── |
今年めちゃくちゃ仕事してません? |
鈴木 |
うん。 |
── |
してますよね。
占いの通りでしたね。
人生のピークと言っても
いいくらい忙しいって。 |
鈴木 |
そうね。 |
── |
映画音楽だけで‥‥ |
鈴木 |
2本。映画音楽2本とミュージカル1本。 |
── |
えーと映画音楽が、
「座頭市」の音楽。 |
鈴木 |
うん。 |
── |
慶一さんだって知らない人が見に行って、
テロップで名前を見て、
これってあの鈴木慶一さんなの?
って聞かれましたよ。 |
鈴木 |
うふふふ。 |
── |
うん、ほんとに。よかったって。
音楽がよかったってことを、
すごくいっぱい聞きました。 |
鈴木 |
うん。ありがとう。 |
── |
カタロニア映画祭で
最優秀音楽賞を受賞したんですよね。 |
鈴木 |
うん。うれすい。
そうねえ、あれは。
何って言ったらいいかな、
さまざまなアプローチの仕方して
あそこにたどり着いたの。 |
── |
さまざまなアプローチって? |
鈴木 |
要するにリズムが重要な映画だったんだよ。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
それこそ、お百姓さんの
鍬のタイミングが
リズムに合ってるとかね。 |
── |
あとから付けたんですか? |
鈴木 |
あとから。
先に一定のリズム、クリックと呼ぶんだけど、
それに合わせて映像を撮られてるんで。
テンポ合わせて。 |
── |
音楽を付けなきゃいけない。 |
鈴木 |
で、リズムをどんなものにしようかな、と。
さまざまなリズムループを試してみたりして
テンポは映像で全部決まってるわけ。
リズムのループってのは、2小節とか、
4小節とかのドラムやら
パーカッションやらの
パターンの繰り返しね。
それは、自分で作る場合もあるし、
サンプリングされたものもあるし、
そればっかり入ってるCDもあるし、
たくさんのループを同時に鳴らしたり、
引いたり足したりで、
グルーヴを作っていくわけ。
50人のドラマーと
50人のパーカッショニストを、
君は今叩け、君は今休め、
とやってるようなもんだなあ。
ちょっとためになっちゃったなあ。 |
── |
映画音楽ってあとから付けるもの?
いろいろですか? |
鈴木 |
そうだね、だいたいあとから付ける。 |
── |
だいたいあとから
付けるようになってるんだ。 |
鈴木 |
要するに監督から
ここに音楽が欲しい、
って言われてあとから付けるんだけど、
座頭市の場合はここはもう
絶対音楽とリズムが合わなきゃ
いけないっていうのが何カ所かあって。 |
── |
ああ。 |
鈴木 |
泥の田んぼの中でタップダンス踏んだり、
そういう音を先に仮に当ててあったから。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
それを使いつつ、
そのテンポで曲を作っていく。 |
── |
ふーん。たけしさんとは
元々おつきあいというか、
お仕事してた関係? |
鈴木 |
ひょうきんスペシャルで
YMOが出てくる
「三匹の侍」みたいなのをやった時に。 |
── |
見ましたよ。80年代でしょ。 |
鈴木 |
私は山賊で出てました。 |
── |
出てましたねえ。
立花ハジメさんとかと。 |
鈴木 |
あと、シーナ&ロケッツの。 |
── |
鮎川さん。 |
鈴木 |
鮎川誠さんが山賊の大親分で、
俺たち手下なんだよ。
すぐ斬られちゃう。
|
── |
お正月か何かじゃなかった?
|
鈴木 |
そうそうそう。
だからたけしさんとは
時代劇つながりっていうかな? |
── |
はははは。 |
鈴木 |
はははは。 |
── |
それ以来? |
鈴木 |
以来。 |
── |
じゃあ、別に全然
関係ないってことですよね(笑)。 |
鈴木 |
そうみたい。 |
── |
あれ、たけしさんが選んだんですか?
慶一さんを。 |
鈴木 |
その前に、たけしさんの助監やってたかたの
映画音楽をやったんだよ、
チキン・ハートっていうやつ。 |
── |
ああ。それが去年。 |
鈴木 |
清水浩監督。てのがあって、
森プロデューサーからお話をもらった。 |
── |
森さんってあの、ちょんまげの人だ。 |
鈴木 |
そうそう。 |
── |
ああ、そうかそうか。
その実績があって。 |
鈴木 |
うん、うん、実績だかなんだかなあ。
あと、今度の座頭市っていう映画は、
音楽上ね、何でもありだし
何が起きるか分かんないし、
タップダンスだし、
リズム中心になるだろうっていうので、私に。 |
── |
ふーん、そういうことができるのは。 |
鈴木 |
かなー? |
── |
日本のロック界だとこの人だと。 |
鈴木 |
と思われたかもしれない。 |
── |
たけしさんのダメ出しって厳しいんですか? |
鈴木 |
厳しくはないけど、ダメ出しなんだか、
微妙なんだな。言葉が少ないから。 |
── |
へえ。 |
鈴木 |
うん。何か違うなっていうと、
これはたぶんダメ。 |
── |
ダメなんだと察する(笑)。 |
鈴木 |
要するに同時にいろんなこと考えてるから、
音楽のことに言及しつつ
違う映像の方に言及したり。
で、今これは音楽のことなんだなっていうのを
どんどんメモしとかないと。 |
── |
ああ、そうかそうか。
その時に彼が言う言葉は
何のこと言ってるかは、
一瞬分かんないんだ。 |
鈴木 |
SE(効果音)が入ってみないと
分かんないなっていうのが
けっこう大きかったよね。 |
── |
なるほど。効果音ですね。 |
鈴木 |
刀の音とかあるから。 |
── |
音楽だけじゃなくて、
効果音と合わさって
映画の「音」ですもんね。 |
鈴木 |
だからどんどんたまっていっちゃったの。
曲ばっかし。 |
── |
うんうん。 |
鈴木 |
いろいろ出すんだけど。 |
── |
どんどんできちゃう。 |
鈴木 |
うんうん。最終的にいろいろ変更しつつ、
引き算になってたね。
音を引いてっちゃう。マイナスしていくと。 |
── |
足し算じゃないんだ。
それがよかった? |
鈴木 |
よかった。要するに最初
もっとちゃんとたくさん入ってたんだよ。
それをどんどん引いてって
ピアノだけにしたりとか。
それは、たけしさんの絶妙のセンス。 |
── |
あ、そういうことか。 |
鈴木 |
うん。リズムはずっと入ってるけどね。 |
── |
リズム的な映画だから
リズムが抜けることはないけど。 |
鈴木 |
ない。リズムはとにかく
大量に作ったけどね。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
だから最終的にはリズムも
電子音と生音っぽいののサンプリングしたものを。
最初電子音で通そうと思ったんだけど。 |
── |
うんうん。 |
鈴木 |
生音っぽいもののサンプリングの方が、
採用されたの。
実は、この映画の音楽では、
生楽器ほとんど使ってない。
ピアノも含めて。サンプリングが95%。 |
── |
へーえ! |
鈴木 |
刀の音とね、似ちゃうから。
たけしさんの意見で。
刀のぶつかる音、かなり重要だし。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
で、リズムが入ってると
チャンバラシーンが
スポーツに見えちゃうのが
すごい嫌だったんだな、たけしさん。 |
── |
はあ。 |
鈴木 |
その分、すごいリズム抜いたし、
メロディーも全部抜いたり。 |
── |
はあ。それで引き算。 |
鈴木 |
うん。とにかく緊張感、
緊張感、緊張感、緊張感。
緊張感出すには
少ない音の方がよかったりする。 |
── |
なるほど。 |
鈴木 |
うん。たけしさんも音を合わせてる時に、
スタッフ全員いるわけだから、
約30人くらいいる中で意見を言うわけだから、
いろんな人に言うから、
音楽にいつ向いたのかが。 |
── |
分かんないわけだ(笑)。 |
鈴木 |
うん。1対1でね、
「じゃ、音楽だけの打ち合わせですよ」
っていう時間がたぶん取れないんでね。 |
── |
そのくらい忙しいんだ。 |
鈴木 |
音楽だけの打ち合わせのつもりでも、
みんなスタッフがいるから
色のこととか。 |
── |
別の話になっちゃう。 |
鈴木 |
その時間内にいろんなことを
全部決めるように。 |
── |
ちょっと特殊な感じですね。
仕事としてね。 |
鈴木 |
うん。だからどこが特殊かっていうと、
音響効果の人と音楽と
タップダンスの人が3つ組まないと。 |
── |
できない。 |
鈴木 |
うん。できない。
これ、音響効果の仕事ね、
これ音楽ねって分けられないんだよね。 |
── |
分けられない。 |
鈴木 |
だから、その辺は全部俺のとこに来ちゃう。
最終的に来ちゃうの。
もちろん刀のぶつかる音や、
雷の音は来ないけどね。
でも、雷の音がゴロゴロ、
ドカーンのドカーンの中で
ストリングスに変わっていって欲しいって
注文があったら、来ちゃうけど。 |
── |
そうね。最後のアウトプットの人ですからね。 |
鈴木 |
音響効果の方はリズムは作らないわけだから。 |
── |
はいはい。 |
鈴木 |
で、リズムを作る元の音は
鍬の音だったりするわけじゃない。 |
── |
はいはい。 |
鈴木 |
音響効果の人は鍬の音は作れるけど、
鍬のリズムは作れないと。
リズムを作るのは
タップダンスの人「ザ.ストライプス」。
それを音楽にするのは俺なの。
ザ.ストライプスは鍬の音まで作ってたなあ。
で、録音のチーフのかたと相談して、
このままでいいとか、
もうちょっと重くしようとか。
あちこちで、個別でありながら、
リンクしている相談事が行われる。 |
── |
うんうん。 |
鈴木 |
これ、全部3つまとめて
納品するのは結局俺かなって。 |
── |
かなりしんどかったですね。 |
鈴木 |
うん。最後の方はね、かなりね。
いや、おもしろかったけどね。
元々音効さんになりたかったからね。 |
── |
そうなんですか。 |
鈴木 |
うん。 |
── |
音効さんって、
映画とか芝居とかの効果音を
全部仕切る人ですよね。 |
鈴木 |
うん。
高校の時の演劇部時代、
ずっと音効さんだから、俺は。 |
── |
夢叶った。 |
鈴木 |
音効さんと一緒に仕事すると
すごい興味深いの。
あっという間に出してくるからね。 |
── |
こういう音ないですかって言うと。 |
鈴木 |
こういう音。しかもこういうのは、
たとえばこのライターが、
ころんと転がって、
右に倒れてから二回ころがって、
カランコンコンコンって行くじゃない。 |
── |
うん。 |
鈴木 |
それを約5分以内で
全部合わせることができるんだよ。 |
── |
はあ!! |
鈴木 |
あと、ひもを結ぶ。 |
── |
衣摺れみたいな音が? |
鈴木 |
全部コンピューター制御だけど、
映像を取り込んで、その映像に合わせて
そこに貼付けていく。
だからピッタシ合う。 |
── |
はあー。 |
鈴木 |
だから最終的な映像と
あらゆる音をミックスして合わせる
スタジオでの作業は、
俺それも行ってたけど、
音効さんのコンピューターと、
音楽が詰まってるコンピューターと、
全体を仕切るコンピューターなどなど、
5台くらい並んでて、
それがおのおの出して行く。 |
── |
あ、おもしろそう。 |
鈴木 |
で、最後のミックスするのは録音の人だよ。
録音の監督の人、堀内さん。 |
── |
あ、そういう人がいるんだ。
なるほどね。あ、そりゃそうですね。
バランスは任せるしかないですねえ。 |
鈴木 |
こっちは音楽を出すんだけど、
しかしタップダンスも入ってる。 |
── |
うんうん。 |
鈴木 |
タップの音
もっとあげてくれって言われた時に、
おれが決定版を作っちゃうと
バランスが決まっちゃうから、
コンピューターごと持ち込んだわけ。
エンジニアと一緒に。直せるからね。 |
── |
ほお。 |
鈴木 |
で、その時にすぐ出せるように。
で、ここのメロディーいらないな、
っていう時にカットできるようにね。
それは毎日あるんだけど、
持ち帰ってまた直して、現場で直す。 |
── |
はあ。そんなことしてたんですね。 |
鈴木 |
普通は納品して終わりなんだけど、
そこまでやりました。 |
── |
素晴らしい。
|