鈴木 |
俺ほんとにさ、この対談ってさ、するたびに、
吸いあっていくような感じだよね。
たまたまおなじようなことを、ま、全部おなじことを
考えてるってのはないと思うんだけど、
時期がそうさせるのかね。 |
糸井 |
そうだね、時代がそうさせてるのはあるかもしれないね。
このごろ、いろんな人と話してて、
これ以上考えても無駄っていうことは、
それを考えること自体が間違ってるかもしれないって
問題を立てられるようになってきたんです、俺。
例えばね、大ビル街のなかに駄菓子屋のババァがいたと
するじゃない。で、あんず飴とか売ったりするわけですよ。
で、どうしたらいいか、子供に愛想よくしよう、とか、
1円おまけしてやろう、とか、やるだけのことは
すると思うんですよ。
しまいには、ばばあ、24時間営業すると思うんですよ。 |
鈴木 |
うわぁ(笑)。 |
糸井 |
おみやげにいかがですか、とかいろんなことをすると思う。
で、これ以上無理だっていうとこまでいくと思う。
そういう認識が俺の中には今、あらゆることに
あるわけなんですよ。構造がわからない限り絶対に
解決ができない問題は、船を乗り換えるか陸にあがるか、
一回休むか、大きな転回をしないかぎり何もできない。
サラリーマンだったら、その会社やめたほうがいいよって
いう人、いっぱいいると思うんですよ。
やめないって前提でいると、たいへんですよ。
阪神に入った青雲の志を持った野球選手がさ、
阪神に入って阪神を改革して優勝するっていうのは
無理でしょ。 |
鈴木 |
ぜったい無理だね。 |
糸井 |
で、ヤクルトとかだと、トップに入ってきたから
ああいうことになったけど、そのトップだって
ひとりじゃないですよね。そういう、こないだも、
古田敦也をスカウトするとき、眼鏡かけてるっていうだけで
皆が反対だったって話を、今ごろになってしてるんですよ。
野村監督も反対したらしいですよ。
でもその時にスカウトの意見をいちおう通すシステムは
あったし、もしぜんぶノムさんが決めてたら、
「俺が決めた」って言ってけるよね。
そしたらあのヤクルトはないわけですよ。 |
鈴木 |
それは集団の流れで決まったことかな。 |
糸井 |
いや、複雑な力関係とか、えもいわれぬ伝統とか、
あるいは新参者の監督に対する昔ながらのスカウトとかって
いう関係性とか、上司のめでたさだとか、
そういうことがぜんぶ絡み合ってるんでしょうね。
で、たまたま古田が眼鏡をかけてたっていう。
それ言われたほうもつらかっただろうねえ。 |
鈴木 |
そうだよね。 |
糸井 |
めがねをかけたキャッチャーは大成しないっていう。 |
鈴木 |
古田本人も言われたのかな。 |
糸井 |
言われたでしょうね、だって実は同時に藤田監督は
古田とりそこなったんだよってくやしそうな顔して
言ったからね。わかってる人はわかってるんですよ、
そういうことじゃないって。 |
鈴木 |
いいよな、古田って。 |
糸井 |
いいよね。今度ね、ここに来てもらおうと
思ってるんですよ。 |
鈴木 |
来たら会いたいな。 |
糸井 |
中井さんの夫じゃない? だからどっかのタイミングで、
忙しくないときに。今俺が忙しいからね。
古田いいよねえ。 |
鈴木 |
いい。 |
糸井 |
あの3番手くらいの栗山の解説がいいときあるんだから、
古田だったら最高だよね。
日韓戦の時の古田って知ってる?
こないだの。最高だったんだから。 |
鈴木 |
古田のおかげですよ。古田バントしなかった? |
糸井 |
したよ。一塁に出たよね、ちゃんと。杉浦とかがさ、
一軍でプロで出られるなら、今までアマチュアでがんばって
オリンピック目指してる人の立場がないっていうんだよな。
それを懐柔しながら力で見せていったわけですよ。
慶一君がどっかのアマチュアバンドに入って、
俺の言う通りにすればいいんだって言ったら、
全部ついて来ないんじゃないですか? |
鈴木 |
そうだね。99年スポーツ大賞だな、あのバントは。 |
糸井 |
でもさ、歌ってみせる作ってみせるって言って
じゃあ俺もやろうかなってひとりずつ思わせるような
もんじゃない? やりなよ。 |
鈴木 |
いいね。 |
糸井 |
でも、うちほとんどそうだよ。
鼻っぱしらの強いやつはいないけど、
俺の年齢差を考えると、人のバンドに入って……、 |
鈴木 |
そうだよな、俺たちの年齢ってコンプレスされてるからな。 |
糸井 |
俺らって完全にじじいの年齢だからね。 |
鈴木 |
ただし、バンド以外のつきあいは10歳くらい下だよね。
遊んだり。 |
糸井 |
バンドもひょんなことからやってみられると面白いよね。
例えば俺、あの、よくは知らないけど、
椎名林檎っていう人がどこからどうやって
出てきたんだろうって考えるとぞっとするわけですよ。 |
鈴木 |
ムーンライダーズファンで椎名林檎ファンの人って
多いんだよ。 |
糸井 |
わかるよ、それ。つまり、これって商品の形、
してないですよっていうものを商品にしてるっていう
意味ではおんなじなんですよ。
で、ライダースにはフレッシュさがないんだ(笑)。 |
鈴木 |
長いからね。出てきたばっかってのは重要だよね。 |
糸井 |
だって出てきたばっかでそんなもんを作られたら
お前誰だよって言いたくなるじゃない? |
鈴木 |
みなさん何やってるんですか、そりゃそうですけどねえ、
って言われるね。 |
糸井 |
さすがですねえ、って。 |
鈴木 |
それも言われつづけると何も感じなくなって
くるんだけどさ、怒りもしないっていうか。 |
糸井 |
外人と組んだことって何回かあるんですか? |
鈴木 |
個人的にはあるよ。 |
糸井 |
どうだった? |
鈴木 |
外人と組むとね、ものすごい刺激があったのは、
どっかびびるでしょ? 自分が常にびびる。 |
糸井 |
あ、マイケル・ナイマンとやったでしょ。 |
鈴木 |
いいかげんなおっちゃんだったけどね。
で、その時じゃなくてソロアルバムの時なんだけどね。
日本でやってるわけじゃない。台湾でやって
ロンドンでやったわけだよ。台湾でやってる時も
外人なわけだ。だけど、欧米人って違うびびり方してる。
何か妙な、うーん、戦争とかさ、この人たち、
いつも私に対して怒ってるんじゃないかとかさあ。 |
糸井 |
慶一君は、家の中にある左翼の伝統がまだまだ重いね。 |
鈴木 |
そうなんです、ちょっとね。それでびびりつつ。
で、こんどロンドンはさ……。 |
糸井 |
先いってんじゃないかって。 |
鈴木 |
そう、で、びびりつつ、で、何人ものプロデューサーを
立ててやったけど、結局ね、そういうときって、
びびってるときって、決断のスピードが速くなる。
はっきりする。で、結局それってスピードを増すって
いうこと。で、それは向こうがスピードを求めてるんじゃ
ないだろうけど、それはすごくいいよ。
集中力がもう異様に高まる。
それが80年代のおわりごろにあったので……、
『MOTHER』の音楽のおかげでもありましたし。 |
糸井 |
それは何か刺激になったんですか。 |
鈴木 |
ありましたよ。『MOTHER』の場合は、
もっと一般の人をオーディションするわけじゃない?
びびるよりもプロデューサーみたいなもんじゃない。
それもすごく大変なわけだよ。
スタジオにいるすべての外国人は俺の決断を
待っているんだよ。それしなくちゃいけない。 |
糸井 |
ふだんしないの? |
鈴木 |
ふだんはバンド内では、ああどうしようかな、
それはなあ、って。もうちょっと曖昧に
ゆるくやってるから。
他者との音楽の仕事のときにはしてるけど、
びびってるけどさ、みんなこっちを見てるっていうので、
それはあんまり日本ではないよね。
どっか話し合いになっちゃうから。
それに鈴木という人はこんなかんじってのは解られてる。
で、今決めないとやばいぞっていうのは
感じてるわけですから。違うやばさね。 |
糸井 |
あと外人って私は何がいけないんですかっていうのをさ、 |
鈴木 |
説明しなきゃいけない。君のここがいけないんで
もう一度やってほしいっていうのを
その場その場でやらなければいけないので、
非常に勉強になった。それ以降、違う人間って感じがある。 |
糸井 |
異文化交流の中で速度と決断を覚えた私。 |
鈴木 |
で、日本に帰ってきたら、まあ、なんて……、 |
糸井 |
ゆるい? |
鈴木 |
ゆるい。もう、最初はなんて日本ってひどい、
と思ったんですけど、まあ、もう、どっちもどっちだよ、
って。高速道路に入ると喋ってくるじゃない?
お釣りがどうとか、なんとこう便利で未来的な国だろうと。 |
糸井 |
快適だよね。 |
鈴木 |
よく外国にレコーディングしにいく人も多かったよね。
たいしたこと無かったって言って帰ってくる人も
多いと思うんだ。それはやっぱり日本人だけの
コロニーみたいなのを作って
それで動いてる人が多かったと想像できる。 |
糸井 |
コロニーごと移動してるっていう。 |
鈴木 |
ずっと日本人だけだった。で、接点はあるんだけど……、 |
糸井 |
観光旅行に近い。 |
鈴木 |
ほぼ同じ。でもそうじゃなくてひとりで英語も喋れないで
スタジオに取り残されてごらんなさいよ。
誰もいない、で、びびるじゃない?
二度目ですぐ大丈夫なんだけどね。
それは私の特性かもしれないんですけど。
そう、スタジオにいた日本人みんな
観光に行ってもらったりしてね。
ボクやっとくから、とか言って。
あえて、たった1人の日本人になったほうがやりやすい。
することがある人とない人がはっきりするんでね、
ない人は遊んできてもらう。
欲望を抑えながらそこにいなきゃいけない人って
みてるのも辛いし、かまうヒマもないし。
(つづく) |