三宅 |
そう言えば、糸井さん、
勝ち組とか負け組とかいう分けかたを、
どう思いますか? |
糸井 |
負け組に入りたい人はいないんだし、
みんな、ひどい目には遭いたくないんですよ。
だから、そもそも、その分けかたが
違うんじゃないかなぁとは思います。 |
三宅 |
ぼくも、キライな言葉なんです。
別に勝負じゃないんですよね。
勝てば会社から
金一封が出たりしたときもあって、
それはありがたいんですけど、
あくまでも金一封は方法論であって……
金一封そのものが
目的になってしまうところは
納得できないなぁ、それは
かつてのように戻さないといけないなぁ、
という気持ちはあります。 |
土屋 |
ぼくらも、
四冠王を取ると
社員全員が一万円とか、
もらっていたわけですよね。
だけど、そのケツの叩きかたが
まちがっていたということを反省しないと、
きっと、次が見えてこないだろうなぁ、
とは、たしかに思うんです。
「目的が別になってしまっている」
ということで言えば、いまぼくは
イベントをやっているわけですが、
どうも、番組絡みのイベントのほうが、
そうではないコンテンツのイベントよりも、
お客さんがスーッと集まってくるわけです。
だけど、その人たちの顔を見ていると
「あ、テレビでやっていることが見られた」
という満足感だけなんですよね。
これは、コワイと思いました。
「あ、テレビに出てる人だよ」
そのこと自体は、
別におもしろいわけではないですよね。
おもしろいこととは別なのに、
「テレビに出ている」というだけのことが、
価値があるように見られている……
このへんは、
なんとかしないといけないなぁと思うんです。 |
糸井 |
フジテレビが、
サルティンバンコをやっている
冒険というのも、すごいなぁと思います。
シルク・ド・ソレイユという
ブランド集団だし、
まちがいなくおもしろいですから。 |
三宅 |
ただ、ぼくは
あのイベントは作れないなと思うんです。
たしかにすごいなぁとは感じます。
アメリカでやっている
『O(オー)』とかも、すごい。
だけど、笑いをやっていると
「これは、演者の家族が見にきたときに、
絶対に寂しい思いをするな」
と思っちゃうんですね。
「わたし、どこどこの
右から3番目に出てるから」
と言ったって、
あれだけ飛びまわっていると、
わからないですよね。
あれは演者泣かせだなぁと……。
舞台では、やっぱり、
「あの演者さんがおもしろかったね」
と言って帰ってもらいたいと思うんです。
笑いの舞台では、
「あの演出が良かったね」とか、
「あそこで明かりがついたね」とは
絶対に言わないですからね。
それを言われちゃうと、
逆に、だめだなと思ったり……。 |
糸井 |
それは明らかに、三宅流ですよね。 |
三宅 |
いや、サルティンバンコは、
やっぱり、演者がかわいそうですよ。 |
糸井 |
シルク・ド・ソレイユを
ぼくがスゴイと思ったのは、
廃棄物になっていく
一流のスポーツ選手たちの
受け皿なんだ、というところです。
こんなにも人が認めて
拍手を贈られた人たちが、
金メダルの候補じゃなくなった瞬間から、
ただのスポーツ解説者になってしまう……。
しかも、全員が解説者にはなれないとすると、
やっぱり受け皿が必要ですよね。
ソフトの循環をやるというアイデアには、
感心したんです。
さんざん、小さいころから鍛えてきた時間を、
そのまま「身体能力」という財産として
使えるのは、おもしろいなぁと思いました。
最近、
時間をかけているということで言うと、
NHKのものづくりのすごさも、
認めるべきなんじゃないか、
と思いはじめているんです。
『シルクロード』だのなんだのって
作っている人たちの時間のかけかたって、
ほんとうに、ものすごい……。 |
三宅 |
わかります。
動物のドキュメンタリーでも、
わけのわかんない小さな蜂を、
ずーっと追いかけていたりするのを見ると、
これはすげぇなと思います。 |
土屋 |
日曜にやっている『ようこそ先輩』の
重松清さんの回が単行本になっているので、
それを読んだんですけど、
本の最後に、ディレクターやスタッフの
動きが書いてあるんです。
その時間の使いかたって……
何日か前から「それしか」してないんですよ、
そのスタッフたちは。
一本の三〇分番組を作っているのに、
二ヶ月前に連絡を取り、
重松さんと何回打ち合せをして、
と書いてあって……。
で、生徒の家、
ぜんぶ回ってるんですよ、スタッフが。
「おまえら、
三〇分作るのに何日かけてるんだよ!」
そういう時間のかけかたしてるんですよね。
だけど、だからおもしろいんですよね、
あの番組は。 |
糸井 |
そのへんを、仕事としてどうするかが、
もしかしたら、テレビがこれから
考えることかもしれないとぼくは思うんです。
ワインだってそうじゃないですか。
時間がなかったら、
ワインにならないわけで……。
NHKは、武骨だけど、
そこの時間を見積もる力は、
やっぱりあると思うんです。
ただ、テレビが持っている
「出し抜け!」という
勢いの宿命もなければいけないんだけど、
それについても、NHKは、実は
うまくジョイントできていると思うんです。
地震があったら
NHKをつけているわけですから、
急な動きにも対応できていますよね。
民放の人たちは、
「あ、上からこういうの頼まれたぞ……
やってみせます!」
という走りかたが得意なんだけど、
そうではない作りかたも、
あったほうがおもしろいですよね。 |
三宅 |
ただ、よくさんまさんが言いますけど、
「これはもう十年間あたためた企画です」
というのは、テレビでは絶対にだめだと。
それは、自分であたためすぎて、
もう溶けちゃっているとか……。
やっぱり、テレビや笑いの究極は、
生放送にあるんじゃないか、
とは思うんですよね。
いまは、
そこに戻っているんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
ええ。
一方では、
「『ようこそ先輩』のスタッフ、
1か月も、
ロクに他の仕事をしてねぇじゃないか!」
そういう怒りを呈すチームもいれば、
「馬鹿野郎! こっちは一軒一軒まわってんだ!」
そうやって怒りかえすチームもいる。
その両方入れておけない会社は、
もう、だめなんじゃないかなぁ。 |
三宅 |
そうですね。そのバランスですよね。 |
糸井 |
アナウンサーが育つ何年間は、
「すぐは無理だろう」とか見ておけるわけだから、
きっと、番組づくりでも、局としての
促成栽培以外の方針があるといいですよね。 |
三宅 |
昔、ドラマの作り手は
いいなぁと思ったことがあるんです。
彼らは、
一クールなり二クールなりが終わると、
休みなわけですよね。
もちろん、かかりっきりになると
すごく忙しいけれども、休みの間に、
いろいろと考えることができるんです。
実は、バラエティでも、
そういう番組を
やったほうがいいと思ってたんです。
バラエティの場合は、
二クールぐらいは
やらないといけないだろうけど、ただ、
「さんまさんが二クールやったら、
次はダウンタウンが二クールやって、
そのあと誰?」
そういう、
違う判断のできる枠があるといいなぁ
とは思うんですよね。 |
土屋 |
そうですね。それは必要でしょうねぇ。 |
三宅 |
そうすると、
いい刺激があると思うし、
企画が当たったら、
パート二をどこかでやれるし……。 |
糸井 |
最高です、それは。 |
三宅 |
そういう、テレビの枠のシステムを変えないと。 |
糸井 |
要するに、
グランドプロデュースがあると、
もっとおもしろいんですね。 |
三宅 |
そうなんですね。
そこはまぁ、いろんな営業とか
なんかの問題もあって、
できないのかもしれませんけれど……。 |
糸井 |
こうやって話していると、
いつまでもおもしろいですね。
つくづく、テレビ局のでかさを感じます。
ずいぶんでかいなぁ。 |
三宅 |
でかくなっちゃったのか、
実際にでかいのか……。 |
糸井 |
いや、でかく見せないと商売にならないんですよ。
きっと、テレビ創成期から、
いろいろしたんでしょうね。 |
土屋 |
そうでしょうね。
じゃないと、あんなふうに、
一五秒のCMにスゴイお金も取れませんから。 |
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(次回に、つづきます) |