COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

引っ越すんだよ。

*今回は慶一さんのマネジャーの
 野田さん(女性)が
 話に参加してくださいました。

── 引っ越すんですってね。
鈴木 引っ越しね。
── これはちょっと
説明しないといけないかもしれない。
鈴木慶一邸の話は。
住んで20年くらいですか?
鈴木 20年。ちょうど20年。
── 賃貸の一軒家に住んでるんですね。
それが伝説の魔窟。
野田

人外魔境。ほんとなのよ。

── で、一度「ほぼ日」でも
その取材をさせてくれと
お願いしてたんだけれど
何となく立ち消えになっていて。
なぜかと言うと、
取材するには
難攻不落の山過ぎたということで。
鈴木 うん。入る道がない。
野田 獣道ですからね。
── どんなにすごいか、
もう言ってもいいんじゃないですか?
引っ越すんだし。
鈴木 うん。要するに中側のものが、
外にあふれる寸前の一軒家なんだよ。
窓にブラインドがあるんだけど、
ブラインドがぎゅっとふくらんじゃってて、
それは中のものが窓を塞いでるわけだ。
ある時高校の同級生に
送ってきてもらって、
言われたんだよ。
「お前んち何だ。かわいい家だけど、
 内臓が外にはみ出そうだな」って。
── うわはははは。
それが外から見て分かる。
鈴木

外から見て多少は分かる。
この家はなんか変だなって。

── 一回だけ行ったけど
確かにブラインドはねじ曲がってました。
野田 中まで入った?
── 入ってないっす。
野田 じゃあ、引っ越す前に
一回見た方がいいかもしれない。
── 見たいですねえ。
野田 すごいですよね。
鈴木 特に、今の状況はすごいね。
引っ越し中で。
── いつからそうなっちゃんたですか。
野田 あのね、今から7、8年前はね、
もうかなりすごかったんですよ。
レコーディングが終わってさ、
そのままスタッフと飲んで、
慶一さんの家にみんなでおしかける、
っていうこともしてたんだけど。
── 泊まれたんだ?
じゃあ、スペースがあったわけだ。
野田 ところが、スタッフは
折り重なって寝てるのよ(笑)。
── ははは。
野田 だけど、それができたんですよね。
鈴木 うん。
野田 今はそれができないと思う。
イメージできます?
── でも、広いんですよね。
鈴木 6、7年前はソファがあって
その上に人は寝れるように
なってたんだよ。
── おお。
鈴木 で、スペースもあったし。
── 一軒家で二階屋で
一階がスタジオ兼居住スペース?
鈴木 仕事場。
スタジオっていうよりね。
── 今の時代はおうちにいても
かなりの品質のデモが
作れちゃうようになったから。
鈴木 そうそう。
── 機材がいっぱいあるんですね。
でも僕が聞いた話では、
その機材の椅子に座るまでに。
野田 ひと山、ふた山。
── ハイジャンプをしなければ。
鈴木 ハイジャンプをふた山、み山。
── 靴の山を飛び越えて、
ビデオの丘をすり抜けて?
鈴木 いや、CDの丘を飛び越えて、
洋服の山をすり抜けて、
そして雑誌の断崖をかいくぐり、
最後に電話機を踏んづけてやっと
仕事をする椅子にたどり着くんだよ。
── ふっふっふっふ。
野田 すごいねえ、ほんっとに。
だから私はいつも慶一さんへの脅し文句は、
「ハツカネズミをつがいで放り込んでやる」
なんですよ。
全員 うわははははは。最低。
── それは要するに、
仕事の締め切りであるとか、
クオリティを維持するための
マネージメント側からの
脅しの文句なわけね。
野田 そう。
── あなたがわがままを言うと、
私はそういう手に出るぞと。
でも、‥‥片づけないわけですか?
鈴木 あれさ、ある時突然諦めるんだよね。
── え、ってことは何?
あるとこまではきれいだったの?
鈴木 あるとこまでは独りで住んでても、
12月30日31日は大掃除してたのよ。
野田 そうなんだ。
鈴木 うん。
── そんな短期間で大掃除が済むんだから、
普通の家ですよね。
鈴木 うん。窓拭いたり、全部やってたの。
ある時、そうだなあ、10年くらい前か。
何で冬に大掃除しなきゃいけないんだろう、
寒いのにと思って。ねえ。
── うーん。ま、そうだけど。
鈴木 掃除って水使うじゃない。
── 寒い。ま、確かに、思わないでもない。
鈴木 それがね、急にばからしくなったの。
で、大掃除しなくなった。
しなくなってもまだ数年は持つんだよ、
一軒家ってのはさ、
ある程度のスペースがあるからさ。
物は増えようが、
どっか放り込んどきゃいいっていう
空間はある。キープできる。
ところがそこも崩れだすんだよ。
ある日突然、あ、もうしょうがない、
ここに置くしかねえやってなってくると、
そっからもうどんどんどんどん。
ね、プツンと切れたように
荷物がそのままになっていくわけだよな。
だからそうね、7、8年位。
前に芝居やったの何年だっけ?
野田 何の芝居?
鈴木 宮沢章夫さんの。
野田 ああ、あれは97年。
── 遊園地再生事業団の
「あの小説の中で集まろう」。
鈴木 その頃は10人くらい来れたよ。
何とか無理すりゃ。
相当無理してるけど。
── 今から比べたらってことですね。
鈴木 相当無理して玄関に一人飲んでるとか。
野田 だって私が昔お迎えに行って、
寒い時で、
中で待ってていいよとかいって、
足の裏怪我しそうになったりしながら
待ってて、あまりにも何か
冬なのにモワーンとした空気だから
窓開けたのね。
そしたら慶一さんが
「あ、窓開けてくれてありがとう。
 何年振りだろう」って言ったのよ。
── うははは。
野田 ちょっとびっくり。
── 詩人のようだね。
「窓を開けてくれてありがとう。
 何年ぶりだろう。」
鈴木 窓に蜂の巣ができた話、したっけ。
── 聞いたことあります。
たしか‥‥
鈴木 サッシの外側に、蜂の巣ができた。
── 外側に。うんうん。
それも開けてなかったからでしょ?
鈴木 その窓はたぶん
5年くらい開けてなかったと思う。
── 5年くらい開けないものだから
蜂の巣ができたと。
鈴木 ずっと毎年蜂の巣があったんだろうね。
── 気づいたのが8年目だったのかも。
で、どうしたんですか?
鈴木 ある日気付いたんだけど、
蜂大っ嫌いだから。
── 蜂、死ぬほど嫌いなんですよね。
鈴木 何度も刺されてるし。
── 嫌い合ってるんですよ。
鈴木 で、考えたんだ。
サッシのゴムパッキンの
すき間のとこから
ゴキブリ殺す殺虫剤の、ノズルを入れて。
── あ、分かった。細ーいやつだ。
鈴木 うん。シューーっとやったら
ブーンといなくなったの。
── 成功?
鈴木 チャーンスと思って。
── 巣を壊せばいいと。
鈴木 窓開けて、巣をバンバンバンって
棒で叩いて落としてたら、
そしたら戻ってきたの、ブーンって。
── あはは。大群で。
鈴木 で、慌てて閉めて、
そしたらガラス中に蜂がびっしり。
巣がないもんだから。
── コワイ!!!
鈴木 あれは怖かったね。
── 刺されなかったんですか?
鈴木 うん。
── 部屋に入んなかった?
鈴木 部屋に入んなかった。
すぐ閉めたから。
閉める時のショックを使ってさ、
こっち側の窓をガンガンガンって叩けば
反対側の壁にぶつかるわけだよ。
それで叩き落としたの。蜂の巣を。
── はいはいはい。
鈴木 そんなことをしてる間に戻ってきたのよ。
── はははは。
蜂が家に入って来た
話もありましたよね。
鈴木 ああ、あるあるある。くまん蜂。
── くまん蜂だったの?
それ、刺されたら
死ぬかもしれないじゃないですか。
鈴木 うん。ブェーンっていって。
だから窓開けなくなったんだよ。
── ははは。蜂が怖いから窓を開けない。
物事には理由があるもんですね。
鈴木 うち、大家さんの庭があって、
とても素敵な庭で
草花多いんだよね。
── 閑静な住宅地ですよね。
鈴木 そうそう。
近所にも庭のある家が多い。
だから来るんだな。
だから窓開けなくなったんだけど。
── 入って来た時どうしたんですか?
鈴木 カーテンの上でブィーンって
やな音がするから何だろうなって。
そしたら蜂なんだよ。
一旦避難。一旦風呂場に避難。
── とりあえず。冷静になろうと。
鈴木 風呂場に避難。体震えてっから。
── そんなに嫌いなんですね。
鈴木 洗濯物用のネットあるじゃない。
── おしゃれ着洗いのネット?
鈴木 そうそう。それがあったんで。
── 大きいやつ?
鈴木 それを頭から被って。
── あ、蜂蜜採る人みたいに。
鈴木 被って、そこにはスポーツ用品が
いっぱい置いてあったんで、
ジャージとかいっぱい着て、
手は手袋して。
── つまりもし刺されても
針が通んないくらい厚着をすれば、
大丈夫だと。
鈴木 そう。で、洗濯ネットかぶって。
たかだか一匹だよ。
── でもくまん蜂ですからね。
鈴木 それで、ダスキンのモップで
天井にいたヤツを、ガッてやって、
ぐりぐりぐりぐりって
約5分押さえてたんだよ。
── (笑)5分。
鈴木 絶対死んだなって思って、
ふっと見たらさ、
モップが柔らかいから
挟まってただけ。
再び、ヴェーンとかって。
── あははは。
鈴木 また一旦避難。
── 冷静になろうと。
鈴木 うん。体はさっきより震えてる。
それで、今度はどこにいるか分かんない。
ブーンという羽音から察するに、
けっこう重傷を負ってるわけ。
まずはデータ分析から。
── それなりに。
鈴木 半分つぶれてはいる。
動きがのろいのを見計らって、
そいつを棒でぶっつぶして。
── 何の棒?
鈴木 モップの逆側。バンってつぶして、
死んでるんだけど、やっと窓開けて叩き出して。
怖かった、あれ。
── そんな経験が窓を開けない生活への。
鈴木 そう。道になっちゃったの。
── 道になっちゃったんですね。
鈴木 蜂が多いんだよ、あそこ。
── 窓を開けない理由はわかりました。

大掃除真っ最中のこの時期に
ぴったりのようなそぐわないような話題でした。
次回はNY大停電の巻。

2003-12-29-MON

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