COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

  シーット!!

*あけましておめでとうございます。
 新年にふさわしくないような
 不運なNYのお話の続きです。
鈴木 朝まで寝れなかったね。
トイレ行きたくなっちゃったら
どうしようって思いながら。
で、朝5時にホテルの2階の便所だけ
使えるっていうので行ったんだよ。
── うん。
鈴木 朝5時で真っ暗で。屋内だから。
トイレまでの誘導のろうそくが置いてあって。
で、大きい方をしようと思って、
ドア開けようとしたら全部カギかかってるの。
── うわ。
鈴木 で、1階に行ってフロントに行ったら、
セキュリティに聞けって言うんで、
セキュリティに聞いたら、1分待てって。
で、セキュリティの親分に聞きに行ったんだな。
戻って来て、
このトイレもフラッシュしないんで、
全部止めてると。
── フラッシュ。水を流すってことですね。
流れないんだ。
鈴木 で、どうしたらいいんだ、俺は。
どこでしたらいい。あー?
── 慶一さん表現がハードボイルドですね。
内容は、違うけど。
もう、切羽詰まってるんだ(笑)。
鈴木 もう、shitつったよ。
── あははは。まさしくshit。
鈴木 フロントのお兄ちゃんにもさ。
── shitしたいんだけど(笑)。
鈴木 他の言い方が思い付かなかった。
I need to go to the bathroom.とか
言えばよかったのかな。
── まあ、上品に言えばね(笑)。
で、どこでしたんですか?
鈴木 それで、セキュリティに
どこでしたらいいんだろうって言ったら、
自分の部屋でとりあえずしろっていうんで。
── ああ、まあね。
どっちみち流れないけど。
鈴木 OK、分かったってまた戻って、
自分の部屋でギリギリまで堪えて。
明るくなって来たの。
街も停電なんだけど動き出すわな。
── うん。
鈴木 車とかも。
── 人もね。
鈴木 で、向かいのビルがあって、
そこの人とかが日光浴とかしだして。
── 脳天気だね(笑)。
鈴木 うん。で、しようがない、
しちゃおうと思ってして、
流れないからそのままにして。
顔も洗えないよね。
── うん。
鈴木 だから、ペットボトルの水をちょっと
歯ブラシに付けて歯を磨いて、
顔は拭いて。
── 拭いて。
鈴木 出かける準備して。
出かける前に、何かあの時
ちょっと気が動転してたね、
ベッドメイキングの人用に、
5ドル置いてさ。便所のふたの上に。
── トイレに? 高いですね(笑)。
鈴木 5ドル置いて、
それにろうそく乗っけて。
── うん?
鈴木 何でろうそく乗っけたか
俺にも分からない。
重石かなあ。
── ははは。
鈴木 風に飛ばされないようにって事だよな、
でも吹くわけがない。
── よろしくねってつもりだったんだ。
流しといてねって。
鈴木 流しといてねっていう気持ちを込めて。
で、1階で待ち合わせして
いろいろ打ち合わせした結果、
まだ出かけないことになったの。
部屋戻ったらちょうど
ベッドメイキングのおばさんがいて、
ちょっと、あんたこっち来て、
ちょっとこれなんだって言われて。
── トイレの5ドル。
普通置いてない場所だから。
鈴木 これ、何の宗教だって。
── ははははは。
トイレにろうそくとお金が置いてある(笑)。
鈴木 はははは。
religionって言われたもん。
── ははは。違う違うって。
鈴木 これはね、ちょっと開けてみれば分かるけど、
ほら、これだよ。流れてないでしょ。
これを流してくれたら
5ドルあげるからって。
── ははは。
鈴木 おばさん、できないからいらないって。
── 無理だって?
鈴木 でもあげたの。
流してくれたらうれしいなって。
そのまま戻って来なかったけど。
── しようがないね(笑)。
鈴木 で、2日目も
やっぱりそのコーディネーターの
家まで歩いて行こうと。
── ふふふふ。
鈴木 でも、タイムズスクエアは点いてたね。
2日目には。
仕事のめど立たずで、ブラブラするかって。
── ああ。部分復旧って言ってましたよ。
鈴木 タイムズスクエアの一番いいところで、
各テレビ局がいるわけだよ。
CNN含めて。そこ何度も往復したの、なぜか。
── 映るかなって?
鈴木 絶対映ってるな、あれ。
── 気が付かなかったけど。
どっかに映ってたかも。
鈴木 何度もあそこ往復したから。
── 暇だから。
鈴木 でもね、暇だからみんな買い物するんだよ、
やってる店行って。
── お店はやってたんだ。
鈴木 みんな買い物する。
すごいね、日本人の買い物量は。
── へえ、でも現金持ってればできるけど、
カード決済とかは?
鈴木 そうだね、現金払いもしたけど、
電気が来てる店は大丈夫なの。
── あ、タイムズスクエア周辺は
平気だったんだ。
鈴木 平気なの。あと、ソーホーがOK。
── ふーん。
鈴木 俺エレベーターの中で
ホテルの人が次の日話してるの聞いてて、
「どこに住んでるの? 電気はどう?」
「ソーホー」
「ラッキーだね、それは」。
おお、ソーホー点いてるらしいぞって。
── 行って買い物して。
鈴木 うん。
── 買い物いっぱい?
鈴木 うんうん。あとはさ、
ソーホーが点いてるってことは
そばの中華街どうだろうなって言って。
── 近いですねえ。
鈴木 うん。話は前後するが、
2日目午前中に
中華街まで行ったねえ。
── おかゆ食べられるかもしれない。
鈴木 うん。
── やってました?
鈴木 食べた。
── 食べた。やってた。
鈴木 中華街行って買い物しつつ、
うろうろしつつ、
移動しつつ、休みなく歩いたり。
── うん。
ひどい目に遭いましたねえ。
鈴木 それで、コーディネーターのところに
夕方行って、けっこう汗だくの状態なわけよ。
── デロデロのドロドロの。
鈴木 そろそろ限界だぞって感じなんです。
── 精神的にもね。
鈴木 精神的にも。その家行ったら、
そこは最後まで点かなかったエリアなの。
で、真っ暗な中で歌詞見て、
見えないから、外で見ようって
道で歌詞見て。
── 仕事しないと。
鈴木 OK、これでって。
仮に歌ってるやつ聞いて、
録音どうしようかってことになって、
結局最終日に全部やると。
── 帰る前に?
鈴木 うん。だって、いつ点くか分かんないから
帰れないかもしれないし。
1日延ばすかって。
── あ、そうですよねえ。
鈴木 うん。
── そうか、そうか。
鈴木 でも納品日がギリギリだったんだよね。
── うんうん。
鈴木 要するに帰って来て
そのままスタジオに行って
映像と音合わすっていう。
それが1日延びちゃうんで、
じゃあ最悪オーディオのデータで送ると。
── ああ、向こうから。
鈴木 それがいつ点くかまったく分かんない。
まあ、あちこち点きだしたんで、
だんだん希望は見えてきたんだよ。
飛行機も飛ぶかどうか分かんなかった。
── そうですよね。
鈴木 うん。で、2日目にその人んち行って、
夜になって今日帰って
ホテルに電気点いてないとヤバいよねって
電話してもらったら、今、点いたって。
── あはははは。
やっと、ほっとしました。
鈴木 やったー。あれはうれしかったねえ。
よーし急いでホテルへ戻ろうって。
だから28時間くらいかな?
── 一応仕事もできた?
鈴木 スタジオも電気来てるところの
スタジオを押さえ直して、
問題はゴスペルのコーラスの人たちを
どうやって集めるか。
── ゴスペルのコーラスだったんですね。
鈴木 うん。電車もパーフェクトには
動いてないから。
もう、あちこちから、
ニュージャージーから来る人もいるし、
その車手配して、
みんなまとめてぐるっと回って。
── バスにして、集めて。
鈴木 2日目の夜はやっと便所が流れて。
── はははは。きれいになった。
鈴木 うん。この間2回してるからね、俺。
── ははははは。1回目はまだしも
2回目は嫌ですね。
鈴木 2回目嫌。のり弁じゃないんだから。
── うわはははは。
鈴木 で、流して、
とにかくまた消えるかもしれないからさ。
── そうですよね。
鈴木 何が起きるか分からないから。
── そんなこと起きちゃったらね。
鈴木 うん。だからとにかく日本に電話したよね。
現地では、何が起きてんだか
分かってないんだもん。
あそこにいちゃ分かんないよ。
── 分かんないですよね。
鈴木 何か風の噂で東海岸は全部ダメとかって。
雷だとかいろんなうわさが。
で、日本に電話して
どういう報道になってるのか聞いて。
── うんうん。
鈴木 で、やっと分かった。事情が。
── はあ。渦中にいると分かんないもんですね。
鈴木 うん。分かんない、分かんない。
それで、とりあえずシャワーだけ
浴びとかないといつ浴びられるか分かんない。
── そうそうそうそう(笑)。
鈴木 また切れるかもしれないっていう
噂も飛んでたんでね。
今電気のあるうちに、
やれてなかった事やっとこうと。
それってホント日常的な事に尽きるんだよね。
でも、アイスクリームとか
もうみんなにあげてたね。
── 溶けちゃうしね。
鈴木 そう。溶けちゃうし。
あと、肉とかそういうのは捨ててたね。
── 腐ったものは売れないし。
鈴木 ボンボン捨ててた。
腐ったもの売ったら
裁判になるんじゃないのかなあ。
2日目の夜は、
またタイムズスクエアに行って
焼き肉でも食おうって言ったら、
コリアンレストランで焼き肉がない。
── 肉がない。
鈴木 肉がない!
── 捨てちゃったから(笑)。
鈴木 うん。スープ類ばっか。
でもこっそり出してくれたけど。
焼いたやつを、5切れくらい。
── はははは。
鈴木 それ食って。
── ひどい目に遭いましたねえ。


おつかれさまでした‥‥。
つづきます。

2004-01-02-FRI

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