COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。
日本最古になってしまったロックバンド、
「ムーンライダーズ」の鈴木慶一さんと、
なにか理由をつけて会って、
無駄な話をしようってことになりました。
役に立つことがあったりしたら謝ります。

芝居にも出たよ。
── 2003年は芝居にも出ていましたね。
「欲望という名の電車」。
篠井英介さん、古田新太さんと。
鈴木 うん。一ヵ月。
── とうとう最後に病院に行くしか
なくなってしまった
主人公のブランチを迎えに来る
お医者さんの役っていう、
最後の3分だけに登場する役。
鈴木 そう。あそこで失敗は許されない。
── 許されない(笑)。
鈴木 ね。30回あって、
30回人間がやるとしたらさ、
1回や2回失敗する可能性があるでしょ?
でもそれは許されないから。
でも1回だけちょっと
吹きそうになったのがあるの。
── 笑っちゃった?
鈴木 いや笑っては、いない。こらえた。
何か分かんないけど、
ちょうど視野に入るところの客が
キョロキョロキョロキョロしたの。
あっちこっちあっちこっち。
それ見たら何かおかしくなってきて。
役者さんが言うには、
自分が笑いをこらえてる時は、
大丈夫なんだって。
でも、他の人も、こらえてるのが
聞こえたりすると、もうダメだって。
吹いちゃう。
葬式なんかでも、そういう時あるよね。
ひとり笑うと、伝染する。
── あはははは。
鈴木 特に青山円形劇場っていう舞台はね、
周りから全部見れるから。
どこ見ても客だから、逃げ場がないね。
── うんうん。
鈴木 それで急に不安になって、
笑わないようにしようと。
思ったらおしまいだからね、
笑っても泣いてもおしまいだから。
セリフ4つなのに。
── ああ、泣くわけがない役ですもんね。
鈴木 前回は、今日は千秋楽だから
泣いちゃうかもしれないとか、
思ったけど、今回全然思わない。
いつも通りなっていうのが大事だから。
── 役者とミュージシャンって
同じ舞台でも違うもの?
鈴木 途中で2回ライブやったじゃん。
── ああ。ライブやりましたね。
舞台の休演日に、慶一さん主演で
即興の朗読劇と音楽のライブ。
鈴木 あれでミュージシャンに戻っちゃった。
── あ、そうなんだ。
鈴木 ギター持つだけで
気持ちは変わるんだよ。
── へえ。
鈴木 まだちょっとルーズになるし、
ルーズというより、いつもの感じ。
って事はいつもはルーズで、芝居の時は真面目?
ミュージシャン時間出勤になったりするし。
大丈夫、なんとかなるってね。
── はははは。
鈴木 お芝居になるとまた役者になっちゃうの。
鈴木 で、顔が変わるみたいね。
── 顔、変わる。うん。
鈴木 あの1カ月間は医者の顔になった。
それはね、楽屋でずっと鏡見てるから。
3時間近く出番を待ってる間ね。毎日。
── うんうん。
鈴木 鏡の前に座ってるわけじゃん。
まさにガマガエルみたいに
自分の顔をずっと見てる。
── ははは。
鈴木 そうすると顔が変わってくる。
── 役者ってそういう仕事なんですね。
鈴木 顔が変わっちゃう。
やけに今日の顔を気にして、
見つめたりするんだな。
そうこうするうちに、
医者の顔になってくる。
だから、みんな
開演2時間以上も前に劇場に入るんだよ。
── 変わっちゃう。
鈴木 でも楽屋での会話とか
ムーンライダーズの会話の
くだらなさみたいなことは
演劇も、変わんないんだよ。
楽屋話ね。
── へへへへ。
鈴木 本当にくだらない話してるんだけど、
出番15分前になると鏡見て帽子の位置決めて。
帽子取るじゃない。で、その時に
髪の毛がこんなになってると
相手が笑うだろうなとか
いろんな心配するんだよ。
── あはははは。
鈴木 何度も取って、
髪の毛が変わんないように固めて、
いつもどおりを備える。
── あの3分の出演には
そんな大変な思いがあったんだ。
鈴木 細かーい、何かね、
氷山の見えてない部分っていうのが
お芝居にはいっぱいある。
まあ、音楽にもあるだろうけどさ。
── 音楽はさすがに、何年?
鈴木 30年以上。音楽はね、
その日その日違っていいっていう、
違った方がおもしろいという自分にとって
非常にありがたいことがあるんだよ。
でもお芝居は違っちゃいけない。
だから毎日違っていいということはさ、
非常に対極のことをやってるわけだよ。
同じ舞台という場所で。
だからすごく日々同じだけど、
でも、昨日より良く。
でも、微妙だな。
毎日違った音楽をやってるつもりでも、
ああ、やっぱりムーンライダーズだなって
思われる事もあるだろうし、
毎日同じ演技を繰り返しても、
初日と、千秋楽じゃ全然違う。
芝居と音楽の違いを述べるのは難しいぞ。
俺は芝居に出るたびに、
役者さんから、それを問われてきた。
芝居のほうが、どこに走り去って行くとか、
煙草を吸うとか、決めごとは多いな。
まず同じ事をしないと、相手が困っちゃう。
そこから可変していくんだろうな。
音楽は、その日に歌詞を変えたって
誰も怒りやしない。楽器を変えてもね。
そうだ、オーケストラだとそうはいかない。
コンボで成り立ってる音楽を
やってる分にはオッケーだ。
かかわる人数の問題かな。
可変度の大きさの違いかな。
これは、どうだ。
芝居の時間の流れは、
コード進行みたいなもんだ。
セリフは、ギターソロさ。
ただ、これだけは言える。
芝居においては、
何時何分に同じセリフいってるんだよ、
毎日。俺の関わってる音楽じゃ
考えられない。
── うん、そうそうそうそう。
鈴木 そうそう。だから毎日同じ時間に
トイレに行って、トイレ行くタイミングも
このセリフ始まったらトイレに行って、
戻ってくると迷惑かかんない時間だとか。
暗転に戻ってくるとまずいからね。
光が漏れて。
── うんうん。
鈴木 で、何のセリフになったら着替えだすとか、
そういうふうに決めとかないと
不安でもあるね。
── 不思議な経験でしたね(笑)。
鈴木 出番の時のドア
開いたら左足から出るとかさ。
── はははは。ジンクスみたいね。
鈴木 でもさ、妙にそういうのに頼りだす。
で、時々なんかね、
舞台に立ってるんだけどね、
どこに立ってんだか分かんないような、
自分じゃないような、
離人感に襲われたことがあるね。
── はあ。それは音楽ではないこと?
鈴木 うん。だって何かに化けるわけだから、
自分じゃないものになるわけでしょ?
音楽は自分を出せばいいわけで。
もっとも、すべてを
さらけ出すわけじゃないけどね。
爆発寸前で、コントロールしてる。
ところが自分じゃないものになるのは
けっこう下準備いるんだよ。
滑走路がいるの。
経験の問題かもしれないけど。
そして、熟練の人は
自分をさらけ出さないで、
爆発したりする。
── 役者って仕事を選んだ人は
すさまじいなと思いますよね。
鈴木 すさまじいよ。
だから、おれ、ならないよ。
というより、なれない。
音楽辞めてってのはね。
── 特に男の役者って不思議でしょうがない。
鈴木 うん。その分なんか、
終わったあとの飲み方とかね、
独特だしね。
── 違いました? 音楽と?
鈴木 うん。前から慣れてるけどさ。
── 音楽とどう違うの?
鈴木 音楽の方がもうちょっと
騒がなくなってるね。
── 音楽は騒がなくて
芝居の人は騒ぐ。
どっちにしろ
よく飲みますよね。
鈴木

よく飲みますよ。
よく体力が続くよね。
それと、今日の反省もするし、
相手にダメも出す。
俺たちはしないね。
ただ、こないだ、
東京、名古屋、大阪と
ライヴをやったけど、
ムーンライダーズね。
サックスに矢口博康くんをむかえてね。
すると、終わって飲んでて、
矢口くんが今日は、
ああだったこうだったって言うんで、
しょうがなく、みんな、
あ、俺今日、あそこ間違ったとか、
反省するんだよ。
ずっと6人だけでやって来たからね、
ここんとこ。
第三者が入る事によって
バンドの雰囲気はがらっと変わる。
それがねらいってのもあったけど、
誰しも他人には、
いい人に思われたいってのがあるだろ。
ビートルズと比較しちゃ畏れ多いが、
『LET IT BE... NAKED』聞いてみると、
ビリー・プレストンを、
もう脱退しようとしてた
ジョージが連れて来て、
ホントにバンドとしてまとまった。
ビリー・プレストンのキーボードと人柄と、
第三者性がなけりゃ、
あのアルバムは、
本物のクズになるとこだった。
おかげで、ネイキッドでも大丈夫なんだ。


▲左端が矢口博康さん。そしてムーンライダーズ。

── あと、何かね、音楽の人の飲み方ってね、
今日この人がいなくても
誰も何にも思わないなっていうような、
そういうチームワークなんだけど、
演劇の人って、誰かがいないと
ヤバいんじゃないのって思ってる
みたいな感じがしました。
鈴木 ほんとにヤバいような気がしちゃうんだよ。
いないと次の日
どこ行ったんですかって聞かれるし。
── そうそうそう。
鈴木 あれからあの後どうしたんですかって。
── 何ってことないんですけどね、向こうもね。
鈴木 何ってことないんだけど。
みんなが、長い間一緒にいるわけで、
妙に正直に説明したりね。
昨日はあの後、どこそこへ行って、
何杯飲んで、とか。
── 習慣が違うのね。
鈴木 チーム具合が違うのね。
何時に俺が楽屋にいないと
みんな変だなと思うわけじゃん。
── そうかそうか、そういう感じなんだ。
鈴木 うん。そう。変だなと思わせちゃいかん。
何か一体感が違うんだよな。
とても興味深い。
── 違う。違うんでしょうね。
鈴木 毎回同じようにやんなきゃいけないっていう
プレッシャーがあって、
それで大きく違うのかもしれないし、
それにはこの時間に
この人いないのは変だとかさ。
そして、芝居が始まったら停められない。
── そうですよね。
鈴木 人のことまで考えちゃう。
── そういう中に生きてるチームですよね、
演劇やってる人ってね。
確かに音楽関係の人に
飲みに行こうねって言われて、
ごめん今日行けないんですって
言うのは楽なんだけど、
演劇の人に誘われると、
どう言って断ろうとかね。
鈴木 あははは。そうだよね。
確かにチームの密度が高い。
そうしないとうまくいかない。
音楽の場合ゆるくたってできるから。
その本番さえ弾けばいい、歌えばいい。
レコーディングは、
間違ったらやり直せばいい。
もちろん水面下では、
いろいろやってはいるけどさ。
ストーンズのライヴのDVDが出たけど、
ミックは発声練習してる。楽屋で。
キースは、契約書には、
あの声が俺に聞こえないようにって
書いてあるんだがって、
ジョークだか本気だかわかんない事言ってるし。
舞台裏は緊張の渦巻きがあって、
それに、自分がどう対処するかなんだな。
巻き込まれて楽になるか、
距離をおくか、人によるよ。
楽屋が小さければ、少なからず巻き込まれる。
音楽も芝居も。
楽屋の覚悟ってのが存在するんだ。
── でも、またやってくださいって
言ったらやるでしょ。
鈴木 いやあ。この30ステージは
けっこう大変だったなあ。
非常に残念だったのは
ニール・ヤングを見に行けなかった事かな。
でも、医師の役はいい役だけどね。
この役ならやるってね。
主演の篠井さんを、
ちゃんと連れて行ってあげようって気に
毎日なるの。
篠井英介さんの演技を
楽屋のモニターで見てると。
── なんだかんだ
1カ月以上ですもんね。
鈴木 うん。稽古入れたらね。
だから間に音楽があって、
あれがけっこう気分転換になった。
あ、俺ミュージシャンだって感じで。
── 自己が戻った。
鈴木 うん。戻った。
マイク使うってことが全然違うよ。
── あ、お芝居は使わないですもんね。
鈴木 使わないでしょ?
マイク使うと割と得意分野だから、
マイク使う分には。
── 気持ちが落ち着くんだ。
鈴木 うん。電気使わないとどうしてもダメ。
── はははは。
鈴木 やはり電気だよ。電気が大事なの。
今回は停電やらレーザー手術やら、
ひょっとしたら10回全部、
電気に関係してないかい?
── そうかも(笑)。
あっりがとうございました。

*月光庵閑話第5シーズンはこの回にて了!
 ありがとうございましたー!




↑バンジョー弾き眠る男。
(撮影=鈴木博文、携帯で)


鈴木慶一さんへの激励や感想などは、
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postman@1101.comに送ってください。

2004-01-09-FRI

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いままでのタイトル

「月光庵閑話」第1シーズン
1999-03-17  「へんな椅子に目をとめる」ところから始まる。
1999-04-09  「ヒクソン対高田戦」の話のつづき。
1999-03-22  アルバム「ムーンライダーズの夜」の話のつづき。

「月光庵閑話」第2シーズン
1999-04-29  「ポカスカジャン」についての話から
1999-05-06  「ポカスカジャン」のライブの話
1999-05-06  引き続きポカスカジャンの話題

「月光庵閑話」第3シーズン
矢野顕子をほめる。
1999-09-03  あっこちゃんのリハーサルはすごい。
1999-09-07  あっこちゃんには「絶対リズム」がある。
1999-09-10  あっこちゃんは、日本の財産である。
1999-09-14  あっこちゃんはムスメもすごい。
1999-09-17  あっこちゃんはあっというまに曲を作る。
1999-09-21  あっこちゃんは手離れがいい。
1999-09-24  あっこちゃんは、大胆である。
1999-09-28  あっこちゃんには、確固たる矢野基準がある。
1999-10-01  あっこちゃんは、発明家である。
1999-10-05  あっこちゃんは、無意識な国際人である。

「月光庵閑話」第4シーズン
2000-01-09  俺ってけっこうターボかも
2000-01-16  小4の自分に会いたい
2000-02-04  どっちかというと、意気地がない
2000-02-08  古田いいよね
2000-02-11  スロースターターの特徴。
2000-02-14  お金好きだけど、投げ銭きらい
2000-02-22  レコード会社が銀行じゃなくなった。
2000-02-27  食えてるのが謎。
2000-02-29  エディトリアルっていうこと。
2000-03-03  マージナルな場所。
2000-03-07  データ配信のこと。
2000-03-10  理系文系。

お蔵出し月光庵
2000-12-29  ニコチンが。
2000-12-30  はじめてのときってさ。
2000-12-31  よくて嫌。
2001-01-01  おからいいねえ。
2001-01-02  イラン人とゆっくり話す。

「月光庵閑話」第5シーズン
2003-12-19  座頭市の音楽。
2003-12-22  東京ゴッドファーザーズの音楽と5.1chサラウンド。
2003-12-24  音楽の作り方が変わった。
2003-12-26  SACDの5.1chにするか!
2003-12-29  引っ越すんだよ。
2003-12-31  悪運のNY。
2004-01-02  シーット!!
2004-01-05  体力づくり。
2004-01-07  とあるところ、の手術。