糸井 |
あの、さっきから感じてるんですけど、
なんかね、こう、しゃべってて、
ゲームの感想を言ってる気がしないんですよね。 |
宮本 |
ああ(笑)。 |
糸井 |
そういうもんなんだよね、
『Wii Fit』ってね。 |
宮本 |
じつは、つくる側にもそういう感覚はあるんです。
つくってて、ゲームをつくってるという
意識がなくなってくるんですよ。 |
糸井 |
はぁーー、そうですか。
だけど、そのチェンジは、つくり手としては
じつはたいへんなことじゃないですか。 |
宮本 |
うーん、言われてみると、そうですね。
でも、徐々にそういう感じになってきたので、
あまり「たいへんだ!」とは感じなかったですね。
やっぱり、『ニンテンドッグス』をつくったりして
だんだん慣れていったんだと思いますけど。
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糸井 |
ああ、そうか、そうか。
いま思えば『ニンテンドッグス』のときから
とっくにはじまってますものね。 |
宮本 |
そうですね。だから、いまはもう、
「過去のゲーム文法に、はまらないもの」
をつくるのが当たり前になってきてますから。
それこそニンテンドーDSの当初は
半信半疑でみんなに訴える、
みたいな感じでしたけど、最近は
確信をもってやれるようになってきたというか。 |
糸井 |
いずれにせよ、宮本さん自身は、
自然にスッと変化できたんですね。 |
宮本 |
わりと、そうですね。なんなんでしょうね。 |
糸井 |
でも、『Wii Fit』をつくりながらも
『マリオ』だってつくってるわけでしょう?
『ゼルダ』もつくってたわけだし。 |
宮本 |
考える方向は同じなのかもしれません。
材料はぜんぜん違うんですよ。
でも、やり方はそんなに変わらないというか。 |
糸井 |
はぁー、そうですか。
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宮本 |
これまでにつくってきたゲームとは
ぜんぜん違う材料を目の前に置いて、
「どうなったらうれしいかな?」と
ずっと考えていくわけですよね。
で、そこで思いつくことは、
いままでにつくったゲームと同じやり口だったり、
これまではできなかった手口だったりする。 |
糸井 |
なるほど、なるほど。
材料を前にしてお客さんのことを考える、
というところでは同じ。 |
宮本 |
そうだと思いますね。
同じように取り組みながら、
違いをたのしんでるのかもしれません。 |
糸井 |
だけど、苦労する人も多いでしょう?
たとえば、ふつうのゲームを開発してた人が、
ある日、急に『Wii Fit』のチームに入ったら
いろいろ困ったりするんじゃないですか。 |
宮本 |
そう、そう。
突然入った人は、けっこう戸惑うんです。
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糸井 |
こんなことが、みたいな例はあります? |
宮本 |
ええとね、たくさんあったんですけどね、
うーん‥‥こうしてあらためて訊かれると
妙に出てこないもんで(笑)。 |
糸井 |
ははははは。 |
宮本 |
うーん、困ったな、
たくさんあったはずなんですけどね。
いろいろ言って、直した記憶があるんですけど、
いや、これでは取材にならへんね。
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糸井 |
いや、ぼくもそういうタイプだから大丈夫(笑)。
「いっぱいあったよ!」って言って
「たとえば?」って訊かれると
「だから、いっぱいだよ!」みたいな。 |
宮本 |
あははははは。
あ、ひとつ思い出した。 |
糸井 |
おお、お手柄。 |
宮本 |
といっても、すごく小さい話なんですけど。
あの、『Wii Fit』のなかにはグラフがあって、
そのグラフを選ぶときのために
グラフアイコンというのがあるんです。
ようするに、小さいグラフの絵が、
マークのように描いてあるわけです。 |
糸井 |
はい、はい。 |
宮本 |
そのアイコンの絵に描いてある
グラフが「右肩上がり」なんですよ。
『Wii Fit』の基本的な考えとしては、
グラフを「右肩下がり」にしたいわけです。
つまり、このゲームにおいては
ネガティブな「右肩上がり」のグラフが
わざわざアイコンにつかわれていて。
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糸井 |
ああ、グラフといえば、
「右肩上がり」だという先入観で。 |
宮本 |
そうそう。
ま、これは深刻なミスじゃなくて、
軽い笑い話なんですけど、
「過去につくったものに縛られずに作ろう」
というのはずっと言ってたテーマでしたね。 |
糸井 |
つまり、同じ道具でも
使い方が逆になることがあるんだよ、
ということですね。 |
宮本 |
そうなんですよ。
「これの価値というのはなんなのか」ということを
そのときどきできちんと考えると、
たとえ過去の手法であっても
違う応用のしかたがあるんです。
つくっていてたのしいのはそれを発見することで、
プロデューサーの立場からいうと、
そういう、現場が見落としていることを
ひとつひとつ見つけていくのは
けっこう、たのしかったですね。
(続きます)
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