COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その12
理系文系。

糸井 音楽ってもっと俺らよりは、ある意味、
簡単なところがあるからね。
鈴木 きわめて簡単だよね。
糸井 つまり、リズムをこんくらいだよなって決めておいて、
ベース持って来てよって言えるようなものですよね。
鈴木 そこで複雑な要素を入れることもできるけど、
入れないこともできる。入れなきゃならないということも
ない。これもなかなかありえないことだよね、
「入れる必要もない」っていう。
糸井 全体がお互いにリズムボックス化するわけですか。
鈴木 その通り。基本がシンクロしてればいいってこと。
糸井 こないだホームページ見てたら、
俺が昔やった講演の記録が出てて、俺も忘れてたんだけど、
「何もかもがカラオケになってく」っていう。
あとはまだ、演劇のように、集まらなきゃできない、
こんな便利な世の中に、会わなきゃできないことがある、
っていうあたりを毛1本の柱にして、
俺はその2つの軸を持った楕円形の世界が見えている。
鈴木 時間軸からするとひょうたんなんです。
楕円とひょうたんがからみあってる。芝居とか。
規模がね、役者さんがたくさん出ることが多いよね。
舞台装置にお金がかかる。
舞台装置見てるだけで嬉しいもん。
それはもう1週間やる、とかそういうことによって
成り立っちゃうんだよね。
糸井 ただそれ、リハーサルから長い公演を考えると、
すごいですよね。すごい、1日ギャラ100万円の人が
稽古1ヶ月だもん。そこで重要なのは「やりたい」っていう
動機があるかどうかなんだよ。動機は何によって起こるか、
っていうのを考えなきゃならない。
鈴木 動機はたぶんさ、舞台に立つっていうさ。
一回性だったり、明日また違うっていう、
その辺の魔力なんじゃないの。
昔っから言われてるけどね。
糸井 じゃあその音楽を配信するっていうのは
魔力あるかっていうと、やったことないから見えない。
鈴木 わかんない。自分でもわかんない。
過程はおもしろいよ。
理系の人とメールのやりとりをすると、
俺は文系だから、文体も違う。
そんなこともいろいろわかってくるわけだよ。
ようするに狭いコロニーのようなところで
音楽をやってる人ばかりが集まったような……。
糸井 おんなじ種族じゃないわけだ。
鈴木 ものすごい論理的についてくる人もいる。
こんな細かいとこを、って。で、私も細かくなって。
糸井 それは違うんだよ、っていうのにけっこう説明いる。
鈴木 説明いる。違うというのをメールで言うのには
すごい時間がいる、というか長文になっちゃう。
これって文系だな。
糸井 そこに、システムそのものを疑うアイデアが浮かぶんだよ。
鈴木 どうして長文になっちゃうんだろうか、って。
糸井 だから、理系の人っていうのが外人だと思うんだよ。
俺にとって電脳部長の岩田さんがそうだった。
僕は僕でわからないなりに、
投げかければ答えを模索するんけれど、
今の言い方もまだわからないんだよ。
俺、ゲーム作ったことで、初めてこの領域を生きてるような
気がする。こんなこと考えっこないっていうところで
メール書いてる。こんなやつぁいねえよ、って。
でもいるんですよ。50万人が「せーの!」でやったときに
いる。今はインターネットで知るわけですよ、
やっぱり不愉快なことを言ってくる人もいれば、
何だよ、これみりゃあ書いてあるじゃねえかっていうことを
言ったりするやつもいれば。
でも、それが正体なんですね。
それを理科系のやつが近くにいると
いっぺんにそのサンプルがわかる。
向こうからすると俺がそういう人間なんだよ。
鈴木 そうだよ。なんつうの、となりに、ぶれた状態でいる。
おもしろく、かつ素晴らしいんだけど。
糸井 まずそこんところで理科系文科系のざっとしたとらえ方を
してるけど、その2つを考えたときって、
年齢を意識してないんですよ。飛ばしてるんですよ。
10歳だろうが60歳だろうが、理科系は理科系、
文科系は文科系、2番目の要素を飛ばしちゃうんですよ。
それもおもしろい。俺、年齢ってプライオリティが低いって
最近気づいた。
鈴木 それまでは、高かった。
糸井 高かったんだよ、俺。
鈴木 理系文系の分け方のほうがいいんじゃない?
糸井 そっちのほうが先なんだよ。
あるいは、本読む人と読まない人とかね。
そうすっと、それように言わなきゃいけないってことで、どっちが上っていうんじゃなくて、
「読まない知性」ってすごくかっこいいじゃないですか。
それはそれで。高阪剛くんなんかと喋ってると
こいつ利口だなあって思ったりもするんですよ。
だけど、いやあ、自分は何も書かないですから、って
言うんだよ。何言ってるんだよ、そんなもん、要するに
文字に書けないことを考えてるわけだから、
俺は尊敬するわけだよ。今までのやりかただと、
文字に書けないものを残した人は、
無文字文化とおなじ扱いされるんだよ(笑)。
糞な文字を残した人のほうが上だったんだよ。
俺はそれをぶっ殺したくてしかたがない。
書けないけれどやれてるっていうのを認めるっていうのは、
これは運動系か何かで互いに尊敬しあえる。
昔は年収も判断の基準に入ってた。
あの人、お金持ちだからすごい、とか。
鈴木 昨日何時間しか寝てないからすごいってことも
あるかもしれないよ。
糸井 今はその裏の裏をかいてそうなっちゃってるんだよ。
鈴木 なんでそんなに睡眠時間減っちゃったの、って。
糸井 慶一君がそういうこと言ってる。
あんたコアラみたいな人だったもんね、もともと。
寝てばっかりいて……。
鈴木 どんどんね、家にいると、コンピューターがあるから
そこにいてしまうんだよ。
糸井 だれかがいるから「あいよあいよ」って
いっちゃうわけでしょう?
鈴木 そう、すぐ返事出そうとする。
だから、俺のメールの時間なんて無茶苦茶になってきてる。
大瀧さんじゃないけど。
糸井 大滝さんたぶんメールを音で知らせるしくみがある。
鈴木 見てみたいなあ。
糸井 あの意地のはりかた!
鈴木 いや、あの人、非常にそこが中核にあるから、
おもしろいですよ。
糸井 あれを薄めたかたちがいろんな人だよな。
鈴木 いろんな人。そのなかで、一番濃密、大瀧さんは。
糸井 現役。じゃあ先行きっていうのは、何か向こうっ側が
火事じゃないけど、明るいイメージがあるっていう。
俺と同じだね。いろいろ困ったことも起こるですよ。
鈴木 だから、何が起こるかわからないから明るいんですよ。
糸井 他の国の人たちってそれ先にやってたと思うんですよ。
日本人以外って。たとえばマレーシアの学生だったら
英語喋れないだけで給料4分の1になるですよ。
そしたら、ほんとにやんなきゃな、と思うでしょ。
フィリピンパブの女の子にしてもさ、
「シャチョサン」て言ってるそうじゃないですか。
あれ、外国語だからね。
鈴木 英語なんていうのはアジア圏のなかでは
日本が一番遅れちゃうわけだよ。
糸井 らしいんだよねえ。
昨日俺、英語どうしたらいい、って
キムラくんに訊いたらさ、
「やっぱり僕も得意じゃなかった」って言うわけ。
でもあいつ勉強ができるうえでのそういう言い方だから、
違うんだけど、留学でオーストラリアに行ったら、
急にわかっちゃったんだって。うーん……。
鈴木 逆に日本人で英語うまいとエライってみえちゃう。
日本人同士ではね。それもくだらないけど。
なんて、今また英語習ってんだけどさ。

(おわり)

2000-03-10-FRI

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