COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

音楽の作り方が変わった。

── ムーンライダーズってある時から
普通のバンドの立ち位置じゃないように
毎回驚かしますよね。
鈴木 うん、そうね。
さらに抽象的バンドになって来てる。
今年特にそうだよ。
やっと実現したんだよ。
デモテープをMP3で送って聞いて、
それで第九をみんなで集まって
録った時もそうだけど、
事前にアレンジが出来上がっちゃってんだ。
顔合わせないで。
── ムーンライダーズが考えていたことと
現実にやれることが
やっと同期したってこと?
鈴木 うん。そういう技術はあったんだよね。
あったけどそれに対する
労力とか時間がかかるとか。
── お金とか。
鈴木 お金とかいろんなのもあって、
それがやっとインフラっていうの、それ?
── インフラ整備ができたってことでしょ?
鈴木 そう。できた。
だって、オーディオのファイルを送りながら
アレンジを固めていこうよっていうのは
4、5年前からやろうとしたんだけど、
送った方が、要するにスピードだよね、
送受信スピードにより、
送られた方が
3時間待たなきゃいけないとか(笑)。
そういう時代があったんだよね。
── ネット配信早かったですよね、
ムーンライダーズって。
鈴木 うん。ネット配信用のアレンジを固める時に、
それを使おうと思ったのね。
オーディオのデータをもらって、
それで自分ちで貼付けて
アレンジをどんどんお互いの自宅で
やっていってしまおうって。
── うんうん。
鈴木 それをやってたら、
ある人が送ってきたんだけど、着かない。
── (笑)送ったよっていうのに?
鈴木 うん。プロバイダーの容量が。
── あ、分かった。
容量制限に引っかかっちゃって。
鈴木 そう。
── はじかれちゃった?
その時代からやろうとしてた。
鈴木 そう。でもそれ誰も気付かないよね、それ。
容量制限なんて、目を通さないじゃん。
── 通さない。
何メガ以上はダメですとかね。
鈴木 そう。3メガ以上ダメですとかね。
だからそうじゃないプロバイダーと
契約すればいいわけだけど。
でも今は、インターネット上に
ハードディスクを作っちゃって。
── 共有する。
鈴木 iDiscを使って、
そこでダウンロードするっていう方法を取る。
── そっかそっか。そうすれば大丈夫ですね。
鈴木 うん。それで、それはもう
ケラのミュージカルからそうだよ。
── えっと、慶一さんの
「Don't Trust Over 30」
ミュージカル化されたと
言っていいんでしょうか?
鈴木 そうそう、ムーンライダーズのだね。
それのアレンジをして思ったんだけど、
お芝居の進行と音楽の進行の
スピードが違ったんだよ。
音楽の方が早いわけだよ。
── あの、最後の最後まで
脚本が上がらないから(笑)?
鈴木 それもあるし。
自分らの曲のアレンジって事もあるし。
ミュージシャンのスケジュールもあるし。
ステージで演奏するのと、
同じメンバーで録音するのが一番いいからね。
でも、誰が歌うか分からないから
キーが決められないの。
男性なのか、女性なのか。
── ああ。
鈴木 で、テンポ並びにサイズ、
それを稽古場にMP3で送るの。
その時は本当に容量ちっちゃくして送って、
確認してもらって、
変更点をまたメールでもらって。
最初のうちはバイク便使ってたけど、
なんでこんなにバイク便を毎日
作っちゃ出し作っちゃ出しって
やってるんだっていうくらい。
── それはちょっとお金がもったいないですね。
鈴木 うん。で、稽古場に
PC持ってきてる人いないか探して、
スタッフに一人いてね。
で、バイク便からMP3になって、
そのあと容量が増えてきたんで、
「Don't Trust Over 30」用の
インターネット上のハードディスクを作って、
そこに格納することにしたんだよ。
── なるほど。
鈴木 そして、「東京ゴッドファーザーズ」は
ほとんどそれ。
── iDisc。
鈴木 iDisc。だから監督が言っている
「こんな感じで」っていう
サンプルの音楽とかも、
そこに上げちゃって、
これ聞いといてくださいみなさん、って。
── なるほどね。
鈴木 うん。監督がこういうふうに言ってます。
で、こっちも思い付いたんだ。
要するに私のところに来たやつを
ムーンライダーズのみんなに頼むわけだよ。
このテーマをお願いします、って。
その時に、こんな感じがいいんじゃない?
っていう音楽を、一緒にアップしておくんだ。
それによって、
監督の意向を私が解釈したものが伝わる。
多少の誤解も含めてね。
それに応じてバンドのみんなが曲を書く。
ムーンライダーズは
アニメの音楽作曲集団として、
とてもいい仕事をするというのに気付いた。
── そういう話を聞くと、
音楽を取り巻く状況が
決して悪くなってるとは
思えなくなってくるな。
いま、音楽を取り巻く状況は
いいとは言えないでしょう?
素晴らしいミュージシャンが、
引退を考えるなんてこともあるくらいで。
鈴木 まあ、ジョニ・ミッチェルも
引退しちゃったくらいだから。
── うん。
鈴木 要するに、何て言うかな、
ビジネスとしての取り巻く状況は
よろしくないんだろうな。
── よろしくなさそうですね。
鈴木 うんうん。ま、しかし、何て言うかな、
別の道具を使いながら
音楽を作るということに関しては
おもしろいよね。
── そうですよねえ。
鈴木 うん。
── CDは売れなくなっちゃったけどね。
鈴木 うん。
── 今って、糸井さんが言ってたけど、
若い子って今、CDって言わないんだって。
マスターって言うんだって。
鈴木 マスター?
── うん。「誰がマスター買う? 今度。」って。
1枚買えばいいっていう。
鈴木 ああ、あとはコピーすんのね。
── そう。
鈴木 うーん。
── で、コピーコントロールCDができたんだけど、
これは音楽家の側からはどうなんですか?
音が悪くなったりするの?
鈴木 うん。
── ですよね。矢野さんのHPの日記を
この間読んでたら、
17年間ファンだったけど、
今度の矢野さんのシングルが
コピーコントロールCDなのに幻滅したので
ファンを辞めますってメールが来たって。
鈴木 うん。だからどうしたらいいんだろうね。
── ライブが貴重になるのは変わらないと思う。
鈴木 うん。アメリカなんかじゃ
音楽はダウンロードするもの、
みたいになってきた。
── もう?
鈴木 うん。
── ちゃんとそこで課金できればいいんだな。
鈴木 そうね。だから、
デジタル化していくことによって
コピーというものが
劣化しないということになって、
それは素晴らしいなっていうことだけど。
録音する側にとっては、まずね。
60、70年代はトラック数との戦いだったから。
4つのトラックをまとめて、
1つのトラックにコピーして、
トラック数を確保していく。
ビートルズは、その辺も偉大だった。
しかし音が劣化する。
それが、ないし、
ハードディスクレコーダーだと、
無限に近いトラック数がある。
── 素晴らしい、確かに。
鈴木 それは諸刃の剣であって、
完成した作品において、
オリジナルと同じ複製ができる。
── 慶一さん、「物」好きでしょう。
レコード何万枚みたいな話でしょう。
鈴木 うん。
── ああいうことに対する
寂しさはないですか?
鈴木 俺はちょうど中間で、
「物」がないとどうしても。
── 嫌ですよね。
鈴木 だから、ビートルズの
「Let It Be...Naked」は、
日本版はコピーコントロールCDなんだよね。
UK版は違うの。それは両方買うよね。
── 日本版、アップルコンピュータでは
再生できませんとまで書いてあるんですよ。
iPodの時代に。
鈴木 ああ。
── でも慶一さんの音楽の話聞いてると、
音楽好きでよかったなって思うな。
だから、音楽、
辞めないでほしいんですけどね。
あ、辞めるなんて誰も言ってないけど。
「死なないでくれ」ってのと同じような意味で。
鈴木 ま、でも確かにさ、
各メジャーのレコード会社から
出しにくくなってるし、
たくさんのミュージシャンがね、我々も。
── ムーンライダーズもそうですよね。
鈴木 予算がかかるバンドっていうイメージがさ。
ところが俺たちのバンドだって制作費は、
例えば「Dire Morons TRIBUNE」とかは、
それまでの1/4で作ったんだよ。
作れるんだよ、テクノロジー使えば。
── そうかそうか!
鈴木 作れるんだけど、
使ったお金を、回収するくらいは、
みんなが買ってくれる。
100万枚なわけがない。
── なるほどね。
鈴木 それでも、ドカンと売れるものを
作らなければならないのが
レコード会社なんだよね。
たくさんの人間がいるし、
広いスペースも確保しなきゃならない。
しかもビジネスの状況が悪いわけ。
── うんうん。
鈴木 ってことはインディーズでやっても
損はしないわけでしょ。
── うん。
鈴木 今度のSACDはおれ、自費だからね。
── 自費で作ったんだ!
鈴木 うん。初めて自費だよ。
なにをいまさら、って言われそうだけど。
── それはなぜ?
鈴木 いや、俺5.1を
出したくてしょうがなくて。
── 鈴木慶一個人の自費なの?
事務所じゃなくて。
鈴木 そう。
── うわあ。
鈴木 自腹。
── すごい!
鈴木 5.1を出したくてしょうがなくて。
座頭市は残念ながら5.1にならなかったから。
で、東京ゴッドファーザーズは
インディーズで出してるんで。
── ジョイ・ライド・レコード。
鈴木 うん、そう。
俺のレーベルっていうのは
ラン・ラビット・ランっていうんだけど、
そっから個人的に出すの。
── ジョイ・ライドの中のレーベル?
鈴木 別。
── 別にやるんだ。
鈴木 スリー・ブラインド・モーゼズしか
出てないけど。
── 慶一さんの別バンド。
鈴木 そうそう。だから自費でも出すぞ、という。

続きます、アンド、Merry Christmas!

2003-12-24-WED

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