糸井 |
宮本さんが『Wii Fit』をつくるとき、
いちばん最初に大きな旗印として
決めていたことはなんだったんですか。
やっぱり「健康」ですか。
|
宮本 |
ええと、そうですね。
こういう広報的な場所では、
「健康をテーマにしました」と答えて
間違いないと思うんですけどね。 |
糸井 |
もっと違うテーマが? |
宮本 |
いえ、違うわけじゃないんですけど、
「健康」っていうのは漠然としてるでしょう?
実際に、開発の現場でそれをテーマにすると
最終的に、まとまらないと思うんですよ。
|
糸井 |
なるほど、なるほど。 |
宮本 |
だから「健康をテーマにする」というのは
ウソではないんですけど、
あくまでも表向きのコメントで、
現実的なテーマがなんだったかというと
「体重を量る」なんですよ。 |
糸井 |
あーー、そうですか。 |
宮本 |
絶対にやろうとしていたのはそこです。
「体重を量る」というところに
なにかおもしろいことはないか、という。
で、「体重を量る」ということは
絶対に健康につながるという確信はあるので、
商品としては「健康がテーマ」といってもいい。
|
糸井 |
うん、うん。 |
宮本 |
けど、ぼくがつくるものは、
あくまでも「体重を量る」もの。 |
糸井 |
いや、その話は、とてもよくわかる。 |
宮本 |
ええ、糸井さんにはわかってもらえるので
そこまで言ったほうがいいと思って。 |
糸井 |
つまり、はじめから「健康」がテーマだと、
その人との関係が出ないじゃないですか。 |
宮本 |
そう。そうなんですよね。 |
糸井 |
「大豆を食べたほうが体にいいのよ?」って
誰かに言われるのと同じようなことだからね。
ところが「体重を量る」からはじめると
「あなた」とのトータルな関係がはじまる。 |
宮本 |
はい。 |
糸井 |
じゃあ、もう、体重計というか
あのバランスWiiボードの開発というのも
最初から決まっていたわけですね。 |
宮本 |
決まってたんですけど、
「体重を量るだけでおもしろいのか」というのも
開発当初からずっと言われていたことで。
|
糸井 |
ああ、そうでしょうね(笑)。 |
宮本 |
やっぱり、周囲からは
「体重だけじゃおもしろくならないだろう」
という声も出てくるわけです。
まあ、それはたしかにそうかもしれない。
で、あるとき体重計をふたつ組み込んで、
左右のバランスを測定できるようにした。
そこではじめて「あ、遊べる」ってなったんです。 |
糸井 |
体重以外の軸ができたんですね。 |
宮本 |
そうですね。左右にバランスをとれるだけで、
けっこうな遊びがつくれるぞ、と。
まず、その上に乗ったときに、
自分の体重の何パーセントがどっちにかかってるか
というのを数字で表す仕組みをつくったんです。
で、自分で乗ってみたら、測定以前に、
自分の重心がなかなか定まらないんですよ。
静止しているつもりでも、ふらふら動いてしまう。
測定の精度を高くすると、ぜんぜん止まらない。
で、「ちょっと待って、ちょっと待って」と言って
動かないように集中しているあいだに、
だんだんヨガをやってるような気分になってきて。
|
糸井 |
(笑) |
宮本 |
こう、呼吸を整えて、目を半眼にして‥‥
っていうふうにして時間をかけてやると、
ようやく重心が止まって測定がはじまるんですね。
でも「止まった!」って思うと
もうドキドキして、また動き出してしまう。
これだけでもおもしろいな、とか言って。 |
糸井 |
それはもう、「禅」ですね。 |
宮本 |
そうそう。「禅の世界やね」と言ってたんです。
雑念が入ると、もうダメですから。
で、そこから発展して、センサーを4つに増やして
前後にも測定できるようにしたんです。
そうするともう、カーソルなんかも
ぐいぐい動かせるようになる。
「じゃあ、スキーはつくれるはず」とか、
「フラフープはどうだろう」とか、
「綱渡りもできる」という感じで、
どんどん広がっていったんです。 |
糸井 |
「体重を量る」からはじまって、
センサーの数を増やしたというのが、
大きなポイントになったんですね。 |
宮本 |
そうですね。
あともうひとつ、大きなポイントがあって、
それは、スポーツジムのトレーナーに取材して
いろんなトレーニングをビデオに撮ったときに
わかったことだったんですけど、
やっぱり、トレーニングの基本姿勢というのは
「肩幅で立つ」ことなんですよ。 |
糸井 |
ほう。 |
宮本 |
いろんなトレーニングを
できるようにしようとすると、
やっぱり、狭い体重計の上ではできないんです。
なにをするにしても肩幅で立ってないと難しい。
たとえば、腕立て伏せをするときにも
やっぱり肩幅くらいのスペースが必要なんですよ。
そういうことがわかったときに、
「もう体重計から離れて、
新しいインターフェイスにしよう」
ということになったんです。
|
糸井 |
それまでは、もっと小さかったんだ。 |
宮本 |
もうちょっと小さかったんです。丸かったし、
右と左も、もっとはっきり分かれてたんです。
それを、いまのボードの形に決めてからは、
ザーッといろんなことが決まっていきましたね。 |
糸井 |
そこまでどのくらいかかってるんですか。 |
宮本 |
1年か、1年半ぐらいですかね。 |
糸井 |
はーーー。
(続きます)
|