糸井 |
スロースターターですよね、慶一君ね。 |
鈴木 |
晩熟。 |
糸井 |
実は俺もね、人はそう思ってないらしいんですけど、
実はスロースターターなんですよ。 |
鈴木 |
二度目、三度目もあるんですよ。 |
糸井 |
おいしい。 |
鈴木 |
割とおれって55くらいでものすごいこと
できるんじゃないかって思ってるじゃない?
スロースターターの特徴は。 |
糸井 |
持っておいたほうがいいっていうか、決めんの自分だから。
その、主体なしの観測っていうのが
社会をつくってるじゃないですか。
つまり、どれがヒットするかなあっていうのを
作ってる人間が言ってるじゃない。
でもそうじゃなくて、ヒットさせるにはどうしたらいいか、
っていう次のステップにいかなきゃしょうがないわけで。 |
鈴木 |
主体があってね。 |
糸井 |
そう、それはだから、監督に順位予想を訊くような
馬鹿な話をみんなやってるわけですよ。
うちの会社どうなんだって? 聞いた? なんて
やってるけど、どうしたいんだ、
じゃあどうするんだ、って言うんでしょう? |
鈴木 |
ヤクルトでいうと古田が入った。
で、何年後に何がこう強くなって優勝したりする。
そのタイムラグを測るっていうかね。 |
糸井 |
そこはねえ、そこは何か俺、大人の何かだと思うんだよ。
今はっていうことだよ。 |
鈴木 |
それは顔のしわも含めて。 |
糸井 |
うん。 |
鈴木 |
腹のでっぱりも。 |
糸井 |
含めてだよ。 |
鈴木 |
含めての爆発点があるんじゃないかなあと思うわけだよ。
それはもう主体的に考えないと。 |
糸井 |
そうなんだよ。欠点はあらゆるところにあるんだよ。
あらゆる現象は。意識的に忘れて積み残しして
走るトラックみたいに。
理科系の人が面白いっていうのは、
コンピューター買い換えるときって、
前のプログラムでせっかく積み上げたのに、
作りやすいものが出ると全部捨てて新しいマシン、
一から作るんですよ。これはね、すごいと思う。 |
鈴木 |
それはね、来る間のタクシーで話してたんだ。まさにね。
iBook、iMacみたいなもんですよね。 |
糸井 |
もっとたいへんだと思う、飯がかかってるから。
せっかくいろいろできるようにしたのに。
それのロスを考えてもこっちにしたほうがいいっていう。
ゲームの会社で、SGIのマシンとか、個人で買えないような
マシンをみんなで使えるようなシステムを組んで、
どうだー、うちはサイコー、こんな会社ないですよね、
アッハッハ、って嬉しそうにやってたら、
今、ウインドウズマシンにソフト入れたら
SGIの機械要らないらしい。で、20万くらいで安く買える
らしいんですよ。で、趣味で買うらしいですよ、
それをみんなが。で、それぜんぶロスですし、
ゴミですよね、だけど、ゴミだけど、
当時は前のマシンに比べてそれやるのがよかったわけで、
そん時に、そのマシンで仕事をやり終えたときは
仕事やり終えてるんですよ。
だけど、そのマシンの仕事がまだできないときに
次のいい機械が出てきたときには、跨いでるわけ。
そうしたら、組みなおしですよ。
そん時にはじめて速度っていうものの
恐ろしさを知るんですよ。 |
鈴木 |
速いものが出たらそっちを使わない手はないって
考え方かな。 |
糸井 |
それが一つです、正しいんです。
前にやりかけたことを捨てちゃうっていうことも
コストの計算に入れなきゃねってことも含めて、
開発にちゃんとお金がかかってるんですよ。
もう一つは、その5つのマシンの端境期を跨いじゃうような
作り方をしていたんじゃ遅すぎるよ。
MOTHER3って、5年かかったとかさ、
職人さんが手をかけましたってかんじでさ、
一部では大笑いしながら自慢にしてるわけですよ。
それってださいと思うの。シナリオ作れって言ったら
結局カンヅメでつくって、手を入れてくのには
時間がかかりますよね。
でも、システム的にいえば台本なんて
もうできてるわけだしね、なんかね、やり方がこの、
転換期をまたいじゃうんですよ、こういう要素
入れるんだったらこれぜんぶ1からやらなきゃなって。
今はもうMOTHERって、ウインドウズマシン
使ってないんですけど、まだ使ってないですけど、
あと1年経ったら、全部捨ててこっちに換えて
一からやったほうが早い、ってことになると思うんですよ。
その速度がない限り待ちくたびれたっていう人は
もう全部買わないですよね。
で、お客さんの年齢が違うってことは、
心も変わってるんですよね。
今妙に『MOTHER』の人気があるのは、
あまりにも跨いだからなんですよね。
で、もう、メモリーに入っちゃった。
「あれって感動したよな」とかいって。 |
鈴木 |
言われるもんね。あれからゲーム始めたんですよ、とかね。 |
糸井 |
だから、それ言われる商品価値っていうのも
もちろんあるんですけど、それは違うじゃないですか。
かと言ってほかと同じようなペースで
ほかと同じようなものを作ってたら早くできますよって
言われたら、それは拒否しなきゃならない。
何が必要かって言ったら、今まであった枠組みを
全部疑うことじゃないかってことだと思うんですよね。
例えばRPGていったら50時間やるっていうのが
ひとつの売り物ですよね。
こんなに遊べた、それを早くやったっていうのが
自慢なんですよ。で、5時間でできたって、
値段が2000円だったらいいじゃないですか。
そういう具合に、ハードウエアに依拠してる
コスト計算とかは、おなじ石使えばできるんですよって、
入れ物にあわせて料理作ってどうなるんだ。
量にあわせて入れ物変えなきゃならないってことに
なるんで。そうやって1個ずつ考えると、
クリエイティブって1年以上かけてちゃいけないんじゃ
ないかって思うんですよ。映画だってそうじゃない。 |
鈴木 |
映画って一時……、 |
糸井 |
構想何年って? |
鈴木 |
そういうのが流行ったじゃない? 今まったく逆で
速くなってるよね、去年今年一昨年。
だから50時間かかるRPGっていうのはさ……、 |
糸井 |
いらない。 |
鈴木 |
どうなのかなって。 |
糸井 |
だからもう、作りかけちゃったから出しちゃうけど、
これもう完全に赤字ですよね。それをやる意味って、
日本の文化のために必要かっていわれたら、
笑うしかないじゃないですか。 |
鈴木 |
でもさ、10年前はその50時間100時間かかるやつを
みんな夢中になってたよね。
それを人よりはやくやれたのは嬉しい、とか、
人より遅くても嬉しい、最後までやる、
っていうような時間があったんだよね。 |
糸井 |
あんときって、ある種時間が豊かだったというか
バブルだったというか、
経済的に時間が沢山あったんですよ。
少し仕事をして経済が成り立ってるんだと思うんです
よ。今はあらゆる仕事がダンピングになってて、
働く社長ってのばっかり見るじゃないですか。 |
鈴木 |
そうなんですよ、ダンピングされてるんで、
あるレベルをキープしようとしたら量は増えるんですよね。 |
糸井 |
で、今度沢山でるとせレクトされるってことになって、
まったく聴かれないっていうクリエイティブが
増えるわけですよね今度は。音楽では。
そん時に、聴かれるためにはどうしたらいいかっていうと、
今までのメディアでどっと流すと、
ある数が読めるからみんなタイアップするんですけど、
その構造ってやっぱり変なんですよ。 |
鈴木 |
クリエイティブとしては怠けてるよね。 |
糸井 |
つまり、クリエイティブの質を問わないで
売れる仕組みがあるっていうのは、それはやっぱり
過渡期だと思うんですよ。
で、やっぱり嬉しいニュースっていくつかあるもんで、
綾戸智絵さんのアルバムって16位ですよ、
アルバムチャートで。今も30位近辺にいますよ。
で、真下にチェキっ娘がいたんですよ。
NEWのしるしがついて。っていうことは、あそこんちって、
会社としてはないも同然ですよ。で、16位を作るための
仕組みと、あれは綾戸さんじゃなくて、逆に、
「歌はともかくきれいだね」って人だったら
できないと思うんですよ。
俺らがはじめて聞いたとき、「なんだこれは!?」って
いうびっくりしたものがあったじゃないですか。
あれがクリエイティブの核で、それさえあれば、
マンションの一室でオリコン16位に入れるぞっていうのを
見るわけですよ。もうこれはうれしいですよね。
(つづく) |