COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その10
マージナルな場所。

糸井 ということはクリエイターの数って
ものすごかったんですよ。どこん家にもあるんだから。
全体にものをつくるっていうことが、
心とか魂の豊かさに関わる部分っていうのが、
ものすごい量あって、それに携わる人も食えてたって
ことですよ。で、それってすげえな、
紀元前4、5世紀ですよ。クレオパトラより前ですよね。
そうとうすごいんですよ。今あることってだいたい
出尽くしてる。金属を編んで作ったネックレスとかあって、
今の工芸技術じゃできないらしいんです。
その複雑な部分を機械化できないから。
手で編んであるんだよ。
そんなの見てると、「人はパンのみに生きるにあらず」
っていうのはキリストだけど、それより前の時代に、
「人はパンのみに」っていうことを言わないで
わかってた人たちがいたんですよ。
ヒーローを登場させないで足りてたんですよ。
こういうのってユートピアですよね。
つまりデジタルで3万円もうかった人も
次に作る権利がある。権利もあるし楽しみもある。
素人上がりでもかまわない。だけど、ほんとにいいやつは
それを必要としている人が買うかもしれない。
高くても買うかもしれない。
ばらまくことに意味があるんじゃなくて、
みんなが作ってていいだろう、と。
それで、そのなかで「いいものってあるよね」
っていう世界に、これから入っていくわけでしょう。
鈴木 定価ってもんじゃないんだろうな。
糸井 だから、自分の生きる程度に応じて、
「音楽っていいよね」ってところで満たされるんですよ。
未来のイメージって、そういうふうに
ポンペイの中にあったと思ったね。
その先生って青柳さんっていうんだけど、
何でポンペイの研究やってるのかな? っていったら、
「面白くてしょうがない」ってことなんだよね。
背後に、江戸の大火が江戸をつくった、じゃないけど、
いつ焼けるかわからない状況とおなじように
火山がゴンゴンいってるわけですよ。
背後に死がある時って、人間ってほんとにやりたいことを
探すじゃないですか。そこんところの問題もあるだろう、
って。もうちょっと言うとね、火山が爆発して
全部埋まるってのがなかったらどうなったか、
っていう研究はあるんですかって訊いたら、
これが『鉄腕アトム』なんだよ、おもしろいんだよ、
滅亡したかもしれないじゃないですか。
そしたら、その研究では、おそらく、
奴隷階級がどんどん力をつけていって転換しただろう、
って言ったんだよ。
鈴木 ロボット法だ。
糸井 おもしろいだろ、鉄腕アトムだよね? 
鈴木 紀元前4世紀に。
糸井 つまりネタは違うけどシステムは同じ。
わくわくするよ。政治がやっぱり上手なんです。
大勢の人を喜ばせる水路の作り方のようなものを
優先してるんですよ。
鈴木 喜ぶっていうのは?
糸井 水が足らなくなったときにどこに運ぶかっていう水路は、
公共の福祉に近いけど、誰でもとれるところに
まず通すんです。その次が公共の機関、
で、最後に金持ちなんです。
金持ち一番で闇とかってのはないの。
いわばそのAのボタン押したら金持ち、とか、
政治家が選んでくれっていったらそうなるんだけど。
何でそういうことを考えたかっていうと、
政治の利権構造がはっきりしてたっていうんですね。
つまり、普通の階級の政治家と、金持ちの出身の政治家との
リベートがはっきりしてたんで、折衷案で、
アイデアで押さなきゃなんなかった。
政治っていうのは対立構造がはっきりしてないと
進歩しないんですよって言われて、それも面白かった。
今日本でいうと、俺は日本の今と明治維新とおんなじように
考えてるんだけど、アメリカっていう対立構造があって、
そのままじゃだめだぞ、と。
でも、その通りに言うこと聞いてたら、
全部なくなっちゃうような気がするんです。
宗教的不安がありますよね。日本人として。
そこんとこをどうするか、というので、
妥協案ですよ、民主主義って。
ほんとにいい妥協案を発明できるかってくらいの
アイデアは、矛盾のなかからしか生まれないって
言うんですよ。それって今そのままじゃないですか。
なのに、どっかのところで、俺が生きてるうちには、
あんまり騒がないでくれ、とかいう感じで
こわされてるわけで、慶一君みたいなやつが、
妥協案の雛形みたいなやつで出してるわけだよ、
ネット配信とかいって。
これもうすぐだっていう気がするんだよ。展開が。

ポンペイ展ってね、俺も得したんですよ、解説がいてね。
一気に全部わかるからね。
読売新聞がバックアップするから宣伝力もあるし、
すごくいろんなことを学んだな、と思って。
俺は義理で行ったんだけど、得しちゃった。
ありがとうございました、って。おもしろいよ、
きいてても今のこと考えたくなるよね。
そのつなげかたをするようなコストは
誰もつくんないわけだよ。
死体が埋まったままですみたいな。
鈴木 なんとか展ってだいたいそうだね。
糸井 でもそれは違うんだよ。生きるも死ぬも同じだな、
って気分にはなりますよ。もとすのそういう人に、
俺、会いたくなったもんね。徹夜で行ったんですよ、
例のライブ中継のすぐ後で行ったんですよ。
鈴木 ふーん。品川って屠殺場があるとこだよね。
品川って妙なさびれ方してるんだよね。
特に向こうっ側行っちゃうとね。北品川にかけては遊郭で、
北一商店街っていうのがあるんですよ。
北品川一丁目。その一本の路地は、何かね。
糸井 こわい?
鈴木 いや、なんかね、遊郭の跡みたいな家もあるし。
幕末太陽傳ってかんじ。
糸井 何か風水的にあるかもしれないね、位置が。
鈴木 江戸の境目だもんね。そっから更に下っていくと
鈴ケ森っていう処刑場でしょ?
俺んちはそれより外だからね。
糸井 慶一くんは、生まれは羽田だよね。
鈴木 俺は羽田、と言ってるけどホントは糀谷(羽田の隣)。
俺が生まれたところと、親の田舎ってのに
妙な共通点があるんだ。
親父は池袋生まれ、おふくろは吉祥寺だけど、
その上より先になると親父のほうは山形、
おふくろのほうは八高線沿線だったり
山梨だったりなんだよ。
山形は、最上川にヘアピンカーブみたいに曲がってるとこが
あるんだよ、そこなんだよね。
そこ、なんで栄えたかっていうと、
材木とか米とかをいかだで河口までもってくっていう。
河口から今度海産物を持ってくるっていう。
私は羽田空港でしょ?
人を強引に移動させる場所なんだよね。
糸井 マージナルな場所なんだよね。
鈴木 うん、マージナル。八高線もそんなかんじだよね。
だからいろんなこと考えるんだよ。
糸井 羽田ってすぐ近くに大森の金持ちとかいるでしょう、
あれ不思議なんだよね。貝塚もあったくらいだから
昔からきっと栄えてたんだろうね。
鈴木 海と、多摩川とか。古代人とか。
糸井 場所なんだろうなあ。
鈴木 大田区って不思議でさあ、もうほんとうにどうしようもない
下町崩れみたいなのと、山の手と一緒にあるわけでしょう。
それはJRの線で変わるわけですよ。
それ向こう側に行くと急にお上品なかたがたで。
あのさ、丸井が、撤退したのって蒲田だけなんだって。
何でだろうか、って考えたんだろう、と思うと、
現金で買う文化なんじゃないか、と。
糸井 月賦っていうシステムがあわなかったのかもしれないね。
借金残したくないっていく気分なのかな。

(つづく)

2000-03-03-FRI

BACK
戻る