鈴木 |
日記もそうだね。日記もなぜかさあ……、 |
糸井 |
書いてるよね。 |
鈴木 |
なぜか9月から書き出すことになっちゃって。 |
糸井 |
面白いでしょ? |
鈴木 |
おもしろい。何も書くことがないときに
いろいろなことを考える。 |
糸井 |
あれね、日記って名づけないほうがいいんですよ。 |
鈴木 |
なんかね、違うね、日記って感じしないね。
ホームページに日記書いてる人いっぱい知ってたんだけど
いやだったんだよね。あんまり俺はやるべきもんじゃない
かなとも思ったの。でも、何ていうかな、あれは、
今思ったことが文字になって、5行でもいいや、
それを誰か見ると。この関係で楽しいなあって。 |
糸井 |
松尾スズキさんが日記について、あの人も
「酔って書かない夜はない」っていうタイトルで
「大人計画」http://www9.big.or.jp/~otona/の ホームページに出してるんだけども
「誰かが見るだろう」っていう前提で書くというのは
谷崎潤一郎じゃないですか。『鍵』の世界じゃないですか。 |
鈴木 |
それで、面白いなと思うのは、誰かについて何か書くと、
知り合いでまだ書かれていない人がそれを読んで、
「俺もそういうふうに書かれちゃうんだろうな、あはは」
って言ってきたりするわけだ。
逆に言うと、清水ミチコさんに会うと、
「書かれるかな?」と思っちゃうんだよね。
そういう人がやけに増えてるんだよ、まわりに。
高野寛くんも書いてるわけだし、
へたに電話すると、最後にさ……、 |
糸井 |
「書くなよ!」と(笑)。 |
鈴木 |
エクスキューズしないと、怖いんだ。
これは、それこそ、「これって内緒だけどさあ」って
いうのを言っておかないと怖いわけですよ(笑)。 |
糸井 |
それはスケルトンだよね。 |
鈴木 |
スケルトンですよ。「内緒だよ」って言わなくなったら
どうなんのかなっていう気はあるけどね。内緒はないって。
相手の書く書かないの基準を信頼するということかな。 |
糸井 |
極端に言うと俺、ほとんど「どうぞ」なんだよ。
あきれるほど「どうぞ」になってる。
でも「どうぞ、全部を」というのはまずい。
魂の成長がない。利口にはなると思うけど。
やっぱり、どっか隠し事のないやつはつまらん。 |
鈴木 |
そうすると、ぜんぶさらけ出したらさ、どうなるの? |
糸井 |
皆のものになるわけだよ、俺が。 |
鈴木 |
個人じゃなくなる。 |
糸井 |
で、もともと俺、個人の薄い人間なんで。 |
鈴木 |
ぎりぎり個人は保っていかないと。 |
糸井 |
あのね、「子供がおいしく食べてればお母さん、
もういらない、お母さんおなかいっぱい」っていう
言い方がよくテレビドラマであるけど、
あれほんとなんだよ。
で、あれの極端なかたちが「イエスの方舟」なんですよ。
で、あの娘たちが楽しくやってれば
千石イエスは「いい」っていうわけだよ。
あれって宗教家の宿命なんだよ。
で、俺なんかでも、割に、嘘ついたりほら吹いたり
してたけど、ちょっとそれはあるんだよ。
「みなさんのために」って。
役割で「俺が食う!」って言ってるんだけど、
それやんないとメリハリつかないんでやってるからで、
じつは、どうでもいいってところがあるんですよ。
それで、それがね、良くない!(笑)
「それ、俺食べたい!」っていって手を出さないと、
みんなが欲しくないものになっちゃうんですよ。
だから、俺、めったやたらに「ほぼ日御殿に鯱つけて」
っていうのを言いたがるのは、俺の欲望っていうのを
変な形でもいいから出しておかないと、
「え、そういう人だったんですか?」
ってあらためて言われたらかなわないじゃない?
理解されなくなっちゃうと思うんですよ。
民主主義の方式で、票のパーセンテージに合わせて
決めますよってな人間になっちゃうと、
今のメディアの持ってるつまらなさそのものの
人間になっちゃうじゃないですか。
そうしたら、俺固有の訛りがあったり、
ひねくれた見方があったりするのを、
「あれはしょうがない。あたしと違うけど、
あの人はああだから」って言われないと、
全部「ハイハイ、そうですね」って言ってたら、
俺は、いない。 |
鈴木 |
いて、いない。 |
糸井 |
いて、いないんだよ(笑)。 |
鈴木 |
それって最後に残った自分てことだよね。
おもしろい。透明になりきったところの
これだけのちっちゃーいブラックボックスのような。 |
糸井 |
そうなんだよ。
お通夜の時の噂話が、本当のその人だと思うんだよ。 |
鈴木 |
(笑)お通夜、多かったよ、今年。 |
糸井 |
お通夜の日にね、大笑いされたり、
何か楽しくやれる最後がいい、っていう。
ほんとはそれ、見たい。
そのシミュレーションが、日記だと思うんだよ、毎日の。
お通夜だと思わない?
慶一君が、どうも最近うんこの出が悪いって書いても、
誰かが読んでる。 |
鈴木 |
で、誰かが何か返してくる。 |
糸井 |
返してくる(笑)。まじめなこと書くと
まじめな反対意見があったり、賛成意見があったりする。
それ見てるのって、俺インターネットって、
発信してる側にとってはお通夜だと思うんだ。
で、見るほうは、もう酔っぱらっちゃった奴もいる。
毎日棺桶あけちゃあ見てる。 |
鈴木 |
うん。どちらもちょっとした覚悟がいる。 |
糸井 |
昨日若い子と話してて、ほとんど今やってる対談って
いうのが「あんときはああだったこうだった」っていう
過去のものになっていて、っていうのがあって、
そうか、「メモリーもの」ってジャンルがあるんだって。 |
鈴木 |
それは、ミレニアム的なものがあるんじゃない? |
糸井 |
あるし、先が見えないからじゃないかな。
過去ってね、やっぱ別人なんですよ。
慶一君、何歳の自分に会いたい? |
鈴木 |
自分だけを考えるの? 環境じゃなくて?
そしたらね、小学校4年。 |
糸井 |
そこまで戻るだろ? そこがおもしろいと思ったんだ。 |
鈴木 |
小学校4年っていうのが何でおもしろいかっていうと、
今ぱっと思いついたんだけど、夜寝るときにね、
「自分って何なんだろう」とか思うんだよね、
そのころって。
自分という言葉についてなんだか思い悩んだりする。
もしくはさ、今寝てる自分っていうのを
どっか客観的に見れないものか、とか、
自我の悩みとか、それ以前に考えたことないようなことを
考え始めた年齢なんだよ。死ぬとどうなるのか、とか。 |
糸井 |
「ちびまる子ちゃん」の歳だよね。 |
鈴木 |
毎回寝るたびにそんなことばっかり考えてた時期が
ある。その人に会いたいね、私は。 |
糸井 |
話し合いをしたい、それで向こうから何か質問を
受けてみたいって。 |
鈴木 |
そうそう。 |
糸井 |
俺にもまだわからないって答えたりしてね。 |
鈴木 |
俺にもわからない、時々そうなるよ、って(笑)。 |
糸井 |
それ商売になるね。 |
鈴木 |
自分で自分の分だけやれたらいいかもね。
だって他の人って無理だもん。 |
糸井 |
ただ、ね、データは残ってるんですよ、作文とか写真とか。
今度、なんかこの人がタイムカプセルを
掘り起こしにいくらしいですよ。
武井:
小学校3年生の時に学校で埋めたんです。
それを2000年に開けようっていうイベントが
あるんで、行ってこようと思うんです。
ちょっとやだなあと思いながらも。 |
鈴木 |
すごいねー。 |
糸井 |
それはミレニアムものなんですけど、
おもしろいじゃないですか。
俺、前から、子供に、あん時のお前に会ってみたかった、
って言うんだよ。すると、本人もそういうわけですよ。
娘はもう18だけど、なんかのときに、
あん時ああだったね、っていうのが一致するわけ。
かわいかったよね、変わったよねえ、って、
本人いるからヘンなんだけど、言うんだよ。
そうすると「うん」って言う。別人になってる、もう。 |
鈴木 |
「あん時こうだったよね」って自分で思うわけじゃない?
突然思い出すときがあるじゃない?
あん時こうだったんだなあって思い出したときにね、
何ともいえない陶酔がほわっとね……。 |
糸井 |
あるでしょ? |
鈴木 |
あーって、匂うような。 |
糸井 |
羊水に浸かってるような。 |
鈴木 |
羊水に浸かってる記憶はないんだろうけれども、
例えればそういうことなんだろうね。
それはもう匂いまで思い出すもんね。
例えば親戚の家に行ったとき、夏休みこうだったなとか
思うじゃない? その時の匂い、それはね、
洋服ダンスなのかもしれないじゃない?
そうするとね、こう、くっとね、それに浸る間がまさに
白昼夢のごとくだけど、それに浸るぼーっとした間が
たまにある。それはね、今日は晴れてて気持ちいいなって
いうのがあるとする。それくらいの少なさだよ。量的には。
そういう間があるのがね。 |
糸井 |
それはね、みんな欲しいですよ。
早い話がデータしか残ってないっていうところから
すべてを思い出すっていう力が人間にはあるんですよ。 |
鈴木 |
蚊帳の匂いをかいだ瞬間に
いろいろなことを思い出すもん。 |
糸井 |
あるあるあるある。糊の匂いですよね。
井上陽水の『少年時代』ってそういう歌でしょう。
少年時代っていうのは、あらゆる場所にある。
(つづく) |