糸井 |
あのフリートークって、
あの人たちは、あの場で、
ほんとにフリーにしゃべるんですか |
土屋 |
まったく、そうしてるんですよね。 |
三宅 |
そうですね。 |
糸井 |
それは、今まで
あんまりなかったタイプの芸人さんですか? |
土屋 |
よく知られていることかも知れませんが、
『ガキ使』で、ダウンタウンのふたりは、
本番前には会わないんです。
舞台の上で会ってはじめて、
今日なにをしゃべるかが
決まるみたいなところがあって……。
漫才はもちろんネタを出すわけですけど、
フリートークは、合わさないほうがいい、
と直感でわかっているんでしょう。
だから、本番前は、
どんなに楽屋が狭くても、
いちばん遠くと遠くにいますね。
端と端で、絶対に
しゃべらないようにして、
別々に出ていって……。 |
糸井 |
漫才のコンビっていうのも、
不思議な関係ですね。
いちばん近いし、いちばん遠い、という。 |
三宅 |
そういうバトルでやっているトークが、
いちばんおもしろいですよ。
『コント55号』なんかでも、二郎さんは
「一応コントだから、警官で出てきて」
としか言われないままなんです。
おたがいがおたがいの腕を認めあって、
いい力関係があるから、できるんですよね。 |
土屋 |
まさに息が合ってるかどうかで。
その信頼がベースにあるから、
何もしなくても、出ていって、
絶対に、おもしろいことになるんですよね。 |
糸井 |
そんな相方を見つけたよろこびって、
すごいでしょうね。 |
土屋 |
コンビがおもしろくなっていくというのは、
実はツッコミがうまくなっていって、
おもしろくなるんですよね。
ボケは、ずっと同じで……
だから、ダウンタウンも、
浜田がどんどんうまくなって、
おもしろくなっていった、
という過程はありました。
浜田は、やっぱりそれなりに
すごく努力をしてたんだと思います。
浜田は初期、
松本の完全な信奉者のような感じがありました。
こいつの才能を生かすために
俺がいるんだ、という関係の頃もありましたし。
松本のほうは、
百%自分が作っているという自負があるから
「浜田って、どうですかね?」
と言っていた時代もありました。 |
糸井 |
つまり、ほんとうに、何から何まで、
「わかっていてやってた」
というわけじゃないってことだ。
だけど、動きまわっていた。
あらゆる若い人って、そうなんでしょうね。 |
土屋 |
ええ。
松本は、たしかに天才でしょう。
だけど……この話は、
たぶん松本は憶えていないでしょうけど、
やっぱり、ぼくなんかが思い出すのは、
17年前に松本が
「ぼくら、売れますかね?」
と聞いてきた時のことでなんです。
ぼくはそのときに、たまたま
『月刊プレイボーイ』に載っていた、
エディー・マーフィーの話を読んでいて
「エディー・マーフィーのインタビューに
『売れたいと思うヤツは売れない。
オレは絶対に売れる、
というヤツだけが売れる』
と書いてあったぞ」
そう言ったら、松本は
「まぁ、ぼくはツービートよりも
おもしろいですからね」
と、突然言いだして。
だから、それぐらい、
先が見えてなかったとも言えるんですよね。
松本のような天才でさえも。 |
糸井 |
その話は、見事ですね。永遠に語れそうな。 |
土屋 |
まあ、今のダウンタウンは、
笑いのカリスマになっていますからね。
これが売れてなかったら、
おもしろくもなんともない話ですけれども。
松本とぼくにも、
ずっと一緒にいた時期が過ぎて、
それぞれ、いろいろなことがあって、
テレビに出ていきました。
その後、ぼくは『電波少年』をやっていて、
という時期に、ひさしぶりに松本に会ったら、
たまに見てくれていたみたいで、
「土屋さん、いいスタッフ揃えてますよね」
と言ってくれたんです。
ぼくはそれを聞くと、
「あ、こいつ、スタッフで悩んでるんだなぁ」
と……。 |
糸井 |
なるほど。 |
土屋 |
出ているほうとしてみれば、
いくらおもしろいことを言ったって、
特にフリートークは
「こうつないだらおもしろいけど、
違うつなげかたをしたら終わり」
というところがあるんですよね。
だからそのときには、
「土屋さんのあの番組、
編集、うまいっすよね」
「何言ってんだ。
オレが毎週、つないでるんだから」
そういう会話は、ありましたね。 |
糸井 |
あれだけおもしろい番組の編集で
松本さんが悩んでいたって……
しかし、天才ってみんな、
図々しいもんだよなぁ。
微妙なこぼれもイヤなんだろうなぁ。
土屋さんから見て、
松本さんは、
いまは何がしたいというふうに見えますか? |
土屋 |
単純ですよね。
「笑わしたい」というだけだと思います。
それこそ、さっきの
タモリさんもたけしさんも
さんまさんも鶴瓶さんも、
もちろん浜田も含めて、
みんながしたいことって、
笑わしたいだけでしょう。
それ以外には、何にもないんじゃないかなぁ。
ただ、
「このチームでバッターボックスに立っても
打てそうにない」
と思うから、たけしさんは
立たないんじゃないかと感じるんです。
「野球だとヒットを
打たせてくれそうにないから、
サッカーでゴール決めてるわ」
という感じで映画に行っているのかもしれません。
数字に囚われてる、
と言ったらそれまでですけども、
松本は『ごっつ』のテレビのスペシャルの、
九%という視聴率が
ショックだったような気がします。
「このおもしろさに、
九%しか反応しないような客の前で、
こんなにまで命削って笑わしてどうするんだ?」
そういうことを思っているんじゃないでしょうか。 |
三宅 |
松本くんとは、
一対一で話して仕事をしたということは
一度もないんですけど、
フジテレビのなかでは、
『一人ごっつ』なんかが、
いちばん松本くんの世界観みたいなものが
出せたような気がするんですけど。 |
土屋 |
松本は、あの番組も好きだし、
おもしろいとは思っているんですよ。
でも、やっぱり本音で言うと、
視聴率で二〇%取んなきゃイヤだって
潜在的に思ってしまうようなところが
テレビの宿命であるような気がします。 |
三宅 |
ああ……。 |
土屋 |
松本は、絶対にそんなことは言わないし、
意識もしていないと思います。
むしろ
「こんなのが、数字取るわけないやないか。
数字は取らないけど、おもろいと思うんや」
と言ってやっていると思います。
でもやっぱり、二〇%取りたいんですよね。 |
|
(次回に、つづきます) |