鈴木 |
朝まで寝れなかったね。
トイレ行きたくなっちゃったら
どうしようって思いながら。
で、朝5時にホテルの2階の便所だけ
使えるっていうので行ったんだよ。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
朝5時で真っ暗で。屋内だから。
トイレまでの誘導のろうそくが置いてあって。
で、大きい方をしようと思って、
ドア開けようとしたら全部カギかかってるの。 |
── |
うわ。 |
鈴木 |
で、1階に行ってフロントに行ったら、
セキュリティに聞けって言うんで、
セキュリティに聞いたら、1分待てって。
で、セキュリティの親分に聞きに行ったんだな。
戻って来て、
このトイレもフラッシュしないんで、
全部止めてると。 |
── |
フラッシュ。水を流すってことですね。
流れないんだ。 |
鈴木 |
で、どうしたらいいんだ、俺は。
どこでしたらいい。あー? |
── |
慶一さん表現がハードボイルドですね。
内容は、違うけど。
もう、切羽詰まってるんだ(笑)。 |
鈴木 |
もう、shitつったよ。 |
── |
あははは。まさしくshit。 |
鈴木 |
フロントのお兄ちゃんにもさ。 |
── |
shitしたいんだけど(笑)。 |
鈴木 |
他の言い方が思い付かなかった。
I need to go to the bathroom.とか
言えばよかったのかな。 |
── |
まあ、上品に言えばね(笑)。
で、どこでしたんですか? |
鈴木 |
それで、セキュリティに
どこでしたらいいんだろうって言ったら、
自分の部屋でとりあえずしろっていうんで。 |
── |
ああ、まあね。
どっちみち流れないけど。 |
鈴木 |
OK、分かったってまた戻って、
自分の部屋でギリギリまで堪えて。
明るくなって来たの。
街も停電なんだけど動き出すわな。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
車とかも。 |
── |
人もね。 |
鈴木 |
で、向かいのビルがあって、
そこの人とかが日光浴とかしだして。 |
── |
脳天気だね(笑)。 |
鈴木 |
うん。で、しようがない、
しちゃおうと思ってして、
流れないからそのままにして。
顔も洗えないよね。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
だから、ペットボトルの水をちょっと
歯ブラシに付けて歯を磨いて、
顔は拭いて。 |
── |
拭いて。 |
鈴木 |
出かける準備して。
出かける前に、何かあの時
ちょっと気が動転してたね、
ベッドメイキングの人用に、
5ドル置いてさ。便所のふたの上に。 |
── |
トイレに? 高いですね(笑)。 |
鈴木 |
5ドル置いて、
それにろうそく乗っけて。 |
── |
うん? |
鈴木 |
何でろうそく乗っけたか
俺にも分からない。
重石かなあ。 |
── |
ははは。 |
鈴木 |
風に飛ばされないようにって事だよな、
でも吹くわけがない。 |
── |
よろしくねってつもりだったんだ。
流しといてねって。 |
鈴木 |
流しといてねっていう気持ちを込めて。
で、1階で待ち合わせして
いろいろ打ち合わせした結果、
まだ出かけないことになったの。
部屋戻ったらちょうど
ベッドメイキングのおばさんがいて、
ちょっと、あんたこっち来て、
ちょっとこれなんだって言われて。 |
── |
トイレの5ドル。
普通置いてない場所だから。 |
鈴木 |
これ、何の宗教だって。 |
── |
ははははは。
トイレにろうそくとお金が置いてある(笑)。 |
鈴木 |
はははは。
religionって言われたもん。 |
── |
ははは。違う違うって。 |
鈴木 |
これはね、ちょっと開けてみれば分かるけど、
ほら、これだよ。流れてないでしょ。
これを流してくれたら
5ドルあげるからって。 |
── |
ははは。 |
鈴木 |
おばさん、できないからいらないって。 |
── |
無理だって? |
鈴木 |
でもあげたの。
流してくれたらうれしいなって。
そのまま戻って来なかったけど。 |
── |
しようがないね(笑)。 |
鈴木 |
で、2日目も
やっぱりそのコーディネーターの
家まで歩いて行こうと。 |
── |
ふふふふ。 |
鈴木 |
でも、タイムズスクエアは点いてたね。
2日目には。
仕事のめど立たずで、ブラブラするかって。 |
── |
ああ。部分復旧って言ってましたよ。 |
鈴木 |
タイムズスクエアの一番いいところで、
各テレビ局がいるわけだよ。
CNN含めて。そこ何度も往復したの、なぜか。 |
── |
映るかなって? |
鈴木 |
絶対映ってるな、あれ。 |
── |
気が付かなかったけど。
どっかに映ってたかも。 |
鈴木 |
何度もあそこ往復したから。 |
── |
暇だから。 |
鈴木 |
でもね、暇だからみんな買い物するんだよ、
やってる店行って。 |
── |
お店はやってたんだ。 |
鈴木 |
みんな買い物する。
すごいね、日本人の買い物量は。 |
── |
へえ、でも現金持ってればできるけど、
カード決済とかは? |
鈴木 |
そうだね、現金払いもしたけど、
電気が来てる店は大丈夫なの。 |
── |
あ、タイムズスクエア周辺は
平気だったんだ。 |
鈴木 |
平気なの。あと、ソーホーがOK。 |
── |
ふーん。 |
鈴木 |
俺エレベーターの中で
ホテルの人が次の日話してるの聞いてて、
「どこに住んでるの? 電気はどう?」
「ソーホー」
「ラッキーだね、それは」。
おお、ソーホー点いてるらしいぞって。 |
── |
行って買い物して。 |
鈴木 |
うん。 |
── |
買い物いっぱい? |
鈴木 |
うんうん。あとはさ、
ソーホーが点いてるってことは
そばの中華街どうだろうなって言って。 |
── |
近いですねえ。 |
鈴木 |
うん。話は前後するが、
2日目午前中に
中華街まで行ったねえ。 |
── |
おかゆ食べられるかもしれない。 |
鈴木 |
うん。 |
── |
やってました? |
鈴木 |
食べた。 |
── |
食べた。やってた。 |
鈴木 |
中華街行って買い物しつつ、
うろうろしつつ、
移動しつつ、休みなく歩いたり。 |
── |
うん。
ひどい目に遭いましたねえ。 |
鈴木 |
それで、コーディネーターのところに
夕方行って、けっこう汗だくの状態なわけよ。 |
── |
デロデロのドロドロの。 |
鈴木 |
そろそろ限界だぞって感じなんです。 |
── |
精神的にもね。 |
鈴木 |
精神的にも。その家行ったら、
そこは最後まで点かなかったエリアなの。
で、真っ暗な中で歌詞見て、
見えないから、外で見ようって
道で歌詞見て。 |
── |
仕事しないと。 |
鈴木 |
OK、これでって。
仮に歌ってるやつ聞いて、
録音どうしようかってことになって、
結局最終日に全部やると。 |
── |
帰る前に? |
鈴木 |
うん。だって、いつ点くか分かんないから
帰れないかもしれないし。
1日延ばすかって。 |
── |
あ、そうですよねえ。 |
鈴木 |
うん。 |
── |
そうか、そうか。 |
鈴木 |
でも納品日がギリギリだったんだよね。 |
── |
うんうん。 |
鈴木 |
要するに帰って来て
そのままスタジオに行って
映像と音合わすっていう。
それが1日延びちゃうんで、
じゃあ最悪オーディオのデータで送ると。 |
── |
ああ、向こうから。 |
鈴木 |
それがいつ点くかまったく分かんない。
まあ、あちこち点きだしたんで、
だんだん希望は見えてきたんだよ。
飛行機も飛ぶかどうか分かんなかった。 |
── |
そうですよね。 |
鈴木 |
うん。で、2日目にその人んち行って、
夜になって今日帰って
ホテルに電気点いてないとヤバいよねって
電話してもらったら、今、点いたって。 |
── |
あはははは。
やっと、ほっとしました。 |
鈴木 |
やったー。あれはうれしかったねえ。
よーし急いでホテルへ戻ろうって。
だから28時間くらいかな? |
── |
一応仕事もできた? |
鈴木 |
スタジオも電気来てるところの
スタジオを押さえ直して、
問題はゴスペルのコーラスの人たちを
どうやって集めるか。 |
── |
ゴスペルのコーラスだったんですね。 |
鈴木 |
うん。電車もパーフェクトには
動いてないから。
もう、あちこちから、
ニュージャージーから来る人もいるし、
その車手配して、
みんなまとめてぐるっと回って。 |
── |
バスにして、集めて。 |
鈴木 |
2日目の夜はやっと便所が流れて。 |
── |
はははは。きれいになった。 |
鈴木 |
うん。この間2回してるからね、俺。 |
── |
ははははは。1回目はまだしも
2回目は嫌ですね。 |
鈴木 |
2回目嫌。のり弁じゃないんだから。 |
── |
うわはははは。 |
鈴木 |
で、流して、
とにかくまた消えるかもしれないからさ。 |
── |
そうですよね。 |
鈴木 |
何が起きるか分からないから。 |
── |
そんなこと起きちゃったらね。 |
鈴木 |
うん。だからとにかく日本に電話したよね。
現地では、何が起きてんだか
分かってないんだもん。
あそこにいちゃ分かんないよ。 |
── |
分かんないですよね。 |
鈴木 |
何か風の噂で東海岸は全部ダメとかって。
雷だとかいろんなうわさが。
で、日本に電話して
どういう報道になってるのか聞いて。 |
── |
うんうん。 |
鈴木 |
で、やっと分かった。事情が。 |
── |
はあ。渦中にいると分かんないもんですね。 |
鈴木 |
うん。分かんない、分かんない。
それで、とりあえずシャワーだけ
浴びとかないといつ浴びられるか分かんない。 |
── |
そうそうそうそう(笑)。 |
鈴木 |
また切れるかもしれないっていう
噂も飛んでたんでね。
今電気のあるうちに、
やれてなかった事やっとこうと。
それってホント日常的な事に尽きるんだよね。
でも、アイスクリームとか
もうみんなにあげてたね。 |
── |
溶けちゃうしね。 |
鈴木 |
そう。溶けちゃうし。
あと、肉とかそういうのは捨ててたね。 |
── |
腐ったものは売れないし。 |
鈴木 |
ボンボン捨ててた。
腐ったもの売ったら
裁判になるんじゃないのかなあ。
2日目の夜は、
またタイムズスクエアに行って
焼き肉でも食おうって言ったら、
コリアンレストランで焼き肉がない。 |
── |
肉がない。 |
鈴木 |
肉がない! |
── |
捨てちゃったから(笑)。 |
鈴木 |
うん。スープ類ばっか。
でもこっそり出してくれたけど。
焼いたやつを、5切れくらい。 |
── |
はははは。 |
鈴木 |
それ食って。 |
── |
ひどい目に遭いましたねえ。
|