- ──
- たとえば生物の進化を遡るみたいな
壮大な話をした場合、
最初は、
目なんてなかったわけですよね全員。
- 森山
- アメーバみたいなところまで遡れば。
- ──
- はい、でもいつかの時点で、誰かが、
「目」という
べんりな道具を獲得するわけですが、
みんなが目を持ってなかったときは、
目以外の感覚器で、
世界を「感じていた」わけですよね。
- 森山
- うん。
- ──
- 森山さんも、目や言葉だけじゃなく、
身体や音楽を使って、
世界を理解しようとしていますけど。
- 森山
- そこまで大袈裟じゃないですけど。
- ──
- だいぶ遠回りしてるんですが(笑)、
今日いちばん聞きたかったのが、
つまり、
ダンスとか踊り、身体のちからを、
すっごく感じる‥‥ということで。
- 森山
- ああ。
- ──
- そのちからって、
目に見えないものだと思うんです。
踊っている姿は見えるんですけど、
受け取っているものは見えない。
けど、すごいちからを持っている。
- 森山
- うん、うん。
- ──
- それって、いったい何でしょうか。
- 森山
- そういう‥‥実体は見えないけど
伝わっていくものって、
すべてに、あるんだと思うんです。
さっきの3つの言語で言っても、
音にはハッキリ波があるし、
言葉には「意味」がありますよね。
- ──
- はい。それらを受け取ってます。
- 森山
- だから身体にも‥‥身体言語にも、
それに当たるものが、
きっと、あると思うんだけど‥‥。
そうですよね、何なんでしょうね。
- ──
- 踊っている人がいたら見ちゃうし、
その踊りがすごかったら、
人を感動さえさせると思うんです。
- 森山
- 逆に、新宿の雑踏だとか、
渋谷のスクランブル交差点でも、
ランダムに動く人波の中で、
ひとりだけクッと静止してたら、
目を引くでしょうね。
それはそれで、
すごくパフォーマティブだと思う。
- ──
- なるほど、こんどは、
何もしない‥‥という「身体」が、
何かを発している。
- 森山
- そういうものを‥‥ぼくたちって、
何をどう受け取っているのかなあ。
- ──
- ひとつには「違和感」ですよね。
- 森山
- うん、違和感プラス‥‥何だろう。
何が、何が来るんや。
踊ってる人間の身体から‥‥いや、
これは別に、
スピリチュアルな意味じゃなくて、
なんですけど。
- ──
- ええ。
- 森山
- 振動‥‥というか、
俗にいうオーラみたいな考えって、
あるじゃないですか。
あれ、ぼく、あながち
まったくの無根拠じゃないような、
そんな気がするんです。
- ──
- あ、それ、ぼくも思います。
- 森山
- すべての物質のもとをたどったら、
だって、
何かが震えてるわけですもんね。
- ──
- 原子とか電子が、振動してますね。
何かを放っている人は、
その揺れが人より大きいのか‥‥。
ロックンロールの人とか。
- 森山
- ですよね‥‥ああ、おもしろいな。
身体って、あらためて、
何を届けようとしているんだろう。
- ──
- それこそ目に見えないというか、
森山さんの踊りからは、
確実に届いてくるものがあって。
それは言葉による「感動」とは、
また別の、
こころの震わせ方をするんです。
- 森山
- あの、「オルタ」という名前の
アンドロイドがいるんですけど。
池上高志さんと石黒浩さんって、
それぞれ、ロボット工学と
人工生命の研究者なんですが、
そのふたりが
協力しあってつくったんですね。
- ──
- オルタ。
- 森山
- うん、顔から胸にかけての部分と、
肘から下の前腕と手のひら、
そこは、精巧な
人工皮膚に覆われているんですが、
あとの部分は、
モロに「メカ」なんですよ。機械。
- ──
- へぇ‥‥。
- 森山
- そいつ‥‥いまちょっと
生きものって言いそうになったけど、
そのアンドロイドは、
学習システムを搭載していて、
人や物体との距離を日々学習しつつ、
彼なりの「態度」を、
自分なりに、つくろうとするんです。
- ──
- 態度‥‥。
- 森山
- ふるまいっていうか、身のこなしを。
- ──
- アンドロイドが、学習して、つくる。
態度や、ふるまいや、身のこなしを。
- 森山
- で、その動きが、ずっと見ていると、
何かもう、こんなノリで来るんです。
- ──
- ああ、人間の所作として見たら、
不自然というか、
不気味というか、
ちょっと、気持ち悪いような感じで。
- 森山
- でも、どこかのタイミングで、
一瞬なんですけど、
「あ、今、小首かしげましたよね?」
とか、
「えー、何か考えごと、してます?」
みたいなふうにも見えるんです。
それってつまり、ぼくらが、
勝手に意味を見出しているんですよ。
- ──
- アンドロイドの動きに。
- 森山
- そう‥‥目の前にいる
人間のような機械の身体の動きから、
ぼくらは、どうしても、
何らかのストーリーを
見ようとしてしまうみたいなんです。
今、この機械が何を考えているのか、
その顔や手の動きから、
どうにか探ろうとしているんですよ。
- ──
- なるほど。
で、ぼくたちが探ろうとしているものは、
同時に、機械の身体が、
こちら側へ訴えかけてくるものでも‥‥。
- 森山
- あると思います。
これも池上さんに聞いたんですけど、
たとえば、ぼくが
そこにあるマイクを、取ろうとする。
- ──
- ええ。
- 森山
- 人間の場合は間に障害物があっても、
腕をぐっと伸ばすなり、
迂回するなり、
障害を押しのけるなりして、
いくらでもマイクを取れるんですね。
- ──
- はい。
- 森山
- でも、それをロボットにやらせると、
パターンとしては、
基本的には1通りしかないんだって。
- ──
- AからBへの最短距離を行くだけ。
- 森山
- 少しでも邪魔が入ったら、
マイクに到達できないのが基本だと。
ロボット工学の世界なんて、
どんどん進化してるんでしょうから、
それさえも、今後は
乗り越えられてくんだと思いますが。
- ──
- つまり「人間の身体の、豊かさ」
ということですか。
- 森山
- そう、AからBへ手をのばす動きは、
ぼくらにとっては、
じつにたやすくて、
何千通りも何万通りもありますよね。
- ──
- 無限とも言えるかも。
- 森山
- その複雑性、ヤバいと思うんですよ。
人間の身体のもつ可能性というかな。
- ──
- その「無限にある」ということが、
人間の身体というものの、
おもしろいところなんでしょうね。
- 森山
- だから、大袈裟でなく、
奇跡みたいなことなのかもしれない。
この身体とか、それが動くとか、
そこから、何かを感じ取ることとか。
<終わります>
2020-12-09-WED