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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

2. 萩本欽一さんから考えかたを学ぶ

日本テレビの土屋敏男さんは、かつて、
次のようなことを書いていらっしゃいました。

「人前で言うと、たいてい冗談だと思って
 笑って本気にしてくれないのだが、本当に気が小さい。
 人の言ったことの言葉の裏にあるものが気になる。
 でも、おとなしくしてればいいものを、
 なぜ、余計なことを言い出して
 まわりを巻きこんで迷惑を掛けるのか?
 『せざるを得ない』からだ、としか言いようがない。
 テレビは、なくても生きられるもので、
 衣食住の遙か外にあるものである。
 だけど、そこに向かって何かを送り出したいと思う」

一般的にも、
「最終的に、ものすごく大胆な行動に出る人は、
 臆病で緻密に考える性格が強い」と言われます。

テレビづくりにおいて「心くばり」とは何でしょうか?
企画をかたちにするには、何を気にするのでしょうか?

三宅さん、土屋さんは、その
「心をくばるべき場所」や「番組づくりの考えかた」を
萩本欽一さんから、学んだのだそうです。
第2回目の今日は、そのお話を、ご紹介しましょう。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 萩本欽一さんというのは、
三宅さんと土屋さんの
共通の師匠のようなところがあるけど、
土屋さんも、きっと萩本さんの前では、
自然に話しているわけでしょう?
土屋 ぼくは、自然に話せませんでした。
少し年齢が下だったせいか、
「大将がイヤがることはするなよ」
と、まず、先輩から言われていたんです。
「これとこれはイヤがることなんだ」と。

べからず集を言われた状態から入るので、
三宅さんとは、ポジションが
ずいぶん違っているかもしれません。
だから、やっぱり、
「大将、そろそろ時間です」とは、言えなかった。
三宅 もちろんぼくも、
面と向かっては言えないけれど、
「萩本さんに感じさせる」と言いますか。
ともかく、
ふつうにしていないと、
絶対に体を悪くするな、

とは思いました。

『欽ドン』のチーフディレクターの方は、
やっぱり、倒れていましたから。
糸井 テレビで見ていると、
一見平穏に見えたけれども、現場は、
ものすごいピリピリしているわけですか?
三宅 それはもう、すごかったです。
土屋 ええ。
三宅 ぼくが入ったときには、
「昔に比べたら、優しくなったわよ」
なんて、女性プロデューサーが
おっしゃっていたぐらいでしたけど、
でもやっぱり、仕事には、すごかったです。
糸井 なるほど。
テレビの世界の人たちは、
ことあるごとに、必ず
「萩本さんなしにはテレビはありえない」
というぐらいに、功績を語られますよね。

やっぱり、バラエティ番組の作り手にとって、
ものすごく大きな存在なんですか?
三宅 ええ。教わったこともとても多いですし。
土屋 「バラエティに関する、
 いろいろな下地を作られた方」
であることは、まちがいないです。
三宅 『欽ドン』山野ホールというところで
公開録画をやっていましたが、

「舞台の袖を動かすな。
 演者がやってるのに、
 幕が動いたらお客さんの気が散るだろう?」


という話からはじまり、
いろいろなことを指摘してもらいました。

ぼくが会社に入った頃のADは、
「ホールの公開録画などで、
 拍手のところで手をまわして合図をする」
役をすることが慣例になっていたんです。
ところが、萩本さんは「それをやるな」と言う。

「まず、舞台の袖に出るな。
 お客さんの前に出るなら、
 例えばコケるかなんかして受けろ」


萩本さんは、今までのテレビのやりかたを
ぜんぶ否定されるんですが、それがすべて

「目の前のお客さんを
 どれだけたのしませて、
 おもしろさを伝えるか」


という理屈に合っているんです。

『欽ドン』がはじまった頃は、
まずは会場のマイクを増やしました。
いままでは会場に二本ぐらいしか置いていない
音声を、三倍に増やしました。
とにかく、笑い声を多く収録するんです。

「中身のセリフが聞こえなくていいから、
 笑い声を大きくしろ。
 そうすると、チャンネルをまわす手が止まる」

ただ、半年だけ大きくして、
その後は笑い声を落とせとも言うんです。
半年たつと、ワーワー騒いでいるのが
うっとうしくなる。
徐々に中身を見せるようにすると、
萩本さんはそういうことをやっていたんです。
糸井 それを、演者の欽ちゃんが言うんですか?
三宅 ええ。
土屋さん、そういうの、ありましたよね?
土屋 はい。
公開録画で、いわゆる
「カウントダウン」をやるとするじゃないですか。
「ハイ、十秒前! 八! 七! 六……」
これをやっていると、
欽ちゃんから、ぶっとばされるわけです。

お客さんが、これからたのしいバラエティで、
さあ笑いましょうと思っているところに、
オマエはいいカッコして
「十秒前!」って、なにやってんだ、と。


「カウントダウンを聞くと、
 お客さんがどんどん緊張するんだ」
とおっしゃるんです。

「笑っていいとも!」
を前に一度見に行ったとき、いまでもそれを
実行しているんだなと思ったんです。
絶対にカウントダウンをしないで、
前説がギリギリまであって、
「ドン!」とオープニングが出る。
あれをはじめたのは、
欽ちゃんからだと聞いています。
糸井 あれは、欽ちゃんがはじめたものなんですか?
三宅 そうだと思います。
絶対に秒読みはしなかった……。

自分が出ていって、客をあたためて、
いいところから、「さあ、次のコーナー!」って。
糸井 欽ちゃんは、
リハーサルって、けっこうするんですか?
三宅 一応、素人さんを使うときなどの
ダンドリはしますけども、
あくまで本番のためのリハーサルなんです。
「本番でこうやったらおもしろくなるな」
というための、リハーサルですから。
糸井 そこから変化させる?
三宅 もちろん、そうです。
土屋 変化させるためのフリだったりしますよね?
三宅 そうです。
糸井 うわぁ、かっこいいなぁー。
土屋 「こうしたらこう動く、
 じゃあ、本番こうしてやろう」

と思うためのアタリをつけているんですよね。
三宅 ええ。さんまさんなんかも、
コントでよく言うんですけど、
やっぱりドラマの稽古とは違うんです。
ドラマの稽古は、
ある目的に向かっていくものですが、
バラエティの稽古は、入口を決めて、
それからどうなっていくかの
稽古であって……と。

だからリハーサルのことを、
さんまさんは
よくスポーツに例えるんです。

サッカーって予測通りには
絶対にならないですよね。
サッカーにとっての相手チームが、
笑いにとっての
お客さんであったりするわけで、
「その本番のための稽古なんだ」
と考えていらっしゃるんです。


だから、
「なんで、稽古で
 おもしろいことをやっちゃうんだ?」

と言う。さんまさんも、
萩本さんに似た作りかたをするかたです。

今日の仕事論:

「『舞台の袖を動かすな。演者がやってるのに、
  幕が動いたらお客さんの気が散るだろう?』
 『舞台の袖に出るな。お客さんの前に出るなら、
  例えばコケるかなんかして受けろ』
 『お客さんが笑いましょうと思っているときに、
  オマエは「十秒前!」って、なにやってんだ。
  カウントダウンを聞くとお客さんが緊張する』
 萩本さんは、今までのテレビのやりかたを
 ぜんぶ否定されるんですが、それがすべて
 目の前のお客さんをどれだけたのしませて、
 おもしろさをどれだけ伝えるかという
 理屈に合っているんです」
            (三宅恵介・土屋敏男)

※3人の鼎談は、明日につづきます。
 「ディレクターとしての生き方」
 を、じっくり話してくれる回になりますよ。
 
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 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
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2004-06-16-WED

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