第7回 『マリオギャラクシー』

糸井 『Wii Fit』は、あきらかに
これまでのゲームとは違うものですけど、
『マリオギャラクシー』も
そうとう新しいことをやってますよね。
ぼくは、何日かやっただけなんですけど、
そうとう「ワー、キャー」言いましたから。

宮本 (笑)
糸井 前だの後ろだの、上だの下だのということで
あんなにおもしろがれるとは思わなかったです。
あの重力をテーマにした遊びは、
完全に未体験ゾーンでしたよ。
自分のこれまでの世界というのが
いかに狭いものだったかというのを
ゲームをつくっている人に
教えられた気がしました。
宮本 ああ、ありがとうございます。
糸井 「重力」というのは、宮本さんが
自分から出したテーマだったんですか。
宮本 そうです。
糸井 ゲームの最初に、丸いもののなかへ
ヒューッと落っこちるじゃないですか。
それで向こう側に行って、
大丈夫だってわかったときに、
ものすごくインパクトがあった。
宮本 あ、うれしいな、それは(笑)。
ぼくはそこを、『マリオギャラクシー』の
「つかみ」として入れたつもりなんですよ。
あそこで最初に驚いてもらって、
新しい世界に来たぞ、というふうに
感じてもらいたかったんです。

糸井 いや、ばっちりつかまれましたよ、ぼくは。
宮本 いいお客さんです(笑)。
糸井 だって、あんなことって、
ふつうはあり得ないことだからね。
宮本 ねえ。もうシュールレアリズムの域ですよ。
糸井 あれを最初に1回やっちゃったおかげで、
その後のいろんな理不尽に対しても、
「あれをやったんだから」って、
許せるようになるわけだし。
宮本 ああ、さらにいいお客さんだ!

糸井 だからね、ぼくはあれをやりながら、
「これを思いついた人は、
 いったいどうやってそれを
 ほかの人に説明したんだろう」
って考え込んじゃったんです。
宮本 ああ、なるほど(笑)。
糸井 仕様を書いてあの驚きが伝わるかというと
そうじゃないと思うんですよね。
「落ちても、こっちが足になる状態で‥‥」
って、口で説明したとしても
「え? もう一回言ってください」
ってなるような話でしょう?
宮本 そうなんですよね。
糸井 しかも、ひとつの球体で、
ひとつのステージであるともいえるし、
上下で分かれてたら
ふたつのステージだともいえるし。
宮本 6面体だったら6ステージできますし。
糸井 そういうことですね。
そんな3次元的な発想をね、みんなが理解して、
チームで動いてるんだと思ったら、
それだけでもう、かなり感動的で。

宮本 どういうふうに伝えたかというと、
最初に基本モデルをつくってもらうんです。
で、みんなはそれを見ながら理解していく。
糸井 基本モデルというのは
具体的にはどういうものなんですか。
宮本 ようするに、球面の上を、
マリオがぞろぞろ走ってるみたいなものです。
昔、ゲームキューブのプレゼン用につくった
『マリオ128』っていうデモソフトに近いもので。
それを触った人は、ある程度納得できる。
糸井 ああ、そうか、そうか。
じゃあ、実際に触ってもらって、
納得してもらうところからはじめるというか。
宮本 うん。そういう感じですね。
球体の上をぞろぞろマリオが歩いてて、
その球体に穴があいていると、
マリオがぞろぞろと球体のなかに入っていく。
それを動かしながら、「あ、こういうことか」と。
それを見てさらに誰かが広げてくれる。
糸井 つまりチームの感性を最初に鍛えるんだ。
宮本 そうでしょうね。
糸井 ずっと昔から、宮本さんはそれをやってますよね。
宮本 自分がそうやって積み上げてきたものですからね。
2次元のマップ上でやってたときのアイデアや、
自分の感じるおもしろさというのを
どうやってここに入れていったらいいかなという。
そのあたりは、つくって、触りながら、
ちょっとずつ積み上げていくという感じで。

糸井 なるほどねー。

(続きます)
2008-02-04-MON