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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

4. 会社員がものを作るということ

テレビ局の中で
ディレクターやプロデューサーを
やっているという存在は、
もしかしたら、いわゆる
「番組づくり」とは別の業種への
異動もありうる、ということなわけでして。
そのことは、三宅さん、土屋さんもともに、
きっと、何度も考えたんだろうと思います。

なぜなら、
「サラリーマンクリエイター
 としてはたらくことの長所と短所」を
ものすごく的確に指摘してくれたからです。
「それでも、
 テレビ局以外の場所で
 テレビをつくることは難しい」
という土屋さんの言葉がリアルに響く鼎談。

もちろん、たのしみにしてる萩本欽一さんや
明石家さんまさんの話も、出てくるんですよ。
さっそく、読んでみてくださいね。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 土屋さんは、
辞めようと思ったことは、ありますか?
土屋 ないです。
テレビ局を辞めてテレビを作ることって、
ものすごく作りづらいじゃないですか。
三宅 うん。
土屋 例えば、『電波少年』のアポなしの時代は、
ぼくが社員でいたから
できたことだと思っているんです。

いわゆるプロダクションに
所属している人間の企画であったら、
会社の人間に
「責任問題になるから、勘弁してくれ」

と言われて、たぶんできなかったはずで。

そういうことも含めて、
テレビの中で新しいことをやっていくには、
社員でいることがいちばんいいと、
今でも考えているんです。


ただ、その事実と、
「作り手であり続けるということ」
の間では、たまにですけれど
「どうしようかなぁ?」
と、思わないことはないですけど。
三宅 そうなんです。
今は特に、新しいことをやるのが、
難しくなっていますよね。

前に先輩から言われたことなんですが、
「組織が大きくなればなるだけ、
 クリエイティブの力が
 反比例してなくなっていく」
ということは、もうほんとに感じます。
昔は
「あれやっといてよ」
「これやりました」
という感じでできたものが、
「こっちに書類を持っていって、
 あっちに許可をもらって」と
やっていかなきゃならない形になると、
これはしょうがないことなので……。
糸井 昔よりも今の方が、
キツくなったのは確かだし、
要求される水準が、
ひとりずつに対して大きくなりましたよね。


ぼく自身のことで言っても、
昔はそんなに働いていなかった気がするんです。

たのしくやっていたし、
時間は確かにいろいろなことに
取られていたけど、ほんとに
苦しいと思ったことなんてぜんぜんなくて、
「なんとかなるよ」
って言ったらなんとかなっていたし……。
土屋 そういう感じはわかります。
糸井 遊んでいても、
誰かがチェックもしなかったし、
「オレが遊んでいるから
 部下がサボるかもしれない」
なんて考える必要もなかったし……
なんにも考えないで、
四五歳までやってきちゃった。

古い人間は、正直、
「昔はもっとむちゃくちゃだったぞ」
と心の中では思っていますよね。
三宅 それは、絶対、ありますよね。
昔はおたがいに信頼していて、
それで済んでいた。
今は逆になっているのかもしれない。

たとえば、てめえの会社に入るのに、
なんで社員証を出すのか──
それは、当たり前の理由でわかるけど、
たとえば会長の
日枝さんが入ったときにはどうするのか?

警備の問題で必要であったとしても、
少なくとも会長の名前と顔ぐらいは
覚えていたほうがいいんじゃないか?

日枝さんが、ひとりだけ
スッと何も出さずに入ったら、
まわりも「あの人は偉いんだな」と
思ってくれるでしょう?

一流ホテルのベルボーイの人が、
人の顔と名前をぜんぶ覚えていて、
のちに取締役になったとか、
そういうたぐいの仕事であるべきだろう、

と個人的には思っているんですけどね。
糸井 今、そういうことをもしも言ったら、
「三宅さんの気持ちはよくわかるんですが、
 コストが高いんです」
とかいうことになるんですよね。
つまり、警備員の人は、
今日も明日も同じかどうかはわからない。
「全員に同じ扱いをすれば、
 入替可能な人を雇えます」
ということで、負けてしまうんですよね……。
三宅 ええ。
ふつうの会社ではそうだろうけど、
少なくとも、ものを作っている
フジテレビという会社が
そうしているとなれば
「あ、すごいな」
と、まわりは思うはずなんですよね。
糸井 そうなれば、
別の価値が生まれるんですよね。
ヨーロッパとアメリカの違いだと思うんです。

ヨーロッパって、
建てなおしたほうがいい建物を、
使ってるじゃないですか。
あれって、コストから言うと
高くついていると思うんです。

土台を補強し、レンガは残し、
ワインセラーは地下室に残し、
内装はすべて最新式に変え、
水道管を埋め直す……大事なものは何か、
わかっているからやってるわけですよね?

アメリカは、
それを「すべて壊して建てなおす」わけです。
三宅 はい、壊しますよね。
糸井 「買ったほうが安いから」
というところに、みんなが行ってしまって、
とうとう人間もそうなったんです。
三宅 ちょっと話が戻りますけど、
「そこを、壊さないほうがいい」
という考え方を、ぼくは
萩本欽一さんから教わったんです。

「ふつうは、こう考えるだろう?
 で、それがふつうなんだから、
 そうじゃないことを考えれば、
 笑いはぜんぶ生まれるんだ」


そのあたりは、
もう、意識改革をしていただいたんです。
糸井 そのとおりだなぁ。
「笑い」を考えるっていうことは、
つまり「批評」を考えるってことなんですね。
三宅 だからまず、ふつうの家庭で、
ふつうの日常生活をできないと、
それを崩すこともできないんです。

それができた上で、
さらに崩すところに、笑いがあるわけで。
糸井 そもそも、守りたいものがない人は、
人に優しくできないと思うんです。
三宅 それは、そう思いますね。
糸井 無鉄砲で、
「命なんかいらねぇんだ!」
というヤツは、人の命も大事にしない(笑)。


やっぱり、もう、未練タラタラで、
絶えずメソメソしていて、
守りたいものだらけで度胸がないヤツが、
「でもここは、息を止めて飛びこもう!」
と言うからこそ、
「そうだよなぁ」と思うわけで。
命知らずに、命を預けたくはないですよね?
土屋 はい(笑)。
糸井 まぁ、ぼくも、
こんなに整理して喋れるようになるのに、
五十何年かかりましたけど。


やっぱり若い頃は、
命知らずなふりをしていて
アジテーションをしていたほうが、
人気があるんですよね。

「オレがいちばん過激」
「オレがいちばんおもしろい」
と言っていれば、人は騒いでくれるんです。
その歓声が、
自分のごはんのタネなんだというふうに、
芸人さんもディレクターもプロデューサーも、
思いがちなんですよね。

だけどその歓声は、
一時のメシのタネにはなるけれど、
畑をダメにしてしまうという……。
三宅 そこは、畑がしっかりしていれば、
いいんでしょうね。

さんまさんは、どんなに祭りあげられても、
「こんなことにダマされちゃいかん」
と言いつづけていたんです。
「自分は、ご近所の人気者で構わない」と……
そう人に言って、自分にも
言い聞かせているんでしょうけれど。


結婚した当初、
奥さんとふたりで歩いていたときにも、
「フラッと立ち寄ったあちこちで
 おもろければ、もうそれでいいんだ」
という意識を、常に持っていらっしゃるんです。

だから、カメラがまわっているとか
まわっていないとかは、ほんとにないんです。

萩本さんも、そうでした。
大将は、外でロケをやっていて、
サインを求めるファンを
スタッフがくいとめたりすることを、
すごい嫌いました。
でも、こちらとしては、
それをやらないことには、
萩本さんがケガをしてしまう……。
糸井 あのへんはもう、本人は
見ないフリをするしかないでしょうね。
三宅 市街地のロケで、
人を止めたりクルマを止めたりするのも
嫌がるんです。
そっちばっかり、気にしていました。
土屋 萩本さんは、
「人やクルマを止めないバラエティは
 どうやればいいんだろう?」
と考えてそれで新しいバラエティの形を
作った人ですよね。
ロケやっていても人を止めないから、
画面の奥に誰かがいて、
ジーッとこちらを見ていたりするのが、
逆におもしろかったりするんです。

今日の仕事論:

辞めようと思ったことはないです。
テレビ局を辞めてテレビを作ることって、
ものすごく作りづらいじゃないですか。
例えば『電波少年』のアポなしの時代は、
ぼくが社員でいたから
できたことだと思っているんです。
いわゆるプロダクションに
所属している人間の企画であったら、
会社の人間に
『責任問題になるから、勘弁してくれ』
と言われて、たぶんできなかったはずで。
そういうことも含めて、
テレビで新しいことをやっていくには、
社員でいることがいちばんいいと思う。
             (土屋敏男)

※3人の鼎談は、明日につづきます。
 「おもしろさの種類には、いろいろあるけど、
  何をどう選択して、企画にしていくのか?」
 について、話してくれる回になります。
 
 このコーナーへの感想をはじめ、
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 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださるとさいわいです!
 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
 あなたの感想や質問を、参考にしながら進めますね。


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2004-06-18-FRI

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