COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その5
スロースターターの特徴。

糸井 スロースターターですよね、慶一君ね。
鈴木 晩熟。
糸井 実は俺もね、人はそう思ってないらしいんですけど、
実はスロースターターなんですよ。
鈴木 二度目、三度目もあるんですよ。
糸井 おいしい。
鈴木 割とおれって55くらいでものすごいこと
できるんじゃないかって思ってるじゃない?
スロースターターの特徴は。
糸井 持っておいたほうがいいっていうか、決めんの自分だから。
その、主体なしの観測っていうのが
社会をつくってるじゃないですか。
つまり、どれがヒットするかなあっていうのを
作ってる人間が言ってるじゃない。
でもそうじゃなくて、ヒットさせるにはどうしたらいいか、
っていう次のステップにいかなきゃしょうがないわけで。
鈴木 主体があってね。
糸井 そう、それはだから、監督に順位予想を訊くような
馬鹿な話をみんなやってるわけですよ。
うちの会社どうなんだって? 聞いた? なんて
やってるけど、どうしたいんだ、
じゃあどうするんだ、って言うんでしょう?
鈴木 ヤクルトでいうと古田が入った。
で、何年後に何がこう強くなって優勝したりする。
そのタイムラグを測るっていうかね。
糸井 そこはねえ、そこは何か俺、大人の何かだと思うんだよ。
今はっていうことだよ。
鈴木 それは顔のしわも含めて。
糸井 うん。
鈴木 腹のでっぱりも。
糸井 含めてだよ。
鈴木 含めての爆発点があるんじゃないかなあと思うわけだよ。
それはもう主体的に考えないと。
糸井 そうなんだよ。欠点はあらゆるところにあるんだよ。
あらゆる現象は。意識的に忘れて積み残しして
走るトラックみたいに。
理科系の人が面白いっていうのは、
コンピューター買い換えるときって、
前のプログラムでせっかく積み上げたのに、
作りやすいものが出ると全部捨てて新しいマシン、
一から作るんですよ。これはね、すごいと思う。
鈴木 それはね、来る間のタクシーで話してたんだ。まさにね。
iBook、iMacみたいなもんですよね。
糸井 もっとたいへんだと思う、飯がかかってるから。
せっかくいろいろできるようにしたのに。
それのロスを考えてもこっちにしたほうがいいっていう。
ゲームの会社で、SGIのマシンとか、個人で買えないような
マシンをみんなで使えるようなシステムを組んで、
どうだー、うちはサイコー、こんな会社ないですよね、
アッハッハ、って嬉しそうにやってたら、
今、ウインドウズマシンにソフト入れたら
SGIの機械要らないらしい。で、20万くらいで安く買える
らしいんですよ。で、趣味で買うらしいですよ、
それをみんなが。で、それぜんぶロスですし、
ゴミですよね、だけど、ゴミだけど、
当時は前のマシンに比べてそれやるのがよかったわけで、
そん時に、そのマシンで仕事をやり終えたときは
仕事やり終えてるんですよ。
だけど、そのマシンの仕事がまだできないときに
次のいい機械が出てきたときには、跨いでるわけ。
そうしたら、組みなおしですよ。
そん時にはじめて速度っていうものの
恐ろしさを知るんですよ。
鈴木 速いものが出たらそっちを使わない手はないって
考え方かな。
糸井 それが一つです、正しいんです。
前にやりかけたことを捨てちゃうっていうことも
コストの計算に入れなきゃねってことも含めて、
開発にちゃんとお金がかかってるんですよ。
もう一つは、その5つのマシンの端境期を跨いじゃうような
作り方をしていたんじゃ遅すぎるよ。
MOTHER3って、5年かかったとかさ、
職人さんが手をかけましたってかんじでさ、
一部では大笑いしながら自慢にしてるわけですよ。
それってださいと思うの。シナリオ作れって言ったら
結局カンヅメでつくって、手を入れてくのには
時間がかかりますよね。
でも、システム的にいえば台本なんて
もうできてるわけだしね、なんかね、やり方がこの、
転換期をまたいじゃうんですよ、こういう要素
入れるんだったらこれぜんぶ1からやらなきゃなって。
今はもうMOTHERって、ウインドウズマシン
使ってないんですけど、まだ使ってないですけど、
あと1年経ったら、全部捨ててこっちに換えて
一からやったほうが早い、ってことになると思うんですよ。
その速度がない限り待ちくたびれたっていう人は
もう全部買わないですよね。
で、お客さんの年齢が違うってことは、
心も変わってるんですよね。
今妙に『MOTHER』の人気があるのは、
あまりにも跨いだからなんですよね。
で、もう、メモリーに入っちゃった。
「あれって感動したよな」とかいって。
鈴木 言われるもんね。あれからゲーム始めたんですよ、とかね。
糸井 だから、それ言われる商品価値っていうのも
もちろんあるんですけど、それは違うじゃないですか。
かと言ってほかと同じようなペースで
ほかと同じようなものを作ってたら早くできますよって
言われたら、それは拒否しなきゃならない。
何が必要かって言ったら、今まであった枠組みを
全部疑うことじゃないかってことだと思うんですよね。
例えばRPGていったら50時間やるっていうのが
ひとつの売り物ですよね。
こんなに遊べた、それを早くやったっていうのが
自慢なんですよ。で、5時間でできたって、
値段が2000円だったらいいじゃないですか。
そういう具合に、ハードウエアに依拠してる
コスト計算とかは、おなじ石使えばできるんですよって、
入れ物にあわせて料理作ってどうなるんだ。
量にあわせて入れ物変えなきゃならないってことに
なるんで。そうやって1個ずつ考えると、
クリエイティブって1年以上かけてちゃいけないんじゃ
ないかって思うんですよ。映画だってそうじゃない。
鈴木 映画って一時……、
糸井 構想何年って?
鈴木 そういうのが流行ったじゃない? 今まったく逆で
速くなってるよね、去年今年一昨年。
だから50時間かかるRPGっていうのはさ……、
糸井 いらない。
鈴木 どうなのかなって。
糸井 だからもう、作りかけちゃったから出しちゃうけど、
これもう完全に赤字ですよね。それをやる意味って、
日本の文化のために必要かっていわれたら、
笑うしかないじゃないですか。
鈴木 でもさ、10年前はその50時間100時間かかるやつを
みんな夢中になってたよね。
それを人よりはやくやれたのは嬉しい、とか、
人より遅くても嬉しい、最後までやる、
っていうような時間があったんだよね。
糸井 あんときって、ある種時間が豊かだったというか
バブルだったというか、
経済的に時間が沢山あったんですよ。
少し仕事をして経済が成り立ってるんだと思うんです
よ。今はあらゆる仕事がダンピングになってて、
働く社長ってのばっかり見るじゃないですか。
鈴木 そうなんですよ、ダンピングされてるんで、
あるレベルをキープしようとしたら量は増えるんですよね。
糸井 で、今度沢山でるとせレクトされるってことになって、
まったく聴かれないっていうクリエイティブが
増えるわけですよね今度は。音楽では。
そん時に、聴かれるためにはどうしたらいいかっていうと、
今までのメディアでどっと流すと、
ある数が読めるからみんなタイアップするんですけど、
その構造ってやっぱり変なんですよ。
鈴木 クリエイティブとしては怠けてるよね。
糸井 つまり、クリエイティブの質を問わないで
売れる仕組みがあるっていうのは、それはやっぱり
過渡期だと思うんですよ。
で、やっぱり嬉しいニュースっていくつかあるもんで、
綾戸智絵さんのアルバムって16位ですよ、
アルバムチャートで。今も30位近辺にいますよ。
で、真下にチェキっ娘がいたんですよ。
NEWのしるしがついて。っていうことは、あそこんちって、
会社としてはないも同然ですよ。で、16位を作るための
仕組みと、あれは綾戸さんじゃなくて、逆に、
「歌はともかくきれいだね」って人だったら
できないと思うんですよ。
俺らがはじめて聞いたとき、「なんだこれは!?」って
いうびっくりしたものがあったじゃないですか。
あれがクリエイティブの核で、それさえあれば、
マンションの一室でオリコン16位に入れるぞっていうのを
見るわけですよ。もうこれはうれしいですよね。

(つづく)

2000-02-11-FRI

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