糸井 |
今回は、お互い興味を持ったことを喋ろうか。
一個ずつ交換しようか。 |
鈴木 |
最近興味のあること。……スピード。 |
糸井 |
「SPEED」っていったら「解散」。
あれほんとにスピードだよね。あの子たち、
何が欲しいかってわかってるから解散したんだよね。 |
鈴木 |
半年で変わってしまうっていう、
そういうスピードを若い人は持ってるじゃない。
そのスピードはうらやましいって思うんだけれども、
こちらには違うスピードがあるよね。
そのことって、スピードに揉まれていると
わかってくるんだ。
端的なことを言うとメーリングリストだね。
1日に10や20のメールが来て、
それに返事しなきゃいけない。時間がかかる。
10時間以内とか20時間以内に返事が欲しいとかいうやつも
いる。そういうスピードで人と付き合ってると、
こっちの回転も早くなってくるよね。
半年じゃなくて、数時間の反応。
1日を微分した積み重ねが、半年かなって思う。 |
糸井 |
それって、快感でしょう。 |
鈴木 |
快感。最初、ヤだと思ってたんだけど、
実はそれほど嫌じゃあないんだよ。
「俺ってけっこう、回転してるじゃん」って。
「ターボじゃん?」ってかんじになってくる。
その状態っていうのが、たぶん、事が一個終わったときに
ストーンと落ちるかもしれないけど、
簡単には落ちないと思うんだよね。 |
糸井 |
落ちるの知ってるじゃないですか。 |
鈴木 |
そうなんだよ、何度も落ちてる。 |
糸井 |
そのスピードを慶一君が体感しているんだ。
そしたら俺、遠まわしに感謝されるってことじゃない?
ごみかたづけて、ネットつなげなさいって
言ったの俺だもん。 |
鈴木 |
そうですよ、おもいっきり感謝ですよ。
あれ3月ですよ。3月にはじめたんだよなあ、ネット。 |
糸井 |
「モデム、あるんだけど、積み重なった服の下にある」
って(笑)。 |
鈴木 |
ネットつなげて、つなげてるうちに、ムーンライダーズの
新曲をネット配信するっていうところにまで
たどりついたんですよ。
メーリングリストだって、5つくらい持ってる。
多いんだか少ないんだかわからないんだけど。 |
糸井 |
多いでしょう!? |
鈴木 |
サッカーチームのメーリングリストもあるし、
ホームページをつくるためのもの、
ネット配信のためのもの。議題ごとに分けてるんです。
メーリングリストって不思議だね。
みんなに見張られてるって感じがあるんだけど、
だれに見張られてるかっていうと、親分はいない感じも
するんだよ。だからみんな何かとりあえずの
目的はあるんだけど、「一緒にいようぜ」っていうのは
ないわけだから。 |
糸井 |
ない。空間は、少なくとも違う。 |
鈴木 |
同じ釜のメシでもないわけだしさ、
あの感じ、何でフィットしたかっていうと、
私のやってるバンド自体がそうだから。 |
糸井 |
おんなじだ。 |
鈴木 |
バンドだけのメーリングリストもあるんだよ。
会話じゃなくて文字っていうのがね、
文字だから、いろいろ手を変え品を変え書くけど、
顔色見えないからね。
けっこうスパっと書けちゃうんだけど、
「こんど会おう」とかにもなる。 |
糸井 |
そうそう、だから、俺、メール始めて初期のころ
「どう変わりましたか?」って訊かれたから、
「人に会う回数が増えた」って言ったんですよ。
今までは、なじみのメンバーとおんなじ回転をしてることが
仕事なり生きることだったんだけど、
「あの人に会わなきゃな」っていう感じが、
お互いに「あ・うん」の呼吸でわかるようになってくる。 |
鈴木 |
ここで会っとかないと、っていうのを設定できるんですよ。
そうじゃないときは漠然としてるじゃない?
なんか、会ってないんだけど会ってる気がしてたり
するようなロマンティックな感じじゃない?
だけど、ここじゃなきゃいけないっていうときには
あっさり会うことができるんだよ。 |
糸井 |
この話を、慶一君、仮にメールでやったら
違うと思うんですよ。別になると思う。
喋ってるときは自分とは別のやつと自分と
耳で聞きながら喋っているじゃないですか。
いつでも二人以上が聞いてるんですよ、対談って。
自分と相手と。で、「俺から学んだ俺の一言」って、
生意気だけどあるんですよ。
俺、記憶のメモリーがついてないから。 |
鈴木 |
私もあんまりない。 |
糸井 |
おたがいひどいよね。
それ、明らかに欠点なんだけどね(笑)、
スピードの時代にはこの分裂症型の生き方が
ちょっと得するんですよ。で、逆に
マニエリスムに入っていくといったん遮断するしかない。
その時間も、俺は実は欲しい。 |
鈴木 |
私は遮断するときがあるね。 |
糸井 |
やってますか。意識的に。 |
鈴木 |
それはね、遮断剤のようなものを服用することで、
怒ってることが消えたり、余計な考えが消えていったり、
先へ先へ考えがまわるんですよ。 |
糸井 |
最近俺ほぼ日でも書いてるけど、
俺が絶対人には言っちゃだめだよっていう話っていうのは、
ここではしないんですよ。絶対人には言っちゃだめだよ、
もうひとりがせいぜい、って話、あるじゃないですか。
でも、ほぼ日始めて、俺、会話が全部「公」になった。
なんかキンタマの裏のほくろまで「ほらね」って、
「みなさーん!!」って。表現者ってみんな
根っこは露出狂だから。これはこれで快感だし、
読む人もそういう傾向があるわけです。
そんなものを読んでるっていうことは、
読むことで露出狂を発散させてる。
で、ここの割れ目のところだけは見せないっていうのが、
俺なくなっちゃったんですよ実は(笑)。 |
鈴木 |
ゼロ。 |
糸井 |
ほんとはゼロっていうこといりえないんだけど、
自分にも無意識の隠し事ってあるじゃない?
そういうところまで、ほんとに友達同士で
喋ってるときって、ぽろっと出るんですよ。
で、俺自分でも思い出さないようにしてるんだけど、
っていう話を、男同士でしたりするんですよ、あえて。
あえてというか自然にそうなるんだけど、
もう、ちょとあれですよねえ、
ホモセクシュアルの世界になるよね。
もうね、愛情の隣り合わせにある思考ですよね。
それを出しちゃうとね、お互いにね、もう一レベル、
深層でつながるんですよ。 |
鈴木 |
(笑)さらに深い階層で。 |
糸井 |
そう、深い階層でつながるんですよ。それがね、
人生をひっくりかえすように面白いんですよ。
限りある人生しか生きてないんだから、
ひっくりかえそうよ、っていうことになるわけ。
ただ、これ、年齢が近くないと駄目だと思う。
あのね、ある程度離れると、もう無理だと思う。
だって、痛みが違うもん。
「これ、内緒だけどね」って言ったときに、
「内緒だろうなあ、きっと、俺にだけ打ち明けて
くれたんだろうな」って思ったとしても、
俺が大荷物として渡したものが、きっと軽いんだよ。
やっぱり。相手が受け取ったときには。
ぼくらだって、仮にだよ、慶一君の家に夜中に
訪ねていって、「あん時のさあ」まで含めて喋ったら、
きっとディープになると思うんだよ。
重っくるしさを避けてたのよ、俺。
全部スケスケになるところで生きていきたいって気分は
同時にあるわけ。どっからが自分なんだろうっていうのは
もう、表しきれないんだって決めちゃったんですよ。
で、これは分けなきゃいけないんだなって。
つまり、「これから僕はセックスしますよ」とは
言わないわけで。そういう部分っていうのは、
熱帯魚を飼うときに水草買うじゃないですか、
あんなふうに作る必要があるな、と。
そしたらまた違う場所がどんどんガラス張りになってきた。 |
鈴木 |
スケルトンですか。 |
糸井 |
どんどんスケルトン。コンピュータのスケルトンだってさ、
チップの中は開けちゃいけないわけでしょ?
あのイメージ。 |
鈴木 |
スケルトンがぴったりだね。 |
糸井 |
ね? そうなるときっとその部分を覗きたい、
って人は言うわけだ。でも、それは、ないんだよ。
永遠にないと言っていい。
「二度と会わない」っていうのと、
「また会おうね、絶対ね」っていうのは
紙一重じゃないですか。その気分がね……俺、
じじいになってよかったなって。恥ずかしくないよ。
青臭いときって「俺ってあいつが好きなんだあ」って
告白しあうじゃないですか。修学旅行のふとんのなかで。
あれだとわかんないんですよ。
あれだとガラス張りにできるんですよ。
今だと、奥底にある何かがこう、にじみ出てくるような
ものでね。それおもしろいんだよ。
今のスピードとね、一見、裏表あるんですよ。
個人としてはマニエリスムですよ、心の。
で、一方で個人の外側のイメージではもっと走っちゃう。
これとこれとこれの5つあって、
2つしか解決できないんだったら3つ捨てちゃえ、
っていうような発想ができるようになってるでしょ? |
鈴木 |
うん。走ると透明人間になってく。 |
糸井 |
なるなるなる。レコードとスピードっていうのは
やっぱり配信の問題っていうのが大きいですよね。 |
鈴木 |
おっきいよ。極端に言えば、できてすぐだからね。 |
糸井 |
そうか、「今日できた」って言えるんだ。 |
鈴木 |
今日できました、エンコードしましょう、
それ配りましょう、っていうようなことじゃない?
それってレコード、CDとかはさ、
もうちょっと何ヶ月もかかって作って、いつ出そう、
と、そうやって計画が働いているわけじゃない?
そうじゃないんだな、無計画なんだね。
で、無計画でいいわけだよ。
だから、配信するとなると曲も変わるし詩も変わる。
今度配信する曲なんて、PISSISMっていって、
「小便主義」っていうすごく下品なものななんだ。
俺ってこんな下品な詩書くかな? っていうくらいの。
それで美人マネージャーに嫌われてるわけですよ。 |
糸井 |
腹のちょっと出た美人マネージャー?(笑) |
鈴木 |
そう、すごく嫌われててねー、その詩が。
(つづく) |