会社をつくるということは。お金と、投資と、どう生きるか、の話。

みなさんもご周知のとおり、
今年の3月16日に「株式会社 ほぼ日」は
東証ジャスダックに上場いたしました。
そんなお祝いムードも
すっかり落ち着いた9月某日、
みずほ証券の今泉泰彦会長
東京証券取引所の岩永守幸常務
おふたりをオフィスにお招きして、
糸井重里とおしゃべりしていただきました。
はじめは「株の買い方」や「投資の心得」など、
現実的なことを話すつもりだったのですが、
いざ3人で集まってみると、
話のテーマは思った以上に深い方向へ‥‥。
お金のこと、経済のこと、
いまだから話せる上場のことなど、
思わず「へぇー」や「なるほどー」という
エピソードがたくさんとびだしましたよ。
全6回、どうぞ気楽におたのしみください。

02

投資と資産形成のちがい。

2017-10-27-FRI

糸井
いまと昔をくらべると、
証券市場のルールや参加者は、
変わってきているんでしょうか。
岩永
変わってきてますね。
いまの証券市場は
「公平」がキーワードなんです。
糸井
ということは、
昔はそうじゃなかった?
岩永
昔の証券取引というのは、
人が知らない情報を知っていることが、
利益に結びついていました。
それがオーケーな時代だったんです。
糸井
そのルールが変わるきっかけが、
なにかあったんでしょうか。
岩永
1996年あたりから
「金融ビックバン」という、
日本の金融・証券市場制度の
環境や規制を根本的に変えようという
大規模な動きがあったんです。
糸井
そんなに昔の話じゃないですね。
岩永
そんなに昔じゃないです。
それまでは、
ある重要な情報を知っている人が、
それが公になる前に
株を売ったり買ったりして、
もうけることができました。
でも、いまはそれをすると、
インサイダー取引で罰せられます。
糸井
ひと昔前に、
ギューちゃん(赤羽丑之助)が
主人公の『大番』っていう
相場師の小説がありましたよね。
株の予想屋たちが
内密の情報をやりとりして、
株取引で大もうけしたりという。
昔はそれがヒーロー物語であり、
人情物語にもなったんですよね。
その意識でいる人は、
いまもいらっしゃるんでしょうね。
岩永
いらっしゃいますね。
ただ、東証としては、
「預金を株式投資に振り向けて、
将来にそなえる投資家」を
もっと増やしたいとかんがえています。
糸井
やっぱり投資家の数というのは、
全体で増えたほうがいいんですか。
岩永
いま、日本の個人の金融資産は、
1800兆円以上といわれていて、
現金預金は900兆円を超えています。
つまり、銀行にお金がたまるばかりで、
世の中にぜんぜんまわってないんです。
糸井
それをなんとかしたいわけですね。
岩永
そのお金を世の中に流すには、
銀行さんを経由して
融資にまわすというのが、
王道としてあります。
それからもうひとつは、
「株式投資」というのがあります。
糸井
はい。
岩永
ただし、値上がりしたら売ってもうけるという
昔のような感覚での株式投資ではなく、
株式を利用して、将来の備えとしての
「資産形成」をしていくことを、
国を挙げて奨励しています。
そのひとつに「確定拠出年金」があります。
せっかく政府が税金のかからない
優遇措置を用意してくれているわけですから、
みなさんもっと活用していいと思うんです。
糸井
いま岩永さんは
「非課税の優遇措置がある」という話を、
当然のようにされていましたが、
それがチンプンカンプンの人って
けっこういると思うんです。
(ほぼ日乗組員Aをみて)
いまの意味、ちゃんとわかりました?
乗組員A
あ、ええと‥‥あんまり‥‥。
糸井
(ほぼ日乗組員Bをみて)きみは?
乗組員B
ぼくも、すこしポカーンと‥‥。
岩永
ああ、そうでしたか(笑)。
糸井
そうでしょう。ポカーンでしょう。
ということなので、
もうすこし詳しく
話していただけますでしょうか。
岩永
はい、わかりました。
まず、いまアメリカ人の個人がもつ
金融資産の45%は株や投信なんですね。
一方、日本人は52%が現金預金です。
つまり、アメリカ人は、
日本人が銀行にお金を
預けるのとほぼ同じ感覚で、
株や投信を買ってることになります。
糸井
(ほぼ日乗組員を見て)
「投信」っていうのは
「投資信託」のことです。
お金を自分で運用するのではなく、
専門家にお願いすることをいいます。
乗組員A
あ、そうなんですね。
乗組員B
ご丁寧にありがとうございます。
糸井
いえいえ。
岩永
そうですね(笑)。
で、いまやアメリカは
「投資大国」とも呼ばれてますが、
昔はぜんぜんそんなことなかったんです。
それが80年代ごろから、
国民の多くが投資に
興味をもちはじめたんです。
糸井
なにかあったんでしょうか。
岩永
80年代のアメリカは、
まさにいまの日本と同じような財政状況で、
このままでは社会保障制度が
破綻するだろうといわれていました。
それでアメリカ政府は、
「自分の老後の年金のために買った
投資信託の分配金からは
税金をとらないから、
みんなそのおトクな制度をつかって、
ちゃんと自分で資産形成してね」と、
国民が投資をしたくなるような
制度をつくったんです。
糸井
へぇー、それが80年代のことですか。
岩永
ちょうど82、83年ぐらいです。
それがきっかけで、
アメリカでは株や投資をする人がふえて、
いまや金融資産の45%を占めています。
しかもそれ以降、
多少の上下はありますが、
アメリカの株価は、
アメリカの産業構造が
変わっていくにつれてどんどん上がり、
そのとき100で買ったものは、
いまでは200、300ぐらいにはなってます。
糸井
つまり、いまの日本の状況が、
当時のアメリカと
すごく似ているわけですね。
岩永
おっしゃるとおりです。
いまのままでは、
若い人たちは払った金額以上の
年金をもらえなくなります。
そこで国が用意しているのが、
個人年金制度というもので、
企業の確定拠出年金とか、
iDeCo(イデコ)という
個人型確定拠出年金です。
これらはいずれも課税されません。
糸井
その口座で得た配当には
税金がかからない?
岩永
将来の資産形成のためなので、
60歳まで売り買いはできませんが、
課税はされません。
糸井
わかりました。
岩永
そういう制度もふくめ、
80年代のアメリカと同じようなことを、
まさにいまの日本が
やろうとしているわけです。
糸井
つまり、
将来のことをかんがえるなら、
自分のお金を銀行に
眠らせておくんじゃなく、
どうやってお金をつかうべきか、
自分で判断しようね、
という時代がはじまりそうである、と。
岩永
まさにそうですね。
お金をもっている人が
株式を買うのは「投資」です。
でも、これから大切なのは
投資ではなくて、
お金を持っていない人だからこそ、
将来に向けて「資産形成」を
しなきゃいけない。
いまがそれをはじめる、
すごくいいタイミングなんです。
乗組員A
なるほどー。
乗組員B
ふぅーん、そうなんだー。
(つづきます)

今泉泰彦

みずほ証券株式会社 取締役会長。
1956年生まれ。
1980年、東京大学経済学部卒業後、入社。
株式会社みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員、
株式会社みずほ銀行取締役副頭取などを歴任後、
2014年に「みずほ証券株式会社」の
取締役副社長兼副社長執行役員 法人営業統括副社長、
2016年に取締役会長に就任。
現在に至る。

岩永守幸

株式会社東京証券取引所 取締役 常務執行役員。
1961年生まれ。
1984年、慶應義塾大学卒業後、東京証券取引所入社。
90年米国ロチェスター大学でMBA所得。
東証と大証の経営統合後に発足したJPXにおいて、
CFOとしてグループ財務戦略の策定や
組織運営におけるコスト適正化を推進。
現在は、マーケット部門の責任者として
市場運営を総括すると共に、
投資者層拡大の責任者も務めている。