糸井 |
僕のあっこちゃん体験はね、
「キライ」から始まっているんですよ。 |
鈴木 |
あ、そうなの? |
糸井 |
「キライ」っていう時には俺、
いつも気をつけていることがあるんだ。
「キライ」ってはっきり思うことってそんなにないのに、
ちょっと嫌だなあって思ったら、
それは「好き」の可能性がいつもあるんですよ。 |
鈴木 |
そうだね。 |
糸井 |
矢野顕子のね、雑誌の『GORO』が主催した
ライブがあったんだよ。
渋谷公会堂だったかNHKホールだったか忘れたけど、
「さあ、いよいよ登場です!」
って出てきた時に、何がキライって思ったかが、
すぐに自分で理解できたんだ。
「人より先に、のびのびしすぎている」んだよ。 |
鈴木 |
(笑)。 |
糸井 |
要するにね、超・自由なものを見た時って、
苦しい毎日を送っている人たちって、
反発を感じるんだよ。
矢野顕子って、自信たっぷりだし、聞いてみたら
リトル・フィートがレコーディングを手伝ったとか、
「いっちょまえじゃないか!?」
って気分があるわけだよ。
コツコツと人生を送っている人にとっては。
でも、ステージを観ていて、
「キライ」って言っている自分が、
なんだかせせこましいな、って思った。
それでちゃんとレコードを買って聞いてみたら、
知らないうちに好きになっているわけだよ。
「♪ワラにまみれてよ〜」
(三橋美智也の『達者でナ』のカヴァー)とかさ、
「いもむしゴロゴロ」(わらべうた)とかさ、
どっから探して来たんだ!? というような歌を、
あの当時からずいぶん入れていたじゃない。
それも、インテリな人たちが、
「庶民的なものの中にもいいものがあるんですよね」
といって、解説することによって自分を高く見せる、
みたいにとらえられちゃう、あぶないところなんだよね。 |
鈴木 |
ちょっと上から下へね。 |
糸井 |
ところが聞いてみたら違うんだよ。 |
鈴木 |
平面ですから。あっこちゃんにとっては、
すべての音楽が、平面上にあるんだ。 |
糸井 |
それがわかったんで、これはみんながイイっていう
理由がわかるな、って。
「もう飛び込んでやれ!」
っていう感じでね。 |
鈴木 |
一緒にした最初の仕事って、何? |
糸井 |
コマーシャル・ソング。
旭川の、「AMS西武」っていう店がオープンした時に
コマソンを作ろうという話になったんだ。
僕が詞を先に作っておいて、
「曲を誰に頼みましょうかね?」
という時、大森さん(CM音楽プロデューサー)が、
「矢野さんにお願いしようって思ってるんですよ」
って言った。
「へえぇ……」なんて思ってたら、
本当に翌日くらいにでき上がってきた。
この人は恐ろしいなあ、って思ったよ。
そういうふうに、まだ会っていないうちから
つきあいがあったんですよ。
そのあとの、慶一くんがプロデュースしてくれた
僕のアルバム(『ペンギニズム』)の時も、
まだちゃんと会ってないままに作曲をお願いしたんだ。 |
鈴木 |
そうだったんだ。 |
糸井 |
『スーパーフォークソング』。あれも、歌詞を作ったら、
数日というか、その日ぐらいのイメージで、
曲が来たんだよ。
「テープお届けします」
って。何で、もうできてるんだろう?
っていうくらいのスピードで。
それで、聞いてみたら、それはもう単純に、
「……歌えない……」。 |
鈴木 |
あれは、難しいですよ。 |
糸井 |
「これは、僕は、歌えないんですけど……」
って。いいの悪いのじゃなくてね(笑)。
「無理なんですけど!」
って言おうと思ったけど、でも、
「こういう人がいて、よかったな、日本人で」
とも考えた(笑)。外国にいたわけじゃなくて、
あっこちゃんって日本にいたわけじゃない。
わが同胞(はらから)さ。
「よかったなあ!!!」
矢野顕子は財産だよ、みたいな気持ちになって、
一生懸命歌いました。
あれ、デモテープの段階で慶一くんの所に
行っていたわけだよね? |
鈴木 |
あれはね、あのアルバムの中で一番難しいぞ、
って思いましたよ(笑)。
だって、あっこちゃんなんだもん。曲が。 |
糸井 |
そうなんだよ! |
鈴木 |
じつにあっこちゃんらしい曲でね。 |
糸井 |
結果的には、あの人、自分の歌に戻したよね。
あたりまえだけどさ(笑)。 |
鈴木 |
自分の歌にしてしまったね。
(註:アルバム『Super Folk Song』に収録) |
糸井 |
あれ、だって、今じゃ、あっこちゃんの名曲じゃない!?
あの詞、書くのも15分だったし、
たぶん曲をつくるのも15分、だと思うんだよね。
30分で、あの名曲ができたんだよ。 |
鈴木 |
あの長い詞が。
……谷岡ヤスジさんも死んじゃったけどね。
(註:歌詞の背景は谷岡ヤスジの「村<ソン>」の世界) |
糸井 |
死んじゃったなあ……。 |
糸井 |
慶一くんは最初に会ったときの印象はどうだった?
キライ、というのは、同業者としては、ないんだ? |
鈴木 |
プレイヤーとして接するところから入ってるからね。
あっこちゃんがつくったものに接するのは
もっとあとになるんだよ。 |
糸井 |
そうか……。 |
鈴木 |
最初に会った時はキーボード・プレイヤーでしょ。
曲を作る人っていうのはあまりよくわからない。
で、歌も歌えると聞いていたので、
「じゃあ、『火の玉ボーイ』って曲のエンディングで
スキャットやってくれる?」
って、やってもらったの。
そしたら、レコーディング、一発でOKなんだよ。 |
糸井 |
いやぁねぇ……(笑)。 |
鈴木 |
それもすごく面白かったんだよ。
スキャットやるじゃん。それに応えて、
くじら(ムーンライダーズの武川雅寛さん)も
フェイク(合いの手)を入れよう、って。
でも、くじら、棒立ち。 |
糸井 |
やんなっちゃったんだ……。 |
鈴木 |
やんなっちゃったんだよ。
ずぅっとスキャットが入っている中に、
合いの手を入れるんだけど、
ちょこっとやっちゃあ、棒立ち。
そのテイクがよかったんで使ったんだけど、
昔はトラック数(テープに録音できる音のチャンネル数)
が少なかったんで、1コのトラックに入っちゃってる。
だからくじらだけもう1回、ってわけにはいかなくて、
棒立ちのくじらの声といっしょに、
あっこちゃんのスキャットが入ってるんですよ。 |
糸井 |
くじらくんって、本当は、そういうセンスが、
すごくある人でしょう? |
鈴木 |
突然のアドリブが、バイオリンでも歌う時も
できる人なんだけど、聞き入っちゃったんだよね。
やっぱり『火の玉ボーイ』のレコーディングで、
あっこちゃんに対しては、
ピアノと、歌と、両方すげえな、って思った。 |
糸井 |
それは悔しさとかにはならないで、
まずは感心しちゃうわけ? |
鈴木 |
そうだね。俺、キャラクターとして、
あんまり悔しくならないタチなんだよ(笑)。 |
糸井 |
ムーンライダーズってそういうバンドだからね。 |
鈴木 |
「すげえいいのが録れた!」っていうさ……。 |
糸井 |
かわいいチームだなあ(笑)。
それは、矢野が天才っていうものなんですか。 |
鈴木 |
天才っていうものなんですよ。 |