man
おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

15. 誰だって、先は、見えていない。


「自分にとって、
 ほんとうに大事なことってなんだろう。
 自分にとって、
 ほんとうに大切な人って誰だろう。
 このふたつを、本気で思っているだけで、
 いい人生が送れるような気がする」

これは、かつて
糸井重里が「ほぼ日」に書いたことですが、
それぞれのテレビ制作者たちも、出会いと、
「その人のためなら」と意気に感じるところが、
テレビマンとして、すごく大きいのだろうなぁ、
と、これまでのお話を聞いていて、実感します。

今日は、ダウンタウンさんについての話のつづき。
読みおえて、うれしくなった人は、
おともだちに、このページを知らせてくださいね。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 あのフリートークって、
あの人たちは、あの場で、
ほんとにフリーにしゃべるんですか
土屋 まったく、そうしてるんですよね。
三宅 そうですね。
糸井 それは、今まで
あんまりなかったタイプの芸人さんですか?
土屋 よく知られていることかも知れませんが、
『ガキ使』で、ダウンタウンのふたりは、
本番前には会わないんです。

舞台の上で会ってはじめて、
今日なにをしゃべるかが
決まるみたいなところがあって……。

漫才はもちろんネタを出すわけですけど、
フリートークは、合わさないほうがいい、
と直感でわかっているんでしょう。

だから、本番前は、
どんなに楽屋が狭くても、
いちばん遠くと遠くにいますね。

端と端で、絶対に
しゃべらないようにして、
別々に出ていって……。
糸井 漫才のコンビっていうのも、
不思議な関係ですね。

いちばん近いし、いちばん遠い、という。
三宅 そういうバトルでやっているトークが、
いちばんおもしろいですよ。

『コント55号』なんかでも、二郎さんは
「一応コントだから、警官で出てきて」
としか言われないままなんです。
おたがいがおたがいの腕を認めあって、
いい力関係があるから、できるんですよね。
土屋 まさに息が合ってるかどうかで。

その信頼がベースにあるから、
何もしなくても、出ていって、
絶対に、おもしろいことになるんですよね。
糸井 そんな相方を見つけたよろこびって、
すごいでしょうね。
土屋 コンビがおもしろくなっていくというのは、
実はツッコミがうまくなっていって、
おもしろくなるんですよね。

ボケは、ずっと同じで……
だから、ダウンタウンも、
浜田がどんどんうまくなって、
おもしろくなっていった、
という過程はありました。

浜田は、やっぱりそれなりに
すごく努力をしてたんだと思います。

浜田は初期、
松本の完全な信奉者のような感じがありました。
こいつの才能を生かすために
俺がいるんだ、という関係の頃もありましたし。


松本のほうは、
百%自分が作っているという自負があるから
「浜田って、どうですかね?」
と言っていた時代もありました。
糸井 つまり、ほんとうに、何から何まで、
「わかっていてやってた」
というわけじゃないってことだ。
だけど、動きまわっていた。
あらゆる若い人って、そうなんでしょうね。
土屋 ええ。

松本は、たしかに天才でしょう。

だけど……この話は、
たぶん松本は憶えていないでしょうけど、
やっぱり、ぼくなんかが思い出すのは、
17年前に松本が
「ぼくら、売れますかね?」
と聞いてきた時のことでなんです。

ぼくはそのときに、たまたま
『月刊プレイボーイ』に載っていた、
エディー・マーフィーの話を読んでいて

「エディー・マーフィーのインタビューに
 『売れたいと思うヤツは売れない。
  オレは絶対に売れる、
  というヤツだけが売れる』
 と書いてあったぞ」

そう言ったら、松本は
「まぁ、ぼくはツービートよりも
 おもしろいですからね」
と、突然言いだして。

だから、それぐらい、
先が見えてなかったとも言えるんですよね。
松本のような天才でさえも。
糸井 その話は、見事ですね。永遠に語れそうな。
土屋 まあ、今のダウンタウンは、
笑いのカリスマになっていますからね。

これが売れてなかったら、
おもしろくもなんともない話ですけれども。

松本とぼくにも、
ずっと一緒にいた時期が過ぎて、
それぞれ、いろいろなことがあって、
テレビに出ていきました。

その後、ぼくは『電波少年』をやっていて、
という時期に、ひさしぶりに松本に会ったら、
たまに見てくれていたみたいで、
「土屋さん、いいスタッフ揃えてますよね」
と言ってくれたんです。

ぼくはそれを聞くと、
「あ、こいつ、スタッフで悩んでるんだなぁ」
と……。
糸井 なるほど。
土屋 出ているほうとしてみれば、
いくらおもしろいことを言ったって、
特にフリートークは
「こうつないだらおもしろいけど、
 違うつなげかたをしたら終わり」
というところがあるんですよね。

だからそのときには、

「土屋さんのあの番組、
 編集、うまいっすよね」

「何言ってんだ。
 オレが毎週、つないでるんだから」

そういう会話は、ありましたね。
糸井 あれだけおもしろい番組の編集で
松本さんが悩んでいたって……

しかし、天才ってみんな、
図々しいもんだよなぁ。
微妙なこぼれもイヤなんだろうなぁ。

土屋さんから見て、
松本さんは、
いまは何がしたいというふうに見えますか?
土屋 単純ですよね。
「笑わしたい」というだけだと思います。

それこそ、さっきの
タモリさんもたけしさんも
さんまさんも鶴瓶さんも、
もちろん浜田も含めて、
みんながしたいことって、
笑わしたいだけでしょう。

それ以外には、何にもないんじゃないかなぁ。

ただ、
「このチームでバッターボックスに立っても
 打てそうにない」
と思うから、たけしさんは
立たないんじゃないかと感じるんです。

「野球だとヒットを
 打たせてくれそうにないから、
 サッカーでゴール決めてるわ」
という感じで映画に行っているのかもしれません。


数字に囚われてる、
と言ったらそれまでですけども、
松本は『ごっつ』のテレビのスペシャルの、
九%という視聴率が
ショックだったような気がします。

「このおもしろさに、
 九%しか反応しないような客の前で、
 こんなにまで命削って笑わしてどうするんだ?」

そういうことを思っているんじゃないでしょうか。
三宅 松本くんとは、
一対一で話して仕事をしたということは
一度もないんですけど、
フジテレビのなかでは、
『一人ごっつ』なんかが、
いちばん松本くんの世界観みたいなものが
出せたような気がするんですけど。
土屋 松本は、あの番組も好きだし、
おもしろいとは思っているんですよ。

でも、やっぱり本音で言うと、
視聴率で二〇%取んなきゃイヤだって
潜在的に思ってしまうようなところが
テレビの宿命であるような気がします。
三宅 ああ……。
土屋 松本は、絶対にそんなことは言わないし、
意識もしていないと思います。

むしろ
「こんなのが、数字取るわけないやないか。
 数字は取らないけど、おもろいと思うんや」
と言ってやっていると思います。
でもやっぱり、二〇%取りたいんですよね。
  (次回に、つづきます)


今日のひとこと:

「松本人志は、たしかに天才でしょう。
 ただ、ぼくなんかが思い出すのは、
 17年前に松本が、
 『ぼくら、売れますかね?』
 と聞いてきた時のことでして。
 ぼくはそのときに、
 たまたま『月刊プレイボーイ』に載っていた、
 エディ・マーフィーの話を読んでいて、
 『エディ・マーフィーのインタビューに、
  売れたいと思うヤツは売れない、
  オレは絶対に売れるというヤツだけが売れる、
  と書いてあったぞ』
 そう言ったら、松本は、
 『まぁ、ぼくはツービートよりも
  おもしろいですからね』
 と、突然、言いだしました。
 だから、それぐらい、
 先が見えてなかったとも言えるんですよね。
 松本のような天才でさえも」
             (土屋敏男)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


←前へ

インデックスへ

次へ→

2004-09-21-TUE

man
戻る