糸井 |
弱だ強だ、善だ悪だ、っていう二項対立が
やっぱり人を生きにくくしてるね。
「どっちでもいい」っていうのもありだよね(笑)。 |
鈴木 |
でも、きっとそれは私の遺伝子が元々、
弱でもなく強でもない、
どうでもいいだらけなのかもしれない(笑)。 |
糸井 |
だってムーンライダーズって
バンドの寿命から言ったらすごいよねー。 |
鈴木 |
そのとおり。
ふつうのバンドは5年やせいぜい10年だもんね。
だいたい、喧嘩するか、
音楽的にやることがなくなるか、
女性問題や金で解散。
でも、再結成するんだよ、必ず。 |
糸井 |
だって鈴木慶一がぼーっとバンド状況を見ている間に
どれくらいのバンドが倒れていったか・・・・
って思うと、すごいよね。 |
鈴木 |
屍の上を歩いてきた(笑)。 |
糸井 |
で、ちょっぴりと、
さっきの女王蟻のホルモンのように
幼虫にぴゅっとつばを与えたりしてるじゃん。
昔でいうと、ハルメンズとかさ。 |
鈴木 |
(自分も)報酬を得ているのね(笑)。 |
糸井 |
ああ、セッションとかそうじゃない。
昨日も、読売新聞にギターリストが出てて、
その人のプロフィールに
「鈴木慶一やオリジナルラブの田島貴男との
セッションで影響を受ける」
とか書いてあったよ。
慶一くんってこういうふうに存在してるんだなあ、
って思ってたんだよ(笑)。 |
鈴木 |
ぴゅぴゅぴゅっとね(笑)。 |
糸井 |
つばを。
ホルモンを。 |
鈴木 |
それがねー、
“鈴木ホルモンか、ヘロモン”
なんだよ。 |
糸井 |
それあるよなー。
だから慶一くん本人がいなくなっても、
極端な話、慶一くんホルモンは
どっかでまた何かしてるんだよね。 |
鈴木 |
そんで、僕自身は「あっ死んだか」
っていう程度のもんなんだけどさ。
僕は毒液出してないからな。 |
糸井 |
毒液出してないのか!(笑)
慶一くんの音楽聞いて家出した人って
あんまりいないよね。
犯罪に走った人とかさ(笑)。 |
鈴木 |
うん、いないね。
でも、長期に渡って服用すると、
死に至るかも。微毒は出てるな。
八木容疑者か。 |
糸井 |
立ち上がった人とかさ。 |
鈴木 |
座った人ならいる。 |
糸井 |
ははははははっ |
鈴木 |
沈んだ人とか。
あと、「私はこれを聞いて会社をやめました」
とかねー、
どっかから逃げ出すとかねー、
そういう人はいるね。 |
糸井 |
ははー。なるほどね。 |
鈴木 |
そのまま行けばいいのに、ってところで、
逃げ出す人とか。
だから立ち上がるわけではないんだよ。 |
糸井 |
スライドする(笑)。 |
鈴木 |
スライドするか、スライドダウンかわかんないけど、
そういうのはいるんじゃない?
これも弱肉強食とか、善と悪とか
そういうのが及ばないところなんでしょう。
旧全日の第2試合みたいなものかな。 |
糸井 |
それっていまで言うと、
企業戦略とかみんな弱肉強食ばかりやるから、
同じ試合ばかりやって、へとへとだよね。
たとえば、格闘技だって
1ヶ月に1回試合するだけでも
大変なことなんだよ。
で、もたないわけだよ。
そうなると、なんかよくわかんないけど、
そこじゃないところになんかあるんじゃないか、
って思う人が出てきてもおかしくないよね。
いままでは強いものの下請けとかさ、
強いものが倒れたら
その派閥全部が倒れるみたいなコースだったけど・・・ |
鈴木 |
だから、小川直也に橋本真也が
負けてもやめないかもしれないっていうのが
あってもいんだよね。 |
糸井 |
そうそう。
あのぶらぶらしてるのでいいの。 |
鈴木 |
1年間くらいぶらぶらしてていいのね。 |
糸井 |
俺が中小企業好きなのって、
中小企業って下請けのふりしてるけど、
実はそうじゃなくて、
親企業を支えてるでしょ。 |
渡辺 |
支えてますよね。 |
糸井 |
あれだよね。 |
鈴木 |
また生まれ育ちの場所の話になっちゃうけど、
どうも私の生まれたところは町工場とかが多くて、
IBMもあったし、セガがあったり、
テープレコーダー会社がいっぱいあったり、
で、それらが大会社で
その下請けがあるわけだよ。
下請けを見て育ったね。
思えば毎日下請けを見てるからさ。
ちっちゃい工場に遊びにいけるんだから。
でも、何を作ってるかわかんないんだよ。
なんかちっちゃいネジを作ってるんだけど、
これが何になるのかもわからない。
それこそ兵器になるかもしれないんだけどさ。
ただ、何かの部品なんだろうね、特殊な。
で、その親会社がダメになると、
つぶしのきかない部品だから、
もうダメになっちゃうじゃない。
そういうのばっかり見てるんだよ。 |
糸井 |
そんときに、下請けなりに
他のところにも売れるようなことを考えていたら
生き延びるんだなあ。 |
鈴木 |
汎用性みたいなねえ。
そういう工場も少しはあるようだけど、今だ現役はね。 |
糸井 |
うん。だって思えば今の大企業って
元々はみんなそうだからね。
俺、好きなのは本田宗一郎って人の
湯たんぽのタンクのオートバイよ。
自転車につけただけの。
俺、あれ夢だね。
俺にとっての夢はねえ、かつてはよく冗談で
アパート経営って言ってたんだけど、
それはつまんないわ。
やぱり湯たんぽ!
湯たんぽオートバイ! |
鈴木 |
今からそれ(湯たんぽオートバイに匹敵するもの)を
考えるとしたら、何なんでしょうねえ。 |
糸井 |
それねえ、困んないと出てこないんだよ。 |
鈴木 |
(湯たんぽオートバイのようなものって)
すごい困ったところから出てきてるよね、
そのアイディアは。 |
糸井 |
そのできないと思ってたことをできるじゃないか、
って先に言ったヤツがやるんだよ。
つまり、湯たんぽでいいじゃない、って言うのは
やっぱり度胸がいったと思うのよ。
違うんだもん(笑)。 |
鈴木 |
違うものなんだもんなあ(笑)。 |
糸井 |
湯たんぽは足とか暖めるものなんだもん(笑)。 |
鈴木 |
お湯入れるもんだもんねえ。 |
糸井 |
そうそうそう。
それは思えば『ほぼ日刊イトイ新聞』だって
湯たんぽですよ。
ないんだもん、元々、そんなもん。
他に材料ないから、そのへんにあるもの集めて
やってるわけでしょ。
あと、福神漬けが俺の夢なの。 |
鈴木 |
えっ!? |
糸井 |
福神漬けってねえ、俺、
川のそばで遊んでることが多かったんで、
上流からよく大根とか流れてくるんだよ。 |
鈴木 |
ちょっと待って、俺、
福神漬けってもとが何かわかんない。 |
糸井 |
大根となたまめとか・・・
主に大根なんですよ。
で、それを刻んで漬けたもんなんだけど、
いっこずつが、ちいちゃいでしょ?
あれねえ、カスなんですよ。
いまは、ふつうに育てた方が
かえってお金がかかんないと思うんだけど、
よく言われてたのは、
上流から流れてきた大根のしなびたヤツを
拾って作ったんだ、って大人に聞いてたのよ、
福神漬けっていうのはさ(笑)。 |
鈴木 |
ほおー(笑)。 |
糸井 |
戦後なんて、
みんなそんなようなもんでしょ、だいたい。
進駐軍の食べ残しを雑炊にして
売ったりしてたわけじゃない。 |
鈴木 |
あの、脱脂粉乳もそうだしね。 |
糸井 |
そうそう。
いらないって人と、いるって人がいたら、
それをどう流通パックを作るかってことに、
全部カギがあるわけですよ。
湯たんぽだって、
みんなが足暖めてるわけじゃないんだから
ふつうに手に入れられるわけじゃないですか。 |
鈴木 |
おからだね。 |
糸井 |
おから!
おからいいねえ。 |
渡辺 |
おから積んでるトラック見たことあります? |
糸井 |
あるある。 |
渡辺 |
豆腐工場とかから、
どっかの飼料用に持ってくんですよね。 |
糸井 |
豚のえさ。 |
渡辺 |
豚のえさなんだけど、
おからがダンプに積んであって、
もうもうと湯気が出てるんですよ。
湯気だしトラック。
それ最初見たとき、何が乗ってるのかなあ、
って思いましたよね。 |
鈴木 |
あれ一応廃棄物なんだよね。 |
渡辺 |
で、なんかねえ、牛の飼料にするらしいんですよ。 |
鈴木 |
人間は食っちゃいけないって
法律で決まってるんじゃないですか。
そんなことないっけ? |
糸井 |
そんなことはないだろう(笑)。 |
渡辺 |
でも、あれはとにかく自分の価値観が
いったん狂いますよね。 |
糸井 |
うん。
あとねえ、俺、赤城山で穴掘った場所の裏が
不法投棄のおからが腐ってて、
臭いんだよおー。
だから、飼料にしても、人間が食っても
まだ余るほどのおからがあるんだよ。
それが不法投棄されちゃうんだよ。
それがまた、臭いんだよー。 |
鈴木 |
臭そうだなー、それは。 |
糸井 |
たとえば、おからでブロックができたとするじゃない。 |
鈴木 |
“ビーンズブロック”(笑) |
糸井 |
そしたら、不法投棄もなくなるし、
不要品じゃなくなるわけですよ。
だから、そういうふうに
いつでも何かがアイディアひとつで変るじゃない。
そのへん狙いよね。 |
鈴木 |
おからねえ。
おからで車動いたらね。 |
糸井 |
うん。
おからは少なくても燃えはするよね。 |
渡辺 |
その前に乾燥させないと(笑)。 |
鈴木 |
そう言えば、乾燥したおからって
見たことないなあ。 |
糸井 |
コストがかかるんだろうなあ、乾燥するのに。
味の素なんかは、
砂糖をとった後のさとうきびから作るんですよね。
それだって不要品でしょ?
ムーンライダーズの生き方って
あくまでも羽田からだっていうのは
やっぱり、どこまで行っても・・・ |
鈴木 |
いやになっちゃうよねえ。 |
糸井 |
「外国を意識する飛行機を眺めてた」
とかさ。 |
鈴木 |
(糸井さんは)群馬からっていうのを
あんまり感じないけど。 |
糸井 |
俺はわかってるの。
群馬って風強いの。不安定なの。 |
鈴木 |
立ってても揺れるの? |
糸井 |
そう。
だって、それ言うとみんなが笑って
嘘だ、っていうけど、
嘘じゃない! 北に向って自転車こげないんだから! |
鈴木 |
うそー(笑)。
それはオーバーだよー(笑)。 |
糸井 |
群馬のおばさんはみんな冬場は、
北に向って自転車おしてるんだから(笑)。
その代わり、北の友達ん家に行ったら、
帰りは(南向きで)楽よ。
こがないで帰ってこれるんだもん。 |
鈴木 |
うそだーー(笑)。 |
糸井 |
ほんとだってば!!(笑) |
鈴木 |
“北関東のからっかぜ” |
糸井 |
それ、最近弱まったんだって。
気象条件が変って。
だけど、俺が子供のときって、
ほんとに北に向ったらすすまないんだから。
毎日そうやって、順風と逆風について
体が考えていたの(笑)。 |
鈴木 |
方角ばっか考えなきゃいけないの? |
糸井 |
方角考えるっていうかねえ、
もう考えたくないわけ(笑)。
要するに、一生懸命こぐときと、何でもないときと
もうそれは風まかせ。
そんで、夏になると雷が鳴るわけ、ゴロゴロ。
ドッカーンって音を毎日夕方、
特に夏休みの間は毎日ドッカンドッカンいってるわけ。
だから落ち着いて何かを考えるっていうこととは無縁!
だから、あそこ(群馬)は基本的に
アナーキストと詩人が多いんですよ。
早く決着つける!(笑) |
鈴木 |
はははははっ、早い。 |
糸井 |
「どうでもいいじゃないかっ」みたいな。
だから難破船のような(笑)。 |
鈴木 |
県自体が難破船。海ないのに。 |
糸井 |
そうっ |
鈴木 |
すっげえなあ、それ(笑)。 |
糸井 |
それをあんまり人は説明したがらないけど、
俺はわかってる。
体に染み込んでるんだから。
だから、落ち着いて部屋の中にとじこもってるけど、
それは外に出たら風が強いからであって、
さー外に出るぞー、っていうのと、
とじこもってるかのどっちかなんですよ。 |
鈴木 |
でも、(埋蔵金の)穴掘ってるときの
地元の人の存在感はそんな感じだね。 |
糸井 |
そうだろ? |
鈴木 |
パワーショベルの人とかね。 |
糸井 |
あのねえ、なんかねえ、
意外と大事にしないのよ、自分を。
でも、理念は大事にするみたいなところはあって。 |
鈴木 |
(笑)理念まで風に飛ばされちゃったら・・・・ |
糸井 |
そうだよね。
理念だけは風に関係ないから。 |
鈴木 |
それ(理念)は飛ばされまい、っていうのが
あるのかもしれない。 |
糸井 |
だから、一方では天領だったから、
徹底的に保守の場所なんですよ。
お上が言うことに逆らってもムダだ、
みたいな気持ちがある。
もう一方で自然環境の中で
荒波状態が当たり前みたいなのがせめぎ合ってて、
(保守か荒波か)どっち派が勝つかによって
舵が決まってくるんじゃないの。
俺は、もう(群馬から)出ちゃってるから。 |
鈴木 |
捕鯨船みたいね(笑)。 |
糸井 |
生糸産業で当てた県ですからね。
そこで成金もいたし、バクチも盛んだったし、
賭博性が強いですよ。
だから、江戸の大火事みたいなので
財産はなくなっちゃうものだって、
職人が宵越しの金は持たない、っていうのと
意外にメンタリティーは共通してますよね。
でも、一方で保守の動きは動きでしっかりとあって、
毎日おんなじ事をやってれば大丈夫、みたいなのと、
2種類が行ったり来たりしてるんじゃないかなあ。 |
鈴木 |
そこには悪いこともいっぱいあるんだろうね。 |
糸井 |
だってさー、県で名物の人って、
静岡の清水次郎長はまだ実業家になったけど、
国定忠次だとか、大前田英五郎とか、
やくざの名前ばっか出てくるのって
ひどい県だと思わない?
(群馬で偉人と言えば)やくざと政治家なのよ(笑)。 |
渡辺 |
糸井さんがいるじゃないですか。 |
糸井 |
俺はどういう立場でいればいいのよー。 |
鈴木 |
ははー。 |
糸井 |
なんとなくそう言われれば、
そんな気がしてくるでしょ? |
鈴木 |
してきた。
(つづく) |