糸井 |
あ、土屋さん、タバコ、吸ってますねぇ。 |
土屋 |
ええ、そうです。どうせ、ぼくはそうです。 |
三宅 |
あれ?
土屋さん、禁煙なさっていたんですか? |
土屋 |
していました。
体調が悪かったのをきっかけに禁煙していて……
ある時期までは、
いいところまで、来ていたんです。
禁煙して、百日の峠も越えましたし。
まわりにも、
「おまえも、禁煙したほうがいいよ」
なんて、ちょっと言っていたんです。
そのなかのひとりに、松本人志がいて、
彼は今も禁煙しています。
でも、ぼくはもう、スパスパと……
いまも、予備のタバコまで、
持ってきていますから。
「一本ぐらい、吸ったって大丈夫だろう?」
「ああ、これなら、いつでも禁煙に戻れるなぁ」
そう思って吸っていると、どんどん、
おもしろいぐらい、戻れなくなりますね。
禁煙してみてはっきりしたのは
「タバコは薬物だ」ということです。
一度「抜けた」感じと、
それから少しずつ「増えていく」感じは、
あ、これはもう「薬物への依存」という
ジャンルなんだなぁと、よくわかりました。 |
三宅 |
タバコって、
無理にやめたら、いけないですよね。
知りあいに、すごい吸ってたんだけど、
「宇宙人に会ってから
タバコを吸わなくなった」
という人がいるんです。
もともと、UFOの番組を作っているような
放送作家のかたなんだけど、あるときに、
寝たら、金星人だかなんだかに会ったそうで。 |
糸井 |
(笑) |
三宅 |
それで起きて、いつものように
タバコを吸おうと思ったんだけど、
いきなり歯を磨いている自分がいて。
「あれ? なんで歯を磨きたいんだろう?
おかしいな?
でも、とにかく、なんだか
タバコをぜんぜん吸いたくない……」
そのまんま、ずっと
タバコを吸っていないんです。
無理もせず……。
だから、宇宙人に会うと、いいですね。 |
糸井 |
あはははは。 |
土屋 |
(笑)宇宙人禁煙法。 |
三宅 |
ぼくは、まだ
宇宙人に会っていないので、吸っています。
無理してやめると、
ストレスのほうが大きいと言いますから。 |
糸井 |
ぼくも、長く吸っていたから、
すごくよくわかるんですけど、
禁煙が続かない人の理論って、
さっき土屋さんが言っていた
「ちょっとなら戻れる」の、ひとことなんです。
「一服だけなら、オッケーじゃないか」という。 |
土屋 |
ぼくも、
禁煙して三か月経ったときに、
完全に「抜けた」感じが、あったんです。
「タバコって、
なんで吸っているんだろう?」
という境地にさえ達していました。
ところが、まぁ、あることが起きて、
「グレてやる!」と……。 |
糸井 |
わはははは。 |
土屋 |
それで、吸ったんです。
で、翌日。
もうグレる必要もないんだけど、
グレる余韻があって、
ちょっとだけ吸ってみる。
一日休んで、その次の日にまた……
そう言っているうちに、
すっかり喫煙者に戻ってしまいました。
ここ数日は、仕事の途中に、
社内の決められた喫煙の場所まで
はるばる行って吸う、
ということになっています。
そうすると、まあ、
昔の喫煙仲間がいるわけで、
「久しぶりに帰ってきたね。おかえり!」
みたいなことになるので、
うれしいんだか、かなしいんだか、
微妙なところでして……。
ただ、またいつか、
禁煙してみようかなとは思っていますけど。 |
糸井 |
わかります。
ぼくは、吸わなくなって一年経ちましたが、
そこの「戻ってしまいました」という
気持ちへの理解がなくなったら、
やっぱりイヤな人間になっちゃうだろう、
とは思うんです。
だから、ぼくは、土屋さんに対して、
ものすごく、あたたかいですよ。
いま、土屋さんが
禁煙している人間にありがちな考えを
どんどん展開しはじめて、
「男には破滅願望というものがあって、
タバコも、死への誘いのひとつだ」
とか、考えれば考えるほど
ややこしくなっている姿も、
かなりおもしろがっていますし。
吸っている人、
吸うのをやめようとしてやめられなかった人、
吸わない人……。
ぜんぶ、紙一重ですよね。
だから、それを責めたてる人がいるのは、
よくないと思います。 |
三宅 |
土屋さんが
「禁煙していたのに、
また吸っていてうしろめたい」
というのは、やっぱり、
人に「やめろ」と言ったのに
自分で吸っているから、ですか? |
土屋 |
そうです。
そこだけなんです。
「いかにも根性なし」みたいな……。
「はいはい、そうです、
わたしは根性なしですよ」
みたいな感じは、ありますよね。
ただ、感謝はされましたね。
松本(人志さん)には、
「まぁ、土屋さんが禁煙したおかげで、
ぼくはやめられたから、
それだけでも、よかったんじゃないの」
と、なぐさめられました。 |
三宅 |
土屋さんが吸っていても、
それで迷惑がかかるわけじゃないし、
それでいいと思うんですよ。
そこを目くじら立てて
「根性なし」って言うのは、
よくないですよね。 |
糸井 |
うん。
ぼくは、禁煙をやりはじめて数か月間の
「……ちょっとだけなら、吸ってもいいよなぁ」
という気持ちを、自分で編み出した
「おっぱい理論」で消すことにしたんです。 |
三宅 |
なんですか? それは。 |
糸井 |
町角にいる人に
「ちょっとだけ、
おっぱい吸わせてもらっていいですか?」
とおねがいしたとしても、
「ちょっとだからいい」
ということは、まず、ありえないですよね。
手鏡でスカートの中を見てつかまった学者も、
きっと
「ちょっとぐらい見たってわかんないだろう」
という気持ちだったと思うんです。
だけど、人生を棒に振りそうなぐらい、
いろいろ言われることになる……
タバコも、性とおなじなんです。
「ちょっとならいい」
ということは、あんまり、ないんですね。
そういうふうに考えることにしました。
たとえば、もしも全世界の女性が、
三宅さんのことを大好きで、
「いつでも抱かれるわ!」
っていうふうに思っていたとしたら、
痴漢は成立しないですよね。
その場合には、相手がオッケーなんだから、
ちょっと触ろうが、ずっと触っていようが、
なんの罪にも、ならないんですから。
ただ、
そういう世界ができていない場合には、
ちょっと触っただけで、
たいへんなことになるわけで……。
そうやって、タバコを
「ちょっと」も吸わないことについて、
「タバコもそうだ。根本的に
『ちょっとならいい』ということはない」
と、自分を納得させることにしたんです。 |
三宅 |
あのう……糸井さん、町中で
「ちょっとだけ、
おっぱい吸っていいですか?」
と聞いたことありますか? |
糸井 |
ないです。
三宅さん、あるんですか?(笑) |
三宅 |
ぼく、そのことについては、
昔から思っていたんですけど、
たとえば、心から吸いたいと感じた
百人ぐらいの人に、まじめに
「ほんとうに、おねがいします」
と頭を下げたら、絶対にひとりぐらいは
OKを出すんじゃないかと思うんです。 |
糸井 |
そうですよね。
ぼくも、すごく若い頃に……
枯れるほど頭を使ったあとに、
精も根も尽き果てて、自分のなかが
カラッカラになったことがあるんです。
そういうときに、目の前の女の子の知りあいに
「悪いけど、ちょっとそれ、触らせてくれる?」
と言ったら、「はい」って。
勢いだけなんですけど
「そういう意味じゃないですから」
って、触ったことがありまして。 |
土屋 |
(笑)でも、そういう意味ですよね。 |
糸井 |
(笑)ああいうのって、
こちらに言える権利があるような、
ヘトヘトな状態で、しかも
本気じゃないと無理でしょうけど。 |
|
(次回に、つづきます) |