糸井 |
あのさ、ここらへんで慶一君のデータ配信の話
詳しくやってかない? |
鈴木 |
ネット配信のことですね。ええと、今年の3月頃から
インターネットにつないだわけです。ここ(鼠穴)に来て
糸井さんに説得されてさ。で、いきなり12月に
ネット配信なわけだけれども、要するに、
「作ったものをはやく出したい」という気持ちから。
作ったものをああでもないこうでもないって
いじってるよりも、早く出したいっていう気持ちなんだ。
アルバムなんて、作ったら1回しか聞かないしね。
そうじゃなくて、できたてほやほや、出したてのもの、
ちょっと不完全でもいいくらいで、
それを何かいい形で出したいなあという気持ちがあった。
そこに「ネット配信」という方法が実際あったわけだから、
それいいんじゃないかと。ネットにつないですぐ、
配信思いついて9月に純正のホームページ、リリースして。
インターネットのホームページって、
みんな日記書いてる人も多いわけだし、
それもぴったりだから、ね。
思いついてはじめるまでっていうのは、
7、8か月あるから、今までだったらね。
結局同じくらいの時間かかっちゃったけど。
お初ということで。 |
糸井 |
それはそうだよなあ。 |
鈴木 |
非常に不本意ではあるけれど、
一番を目指そうと思ったわけだよ、まず最初。
でもP−MODELが先にやっちゃった。
その時点で急速に気持ちが萎えていくかなと思ったら、
そうじゃなかったね。いや、ここでこれやっときたい
っていう気持ちのほうが強い。誰がこうやったら、
っていうものがまったく確立されてないわけですよ。
タダで配るとかそんなことだろうけど、
それと作ったものって何なんだろうなあ、って。
自分の作ったものね。それを、タダであげてしまうのは
何なんだろうか。友達でもない人に。
作ったものがダイレクトに流れることに興味がある。
間に小売店がないわけですから。 |
糸井 |
問屋側の「仕入れません」ってことはないわけだよね。 |
鈴木 |
うん。そういうことに興味があることと、
権利みたいなもの、つくった権利みたいなのは
どうなるだろう、と。つまり配ったときも、
私が作ったんですよ、と登録しちゃえるわけじゃない?
明文化してるけど、私たちが作ったんですよって。
けど、保証はない。
そういう保証のないことをやってみよう、と。
今までは銀行、レコード会社ね、もしくは出版化されて、
何割かもらうっていう……。 |
糸井 |
配当のようにもらってたわけですよね。 |
鈴木 |
その中にいたわけだよね。それはちょっといい目に
あったけど、そんなにずっとではないよね。
それで何となく食えてきてるという、
そういう立場だからこそ、そっちに行きやすかったのかも
しれない。だからといってネット配信に過大なる期待を
しているわけでもない。当然CDも出すし、
2ウェイなんだけど、作ったものの入り口と出口が
見通しがいいので興味深い。受け取り側がどう使うか、
まったくわからないね、でも。
当然コピーもするかもしれないね。 |
糸井 |
その人はするだろうね、タダだから。 |
鈴木 |
タダだからっていってゲットしたものを人に売りました、
これはいけないらしいね。タダで配ったものを
またタダで人にあげましたっていうのも、これ法律上、
MAA(メディア・アーティスト協会)とかが
研究してるけど、これ本来はいけないんじゃないか、って。
何か連絡をくれ、と。それつきつめてくと、たとえば
いい茶碗ができたんで、あげます、ってあげるじゃない。
それをもらった人が質屋に入れたとするじゃない。
そういう場合はこちらも嫌な気分になるじゃない、
っていう根本的なところなんだよね。
質屋に入れた、人に売った、とかまさにポンペイと
つながるかわからないが、そういう気持ちではあるな。 |
糸井 |
ちょっと先輩として慶一君にいうと、
その計画とってもおもしろいんですよ。
何が大事かっていうとね、一番大事なのは、
これをやったら何がわかったっていう
偶然性もあるんだけど、これをやってわかりたいことって
いうのをもうちょっとはっきりさせる、っていう、
これがやっぱ第一かな? |
鈴木 |
自分でもネット配信聞きたいじゃない?
その時にどのプレイヤーがいいか、というのがわかりたい。
ま、これがわかると人気のものが勝っていっちゃう
わけだけど。 |
糸井 |
変化するかもしれないしね。 |
鈴木 |
それがわかりたいのと、ムーンライダーズという
ホームページにいつも来てる人じゃ「ない」人が、
ネット配信やるよっていうことでどう動いてくれるかなあ、
ということ。これはさあ、数だけど、
それでお金が入るわけじゃないから、
数だけど、頭脳にくる、その2点。
うーん、今日は記者会見のいいシミュレーションに
なったよ。 |
糸井 |
そのあとは、俺も訊かれるんだけど、
「それは将来的にビジネスになるんですか?」って。 |
鈴木 |
それは言われるね。 |
糸井 |
言われるんだけど、早く言ってほしいっていう気分が
みんなにはあるんですよ。
だったら投資する、とか、だったら俺はやらない、
とかいうことを、人を使ってみんなは知りたいんですよ。
俺は自分が「ほぼ日」を始めたとき、
将来的展望っていうのを、家でいうと柱1本だけは
わかってたんだ。1本っていうのは何かというと、
広告メディアはもっとばらけるはずだ、ということ。
企業が伝えたい情報っていうのは、もっと
「うちを信頼してね」っていう情報なんだよ。
ここで丁寧にいくらでも説明できるメディアを作ったら、
それは雑誌のタイアップページとかとは違うかたちで
作れるだろう、と。
全部を引き受けるわけじゃないよ、っていうことで、
僕個人としては目を通しているメディアなので、
欠点はあるかもしれないけれど、
「こういういいところがある」っていう見方を提示できる。
誤算は単純に、これだけやれば食える、っていう以上の
コストがかかるんですよ。コスト以外はぜんぶ
「次、何ができる?」っていう実験で。
もっというと、このメディアを中心にしてできることから
やってくとかいう、けっこう複雑な構造で、
人が訊きたいのは、1人いくら取ればいいとかいうこと。
それをすぐに訊きたがるんだけど、違うと思うんだよね。 |
鈴木 |
それとね、まったくほぼ同じ。
私たちのやるのは実験であるし、
「これで金になるんですか? なりませんか?」
っていうのは、当然訊いてくるでしょう。
そりゃわかりませんよ。まったくわかりません。
そこ、半年後に金になるようなシステムが
できるかもしれない。そのシステムに中心になって
関わる気持ちはわれわれにはない、と。
まあ、だからモルモットみたいなもので、
それを1回お見せしましょう、と。
それはプロモーションでも何でもない。
配信する曲は二度と使わないわけで。他のメディアでは。
ただね、不思議な気持ちなんだよ。作ったぞという、
何かね、権利というと大げさだけど、それしかない。
これで何とか暮らしていこうとか思うのは、
そこまで考える時期ではないと思う。 |
糸井 |
それは俺が「ほぼ日」を始めたときの気持ちと
ほとんど同じだろうな。今までどおり銀行に頭下げて
ツバをはきかけながら借金をしてくみたいな、
そういうのではないやり方を。
大工だったら、施主なら何言ってもいいんかよ! っていう
啖呵なわけですよ。なら俺は家じゃなくて筆箱を作る、
みたいな。 |
鈴木 |
これからも、ネット配信で曲を出していくのかも
しれないし、途中でどっかコストの問題で
つぶれちゃうのかもしれない。
でも、レコーディングするコストを抑えた。
抑えてできるようになったんでね。
それから、ほぼ日もそうかもしれないけれど、
ボランティアが多いわけですよ、
すごい端っこのほうの1ページを作ってる人も加えれば
30人くらいのスタッフが関わっているわけですけれど、
無償で、ほとんど実費だけでやってくれてるわけなんだよ。
この1個だけの配信に関しては、
コストかかってないね。あまり。 |
糸井 |
それじゃあ定期的に出してくっていうのには……。 |
鈴木 |
何か問題がでてくるかもしれない。わからない。 |
糸井 |
うちなんか初期の頃は学生さんにやらせてたんですよ。
で、学生さんて、こういうのはどうですか、
わたしやりたいことあるんですって言っても、
よろしくね、っていううちに来なくなるんですよ。
今くらい力つけてくると、来やすくなるんだけど。 |
鈴木 |
それが1年足らずで、こうなったじゃない。 |
糸井 |
それが誤算だったんです、3年だと思ってたから。 |
鈴木 |
でしょ? 速いんですね。 |
糸井 |
3年だっていうのはコストもかかんないっていう上での
計算だったので、その誤算で。
やってみなくちゃわからないシリーズですよね。
俺シュモクザメみたい。 |
鈴木 |
頭がTの字になってて両側に眼がついてるやつね。 |
糸井 |
結局慶一君のほうのプロジェクトでも、
とりあえず食えるように、
屋根のあるところで生きていけるように、
みたいな発想で会社員を夜使うとか。 |
鈴木 |
そうなんだよ。みんな違う本業があるんですよ。
その合間にやるプロジェクトなんです。
俺も普段仕事があって、合間に見てる。
メーリングリストだからね。
親分がいない世界なんだよね。 |
糸井 |
何ができるかな、っていうのがわからないと、
次のことができないんです。
つまり、「これ」はやれるんです。
でも、こっからどうやって枝葉をつけてくかってときに
本業のある人は、もう1個はできないんです。 |
鈴木 |
そうなると別の本業のある人を集めるか、もしくは、
本業があってもやれるようなシステムをつくるか。
(つづく) |