糸井 |
声をつぶしちゃったコンサートのとき、
喋りの声はちゃんと出たんですか? |
中島 |
一応カスカスでも
出てりゃなんとかなりますからね。 |
糸井 |
声が出ないってわかったとき、
真っ白にはならないんだね。
気を確かに持っていたんだね。
素晴らしいですよね、それ。 |
中島 |
帰ろうとは思わなかったですよ、
とりあえずね。 |
糸井 |
よく言うセリフだけど、
「真っ白になった」
っていうのあるじゃないですか。
だいたいの失敗って、
真っ白になって失敗してるんですよね。
真っ白にさえならなければ、
なんとでも色々やり方が。
さっきの払い戻しも含めて。 |
中島 |
歌詞の真っ白はしょっちゅうですよ。
今まで覚えてるのに、ハーッて息吸ったら、
「まぁ、なんだったかしら」
みたいなのはしょっちゅうですけれど。
あのときは姑息なことにね、
「これで一本飛ばしたら、
私いくら払わなきゃなんないんだろう」
って思いましたわ。
それよりもっと前に、九州でコンサート、
実際風邪引いて、お客さんが来る前にね、
中止にしたときがあって、
膨大な金額の損出をしたんですよ。
それが浮かびました。
払うくらいなら、なんとしてもこのまま
いっちまえ〜、と(笑)。 |
糸井 |
自分で声が出ないってことに気付かないで
ステージに上っている人って、
夢の中の話みたい。 |
中島 |
ステージをやると、ほんと、
てんこ盛りの話題ってあるもんですよ。
裏は裏、表は表で。 |
糸井 |
それ、経験したときは
なにかが強くなってますよね。 |
中島 |
ええ、そうですね。
きっと強くなれるわ(笑)。
学習はしないんだけど。 |
糸井 |
さっきのさ、いつまでもできないとか
完成しないとかっていうのと同時に、
強くなってるのは確かだよね、人って。
なにかしらは強くなってる。
強くなってるけど、わかりゃしないんだよ。
強くなるって、
どういう意味なんだかわからないけど、
いろんなことに対処できる
自分は作れてますよね。 |
中島 |
うん。 |
糸井 |
でも、ほんとに大事なことはわかってるかって、
わかってないですよね。 |
中島 |
めげれば誰かが助けてくれる、
かわいこちゃんの時代は終わったのよ。 |
糸井 |
とっくに。 |
中島 |
うん、メゲても誰も助けてくんないから、
自分でなんとかしなきゃなんないのよ。
で、「負けんもんね」なの(笑)。 |
糸井 |
『海馬』って本を出してる
池谷裕二さんっていう神経科学の方がいて、
久しぶりでお会いしたときに、
情報って、インプットのときには
なんにもなんないんだって教わったんです。
例えば「この道具は何々をするためのものです」
って、いっくらインプットしても、
なんにもならないと言うんですよ。
だけどその通りに使ったときに初めて、
「こうやるといいんですよね」っていうのを、
脳が憶えるんだと。だからいっぱい、
頭でっかちにいろんなことを知ってるってことは、
基本的にはなんにもなってない。
でもたくさんインプットしてなくたって、
「これってこうするんだよ」っていうのを
何回かやってみた人は、
そこの部分の能力が高まる。
使ったときに鍛えられるらしいんですよ。 |
中島 |
うんうん、そうですね。 |
糸井 |
強くなってるよねって言ったのも、
声が出なかった経験なんか
誰もしたことないんだから、
したっていうだけで。 |
中島 |
その前に色々やらかしてるのが、
瞬時に蘇りますもの。
階段を踏み外して
後ろ向きに落っこっちゃった瞬間とかね(笑)。 |
糸井 |
すごいね、それ(笑)。 |
中島 |
ああいうことがダーッと、
「あんとき、どうしたっけ?」みたいなのがね、
日ごろ考えられないようなスピードで
蘇るもんですよね。 |
糸井 |
素人のまんまで生きている、
みゆきさんと同じ遺伝子のかたが
もうひとりいらっしゃっても、
そのかたは中島みゆき環境の中にはいなくって、
中島みゆきとしての経験は全然ない。
ものすごく差が付いているんですよ、きっと。
“誰かさん”になるっていうことは、
要求されることがどんどん増えるぶんだけ、
答えを出すっていう経験をたくさんするから、
そこで鍛えられているものが、
ものすごくあるんでしょうね。
だから、かわいこちゃんでいるときには
経験しなかったものが、
自分でやらなきゃって言ってから、
どんどん伸びてるっていうか、
強くなってるっていうか。
“誰かさん”であることって、
“誰かさん”であるって言われた途端に、
もっと伸びるチャンスだったんだね。
“誰かさん”になっちゃったほうが、
すごいね、人生は。
濃くなるね、つらいけど。 |
中島 |
ははははは。 |
糸井 |
ということなんだろうね、きっと。
今、聞いてて、
「そんなやつぁいねーよ、他に」
と思ったもんね、やっぱり。
やっぱり料理の先生は、料理をいっぱい
憶えているんじゃなくて、作っているし。
だから中島みゆきをやってきたっていう経験は、
もっと中島みゆきを作っているんだろうね。 |
中島 |
名編集者とあとで言われるような人たちって、
みんな作家の人達から
ひどい目に遭ってますもんね。
裏口から逃げられたとか、
行きそうなところへゲタ持って追っかけたとか、
けっこう豪傑がいっぱいいますもんね。
ちゃんといろいろ食らってるんだ。 |
糸井 |
食らってるんだね。
うん。あと、訊かれることが
ものすごく増えるじゃないですか、
“誰かさん”っていう立場になると。
「なんとかですか? なんとかですか?」って。
考えてもいないことばっかり訊かれますよね。
つまり、「好きな花は?」でさえ考えてないですよ。 |
中島 |
ああ、そうね。 |
糸井 |
答える回数に合わせて、
そこの脳が作られますよね。 |
中島 |
そうね。一番困っちゃうのが、
もう答えを用意している質問ね。
こう答えることを想定してもう原稿ができていて、
なんとかそこへ持っていかなきゃ気が済まない
タイプの質問の人。 |
糸井 |
誘導されちゃうんだ。 |
中島 |
「ないって」って、なんぼ言っても、
「でもね」って、そこへ持っていきたいタイプ。
これ、困ったもんですよね。 |
糸井 |
それはどっちのためにもならないね。 |
中島 |
ならないですね、発展しない、なーんにも。
そんで脱走したことあったな。 |
糸井 |
脱走した?! |
中島 |
うん、つまんないから帰っちゃった。
「トイレ行きます」って言って逃げちゃった。 |
糸井 |
それも一個の経験ですよね。 |
中島 |
最近なら、もうちょっと丸いやり方が
あると思うんですけど、
若いころはちょっと
トンガってたもんですから(笑)。 |
糸井 |
丸くてイヤミなのもあるからね。 |
中島 |
はーい(笑)。 |
糸井 |
丸いイジメ方。 |
中島 |
ああ、いいですね、目指したいですね、
はんなりと、グッサリと。 |
糸井 |
ほんまによう知ってはりますなぁ(笑)。 |
中島 |
うふふふふふふ。 |
── |
お時間もそろそろ。 |
糸井 |
ずーっと馬鹿話をしてたような気がしますけど、
『真夜中の動物園』、
ぼくはとっても傑作なアルバムだと思ってます。 |
中島 |
ありがとうございます。 |
糸井 |
ここからなにかまた始まる予感がありますね。 |
中島 |
個人的に好きなもんを
ベロッと出してみましたって感じですね。 |
糸井 |
やっぱりそういうことですか。
やっぱり着ぐるみだからかもしれないですね。 |
中島 |
そうですね。 |
糸井 |
面白かったです。ありがとうございました。 |
中島 |
ありがとうございました。
コンサートにぜひおいでくださいまし。
日々初心でやりたいと思います(笑)。
(おわり‥‥ですが、この下に、
おまけがあります。どうぞクリックして
読んでくださいねー。
どうも、ありがとうございました!) |