糸井 |
新しいことを、
「お客さんが喜ぶこと」と重ねながら
考えていくというのはたいへんですね。 |
宮本 |
そうですね。
新しいものに取り組むときって、
最初のころはやっぱり
ネガティブな意見ばっかり出てくるんですよ。
「Wiiで体重を量る」と言っても、
「体重はお風呂場で量りますよね」とか、
「リビングで裸になる人はいませんよ」とか、
「リビングに体重計があるとジャマです」とか、
そういうことばっかり言われる。
だから、そのたびに、
「リビングに置いておきたいと
思われるようにつくればええのやから」
というような話をしていくわけですけど、
まぁ、そういうことの連続ですからね。
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糸井 |
「やめよう」というのは、あり得えないんですか。 |
宮本 |
不思議なことにね、ぼくのなかにはないんです。 |
糸井 |
任天堂のそういう話を聞いて
いつもおもしろいなぁと思うんだけど、
「やめよう」はないんだよね。 |
宮本 |
「延ばそう」というのはあります(笑)。 |
糸井 |
(笑) |
宮本 |
その意味では、
もっと延びる可能性もありましたから、
年末に出すことができてよかったです。
スタッフの努力もあったし、運もあったかな。 |
糸井 |
でも、「やめよう」じゃなくて
「粘ればなんとかなる」っていうのは、
もともとのコンセプトのところで、
しっかりと磨いてあるからなんでしょうね。 |
宮本 |
あ、それはそうでしょうね。 |
糸井 |
そこは、宮本さんと岩田さんで
最初から共通認識があったという感じですか。 |
宮本 |
こういうものをやりたいと言ったときに
岩田のほうが乗り気だったくらいですね。
「それはぜひやりましょうよ」という感じで、
こっちも引けなくなったというか(笑)。
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糸井 |
互いに「いけるはずだ」って思ったんでしょうね。
あの、「○○のはずだ!」っていうときの
独特の真剣さって、ありますよね。 |
宮本 |
ありますね。
とくに、ものができていないときは、
そこを強く思わないと、
物事が進んでいかないですから。 |
糸井 |
うん、うん。 |
宮本 |
たとえば、今回の『Wii Fit』だと
周辺機器も同梱販売することになりますから、
そこの発注を早めにしなくてはいけないんですね。
とくに、製造に時間のかかる部品は、
最初に大量につくっておく必要がある。
生々しい話になりますけど、
世界中で300万本売ることを目指すなら、
部品をいきなり300万個つくらなくちゃいけない。
周辺機器のなかにその部品が4つあるなら、
300万×4で1200万個、発注しなきゃいけない。 |
糸井 |
スリリングですねぇ。
「いけるはずだ!」という確信のもとに
1200万個の部品を発注するわけですね。 |
宮本 |
けど、今回の『Wii Fit』は、それぐらいかけても
意味があるんちがうかなという気はしてましたね。 |
糸井 |
なるほど、なるほど。
でも、そこからブレないのもすごいですね。
新しいものに取り組むときって、
おもしろそうな脇道が
たくさん見えるじゃないですか。 |
宮本 |
ああ、そうですね。 |
糸井 |
たとえばぼくなんかだと、
さっきの左右のバランスを測定するときの
「禅みたいだ」っていう話がおもしろくて、
おそらく、その現場にいたら
「もう、『禅』だけで1本つくろう!」
みたいなことを言い出したと思うんですよ。
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宮本 |
ああ(笑)。 |
糸井 |
「ダメでもいいから『禅』でまずつくろう」って、
絶対に言うような気がする。
ぼくは、愉快犯みたいなところがあるので
たとえば『禅』という小さいものを出して、
それが小さく伝わっていくことを喜ぶんです。
『禅』じゃ母数が少なすぎるぞって知りながらも、
『禅』という遊びが全国の片隅で
遊ばれることを愉快がってしまうというか。 |
宮本 |
いや、でも、ものによっては、
そういう「小さな愉快」を広げるという
選択肢もあると思うんです。
たとえばニンテンドーDSで発想を広げるときは
そういう「愉快がる気持ち」が大切ですから。 |
糸井 |
あ、なるほど。DSはそうですね。 |
宮本 |
DSの発表をしたときにはね、
そういう「小さい愉快なもの」を
たくさん試作してみんなに見せたんです。
ところが、
「たしかにちょっとおもしろいけど、
それでゲームとして
満足できるパッケージになるの?」
みたいなことをさかんに言われた。
もちろん、その意見は間違ってないんですけど、
ぼくはどちらかというと個人的には
「小さい愉快なもの」がたくさんあったら
それだけでエネルギーになるんじゃないの?
って思ってしまうほうなんですよ。 |
糸井 |
うん、うん。 |
宮本 |
だから、そういう愉快なものと、
ある程度、過去の流れに沿ったパッケージと、
両方を混ぜながらつくりあげていけば
いいと思うんですけどね。 |
糸井 |
愉快なものをつくっても、
つくり手が「これでいいのか?」って
思っちゃうのかもしれませんね。
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宮本 |
ええ。とくに、過去のゲームのマーケットで
ずっとやってきた人というのは、
パッケージの値段やボリュームに対して
先入観をもってますから、
まずそこを取り払わないとダメですよね。
たとえば『脳トレ』の値段なんかは
「本を買う人にとって高いか、安いか?」
みたいなことを議論して決めたんです。
ゲームソフトが2800円というのは安いけど、
いつも本を買っている人にとっては
「本にしては高いな」ということになる。
この『Wii Fit』も、そのへんが難しいところで、
健康器具を買う人からしたら、
むちゃむちゃ安い、ということになるんです。
けど、いつもゲームを買う人からすると、
「大作RPG並の値段だ」ということになる。
まあ、最終的に、『Wii Fit』の値段は
その中間くらいの値段にしたつもりなんですけど。 |
糸井 |
だから、けっきょく、
なにか比べるものがわかりやすく
思い浮かぶようなものはダメなんでしょう。 |
宮本 |
うん。そうじゃないものにしたいなと。 |
糸井 |
だって、DSは、実際には
誰も本と比べなかったわけですし。 |
宮本 |
すなおに価値を見つけてもらえました。 |
糸井 |
『Wii Fit』も、実際にはみんな、
健康器具とも、ゲームとも比べずに
おもしろがっているような気がしますね。 |
宮本 |
そうなってほしいなと
思いながらつくりました。
(続きます)
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