COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

第1回

第2回

いよいよ第3回。
アルバム「ムーンライダーズの夜」の話のつづきです。

糸井 あの20周年のアルバムって、すごく自分たちのために
作ってる感じがしたんだよ。
鈴木 自分たちの20周年だからね。
それを素直に出せば、いい贈り物になるんじゃないか
という思想なんだよな。
糸井 それをまたお客さんが、
内々として祝ってるっていう構造なんだよな。
内祝いなんだよな。壮大だなあ、内祝いなんて(笑)。

あれは、数字でいうのは失礼かもしれないけれど、
どれくらいのものなの?
鈴木 3万弱でしょうかね。
糸井 なるほどな、昔のまんまだよね。本ならすごいぜ。
鈴木 ただ、本のときの制作費っていうのがね、
レコードにくらべればね。
糸井 そうか、やはり物販の構造なんだな。
鈴木 すごいっていうのは、基本料金の問題だと思うんだよな。
糸井 数字ですぐ出ないな。
3万で、仮にひとりが純粋ソフトとして
500円で買ってくれたとするじゃない。
そうすると、1500万円が純粋ソフトとして売れるわけだ。
でも、CDだから、2300円とかだよね。
だから、ほとんど「ガワ(入れ物)」を
買ってるわけだよね。
1500万以上かかっているのかな?
すると、純粋ソフトとして、800円として
買ってくれる人が3万人いたら、何の問題もないよね。
あ、食えないか、それじゃ。
鈴木 そこで、何の問題もないと思ってないんだよみんな。
こんなに年月が経っててさ、
3万弱なんだけど。
糸井 食えるとなると15(万)かな、20かな・・・。
鈴木 なんか20いったら楽になれるんじゃないのってのを、
みんな考えてるよね。
露骨には出てないけどね、僕のほうに必ずあるのね。
これが不思議なことだよね。
糸井 それは、プロ野球の入団テスト受けるやつがさ、
MVPねらってるみたいなことがないとできないよ。
その動機って、けっこう重要だと思うんだけど、
ゲーム戦略としては間違っているんだよね。
そこがたぶん、みんなが見つけたい部分で、
さっきいった無力だとかと隣接している話だけれども、
3万でOKになったときには、本当にやりたいことができる。
俺は、それでいいんだと思うんだよ。
つまり、ちゃんと飯が食えてて音楽ができてて、
はっきりと3万人がいたら、3万人はバンドみたいな
ものだからね。
鈴木 次に何かを作ろう、新たなことをしようという
モチベーションを持ち続けられたらさ、
そこのクローズドされたなかでね。
糸井 下町のだんご屋さんが繁盛してる
みたいな話になっちゃうわけだ。
鈴木 そこから、やっぱり山の手にも1軒欲しいなとかさ、
そういう気持ちが常にあるじゃない。
でもそれはさ、全然隠蔽する必要もないんだろうし。
糸井 隠しちゃだめだしね。
鈴木 難しいんだよね。
糸井 パワーの問題をどう考えていくかだよなぁ。
俺のいうパワーってのは、
絶対に人は欲しがるもんだというね、
意味ないんだけどでっかいチンチンみたいなもんで、
いらないとは思うけれども、
持っていたらどうなるんだろう? みたいな。
ブルンブルン振り回したりしていれば、
「お前なにすんだよ!」とか言われたり、
ちょっとしゃくに触るみたいな。
でも、「できないから言うんだろう」と言われると
しゃくに触るから、
どうしても男の子になっちゃうじゃない、みんな。
鈴木 その程度の欲望がないと。
糸井 俺は、それ何か解決の方法があると思う。
つまり、それはアメリカ人は簡単に解決できるんですよ。
母国語がアメリカ語でしょ。
だから、ばらまける人口が多いんですよ。
3万が10万になる可能性っていうのは、
その延長線上にあるんですよ。
つまり、日本て、この狭い縄張りの中で
やらなきゃならないから
他人から獲ってこなきゃならないんだよ。
母数を増やすっていう発想がね、
日本では一番難しいんだよ。
鈴木 ずうっと洋楽ばっかり聴いてるわけだよ。
ずうっと洋楽ばっかり聴いてて、
それで、日本における、日本の中での欲望があるわけだよ。
なんか、矛盾してんだね。
昔に比べれば、日本のものも聴くようになったけれども。
特殊だからね。
特殊ってのがそれが日本的なことなんだろうけど。
糸井 不思議なのはビデオ屋で1Fにあるのは
全部が外国映画だよ。
で、レコード屋は売れてるのは全部日本のものだろ。
あの違いっていうのは、
俺もうちょっと考えたいんだよ。
まだ、途中なんだよね。
鈴木 たぶん映画のほうが、日本のなんか特殊なヒットチャート
みたいなものを生み出していないのかもね。
特殊音楽はできあがってるのに。
糸井 俺、1つヒントであるのがね、
外国のレコードには字幕がない。
ビデオは全部あるのに、
レコードは字幕がないっていう問題がある(笑)。
実は大きいんじゃないかと思ってるんだよ。
鈴木 まあ、言葉、音でしか聞こえないもんね。
糸井 で、あいまいでもわかればいいんだよ。
つまり、その、よくわからない英語が混じっていても
なんでもいいから、わかる気がしていればいいわけで。
だって、外国映画の字幕だって、
英語が本当にわかっている人が聞いてたらさあ、
よくもこんなに省略しちゃってって。
鈴木 2行で終わるんだって。
糸井 そう。
それともうひとつはね、ウォークマン以来、
脳に直なんですよ、レコードがみんな。
エアーを震わせないから、あそこで。
鈴木 まあ、震わせることもあるけれども、
一時は本当に箱庭だから。
コンピュータ内で。空気を通してない。
糸井 空気を通さないのはまずいよね。
鈴木 突然、空気を通しだしたんだよね。
糸井 このごろはそうだよね。
「ゆず」みたいなのが出てきた、
という理由があるじゃないですか。
鈴木 ああいうものって空気を通してる音だから、
どんどん出てきてるよね。早く出来上がるし。
糸井 アメリカでアンプラグドだとかって言ってた時期から、
やはり、いつものようにちょっと遅れてね。
鈴木 ただ、ぼくがこの前、ソロでまわったけど、
全部生ギターなんだけど、プラグドなんだよね。
糸井 生ギターのプラグ。
鈴木 生ギターなんだけれども、エレクトリックなの、気持ちが。
いろいろ場所によって、自分で音いじるしね。
自分で全て、それまではローディーみたいな人がいて
そのつど、そのつど、セッティングをしてくれるわけだよ。
ある程度は自分でするけれども。
まったく自分でやるっていうのは
本当に楽しいことなんだよね。
場所によって、弦も違う種類のものに変えるみたいなね。
音響的に考えて、やるわけだよ自分でできる範囲で。
こういう音楽の産業化したときのさ、
一番びっくりしたのはさ、
ギターテクニシャンていう職業があって、
糸井 はあ、いい言葉だね(笑)。
鈴木 たまげたんだけども、ビジュアル系に多いんだけどもさ、
自分のギターの音を誰かが作るわけだ。
ギターテクニシャンが。
糸井 オペレーターみたいなものなんだ。
鈴木 シンセとかにはいたけれども、ギターにまで
そういう人がいるようになったのか! っていうね。
約7、8年前かな。
ビジュアル系の人を僕がプロデュースしたときに
そういうギターリストがいっぱい集まってきたときね。
各々のギターテクニシャンを連れてくるわけですよ。
糸井 セットになってるんだ。
鈴木 その人たちにかかる金がすごいんだ、またこれが。
糸井 コンピュータの世界にそっくりじゃない。
鈴木 なんか、ギターっていうと、生身な感じだから
白井なんか見てると、全部自分で作るし。
エフェクター屋に行って、40万円くらい買っちゃう
とかいうやつだから。
シンセサイザー化してるなギターの世界も、
と思ったんだけれどもね。
糸井 意味はそういえば、同じですもんね。
弦を震わせるという意味では、入力が違うけど。
鈴木 ただ、入力が違うとかなり大きいんだよ。
糸井 素材が違うということだから。
鈴木 パワーが伝わるわけだよ。実は情報量が多いの、
もちろん、キーボードも強く弾けば、強くなるけれども、
数値化されてるわけだよ。
細かく数値化されてるわけだから。
糸井 ギターでも、ギターシンセサイザーみたいな
あっちにどうしてもいかない理由ってっていうのも
どうもそのへんなんだね。
入力の違い。
鈴木 それと、ギターシンセサイザーみたいなものを
使うんだったら、ギター弾いてたほうがいいや
と思ってたりするかもしれないし、
シンセサイザーに任せたほうがいいや
と思うかもしれないし。
糸井 どこかで、そのときしか出ない、非常に乱数的なものを
自分がいつでも入力できるんだっていう
自由の問題だよな。
鈴木 でも、キーボードでコンピュータに入力する場合にも
乱数的な場合もあるんだよ。
とにかく思いつくままデタラメに弾いてて、
デタラメなわけじゃない。
それをこう、冷静に聴いて判断するわけ、何個も何個も。
いいデタラメをとっておいて張り付けたりして。
糸井 よくそんなこと計画するね。
鈴木 面白いからね。
糸井 意外とそういうのは得意なんだ。
鈴木 これは、やらざるを得ないというのがある
と思うんだけれども、なんか、40歳になる前に
こういうのはおぼえておこうと思ったから。
糸井 英語習うみたいだね。
鈴木 そう、そう。自分で音を出せて、自分で
プログラミングができるくらいにはなってるから。
糸井 ちょうど、似たような話を俺がデザイナーと話してて、
うちの「ほぼ日」っていうのは、
秋山君っていうアートディレクターがいるんだけれども、
彼は、自分ではコンピュータを使わない人なの。
早い話がポスターを好きなやつなの。
ポスター好きって音楽でいうと、エアー通してる感じ。
道の向こうからでも見えるし、近寄っても見える。

その「B全」とか「B倍」とかっていう大きさの
ポスターを作るのが好きなんだよね。
ほかのも好きなんだけどね。
で、若いデザイナーと、自分の決定的な違いは、
うまいなと思うやつがいても、
モニター画面の大きさでしかデザインしてないって。
それはやっぱりね、大きいの作れないんだよね
っていうのをけっこう自信もって言うんだよ。
コイツ、食えるなっていう。
気持ちいいじゃない、聞いただけで。

で、確かにコンピュータ触ってると、
WEBデザインって、山ほどあって、みんなうまいんだよね。
だけど、よく見るとね、コラージュなんだよ。
よその何かの画を引っ張ってきたり、
他人が撮った写真を張り付けたりだとかね、
自分が原料を作っていないんですよ。
原料って、ポスターを作る場合、
写真を撮る現場から、
イラストレーターの打ち合わせから、
全部あって原料じゃないですか。
そこを抜きにして、だれかが作った原料を
DJしているものばかりなっちゃったら、
生産物、もうないってことなんだよ。
デザインの徹底的なリサイクルでしょ。
だから、秋山くんは、
絶対に自信があるんだと思う。
原料に関わっているっていう。
エアー通しているっていう。
それがね、多分音楽にも言えるし、
一番コンピュータのダメな部分。
つまり、全部人まねで、上手に編集できる人だけが
かっこよく見える。クールとか言われてる。
あれをね、変えなきゃいけない時期ですよね。

俺は、デザイナーと言ってる人たちのほとんどは、
オペレーターだと思ってるんですよ。
だからそのギターの話もオペレーターだらけになって
今度はプレイオペレーターができたんだな、と。
で、入れ替え可能でしょう、おそらく。
可能性があるのは、声か? あえて言えば。
鈴木 もう我がバンドで残っているのは
声、バイオリン、ギター、この3つなんだよ。
これだけが残ってるね。
ドラムは今でこそ、生になってるけれども、
ずいぶん叩いてなかったよ。
83、84年から、10年くらいは叩いてないんじゃない。
それで、ベースもドラムもキーボードも。
バイオリンとギターは肉体的に弾くもので
常に弾いてるわけだよね。
その他の人々は機械だったから、
今後どうなるかなと思ったら、面白いことにね、
久々にセッションしたりすると、はっきり感じたけれど、
腕前が上がってる。
それは腕前だと思うんだよ、簡単に言うと。
難しいことをやるわけではなくて、その、腕前だな。
組み合わさってるときに、その腕前が上がっているのに
気がついたんだな。

それは、どういうことかといと、
コンサートが単に増えただけ。
それをやることによって、腕前ってまだ上がるんだよね。
糸井 つまり、それは小さな修羅場をくぐった数
っていうことですかね。
鈴木 そうだね。
あと、テクノロジーの問題もあると思うんだよね。
ステージ上で他人の音がよく聞こえるようになったとか。
糸井 テクノロジーで、耳がよくなってきているわけだ、
いわば。
鈴木 僕は耳悪くなってきているけれどもね。
悪くなってきてるのに、その最も気を遣うのは、
一番耳をやられない場所を探すわけだよね。
糸井 耳栓じゃだめなの?
鈴木 耳栓でもいいけど、ずいぶん長い間つけたけどもね。
最近、してない。大丈夫になった。
いいポジションを発見したの。
糸井 それは俺が釣りするときに
どんなに寒くても手袋しないのと似てるな。
どうしてもだめなの、手袋すると。
鈴木 手袋すると違うよね。もっと真剣に違うんだよね。
それは非常にわかる。釣れなくなるの、急に。
糸井 なんかねえ、我慢するんだよね。
きっと寒いから、手の感覚も
鈍くなってるとは思うんだけど。
鈴木 先の開いている手袋あるじゃない?
あれも全然ダメ。役立たずですよ。
要するに、手に覆ってやってるからこの接触部分がね、
何か1枚ある感じなのかな。スピードも遅くなるしね。
糸井 そうなんだよ。
この間、ポストペットを創った八谷君がきて、
いっしょに話してたんだけど、
手の意味っていうことで長く考えてて、
「手って触角じゃないかな」と。
つまり、真っ暗闇のなかで迷路に入ったら
自分の身体の、ヘソをぶつけることも
ケツもぶつけることも嫌なのに、
手をぶつけることは平気なんですよ。
てことは、手を自分だと思っていない。
熱いか冷たいか、平気で手で触るじゃない。
まあ、よけられるっていう自信があるって
いうこともあるんだけど、これは、
手のことを自分の一部であり、自分じゃないと考えてる。
半分自分みたいな存在だと。手は。
鈴木 それオナニーでしょ。
糸井 そう、まったくそうなんだよ。
慶一君には言ったっけ?
俺が口でできたこと。
それそれ。
だから、「口は自分」だったのよ。
鈴木 下半身はよろこんでるんだけどね、口が嫌がる。
糸井 下半身もよろこんでないの。
もっと言うと、つまり、されてる側になれないの、自分が。
「ありがとう」って言うべきなのに、
なんで俺がこんなことしなきゃ、っていう。
これはねえ、ホモならいいのかなとも思うんだけどね。
鈴木 もっともさ、脳に近いところじゃない。口は。
それが遠い所の部分をくわえるわけでさ。
糸井 足の指なめたりするよりもっと嫌かもね。
手はさあ、他人行儀にありがとうな感じじゃないですか。
左手とか。

で、手について語ってたの。
手はいまだに謎の物体として。
だから、握手するなんて、
敵かもしれないけど握手してスタートするじゃない。
すごい儀式だよね。
で、手はとられちゃってもいい、という覚悟が
あるんだって言ってるの。
すごいものなんだよね。
昆虫でも触角で触ってくじゃないですか。
ああいう役割をしてるんでしょうね。
本当は、舌もそういう役割のはずなんですよ。
発生学的にはね。
だけど、舌はもうちょっと違う意味を持っちゃったね。
味があるせいかなあ。
鈴木 手は味をわからないもんね。
糸井 熱とか、触覚とか。
鈴木 そういう曖昧なものじゃないからね。
糸井 そのくせ、触りたいものを触っているときの手って
ものすごく自分でしょ。
鈴木 勝手なもんでね。
糸井 おかしいんだよ、手は。
鈴木 切手っていうものに手がつくのもおかしいよね。
糸井 いい歳して、こうやって久しぶりにゆっくり話すとさ、
昔、この話できなかったって気づくんだよね。
おそらく33(歳)だとか34のときに
もっと無駄なことをしゃべってたんだろうにね。
バカだったんだろうね。
鈴木 いや、あれ楽しかったもん。
糸井 楽しいっていうことで終わらせてたよね。
鈴木 前にさぁ、イトイさんが40歳になったころに、
40過ぎるとね、女の子のお尻さわれるよ、
とか言ってたんだよ。
そうかなあ、なんて思ってて、
40過ぎたらさ、確かに触れるんだよ。
糸井 もうひとつおまけがあったんだよ。
「そのかわり、つまんないんだよ」って。
鈴木 ものすごい楽しみにしていたことをしてしまうことが
つまんない、たいしたことじゃない。
糸井 で、楽しみにしてたら、やっぱりお尻さわれないのよ。
「おじさんは、君のお尻を触ることを
まったく楽しいと思ってないからさわらして」
ってことだからこそ、「いいよ」っていうのよ。
だから、よろこびはないんだよ。
人間が肉厚になっていくってことですかねえ(笑)。
やっぱり若いときってのは、粘膜みたいな人たちだから
何やったって刺激だしさ。
鈴木 全身亀頭みたいな。
糸井 それ、なくなっちゃうのよ、
それ経験した? 思った?
鈴木 思ったな。
糸井さんが言ってたのはこういうことかって。
そして、さわらなくなるんだよね。
糸井 エロチシズムのとらえ方が全然、変化しちゃって
「なんでだろう?」って思っちゃうんだよ。
したくなっても「何が俺をしたくさせたんだろう?」
っていうね、知的興味になっちゃうんだよね。
変換されちゃうんだよね。
鈴木 リアルタイムでね。それはわかりますね。
糸井 それ、青春じゃないよね。
失楽園みたいのが流行ったのが
本当はなんでだろうと考えるところを
なるべく捨象しちゃって加えてるからね。
あれ、なんでだろうねと考えたらあんな話になるのよ。
死んでみようか、になっちゃう。
鈴木 これは早めに死んでみようか、みたいなね。
糸井 インターネットやると、
はっきり面白い遊びがひとつあって、
エロ画像をとり放題になるわけですよ。
そうすると、自分が何を好きか、だんだんわかってくるの。
鈴木 エロの何が好きか。
糸井 で、なんでもエロなのはいいんだよ、最初は。
これもいい、これもいいで、
こんなお菓子の山のなかにいて、僕いいのかしら?
ってまず思うんだよ。
で、徐々に飽きるわけだよね。
それで、
ずうっとやってるとね、自分のエロス感覚が
意外に幅狭いことに気がつくんだよ。
鈴木 そんなもんか(笑)。
糸井 手に入らないで、さまよっている状態だと、
フラフラしているときには、
なんでも来いだと、全部OKだと思ってたくせに、
実は、なんでも好きなわけじゃなかったの。
おなじみの画像っていうか、この人前に見たとか。
そうすると、この人は名前はなんだろうとか。
鈴木 要するに人体じゃなくて、人称だね。
糸井 たぶん、慶一君それ派じゃないかな?
鈴木 多分そうだと思うよ。
糸井 服着てる画像まで見たくなるのよ。
それで“乗馬が好きです”とか書いてあったら、
「そうか、乗馬が好きなのか」と思うわけだよ。
鈴木 そういうところが大事だよな。性的妄想とか。
糸井 だから「性は生です」と、
いい歳した人が哲学的なことを言ったりするよね。
ずうっとわからなかったけど、本当にそうなのよ。
で、性だけとり出してる時代っていうのは
フェチシズムだったんだなと思うんだよ。
あいまいな性フェチシズム。
今はね、ただのいいオヤジとして
人間を大切にね、みたいなね。
鈴木 バックボーンも知りたくなるよね。
糸井 知りたくなる。
だから、サービスのいい画像を見ると、
いい人だなと思っちゃうもん。
鈴木 こんなことまでしてくれるのか(笑)って。
糸井 見ず知らずの僕のために(笑)。
どこがいい人だ、と思うんだけど。
まあ、金だけではできない世界にいる人たちだから、
もともと興味あるんだけどもね、人としてね。
鈴木 俺もゲームでエロゲーにはまったじゃない。
あれも選ぶ人(キャラ)って決まってるからね、
高校生ものなんかやってると。
俺、アニメ画面のゲームは「決してやらない」
と思っていたんだけれども、やっちゃうんだよ。
で、結局アニメ画面が好きなんではないんだね。
その人のキャラクターだね。
要するに、水泳部に入ってるとか。
糸井 陸上部かあ、とか(笑)。
鈴木 そうそう。それで、だいたい
選ぶ人はそういうことになってくるの。
でね、年下の1学年下の妹の友だちなんかが出てくると、
決して選ばないんだ。
糸井 手を出さない(笑)。
鈴木 「一緒に帰りましょう」って言われても帰らないし、
冷たく扱うんだよ。
それで、F.F(ファイナルファンタジー)をやってても
もと先生だった人が好きで好きで
しょうがなくなったりするわけだよ。
キスティスだっけ。
糸井 F.Fはもうやったの?
鈴木 CDロム2枚終わったところで、もういいかなって。
糸井 さっきのジェットコースターでいうと、
センスは悪いなって気づいちゃったときには、
ついていけなくなるね。
鈴木 あとね、バトルになると長いかな。
戦闘モードになるじゃない。3人出てきて。
あれはどんどんどんどん、かったるくなるね。
糸井 あの戦闘モードのとき、
自分が誰なのかが見失われるっていう問題だろうね。
だから、シミュレーションゲームだと思えば
ベストプレープロ野球だと思えばいいわけだよね。
ダビスタとか。
鈴木 その前に、ゼルダも途中でやめてるんだけど、
ゼルダのすごいところは、落下するときに
G(重力)がかかってるような気がするんだよ。
糸井 あれ命懸けてんだよ、そういうところに。
あれ、おそらくそういうことがやりたくて
やってる人たちなんだよ。
鈴木 すごい無駄なことかもしれないよ、あれは。
あれ出ちゃったらさあ、他のゲーム大変じゃない。
糸井 任天堂のゲームは「G」好きよ。
鈴木 好きね。
椅子に座ってCG画面で
バーンといくやつあるじゃない。遊園地に。
あれも、全然動いてないのにG感じるよね。
あれは平気なんだ。実際のスピードが出てないから。
糸井 理性がわかってる。
Gはね、オペレーターにはできない世界なのよ。
つまり、絵が描けて動かせますっていうのは
ビジュアルの問題なんですよね。
だから、方法として学べるんですよ。
でもGは数学なんだ。
だからG得意な人が俺の周囲に多いんだよ。
それは、数学できなければプログラマーになれません
って言い切っちゃうくらいの人たちじゃないと
G使ったプログラムはできないらしいの。
そこのところに多分「俺らしかできない」
っていうプライドがあるんだと思うんだよ。
鈴木 数値として打ち込めないといけないんだな。
糸井 それは本当に計算できてる。
だから、スーファミの時代に
バス釣りNo.1っていうのを作ったとき、
釣り糸にもGかかってるんだよ。長さに合わせてね。
そのGをつけ過ぎた印象にしちゃうと、
イトがもっさり重いものになっちゃうし、
要するに、いいプログラマーでないと
やっぱり短い期間には解決できないよ。面白いと思うよ。
あれはオペレーターじゃないね。数学者だね。

枯れ葉がヒラヒラ落ちていくだとかね、
それは、数学的に枯れ葉がヒラヒラ落ちなければ
だめなのに、絵でやっちゃうと、
ペタッとなっちゃうんだよ。
うちの岩田さん(電脳部長)なんかは
それに命懸けちゃうの。
それが社長だからすごいんだよな。
音楽だってそうじゃない。届いてるっていう感覚って。
鈴木 あとね、音楽が立方体を作るところに
命を懸けるから。
いちおうステレオだから。
まあ、2つのスピーカーしかないんだけど、
たとえば奥に聴こえる、手前に聴こえる、下に聴こえる、
上に聴こえるっていうのを作っていこうってことだよ。
その加工をね。
そういうのを作らない方法っていうのも
多分あると思うよ。
鳴ってりゃいいやと思ったら、フェーダーを
全部一番上にあげておけばいいわけだから。
それに、音をいっぱい詰め込んでいけばいくほど
曖昧になっていくから。
糸井 二次元アニメみたいに3層の重なりで、
だいたい似ちゃうのができるなって
方法論化しちゃうともうだめなんでしょ。
鈴木 だめだね。
変なところに汚い音が入っていたりだとか、
10年以上前から立方体が手前にこないかな
と思ってしょうがないんだけどね。
スピーカーの向こう側に立方体があるわけだ、どうしても。
耳のちょっと後ろから聞こえるってのはあるけどね、
すっぽり自分の方へくればね。
糸井 それを暴力的にやらせようとしているのが
耳に当てる方法か。
鈴木 バイノーラル。
それが完全にすっぽり包まれれば、
表現方法も変わるんじゃないかな、とも思うけどね。
糸井 ライブはそれに近いことを。
鈴木 ライブはそれに近いよね。
オーケストラ自体がそういう配置じゃない。
バイオリンの人がこっちにいたりとかさ。
で、小さい音が手前になってない?
大きい音が後ろになっている。
その距離でちょうどいい音が出るように。
糸井 それこそ音像アーティスト
みたいなもの。
鈴木 音響派ってのがいいね。
糸井 で、その人はちゃんと音楽わかるし。
いずれだけど、そういう人、出てくるかなあ。
鈴木 出てくるでしょうね。
糸井 それもすぐ出るかもしれないね。もしかしたら。
鈴木 でも10年経つけどね、80年代的発想って
いうのがあるんだけどね、なかなか具体化しないね。
シカゴ音響派ってのはいるけど。
糸井 誰かいるよきっと。捜せばね。海外に。
昔、模型のヘリコプターって
なかなか作れなかったらしいのよ。
鈴木 飛ばないんだ。
糸井 うん、模型飛行機のヘリコプターを作るのは
本当にね、模型界では長い歴史だったらしいのよ。
で、急にできたの。
何がって、ちゃんと縮尺したの。
鈴木 それをちゃんとしないと飛ばないんだ。
糸井 それが、すごく大変なことだって思ってたんで
違う道から行こうと思って、
ヘリコプターはできるはずだ
といって、みんな作ったやつは
ほとんどがうまくいかなかったんだって。
現物のカタチで、ちゃんと縮尺した途端にできたって。
鈴木 それ模型のなんか、歴史があって、
それの作り方だったんだよ。
糸井 だから、作っている人から見たら、
シミュレーションゲームでしょ。
それは面白かったなあ。
ゲームはやってるんだじゃあ、相変わらず。
鈴木 やるねえ。
糸井 夜中?
鈴木 何もないときは昼も。
糸井 夜中といい、朝といい、昼といい(笑)。
鈴木 コントローラー持ったまま寝る場合があるよ。
糸井 あー、俺もその時代ある。
はまる?
鈴木 あ、冷静にやってるって話?
俺はなんでこんなことやってんだろうって。
糸井 そっちいっちゃうよね。
今、コップ持って思ったのよ。
重力って、たとえばこのグラスってけっこういいグラス
なんだろうけど、この重さの中に水が入っている
ということでも、飲み物の味変わってるんだよ。
そういう研究がおそらくどんどん出てくるだろうね。
鈴木 そこがこれからの問題だと思うな。
糸井 オペレーターの仕事じゃないんだよね。発見がいるから。
前に、俺、高層ビルで40階で会議だったの。
慶一君みたいな恐がりだったら、
もしそのビルがスケルトンだったら
そこで仕事できないと思うんだよ。
で、もしニカウさんを連れてきて
60階のビルに置いたら、多分生活できないと
思うんだよね。
そういうことを俺らは無意識に感じて、
ストレスにしながらどっかで処理してゴミ箱に捨てて、
その感覚は「捨てるのね」ってオートで捨てて、
ごまかしてると思うんだよ。
そういうことを、山ほど発見していくのが楽しいのよ。
鈴木 ストレスを数値化して、何か仮想のものを
作っていくとかね。
糸井 だから、無意識で本当は恐いのに、
生身の人間としては恐いことを、
理性で抑えて恐くないんだと決めてるものを
もう一回暴き出して、
暴き出したうえでもう一回再構築するっていう。
鈴木 壊れちゃうようなものがいっぱい出てきたんで、
逆に現実が分かる。
糸井 たとえば、マンションの床が透けててね、
10階に住んでて、9階の暮らしが見えて、
その下に8階の人が住んでる
と思ったら、もうジャンプもできないね。それを思った。
それで、ああ重力ってすごいな、
このストレスって
みんな無意識のうちに感じてたんだなと思って。
鈴木 じゃあスカイダイビングなんか、
実際重力にしたがっているんだけれども、
まさにそれに任せるわけだ。
糸井 だから気持ちいいんだよ、人体として。
鈴木 そのスピードで落ちるのが嫌なのか、
下が見えるから嫌なのか。
糸井 飛行機は?
鈴木 飛行機はそんなに恐くないけど。
あれはもうあきらめるね。
糸井 あれがスケルトンだったら、かなわないよね。
鈴木 でも、そういうところをスケルトンにしてくれると
より現実っていうものが分かるっていうかさ。
糸井 俺今、スケルトンに興味があって、クルマでも
横が透けてたらと考えたりしてるんだ。
例えば窓の高さってぜったいここまで低くしないじゃない。
恐いから。
鈴木 地球が透けてたら嫌だろうな。
糸井 かなわないね。あと人体も。
「君、生きてていいねえ」なんてほめ方ができたりして。
鈴木 (笑)。
糸井 「いい肝臓してるね」なんて。
……今回は、このくらいにしときましょうか?
鈴木 (鍋が)煮え過ぎちゃう。
糸井 で、今度はこういうことについて話そう
って決めて集まろうか。
了。
また、そのうちお目にかかるでしょう。

第4回

1999-04-17-SAT

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