COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●お蔵出し月光庵
その4 おからいいねえ。
(途中からゲスト:渡辺祐)


糸井 弱だ強だ、善だ悪だ、っていう二項対立が
やっぱり人を生きにくくしてるね。
「どっちでもいい」っていうのもありだよね(笑)。
鈴木 でも、きっとそれは私の遺伝子が元々、
弱でもなく強でもない、
どうでもいいだらけなのかもしれない(笑)。
糸井 だってムーンライダーズって
バンドの寿命から言ったらすごいよねー。
鈴木 そのとおり。
ふつうのバンドは5年やせいぜい10年だもんね。
だいたい、喧嘩するか、
音楽的にやることがなくなるか、
女性問題や金で解散。
でも、再結成するんだよ、必ず。
糸井 だって鈴木慶一がぼーっとバンド状況を見ている間に
どれくらいのバンドが倒れていったか・・・・
って思うと、すごいよね。
鈴木 屍の上を歩いてきた(笑)。
糸井 で、ちょっぴりと、
さっきの女王蟻のホルモンのように
幼虫にぴゅっとつばを与えたりしてるじゃん。
昔でいうと、ハルメンズとかさ。
鈴木 (自分も)報酬を得ているのね(笑)。
糸井 ああ、セッションとかそうじゃない。
昨日も、読売新聞にギターリストが出てて、
その人のプロフィールに
「鈴木慶一やオリジナルラブの田島貴男との
 セッションで影響を受ける」
とか書いてあったよ。
慶一くんってこういうふうに存在してるんだなあ、
って思ってたんだよ(笑)。
鈴木 ぴゅぴゅぴゅっとね(笑)。
糸井 つばを。
ホルモンを。
鈴木 それがねー、
“鈴木ホルモンか、ヘロモン”
なんだよ。
糸井 それあるよなー。
だから慶一くん本人がいなくなっても、
極端な話、慶一くんホルモンは
どっかでまた何かしてるんだよね。
鈴木 そんで、僕自身は「あっ死んだか」
っていう程度のもんなんだけどさ。
僕は毒液出してないからな。
糸井 毒液出してないのか!(笑)
慶一くんの音楽聞いて家出した人って
あんまりいないよね。
犯罪に走った人とかさ(笑)。
鈴木 うん、いないね。
でも、長期に渡って服用すると、
死に至るかも。微毒は出てるな。
八木容疑者か。
糸井 立ち上がった人とかさ。
鈴木 座った人ならいる。
糸井 ははははははっ
鈴木 沈んだ人とか。
あと、「私はこれを聞いて会社をやめました」
とかねー、
どっかから逃げ出すとかねー、
そういう人はいるね。
糸井 ははー。なるほどね。
鈴木 そのまま行けばいいのに、ってところで、
逃げ出す人とか。
だから立ち上がるわけではないんだよ。
糸井 スライドする(笑)。
鈴木 スライドするか、スライドダウンかわかんないけど、
そういうのはいるんじゃない?
これも弱肉強食とか、善と悪とか
そういうのが及ばないところなんでしょう。
旧全日の第2試合みたいなものかな。
糸井 それっていまで言うと、
企業戦略とかみんな弱肉強食ばかりやるから、
同じ試合ばかりやって、へとへとだよね。
たとえば、格闘技だって
1ヶ月に1回試合するだけでも
大変なことなんだよ。
で、もたないわけだよ。
そうなると、なんかよくわかんないけど、
そこじゃないところになんかあるんじゃないか、
って思う人が出てきてもおかしくないよね。
いままでは強いものの下請けとかさ、
強いものが倒れたら
その派閥全部が倒れるみたいなコースだったけど・・・
鈴木 だから、小川直也に橋本真也が
負けてもやめないかもしれないっていうのが
あってもいんだよね。
糸井 そうそう。
あのぶらぶらしてるのでいいの。
鈴木 1年間くらいぶらぶらしてていいのね。
糸井 俺が中小企業好きなのって、
中小企業って下請けのふりしてるけど、
実はそうじゃなくて、
親企業を支えてるでしょ。
渡辺 支えてますよね。
糸井 あれだよね。
鈴木 また生まれ育ちの場所の話になっちゃうけど、
どうも私の生まれたところは町工場とかが多くて、
IBMもあったし、セガがあったり、
テープレコーダー会社がいっぱいあったり、
で、それらが大会社で
その下請けがあるわけだよ。
下請けを見て育ったね。
思えば毎日下請けを見てるからさ。
ちっちゃい工場に遊びにいけるんだから。
でも、何を作ってるかわかんないんだよ。
なんかちっちゃいネジを作ってるんだけど、
これが何になるのかもわからない。
それこそ兵器になるかもしれないんだけどさ。
ただ、何かの部品なんだろうね、特殊な。
で、その親会社がダメになると、
つぶしのきかない部品だから、
もうダメになっちゃうじゃない。
そういうのばっかり見てるんだよ。
糸井 そんときに、下請けなりに
他のところにも売れるようなことを考えていたら
生き延びるんだなあ。
鈴木 汎用性みたいなねえ。
そういう工場も少しはあるようだけど、今だ現役はね。
糸井 うん。だって思えば今の大企業って
元々はみんなそうだからね。
俺、好きなのは本田宗一郎って人の
湯たんぽのタンクのオートバイよ。
自転車につけただけの。
俺、あれ夢だね。
俺にとっての夢はねえ、かつてはよく冗談で
アパート経営って言ってたんだけど、
それはつまんないわ。
やぱり湯たんぽ!
湯たんぽオートバイ!
鈴木 今からそれ(湯たんぽオートバイに匹敵するもの)を
考えるとしたら、何なんでしょうねえ。
糸井 それねえ、困んないと出てこないんだよ。
鈴木 (湯たんぽオートバイのようなものって)
すごい困ったところから出てきてるよね、
そのアイディアは。
糸井 そのできないと思ってたことをできるじゃないか、
って先に言ったヤツがやるんだよ。
つまり、湯たんぽでいいじゃない、って言うのは
やっぱり度胸がいったと思うのよ。
違うんだもん(笑)。
鈴木 違うものなんだもんなあ(笑)。
糸井 湯たんぽは足とか暖めるものなんだもん(笑)。
鈴木 お湯入れるもんだもんねえ。
糸井 そうそうそう。
それは思えば『ほぼ日刊イトイ新聞』だって
湯たんぽですよ。
ないんだもん、元々、そんなもん。
他に材料ないから、そのへんにあるもの集めて
やってるわけでしょ。
あと、福神漬けが俺の夢なの。
鈴木 えっ!?
糸井 福神漬けってねえ、俺、
川のそばで遊んでることが多かったんで、
上流からよく大根とか流れてくるんだよ。
鈴木 ちょっと待って、俺、
福神漬けってもとが何かわかんない。
糸井 大根となたまめとか・・・
主に大根なんですよ。
で、それを刻んで漬けたもんなんだけど、
いっこずつが、ちいちゃいでしょ?
あれねえ、カスなんですよ。
いまは、ふつうに育てた方が
かえってお金がかかんないと思うんだけど、
よく言われてたのは、
上流から流れてきた大根のしなびたヤツを
拾って作ったんだ、って大人に聞いてたのよ、
福神漬けっていうのはさ(笑)。
鈴木 ほおー(笑)。
糸井 戦後なんて、
みんなそんなようなもんでしょ、だいたい。
進駐軍の食べ残しを雑炊にして
売ったりしてたわけじゃない。
鈴木 あの、脱脂粉乳もそうだしね。
糸井 そうそう。
いらないって人と、いるって人がいたら、
それをどう流通パックを作るかってことに、
全部カギがあるわけですよ。
湯たんぽだって、
みんなが足暖めてるわけじゃないんだから
ふつうに手に入れられるわけじゃないですか。
鈴木 おからだね。
糸井 おから!
おからいいねえ。
渡辺 おから積んでるトラック見たことあります?
糸井 あるある。
渡辺 豆腐工場とかから、
どっかの飼料用に持ってくんですよね。
糸井 豚のえさ。
渡辺 豚のえさなんだけど、
おからがダンプに積んであって、
もうもうと湯気が出てるんですよ。
湯気だしトラック。
それ最初見たとき、何が乗ってるのかなあ、
って思いましたよね。
鈴木 あれ一応廃棄物なんだよね。
渡辺 で、なんかねえ、牛の飼料にするらしいんですよ。
鈴木 人間は食っちゃいけないって
法律で決まってるんじゃないですか。
そんなことないっけ?
糸井 そんなことはないだろう(笑)。
渡辺 でも、あれはとにかく自分の価値観が
いったん狂いますよね。
糸井 うん。
あとねえ、俺、赤城山で穴掘った場所の裏が
不法投棄のおからが腐ってて、
臭いんだよおー。
だから、飼料にしても、人間が食っても
まだ余るほどのおからがあるんだよ。
それが不法投棄されちゃうんだよ。
それがまた、臭いんだよー。
鈴木 臭そうだなー、それは。
糸井 たとえば、おからでブロックができたとするじゃない。
鈴木 “ビーンズブロック”(笑)
糸井 そしたら、不法投棄もなくなるし、
不要品じゃなくなるわけですよ。
だから、そういうふうに
いつでも何かがアイディアひとつで変るじゃない。
そのへん狙いよね。
鈴木 おからねえ。
おからで車動いたらね。
糸井 うん。
おからは少なくても燃えはするよね。
渡辺 その前に乾燥させないと(笑)。
鈴木 そう言えば、乾燥したおからって
見たことないなあ。
糸井 コストがかかるんだろうなあ、乾燥するのに。
味の素なんかは、
砂糖をとった後のさとうきびから作るんですよね。
それだって不要品でしょ?
ムーンライダーズの生き方って
あくまでも羽田からだっていうのは
やっぱり、どこまで行っても・・・
鈴木 いやになっちゃうよねえ。
糸井 「外国を意識する飛行機を眺めてた」
とかさ。
鈴木 (糸井さんは)群馬からっていうのを
あんまり感じないけど。
糸井 俺はわかってるの。
群馬って風強いの。不安定なの。
鈴木 立ってても揺れるの?
糸井 そう。
だって、それ言うとみんなが笑って
嘘だ、っていうけど、
嘘じゃない! 北に向って自転車こげないんだから!
鈴木 うそー(笑)。
それはオーバーだよー(笑)。
糸井 群馬のおばさんはみんな冬場は、
北に向って自転車おしてるんだから(笑)。
その代わり、北の友達ん家に行ったら、
帰りは(南向きで)楽よ。
こがないで帰ってこれるんだもん。
鈴木 うそだーー(笑)。
糸井 ほんとだってば!!(笑)
鈴木 “北関東のからっかぜ”
糸井 それ、最近弱まったんだって。
気象条件が変って。
だけど、俺が子供のときって、
ほんとに北に向ったらすすまないんだから。
毎日そうやって、順風と逆風について
体が考えていたの(笑)。
鈴木 方角ばっか考えなきゃいけないの?
糸井 方角考えるっていうかねえ、
もう考えたくないわけ(笑)。
要するに、一生懸命こぐときと、何でもないときと
もうそれは風まかせ。
そんで、夏になると雷が鳴るわけ、ゴロゴロ。
ドッカーンって音を毎日夕方、
特に夏休みの間は毎日ドッカンドッカンいってるわけ。
だから落ち着いて何かを考えるっていうこととは無縁!
だから、あそこ(群馬)は基本的に
アナーキストと詩人が多いんですよ。
早く決着つける!(笑)
鈴木 はははははっ、早い。
糸井 「どうでもいいじゃないかっ」みたいな。
だから難破船のような(笑)。
鈴木 県自体が難破船。海ないのに。
糸井 そうっ
鈴木 すっげえなあ、それ(笑)。
糸井 それをあんまり人は説明したがらないけど、
俺はわかってる。
体に染み込んでるんだから。
だから、落ち着いて部屋の中にとじこもってるけど、
それは外に出たら風が強いからであって、
さー外に出るぞー、っていうのと、
とじこもってるかのどっちかなんですよ。
鈴木 でも、(埋蔵金の)穴掘ってるときの
地元の人の存在感はそんな感じだね。
糸井 そうだろ?
鈴木 パワーショベルの人とかね。
糸井 あのねえ、なんかねえ、
意外と大事にしないのよ、自分を。
でも、理念は大事にするみたいなところはあって。
鈴木 (笑)理念まで風に飛ばされちゃったら・・・・
糸井 そうだよね。
理念だけは風に関係ないから。
鈴木 それ(理念)は飛ばされまい、っていうのが
あるのかもしれない。
糸井 だから、一方では天領だったから、
徹底的に保守の場所なんですよ。
お上が言うことに逆らってもムダだ、
みたいな気持ちがある。
もう一方で自然環境の中で
荒波状態が当たり前みたいなのがせめぎ合ってて、
(保守か荒波か)どっち派が勝つかによって
舵が決まってくるんじゃないの。
俺は、もう(群馬から)出ちゃってるから。
鈴木 捕鯨船みたいね(笑)。
糸井 生糸産業で当てた県ですからね。
そこで成金もいたし、バクチも盛んだったし、
賭博性が強いですよ。
だから、江戸の大火事みたいなので
財産はなくなっちゃうものだって、
職人が宵越しの金は持たない、っていうのと
意外にメンタリティーは共通してますよね。
でも、一方で保守の動きは動きでしっかりとあって、
毎日おんなじ事をやってれば大丈夫、みたいなのと、
2種類が行ったり来たりしてるんじゃないかなあ。
鈴木 そこには悪いこともいっぱいあるんだろうね。
糸井 だってさー、県で名物の人って、
静岡の清水次郎長はまだ実業家になったけど、
国定忠次だとか、大前田英五郎とか、
やくざの名前ばっか出てくるのって
ひどい県だと思わない?
(群馬で偉人と言えば)やくざと政治家なのよ(笑)。
渡辺 糸井さんがいるじゃないですか。
糸井 俺はどういう立場でいればいいのよー。
鈴木 ははー。
糸井 なんとなくそう言われれば、
そんな気がしてくるでしょ?
鈴木 してきた。

(つづく)

2001-01-01-MON

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