年もお花で。
もう1個、これ(meets)はね、
皆川さんの指定が、ある意味むずかしくてね、
けっこう、試作の段階で
じたばたしたものなんですけど。
 
皆川 そうでしたね。
糸井 僕が手に触れてる無地の場所が──。
皆川 リネンですね。
糸井 多分これ、使っていくと、
自分の癖がついていって、
軽い弛みだとか汚れだとか、
ついてきますよね。
皆川 そうですね。このざっくりしたリネンの
「ほぼ日」さんのカバーっていうのを、
作ってみたいなっていうのがもともとあって。
じゃあ、それに合う加工は
どんなのかなぁと思った時に、
相良刺繍って、
タオルのパイルのように刺してある
刺繍をえらびました。
それで花と蝶々が
出会ってる瞬間っていうところで
「meets」という名前にしたんです。
糸井 これ、蝶々なんですけど、
あるとないじゃまた大違いなんですよね。
この微妙なところで、
皆川さんがどこかでひとり
ジャッジしてる感じっていうのが、
多分僕らにも通じて、
苦労じゃなくて楽しみがこう、
共感できるっていうか。
皆川 はい。
糸井 皆川さんのやってる仕事って、僕は、
「あ、できた!」って言ってる皆川さんが
見えるようになった、最近。
皆川 そう、僕はできあがると、
会社の中でみんなに、
「新しいのができた!」
って言って見せたくなるんです。
糸井 あ、やっぱり!
皆川 はい(笑)。
糸井 理屈で言う答えっていうのは
いくらでも言えるんですけど、
そうは言っても本当に
「できた!」って言える時って、
なかなかやってこないわけで。
皆川 そうですね。
糸井 できた時はうれしいですよね。
皆川 うれしいですね。

(つづきます)

2011-11-04-FRI

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