- ──
- 遊び‥‥という言い方で、
森山さんが、
表現しようとしている感覚について、
もう少し教えてください。
- 森山
- んー、原田芳雄さんの自伝に、
「真面目に、遊ぶ」という言葉があって、
それに近いのかなと思います。
つまり、ただストイックになって、
周囲をピリピリさせてしまうというのは、
やっぱり、ダメだと思うんですよ。
- ──
- 余裕‥‥みたいなことですか。
- 森山
- いろいろ言えるとは思いますが、
やっぱり、
「まわりに伝わったらいいもの」
かなあと思います。
- ──
- なるほど。
- 森山
- たとえば、役者なら役者それぞれに、
生のリズムがちがいますよね。
自分のリズムだけで
世の中が回ってないことは明らかで、
自分とまったく別のリズムの人間が
目の前に現れたとき、
それこそ「どう遊べるか」というか。
- ──
- リズム。
- 森山
- ぼく、自分自身は
オンビートな人間だと思うんですが、
世間には、
オフビートの人もいるし、
複雑な変拍子で生きている人もいて。
- ──
- ええ、ええ。
- 森山
- そのちがいを受け止めるとか、
楽しむようなことかな、ひとつには。
はじめて大人計画とやったときって、
このオフビート集団と
どう関っていけばいいのか‥‥
全然わからなかったんですよ(笑)。
- ──
- そうなんですか(笑)。
- 森山
- 阿部(サダヲ)さんなんかにしても、
オンでいこうと思えば
当然やれますけど、
本来はオフな人なんだと思うんです。
や、この言い方すげえ抽象的だけど、
大丈夫かな(笑)。
- ──
- いや、わかります。
ある意味で、オフビートな感じって、
都会的というか、
洗練されているとも表現できそうな。
- 森山
- ぼく自身、そういうオフの人たちと
どう関わったらいいのか
よくわからなかったから、
はじめは、すごく戸惑ってたんです。
いや、戸惑ってたどころじゃないな。
拒否感すらあったくらい。
- ──
- へええ‥‥。
- 森山
- でも、いっしょにやるうちに、
向こうとこっちのリズムのちがいが、
だんだん楽しくなっていって。
楽しめるようになった‥‥んですね。
- ──
- 遊べるように、なった。
- 森山
- そう‥‥すごくショッキングな経験、
というわけでもないんだけど、
自分と異質な存在も、
拒否せず、受け入れて、遊べばいい。
大人計画の人たちとの出会いは、
そういう意味で、
自分でも大きかったなあと思います。
- ──
- いま、別の仕事で、
柄本明さんと藤原竜也さんの舞台の
制作過程を取材してるんです。
- 森山
- へぇ。
- ──
- 以前、柄本さんに取材したとき、
「役者というのは台詞を言うだけの人」
だと言っていたんです。
でも、同時に
「だけど、言ってごらんなさいよ台詞。
言えないから」ともおっしゃっていて。
- 森山
- うん、うん。
- ──
- 今日、初稽古を見学してきたんですね。
そしたら演出も担っている柄本さんが、
本当に一言一句たしかめながら、
物語を進めているのを、目撃しまして。
- 森山
- ああ‥‥。
- ──
- 舞台というものは、
ここまで言葉というものを大切にして、
それと必死で向き合いながら、
でも、ある瞬間には、
まったく素っ気なく扱っているような、
そんな感じもあったり。
- 森山
- なるほど。
- ──
- 森山さんは、どう、考えていますか。
言葉というものについて。
何でもいいんですけど、
身体との対比ですとか‥‥たとえば。
- 森山
- ぼくは、広い意味での「言語」には、
言葉だけではなく、
身体や音楽が含まれると思う。
- ──
- ああ‥‥言語の下位概念のひとつが、
言葉である、と。
それに‥‥身体と音楽?
- 森山
- 3つが、ぜんぶ、「言語」なんです。
ぼくにとっては、
コミュニケーションをとるための。
それぞれ、かたちや伝わり方、
伝えたいものが伝わる深さや濃さは、
それぞれに、ちがうんですが。
- ──
- ええ、ええ。
- 森山
- だから、柄本さんが
「ただセリフを言うだけの人だよ」
と言った言葉の裏には、
すごくいろいろな意味や考えが、
渦巻いている気もするんですけど。
- ──
- そうですよね。
- 森山
- 言葉には具体的な意味があるから、
どんな短い台詞でも、
情報として、
相手に伝わりますって意味では、
おっしゃるように、
発してしまえばそれでいいと思う。
- ──
- は。
- 森山
- で、その言葉と言葉の間とか、
言葉の周囲や背後に存在している
「余白」を、
身体なら、どう埋めるか。
その「余白」に、
音楽なら、何を漂わせるか‥‥。
- ──
- はー‥‥。
- 森山
- やっぱりぼくは、言葉だけで
コミュニケーションが成立するなんて
思ってないところがあります。
- ──
- 森山さんの中では、
3つの言語‥‥言葉と身体と音楽とが、
お互いに
補完しあうような関係を結んでいると。
- 森山
- もちろん、
言葉の持っている伝達力にくらべたら、
身体のそれは
不自由だと思いますよ、一般的には。
でも、それって、
ふだん身体をどれくらい使ってるかに
よると思うんです。
- ──
- ああ、なるほど。
- 森山
- 身体的な言語も、使えば使うほど、
関われば関わるほど、
高度で複雑なコミュニケーションを
とれるようになっていくので。
それは、音楽もまた然り、で。
- ──
- それで「伝える」ことをしていれば。
ふだんから、言語として。
マイノリティの人たちが、
しばしば、音楽に「託して」いたり。
- 森山
- 言葉としての言語、身体的な言語、
そして音楽的な言語。
ぼくは、それらを、
等価に扱いたいと常に思ってます。
<つづきます>
2020-12-07-MON