COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その3
どっちかというと、意気地がない

鈴木 つい先日さ、土曜日かな、同期会があってさ。
俺たちの高校、羽田なんだけど、夫婦者が多いんだよ。
同級生で結婚しちゃったっていう、
クローズドされた社会でさ。
その一組が埼玉に住んでるんだけど、
よし、遊びに行こうっていうことになって。
タクシーで行って、着いたら、子供、女の子2人がいた。
その子の顔を見てるとね、その子の昔を思い出すわけだ。
他人の子だけどね。「君ってさ、普通の髪型じゃなくて
こうこうこうだったよね、あの時野球やってたよね」って、
過去を一緒にいた時間があるから、
思い出すことができるんだ。
でも実は二重の過去の共有があるわけ。
親と子と私の間に。それこそ複雑にいろんな事考える。
糸井 鼠穴に夜中にいると、思い出話がいちばん盛り上がるよ。
鈴木 わがバンドも。結局はそういうことなんだね。
一緒にいる時間、少ないくせに、一緒にいると、
休憩中は思い出話。近いとこは何も覚えてないんだけど。
糸井 思い出はエンターテインメントなんだよ。
メモリー・イズ・エンターテインメント、なんていってね。
鈴木 じゅうぶんそうだね。
糸井 その理由って、先が見えないからなんですよ。
鈴木 現在が。
糸井 つまり、脱サラした夫婦がラーメン屋はじめたときは
先を見たいから一生懸命やりますよね。
「これからおまえよう、家建ててよう」
って言って土地のパンフなんか見て喜んだりする、
っていうのは、これ、未来に向かっているわけじゃない。
でも今、欲望も何も全部ふさがれてて、
どうやって生きてくんだろう……?
鈴木 計画立たない。
糸井 だから過去を見るわけで。
鈴木 スピードを持って先を見るというのも、
似たようなものだね。先が見えない。
糸井 腹が立つのは現在だ、っていう気持ちなんだよ。
それが崖っぷちなんだよ。明日いいことが起こるって
信じても、嘘だってばれちゃうわけで、
宝くじ当たった人とかはね、明日いいことがあるって
言っても……、
鈴木 そうだね、一回そういう経験があると
やみつきになるのかもしれないけどさ。
糸井 賭博とかもそうだと思うんですよ。
で、その喜びって俺、あると思うんですよ。
でも、一般に生きてるときは、メモリーって
最高のごちそうだな、と。
例えば俺なんか、子供のビデオ、ベータで撮ってる。
鈴木 俺なんか、子供の頃、8ミリだよ。
糸井 あ、それは、見る機会ないですよね。
鈴木 どっかに頼まなきゃならない。
糸井 アルバムだって何枚もあるのも楽しいけど、
ほんとはその1枚がぽっと出たほうがいいわけですよ。
鈴木 写真を例にとれば、どこかから1個の写真をとると、
つまらないじゃない。
糸井 つまらない。アリバイみたい。
鈴木 ああ、ここでこういうことをしてたんだなって。
じゃあしていたことがどうなんだって考えになるじゃない。
写真も記憶も連続している。
それより過去のものっていうのは、そこにいるだけで、
写っているだけで想像力が非常にふくらむわけですよ。
フッとセピアになる。
それ以降のつまらない写真と一緒になってるから、
全部見えてしまうんだよなあ。
糸井 いっぱい、そういうの周辺のヒントがあってさ、
こないだ対談したときに、そこにいた女性の編集者が、
「女の人が、一番自分がもててたころの化粧から
変わらないのはなんでなんでしょうね」って言うんだ。
鈴木 (笑)いくつになっても?
糸井 だからさ、「弘田三枝子」の顔してる女の人、
いっぱいいるじゃない? だからもう、
極端に化石みたいになったら鈴木その子みたいになって、
化石を見るみたいにおもしろいわけだけど、
ちょうど半端なところで、サーファー系ぽく後ろ髪
伸ばしたりさ、今でも子供にそうやらせたりするじゃない。
あの感じっていうのが、やっぱこれもどっかで、
一番いい自分っていうのが何歳って、
決めてんじゃないかな。俺はそれがよくわかんない人間、
自分を売り渡しながら生きてきた人間なんで……。
鈴木 おれもよくわかんない。本当によくわかんない。
あの時が一番よかったっていうのは、ね。
糸井 モテた時期っていうんだったら、客観性があるじゃない。
あの頃は意味なくモテたな、とか。
そういう馬鹿なことはある。
だけど自分とは違うんですよ。自分とは関係ない。
余計なゲームしてたっていうね。
それはね、ほんと、今、未来を語ることと過去を語ることの
両方がね、もっとふくらむものが、今の興味なんだ。
未来が……、
鈴木 (両手でタテにふたつマルをつくって)
こういうふうに広がってるんでしょ?
糸井 そうそう、ひょうたん型というか、砂時計型?
そこはねえ、いいなあ。
鈴木 たしかにそうだなあ。じゃあ一番イヤな自分に
会うとしたら? 逆に。
糸井 イヤな自分ははっきりいえるな、俺。
ヤな自分はねえ、やっぱり原因を考えたくなるんですよ、
おんなじ俺だから、って思うんですよ。
原因考えるとね、根っこにあるのは自信のなさだね。
鈴木 なるほど(笑)。
糸井 自信がないから余計なところで変なポーズとったり
腕に力こぶ作ってみたりして、そこ触られると
ビリビリしちゃって、あらぬ方向に走っていくという。
病気の時って心がいちいち痛むじゃないですか。
自信がない時っていうのは病気の時と
おんなじだと思うんですよ。
鈴木 おれは自信がないというか、
どっちかというと、意気地がない。
糸井 おんなじおんなじ(笑)。
鈴木 びびったときとか、それがイヤだった。
糸井 おんなじだよ。やだよねー。今だったら、
「いや、人はびびるもんでしょう」
って言うけどね。
鈴木 思いっきりびびってたときって覚えてたりするからね。
糸井 それはびびる前になんで逃げなかったのか、
という頭の悪さが問題で(笑)。
そうか、慶一君もそのあたりだな。
それと速度を一緒に考えてるっていうのが
わかる気がするな。

(つづく)

2000-02-04-FRI

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