第6回 新しいものをつくるときは

糸井 新しいことを、
「お客さんが喜ぶこと」と重ねながら
考えていくというのはたいへんですね。
宮本 そうですね。
新しいものに取り組むときって、
最初のころはやっぱり
ネガティブな意見ばっかり出てくるんですよ。
「Wiiで体重を量る」と言っても、
「体重はお風呂場で量りますよね」とか、
「リビングで裸になる人はいませんよ」とか、
「リビングに体重計があるとジャマです」とか、
そういうことばっかり言われる。
だから、そのたびに、
「リビングに置いておきたいと
 思われるようにつくればええのやから」
というような話をしていくわけですけど、
まぁ、そういうことの連続ですからね。

糸井 「やめよう」というのは、あり得えないんですか。
宮本 不思議なことにね、ぼくのなかにはないんです。
糸井 任天堂のそういう話を聞いて
いつもおもしろいなぁと思うんだけど、
「やめよう」はないんだよね。
宮本 「延ばそう」というのはあります(笑)。
糸井 (笑)
宮本 その意味では、
もっと延びる可能性もありましたから、
年末に出すことができてよかったです。
スタッフの努力もあったし、運もあったかな。
糸井 でも、「やめよう」じゃなくて
「粘ればなんとかなる」っていうのは、
もともとのコンセプトのところで、
しっかりと磨いてあるからなんでしょうね。
宮本 あ、それはそうでしょうね。
糸井 そこは、宮本さんと岩田さんで
最初から共通認識があったという感じですか。
宮本 こういうものをやりたいと言ったときに
岩田のほうが乗り気だったくらいですね。
「それはぜひやりましょうよ」という感じで、
こっちも引けなくなったというか(笑)。

糸井 互いに「いけるはずだ」って思ったんでしょうね。
あの、「○○のはずだ!」っていうときの
独特の真剣さって、ありますよね。
宮本 ありますね。
とくに、ものができていないときは、
そこを強く思わないと、
物事が進んでいかないですから。
糸井 うん、うん。
宮本 たとえば、今回の『Wii Fit』だと
周辺機器も同梱販売することになりますから、
そこの発注を早めにしなくてはいけないんですね。
とくに、製造に時間のかかる部品は、
最初に大量につくっておく必要がある。
生々しい話になりますけど、
世界中で300万本売ることを目指すなら、
部品をいきなり300万個つくらなくちゃいけない。
周辺機器のなかにその部品が4つあるなら、
300万×4で1200万個、発注しなきゃいけない。
糸井 スリリングですねぇ。
「いけるはずだ!」という確信のもとに
1200万個の部品を発注するわけですね。
宮本 けど、今回の『Wii Fit』は、それぐらいかけても
意味があるんちがうかなという気はしてましたね。
糸井 なるほど、なるほど。
でも、そこからブレないのもすごいですね。
新しいものに取り組むときって、
おもしろそうな脇道が
たくさん見えるじゃないですか。
宮本 ああ、そうですね。
糸井 たとえばぼくなんかだと、
さっきの左右のバランスを測定するときの
「禅みたいだ」っていう話がおもしろくて、
おそらく、その現場にいたら
「もう、『禅』だけで1本つくろう!」
みたいなことを言い出したと思うんですよ。

宮本 ああ(笑)。
糸井 「ダメでもいいから『禅』でまずつくろう」って、
絶対に言うような気がする。
ぼくは、愉快犯みたいなところがあるので
たとえば『禅』という小さいものを出して、
それが小さく伝わっていくことを喜ぶんです。
『禅』じゃ母数が少なすぎるぞって知りながらも、
『禅』という遊びが全国の片隅で
遊ばれることを愉快がってしまうというか。
宮本 いや、でも、ものによっては、
そういう「小さな愉快」を広げるという
選択肢もあると思うんです。
たとえばニンテンドーDSで発想を広げるときは
そういう「愉快がる気持ち」が大切ですから。
糸井 あ、なるほど。DSはそうですね。
宮本 DSの発表をしたときにはね、
そういう「小さい愉快なもの」を
たくさん試作してみんなに見せたんです。
ところが、
「たしかにちょっとおもしろいけど、
 それでゲームとして
 満足できるパッケージになるの?」
みたいなことをさかんに言われた。
もちろん、その意見は間違ってないんですけど、
ぼくはどちらかというと個人的には
「小さい愉快なもの」がたくさんあったら
それだけでエネルギーになるんじゃないの?
って思ってしまうほうなんですよ。
糸井 うん、うん。
宮本 だから、そういう愉快なものと、
ある程度、過去の流れに沿ったパッケージと、
両方を混ぜながらつくりあげていけば
いいと思うんですけどね。
糸井 愉快なものをつくっても、
つくり手が「これでいいのか?」って
思っちゃうのかもしれませんね。

宮本 ええ。とくに、過去のゲームのマーケットで
ずっとやってきた人というのは、
パッケージの値段やボリュームに対して
先入観をもってますから、
まずそこを取り払わないとダメですよね。
たとえば『脳トレ』の値段なんかは
「本を買う人にとって高いか、安いか?」
みたいなことを議論して決めたんです。
ゲームソフトが2800円というのは安いけど、
いつも本を買っている人にとっては
「本にしては高いな」ということになる。
この『Wii Fit』も、そのへんが難しいところで、
健康器具を買う人からしたら、
むちゃむちゃ安い、ということになるんです。
けど、いつもゲームを買う人からすると、
「大作RPG並の値段だ」ということになる。
まあ、最終的に、『Wii Fit』の値段は
その中間くらいの値段にしたつもりなんですけど。
糸井 だから、けっきょく、
なにか比べるものがわかりやすく
思い浮かぶようなものはダメなんでしょう。
宮本 うん。そうじゃないものにしたいなと。
糸井 だって、DSは、実際には
誰も本と比べなかったわけですし。
宮本 すなおに価値を見つけてもらえました。
糸井 『Wii Fit』も、実際にはみんな、
健康器具とも、ゲームとも比べずに
おもしろがっているような気がしますね。
宮本 そうなってほしいなと
思いながらつくりました。



(続きます)
2008-02-01-FRI